楽園改訂版(7)




以下、性的な表現を含みますので、ご了承される方のみ反転してお読み下さい。



*  二度目のセックスは、最初のセックスよりも瑞垣にとっては余裕がないものだった。
 最初の時のように絶望的な気分で自分から誘ったのではなく、積極的なのは門脇の方だ。
だから、身体に刻みつけられる唇に、手に、いちいち反応してしまう。
 門脇は相変わらずぎこちなかった。唇から首筋へ、喉元へ、そして、顕わにされた胸の果実へと落とされる。
反応を確かめるような途切れ途切れの刺激に、瑞垣は焦らされているような気持ちになった。
「お前の肌、すっげー、すべすべなんじゃな」
 まじまじと感想を述べられて、アホが、と返そうとするが、瑞垣の唇からは吐息だけがあふれ出した。
首筋をたどるように、ぬるりと熱い舌が這い上ったのだ。そのまま、耳朶に吸い付かれる。
「……ピアスの穴、開けたのか?」
 耳元に、門脇の吐息が滑り込んで来る。びくりと跳ねながら、瑞垣は途切れ途切れに答えた。
「……開けた、けど、化膿したから、つけてない」
 左耳にだけ開けたピアスホールは、夏になった途端膿んでしまったので、折角買っていたフープ型のピアスがつけられなくなってしまった。
ゴツいデザインが気に入っていたのに。
「……耳に怪我しとるみたいじゃ」
「実際に、穴、開けてるから……っは」
 殆ど潰れかけたホールの上を、熱いものが撫でる。
僅かな痛みと、それを上回る官能が弾けて、瑞垣は身震いした。
「舐めて、治してやる……」
 そういって門脇は猫のようにしつこく舐め上げる。
その度にびくり、と身体が跳ねて、背筋を戦慄が駆け上った。
「や、め……あぁっ、秀……吾、そこ、いやだ……ッ」
「……ここ、感じるのか? ……もう、こんなになった」
 心なしか嬉しそうに、門脇が短パンの上から、熱を持ち始めた瑞垣のそれに触れた。
布越しの僅かに暖かな掌の感触に、瑞垣は昂ぶっている自らを自覚する。
「ふ、ぅ……んく。やめ……!」
 門脇は今度は反対側の耳に吸い付いた。
吸い付きながら、何度も指で短パンの上を撫で上げる。
昂ぶる身体はますます門脇を求めて、揺れた。
「手、はなせ……も、イキそ……!」
 せっぱ詰まった声で瑞垣が求めると、門脇は無言でにやり、と笑って、短パンをずり下げた。
弾けるように姿を現したそれに手を添えて根本を握り締め、躊躇なく咥える。
「あ、やめ……! くわえるの、禁止……っ!」
 普通に考えたら男のモノを咥えるなんて耐えられないはずなのに、門脇には戸惑いが全くないようだった。
締められて吐き出す事の出来なくなったそれに舌が絡み付き、時々音を立てて吸われる。
耳をふさぎたくなるような淫らな音が、瑞垣の羞恥を煽る。
突き上げる官能。けれども門脇は解放してくれない。目の縁に涙が滲んだ。
「あ…ぁ、秀吾、やめ……イカせろ……よっ」
 プライドなど粉々に砕けてしまう。しかし哀願しても門脇はまだ解放してくれなかった。 
気が狂いそうだ。
「や……もう……っ! 秀吾、しゅうご……っ!」
 熱心に愛撫を施す門脇の髪に、力を失った手を絡めて哀願する。
堪えきれなくて短い髪の毛を掴んで引っ張った刹那、門脇は締めていた手を弛めた。
「ぁ……あ……っ!」
 放出の快楽で意識が白濁する。びくびくと身体が痙攣を起こすのを、瑞垣は堪える事も出来ない。
 腰を引く余裕もない。弾けた瑞垣の熱は容赦なく門脇の口内を汚した。
「……めちゃくちゃ、気持ち良さそう」
 噎せながらも全てを飲み下してしまった門脇が、嫌に客観的な感想を述べるのに、反論すら出来ない。
 肩で息をする瑞垣を背中から横抱きにして、門脇は耳元で囁く。
「今度は、俺が、してええ?」
 返事をするいとま暇もなく、どろりと冷たいものが身体の中に入り込んで来た。
「これ、買うの、めっちゃ恥ずかしかったんじゃけど」
 ようやく意識の戻ってきた瑞垣が、息を整えながら答えた。
「アホ。こういのは、ラブホで買うんじゃ」
「……じゃあ、今度、ラブホ、連れてってや」
「……アホ」
二度目とはいえ、前回から間もあいていたから、痛みと違和感は拭えない。
けれども門脇がくつろげながら首筋や胸や耳に愛撫を加えるので、最初の時よりも随分と指を受け入れるのは早かった。
自分の中に自分でないものが息づく違和感を超えて、門脇そのものを感じる事を知ってしまった身体が、その瞬間を待っているからなのだろうか。
「う……ク」
 身体の力が抜けてゆく。
ただ、門脇に掻き回される所から、じわりと沸き上がる感触を追っているうちに、頭がぼんやりとしてくる。
胸の果実を指で刺激されて、びくり、と身体が跳ねた。
「俊……入れるな」
 解放された体内を、圧倒的な熱量を持つそれで穿たれる。
「ふ……あァッ! く……ッ」
 自分の身体にまわされた門脇の腕を掴んだ。
爪が中に食い込んでしまうが、我慢出来ない。吐き気がする程の違和感。
けれども、痛みはそんなに感じなかった。
「だ、いじょうぶ、か……?」
 瑞垣の身体を気遣いながら、そろそろと門脇が入ってくる。
ジェルが空気を孕んで、耳をふさぎたくなるような音を立てた。
「あ、つい……っ」
 身体の中の門脇を、酷く熱く感じる。
 灼かれてしまう。門脇に、焼き尽くされる。
「瑞垣、息、吐いて」
 言われるままにつめていた息を吐き出した刹那、いっそう深く門脇が穿った。
「ぁ、ああああっ!」
 堪えきれない声を上げた刹那、瑞垣のそれが白濁を吐き出す。
直接刺激を与えた訳でもないのに、瑞垣のそれは官能を究めてしまったのだった。
快楽の残滓で呆然とする瑞垣を、門脇は容赦なく責め上げる。
「俊、俊……」
 浅く、深く、身体の最奥を翻弄される。
耳元で何度も甘く名前を呼ばれ、堪えきれないという風に肩口に噛みつかれ、瑞垣は再び煽られる。
意味を為す言葉はもう出てこない。瑞垣はただ与えられる快楽を受け止めるだけだった。
「……っク、お前の中、めちゃくちゃ締まる……」
「は、ぁ、秀吾……ッ!」
 獣のように、交わる。
深く割り入ってきて、肌が当たる音と荒々しい吐息だけが部屋の中に響く。
ただ、本能のままに、瑞垣の身体は門脇を最奥に求めて揺れた。
もう理性などなかった。
 身体の底、心の奥から、瑞垣は門脇の全てを求めた。
 思うさま揺さぶられ、二人で共に昂ぶって、お互いの体から滲み出した汗が、流れて一つになって零れる。

 秀吾。
 お前の全てを、この中に、くれよ。

 瑞垣の一番深い部分に、門脇の飛沫を感じた。
 前進で門脇を求める心と身体が、瑞垣の心を伝えるように、門脇を食い締める。
その瞬間、瑞垣はもう一度自らの欲望を吐き出した。
 
 
 




 門脇を乗せた電車が遠ざかってゆく。
 小さくなってゆく姿を見送りながら、瑞垣はつぶやいた。
「……暇だから、野球部でも作ってみるかな」
 耳ざとく聞きつけた門脇の母が、あらあら、という顔をして微笑む。
「まあ、俊ちゃん。やってみんさいよ。秀吾もきっと喜ぶわよ。俊ちゃんは秀吾以上に、野球がないとダメなんじゃから」
 脳天気なおばさんの発言に苦笑する。
オレが秀吾とあんな関係になってしまったなんて、きっと想像も出来ないのだろう。
 確かに、あまり人に言える関係ではないのかもしれない。
 けれども、身体を重ねたあの感触だけは、どう拭っても消えないから。
確かに、刻まれているから。だから、それでいい。
 また正月に帰ってくるという門脇の言葉を胸に、瑞垣は電車から背を向けた。

 終








あとがき
「楽園」で書き足りなかったラブラブH(どうよ…)を書き足してみました。
っていっても私が書くとミもフタもない…ていうかまともにラブシーン書くのってまだ片手で数えるほどしか(死)
そのうち今回は脇役で出てきた豪と巧で、楽園新田サイドを書いてみようと思ってます。
この話と直接には繋がらないとは思うんですが。
妙に長くなってしまいましたが、ご感想など頂けると嬉しいです。