判決の後、執務室のPCに表示された被告人のデータ。雑誌の記事。
レジェンドを追ってヒーローになったのだと彼は笑っていた。
背中を見ると安心した。それは男の暴力が止む合図だから。
男がどんな表情を浮かべていたのか解る術はもうない。
彼にも、私にも。残るのはただ男の影のみ。
<背中>#同題SS
シャワールームにて。
「ドラゴンキッド、ちょっと聞きたいんだけど」
「なぁにローズ」
「…胸のサイズ」
「え、恥ずかしいよ…!」
「女同士だから大丈夫!」「し、Cカップだ、よ」
「…う、うらやましくなんかないんだからね!」
「え、な、何で涙目なのごめんローズ」
<全裸> #同題ssTB
「ねぇローズ」
「何、ドラゴンキッド」
「マスカラしたまままばたきすると、まつげくっついちゃうなぁ…どうやったらくっつかないの?」
「僕はマスカラはしませんが付きますね」
「バーナビーも?」
「あたしくっついたことない」
「あ、え、待ってローズどこいくの!」
<まばたき> #同題ssTB
出動中子供が爆竹を鳴らして遊んでた。
「懐かしいなぁ」
タイガーが首を傾げたから
「新年のお祭りの時に爆竹たくさん鳴らすんだよ」って。
みんなどうしてるかな。溜息が出る。
突然。
「ぱぁん!」
びっくりするような大声。
「爆竹買ってくっか?」
頬の滴が、見えてないといいな。
<鳴らす>#同題SSTB
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『目が覚めたら隣に裸のネイサンが寝てて、俺に向かって「素敵だったわよ…」てうっとりした顔をしてて、しかも窓から覗く朝日が黄色かったんだ』
な… 何を言ってるのかry
<窓> #同題ssTB
私は馬鹿が心の底から嫌いだ。
偽善者のつけた仮面の奥の素顔を見抜く事も出来ない単純な男。
しかし。
「グローブついてんぞ」
心が凍った。…忌々しい。
馬鹿のくせに、…単純なくせに、一人しか知らないその模様の理由に肉薄したのは、結局その男だ。
やはり私は、彼が嫌いだ。
<蛇蝎> #同題ssTB
「バニーバニー」
虎徹さんが周囲を伺いながら小声で僕を呼ぶ。
「…何ですか?」
近寄ると背中を向けてゴソゴソ始めた。
「バニーちゃん、あーん」
振り向きざま。
条件反射で口を開けると、その中に放り込まれたのは…優しい味のプリン。
「食いたきゃ言えよな」
…バレたか。
<食べる> #同題ssTB
視線を落とせば広がるのは宝石箱の中身みたいに輝く夜の街。
一番大切にしたかった宝石がこのどこかに紛れていると思うだけで、いつものパトロールにも余計に気合いが入る。
愛しい人が平穏でいられるように、彼女の暮らすシュテルンビルトを守ろう。
さあ、パトロールの続きだ。
<空> #同題SS
ママは、おそらのむこうにいったんだよって、パパがいうの。
かえでもいくってないたら、パパもいっしょにないちゃったから、かえでがだっこしてあげたの。
ママがしてくれたみたいに。
そしたらね、パパね、おおごえあげてなきだしたの。
ねえママ、パパをだっこしてあげて。
おねがい。
<空> #同題SS
曇天の空に手の平を向ける。
小さな頃、綿菓子のような雲を掴もうとした時と同じ仕種。
拳を握る。それから立ち昇るのは蒼い炎。
僕が掴んだのは力だ。
僕はこの力で、僕の正義を貫き通せるんだ。
わるいひとはこらしめないといけないんだよ。
…その言葉のままに。
さあ、行こう。
<空> #同題SSTB
十六夜の月が執務室の窓に映る。
赤銅に彩られる満月の夜とは対照的に、静謐な金の光を湛えたそれは、昨夜遂行された正義の行く末を照らし出す。
月は私を讃える事も貶める事もない。
闇に棲む私にただ一つ与えられた幽かな道標。
せめて今夜だけは、私に安らぎを与えてくれ…。
<金> #同題SSTB
捕まえた犯人がするみたいに、土下座して泣きついたら付き合ってくれるのかなあ…って何であたしがそんな事しなきゃいけないのよバッカじゃないの?!
「全部聞こえてるわよぉローズ」
「!」
<土下座> #同題SSTB
「辛いなあ…ホントにごめん!」
悪阻で蒼白な妻の前で彼は土下座する。
「大丈夫よ」その言葉に顔を上げた彼の顔が突然真っ青になった。
「気持ち悪ぃ…」
駆け出す背に向け彼の母が言う。
「婿悪阻するような性格じゃないだろう」
妻はまだ薄いお腹を撫でた。
「優しいパパだね」
<土下座> #同題SSTB
「今月何度目の裁判ですか鏑木さん」
「4回…かな?」
「6度目です」
裁判官はそれきり黙り込む。
…空気が重い。
何か言ってくれよぉ…。
不意に、裁判官はにっこりと笑った。
「余り続くなら、次は刑務所に入って来ますか?」
それは言わなくていーよ…。
<沈黙> #同題ssTB
昨日満月だったじゃん…品出ししてたら「瞬間接着剤どこにありますか」って聞かれてさ…振り返ったらルナティックだったんだよ…いやマジなんだって!
俺もコスプレ野郎かもって思ったんだけどさ、なんかマスクにヒビ入っててさ。
そいつおサイフケータイで買ってった…。
<コンビニ> #同題SSTB
「落ち着かねぇなバイソン何ビクビクしてんだ」
「お、お前には関係ねぇよ虎徹」
「どうせまたファイヤーエンブレムにセクハラされたんだろ」
「…」
「女子トイレ行けっつったから」
「…お前もされたのか」
「覗き返してやったら泣いて出てったけど…敗北感が拭えねぇんだぜ…」
/トイレ #同題ssTB
斉藤さんの部屋に入るのも1年振りだ。
変わらない油の匂い。
片隅に錆びたダブルチェイサーがあった。
ざらついたそれを撫でる。
シートの近く。
「Get You Back」
マジックで殴り書かれたそれは消えかけていたけれど。
「…僕は戻って来ましたよ、虎徹さん」
/チェイサー #同題SSTB
「なぁ虎徹…昨日ジャスティスタワー行ったらよぉ…H-01の前でお前んとこの技術の…斉藤さんだっけか。ニヤニヤしながら周りをグルグル回ってたんだけど、何か怖くねぇか」
「あー斉藤さんからメカ取ったら多分死ぬからほっとけよ。お前ホントにチキンだな」
「うるせぇよ」
/依存 #同題SSTB
愛しい恋人が離れてゆく瞬間はほんの少し寂しい。
何度あしらわれても諦めなかった。恋人として相応しい女性になろうと決めた。
そして今その人は私の隣で眠る。
顔を上げ胸を張って歩き始めた私の視界には常に貴方の背中が映る。
愛しい人。
私の命、私の全て。…ジェイク様。
/依存 #同題SSTB
紅茶は珈琲よりもカフェイン含有量が多いそうだ。
温かなそれをカップに注ぐ。
日に何度も繰り返す作業。
ふくよかな香りが、記憶に染み付いた酒精の匂いを遠ざけてくれる。
同じ途を辿りたくない。
ならば、私がまるで毎日の儀式のように続けているこれは。
蜂蜜がとろりと溶けた。
/依存 #同題SSTB
ずっと一人で、復讐を果たすことだけを目標に生きてきた。
それが消えた今でも僕は生きている。
昏い目的に寄りかかって、よすがとすることを止めて。
…本当の人生が今から始まるんだ。
僕に新しい、明るい世界を教えてくれた人に心からの感謝を。
口に出しては、今は言わないけど。
/依存 #同題SSTB
ジョンを連れていつもの公園へ向かう。
見あげれば眠らない街の明かりの狭間に浮かぶオリオン座。
混沌とした美しい都市。
このシュテルンビルトを空高くから見下ろす事が出来るのは、他の誰でもなく私だけだ。
愛するものがあるこの都市全てを、空から抱く事が出来るのは。
/依存 #同題SSTB
「ニッポンではこの時期、サクラがとても綺麗なんだそうです」
「ああ、折紙君のヒーロースーツの肩にある花かい」
「そうなんですよ」
「ではきっと綺麗だ、そして綺麗だろうね!」
「…ねえさっきからあの会話おかしくない?」
「あったかくなったから頭に花咲いてるのよ。…元々?」
/春 #同題SSTB
小さな体に大きなランドセルを背負って、楓は嬉しそうに笑った。
4月から小学生。入学の度卒業の度に、彼女に見せたかったと心が痛むんだろうか。
「ありがとうパパ! あとで写真とってママの前にかざるの!」
「そうか。ママ、きっと喜ぶぞ」
友恵の吐息みたいな優しい風が吹いた。
/春 #同題SSTB
PCに判決文を打ち込む。
またワイルドタイガーか。
十年一日の内容にいっそコピー&ペーストでもしてやろうかと思っている私の体が春の陽気に包まれる。
…唐突にドアを開ける無粋な音。
「裁判官、すいませーん、次の裁判いつでしたっけ?」
私の平穏に水を刺す男にタナトスのry
/春 #同題SSTB
「バニー手ぇ出せ」
「はい?」
ころんと掌に転がったのは、卵。
「イースターエッグ&バニーだな!」
思わず苦笑する。子供みたいだ。
「僕はパンでもチョコでもありませんよ」
明日はイースター。シュテルンビルトの厳しい冬ももう終わりだ。
虎徹さんと一緒の春が来る。
/春 #同題SSTB
「あああアニエスさん」
「何か用?」
「そ、そのピンク色のスカート、春らしくて素敵です…!」
「ありがと。で、何か用?」
「…なんでもないっす…」
「あ、そう。じゃあね」
「…今日はアニエスさんと話が出来た…!」
「馬鹿じゃないのアンタ!」
「な、なんで見てんだ」
/春 #同題SSTB
「ねぇバーナビー、ピアスの穴開ける時って痛かった?」
「開けるときはそんなに。ただ、ケアしないと化膿するから夏場は避けた方が」
「駄目駄目キッドには早い!」
「えー!」「虎徹さん、古いですよそれ」
「いーや、穴開けるとか駄目!」
「楓ちゃんにウザがられてませんか?」
「」
/穴 #同題SSTB
深く掘られた穴に棺が安置された。
厳粛な空気に包まれた墓地。
大勢の参列者に囲まれ英雄はその死を見送られる。…秘密と共に。
包帯で覆われていない片目から涙は一滴も流れない。
火刑に処された罪人。
死体は葬られても、僕は男の罪を忘れない。
顔に刻まれた火傷がある限り。
/穴 #同題SSTB
「今日もサポートしてくれたんですね。ありがとうございます」
「ばーか、礼なんていらねえよ。コンビだろ」
今日も何とか切り抜けた。
でも能力の発動時間がまた短くなった。
針穴に糸を通す時のような張り詰めた緊張感。
もし明日この力が消えたら。
俺はどうすればいい。
/穴 #同題SSTB
「兎をおっかけて穴に落ちたら、新しい世界が待っていた…ってか?」
「…? 聞こえませんでした。早く行きますよ、虎徹さん」
「ああ、そうだな、バニーちゃん」
/穴 #同題ssTB
ああ、笑わなきゃ。
残り時間がこんなに少ないなんて悟らせちゃいけない。
生きる希望を与えるために、もっと笑顔にさせなきゃ。
どうかこぼれないでくれよ俺の涙、友恵の前で。
/笑う #同題ssTB
「はい、ローズさん笑ってー」
女王様みたいな見下した笑顔を作るのには慣れた。
でも馬鹿馬鹿しい。誰も本当の私なんか知らないくせに。
カメラマンの後ろに、出動してたはずのタイガーが見切れてる。
「笑ってー」
バッカじゃない?!
「あ、ローズさんもっとクールに笑って!」
/笑う #同題ssTB
2012.4.5アップ。ツイッターアカウント@kaya_sstbでポストしている#同題SSTBの3月分まとめです。全部で140字ですが、まとめてみると結構あるなあ!
普段書かないキャラも積極的に書いていこうと思ってますので、ツイッターのアカウントをお持ちの方は是非覗いてみて下さい!