☆BUDDY
ヒーロー事業部閉鎖って何だよ。他の奴はみんな知ってたって何だよ。この10年で俺が築いてきたものって何だよ。沢山の疑問しか浮かんで来なかったあの日。……この為にあったんだ。ボロボロになっても諦めず、また立ち上がって、ヒーロー復帰する今日の為に。/あの日
アイパッチは鏑木虎徹という俺の正体を偽るために欠かせないアイテムなんだけど。ある日バニーに言われた。
「市民の皆さんは虎徹さんの正体をわかっていて見ない振りしてくれてるんじゃないですか?」
「何でそう思うんだよ」
「…自分で考えてみて下さい」
「はぁ?!」/偽り
ルナティックに焼き殺された囚人の中には、骨すら残っていない者もいた。多分1500度を越える高温。おじさんが珍しく、憔悴しきった顔をして、呟く。
「何であいつは、こうまでして存在を消したいって思ってんだ」
「え?」
「……まるで、憎しみでも抱いてるみたいだな、犯罪者に」
/骨
「どうしたバニー、首傾げて」
「時々呟きのエゴサーチしてるんですけど、僕と虎徹さんの名前の間に乗算記号が入ってるんです。名前の順番もまちまちだし。これ、何だと思います?」
「お前、俺に訊いてわかると思うか?」
「そうですよね…」
「いやそこ否定しろよ!」/かける
どこを見ているかわからないあのマスクのむこうには確かに、何かを見据えている、誰かの瞳があるはずなのに。どうして、あの男は、それを覆い隠すんだろう。/眼差し
出動中だった。移植臓器搬送の緊急車両が事故渋滞に巻き込まれている。アニエスさんから、早く現場に向かえと催促。
「バニー、後は頼むわ。俺の代わりに怒られてくれ」
言うなり、虎徹さんは車両へ向かう。
……仕方ないな、そういう人だし。苦笑しながら現場へ急いだ。/レシピ
ザッパアアアアアン!
「……これで何台目だと思ってるんですか、虎徹さん!」
/溺れる
「あづい……」
虎徹さんがデスクにつっぷして唸ってる。
「どうしたんですか」
「家のエアコンが壊れた……家に帰りたくねぇ……!」
「直るまで僕の部屋に来ますか?」
「えっ、いいのか?! じゃあせめてメシ作るくらい」
「毎回炒飯は嫌です」
「だっ、いーじゃん炒飯」/とける
「お前のサポートして俺にもポイント入るし、いい事だらけだよな」
笑顔を作って、ぽん、と肩を叩いた。嘘を重ねてみたところで、減退の事実から逃れられないのは知ってる。わかっていてまた、嘘を重ねる。その果てに何があるのか、考えないようにするけれど。/嘘
「おっ、懐かしいなその記事」
昔着ていた、青いヒーロースーツ。若い頃の俺が載った雑誌をめくりながら、バニーが呟いた。
「虎徹さんの今のヒーロースーツも似合うと思うんですけど」 ……も、って。
「じゃ、昔のも似合ってるって事?」
「古いですけど」
「だっ!」/在りし日
足元の水溜りに映る空の色がとても綺麗だ。振り仰ぐと陰りのない蒼が一面に広がっている。
……こんな風に思う事なんてあっただろうか。空が青い。単純な事を教えてくれたのは、僕の隣で、傷が痛むと文句を言っているこの人だ。
……世界が変わる。鮮やかな色が僕を包んでいるんだ。/空
暴走する新人とコンビを組まされるこっちの身にもなってくれよ、とロイズさんに言いそうになってふと思う。あー俺も、若い頃、かっ飛ばしてたよなぁ。ベンさんが裏で色々支えてくれたからヒーロー続けられた訳で。……今、何してるかなぁ、ベンさん。一緒に飲みてぇな…。/裏
少女のような顔が熱で燃え、溶けてゆく。中から出てきたのは機械の身体。その様を思い出しながら、ふと考える。あの顔は、オリジナルのものなんだろうか。
……それとも、モデルになった誰かが存在するんだろうか。/とける
「……何やってんのバニーちゃん、じっと鏡見て」
「右側のカールのバランスが悪いんですよね。ちょっと直していいですか」
「だっ、んだよその執念…」/Right
正義の壊し屋。この称号と引き換えに契約金が減っていった。グッズの売り上げも落ちてるらしい。
泡沫の人気だったんだなぁ。ぼんやりと思う。喪われた伴侶が病床で浮かべた淡い笑み。俺はいつまで、ヒーローでいられるんだろう。お前の望んだような。/あわ
ぐっすり眠る幼子の髪を優しく撫でながら、彼女は息子を挟んで向こう側の夫に微笑む。
「私達の天使ね」
「……これでもう少し、能力が制御出来ればなあ」
苦笑する夫に彼女は言った。
「賢い子だからきっと大丈夫よ。貴方と私で見守りましょうね」「そうだな……お休み、バーナビー」/在りし日
お父さんが帰ってきた。
……え、どうして一緒にバーナビーがいるの?!
「こんにちは楓ちゃん」
「こ、……こ、こんにちは!」
「何泣いてんだお前」
「お父さんは黙ってて!」
「僕も会えてうれしいよ」
「お前……いや、何でもない……」
「僕に含むところはないですけど?」
「えー……」/感動
たった1分なんだ、と虎徹さんは笑う。
実際に能力発動から切れるまでの様子を見た時には呆然とした。でも。
「もう隠さねぇし、張るような見栄だってねぇ。でも、……ヒーローやる。お前にも迷惑かけるかも。ごめんな」
何かが変わった。今、僕はこの人の隣に立ってる。心ごと。
/感動
「ハイタッチするお二人の写真を」
意味のわからないリクエストに応えるため、俺は不承不承両手を上げる。
営業用スマイルを浮かべて両手を上げたバニーのてのひらは、俺より少しだけ高い位置にあって。
……なんかムカつく。思いっきりバチン、と叩いてやった。
/てのひら
「虎徹さん」
一瞬ぽかんとした。
最初は人間扱いすらされてなかったような気がしてたんだけど、そうじゃなかった。
距離が変わる。
一歩ずつ近づく。
あっちこっちしながらも、少しずつお互いの事を理解する。
はー、何か、すげぇ嬉しいな。涙出そう。/感動
「今日もアシストありがとうございます!」
バニーの明るい声。
「ぶっちぎりの成績だよなぁ」
その肩に手を置いて、俺はその前向きな誤解を敢えて指摘しない。お前がそう思ってるなら。
侮りなのかもしれない、でも。
栄光の果ての絶望なんて、お前に知って欲しくないんだ……。/誤解
削られていく能力発動の時間。誰にも言わずに、言えずに、目減りしていく自分の力を見守っている。30秒の減退が、40秒に。50秒に。
また、差が広がった。アシストにまわるように見せかけて、ポイントを取らせて、それでも慰撫されない気持ち。
あの力が俺にあったら。唇を噛んだ。/嫉妬
「たった17文字で何が言えるってんだよ全く」
「僕は結構色々と言えると思いますけど」
「例えば?」
「こてつさんはぼくがかなわないひとだ」
「…何言ってんだキングオブヒーロー」
「照れてるんですか?面白いですね」
「だっ」/575
「昔のレコードって逆再生したら女の悲鳴が聞こえるとか、あったんだぜ」
虎徹さんが自慢げにターンテーブルをいじり始める。
「非科学的ですよ」
突然、スピーカーから聞こえたのは。
「っだ!」
「……貴方の声の方が余程怖いですよ!」
「だってよー! 怖いって!」/リバース
シュテルンビルトを旅立つ日。背後のスクリーンに、引退セレモニーの様子が流れている。
感極まった自分の声。沢山の思い出を置いて、相棒と離れて、新しい人生へ。
散々泣いた筈なのに、また涙が出そうになっちまった。はぁ、俺、ヒーローの仕事好きだったんだな。/ニュース
「あぢー」
暑さに耐えかねた虎徹さんが片手にアイス、片手にジュースを持ってのびている。
「トレーニングセンターはエアコンきいてますよ」
「でも、……!」
突然顔色が変わって駆け出した。
「どうせ腹でも下したんだろ、堕落した人間の末路だ」
バイソンさんが鼻で笑った。やれやれ。/堕落
「ちょっとどういう事なのこれ!」
物凄い剣幕のアニエスがデスクに新聞を叩きつけた。復活したバーナビーが虎徹を抱き上げている写真。
「よりによってカメラ回してない所で! 視聴率にならない事はしないで!」
「視聴率の為なら何してもいいのかよ!」
「当たり前よ!」
「だっ」
/ニュース
ルナティックの時も、ジェイクの時も、H-01の時も。この人は僕に憔悴した顔を見せなかった。
ただのやせ我慢だと思っていた。
でもきっと、これがベテランヒーローとしての矜持なんだろう。……無茶はしないで下さい、どうか。/憔悴
「虎徹さん、炒飯の味付けってどうしてますか?」
「あー、適当に塩胡椒して、めんどくさい時は炒飯の素使ったりするけど」
「……邪道です!」
「は?」
「炒飯の味付けというのはですね……」
「……あの、バニーちゃん、凝り性なのはわかったから、早く作って食っちまおう、な?」/素
両親と一緒に写るバニーの頬がぷにっとしていたから、思わず今のバニーの頬をつついた。
「何するんですか」
「いや、子供のほっぺってすべすべで柔らかいんだよなぁ」
「僕は子供じゃないし柔らかくもありませんよ」
頬が少しふくらむ。
「ぷにってなった!」
「貴方の方が子供ですよね……」/頬
☆KABURAGI FAMILY
「虎徹くん、踊ろ」
学園祭の締めにダンスを踊る。隅っこでぼんやりしてた俺に、眼鏡の委員長が手を伸ばしてきて。
「っだ、何言って……」
見上げた顔が真っ赤だ。え、何だよ、もしかして。慌てて立ち上がり、その手を掴んだ。
「い、行くぞっ」
カッコつけてる場合じゃねぇよ、俺!/学園祭
彼がヒーローになりました。彼の夢で、私の希望が叶うなんて。彼が見えない所でどれだけ苦労してきたか、私は知ってます。ある日、彼は両手を背中に隠したまま、うちにやって来ました。……もちろん、私は受け取ります。結婚相手は貴方しかいないもの。/(Mr.)Right
甘いにおい。ふわふわのうぶげ。口をもぐもぐさせてる。指一本の大きさもない、てのひら。ほんの数時間前、この世界に産まれてきた命。
「目元が虎徹くんそっくりだね」
からかうように言われて、唐突に涙腺が壊れた。お前が幸せに生きられるように、街の平和を守るからな……!/和
白い布 静寂の中 旅立った 君の名を呼ぶ 応えない 蒼白い顔は 穏やかに笑みを浮かべて 閉じられた 瞳と未来血の気ない 唇に薄く 紅をさす 愛しい人が美しいまま 眠れるように 願い込め その口元に 涙零れる/575
白い布をそっと捲り、細い手に触れる。脈動を、生気を感じない、ひんやりとした身体。生と死の境目なんて曖昧で、すぐにそちら側に行けそうな気がするのに、どうして俺の心臓は動いてるんだろう。ぱたぱたという音、シーツに広がるしみ。はじめて、自分の涙に気がついた。/サイン
友恵の遺産相続の手続をしていたら、知らない銀行の通帳が出てきた。
楓の名義。
不定期に一定額が振り込まれていたけれど、丁度病気の告知をされた頃に、一気に預金額が増えていた。
大丈夫と笑っていたけれど、あの時にはもう。
……止まらない嗚咽を誰も聞かないでくれ。/遺産
今年はお父さんも一緒のお盆。
お母さんを迎えに行った晩。お酒を飲みながら結婚した時の話を聞かせてくれたお父さんの表情は、これまで見たことがない雰囲気で。
いつかわたしも、大好きになる誰かと出会うのかな。
それがバーナビーだったらいいのにな。/在りし日
母ちゃんの畑の隅に、鋤や籠がまとめて置いてある。
畑の真ん中にしゃがみ込んで手入れする背中が昔より小さい。思わず鋤を手に取った。
「……俺、手伝うわ」
「あんたじゃ手伝いにならないよ。余計なことしなくていいから。折角の苗が枯れてしまう」
その言い方はねぇだろ……。/すき
「お父さん、バーナビーに誕生日プレゼントあげたいんだけど、何にすればいいかな」
「何毎年パウンドケーキを貰ってたって言ってたな」
「……ちょっと頑張ってみる!」
「あ、丁度週末時間出来たから、パパそっちに帰るわ。一緒に作るか」
「どーして?! 意味わかんない!」/レシピ
「お父さん、バーナビーのサイン会とか、そっちであるのかな」
「前にサイン入りの写真集やっただろ?」
「……だって、バーナビーに直接会いたい!」
「駄目駄目!」
「えー!」
「握手して能力コピーしたら暴走するだろ!」
「お父さんのわからずや!」
「あっおい!」/サイン
初めて抱き上げたときはふにゃふにゃで、落っことしそうになって慌てた。だんだん首が座ってきて、手を伸ばしていたのが「だっこ」と言葉でねだるようになって。今は抱っこすると言ったら凄い剣幕で叱られるけど、そのうち「お父さんこれまでありがとう」とか言わ……やめやめ!/抱
「お父さん、このギアの所のRってなに?」
「えっとな、それな、……えーっとな、りり、りろーど? ろーたりー?」
「リバース、でしょ? ずっと思ってたんだけど、お父さんもしかして、単語覚えるの苦手?」
「あのなぁ、バニーみたいなツッコミは勘弁してくれよ楓」
/リバース
へそを曲げた楓が部屋に立てこもった。
「パパが悪かったから出ておいで」
沈黙が返ってくる。ここはびしっと言うべきか。
「いい加減にしなさい楓!」
しばらくして、そっとドアが開いた。
「……お父さん、もうそんな姿見たくないよ。何でヒーローやめちゃったの?」
……絶句した。/へそ
お母さん、どうかお父さんが2部リーグで無茶しないように見守っててね。
あと怪我しませんように。
それから…えっと、バーナビーにまた会えるといいな!
「楓、それはお母さんにお祈りする事じゃないと思うぞ……」
「え、村正おじちゃんどうしてそこにいるの!」/祈り
☆LUNATIC
アルコールは乾杯の時に少し舐める程度です。
……そんなに強そうに見えますか?
実は昔、飲み過ぎて気がついたら朝だった事があるので、それ以来、深酒はしないようにしています。/トラウマ
隣の家がうるさい。犬の鳴き声から子供の声家族団欒の会話、何が面白いのかわからないが、全ての会話が喧しい。
もう限界だ。
いっそ殺意を覚える程、迷惑をかけているという事実に彼らは気がついているのか。
そして私はついにチャイムを鳴らす。
「こんばんは」/what
管理官になる前に出した最後の判決。
傍聴席に座る被害者の遺族の一人が、読み上げられる判決を聞きながら、痩せて骨ばった手で、何かを強く握り締めている。
恐らく遺品らしいそれが白く光る。
落ち窪んだ目がこちらを睨みつけた。
……その憎しみを昇華する唯一の手段は。/骨
「あのー、裁判官さん、ちょっと聞きたいんですけどぉ、もし所属企業が賠償金払えなくなった時って、どーなるんすか?」
「……おや、知りませんでしたか? 刑罰の種類の一つに懲役刑というものがありまして」/意味怖
例えばあの時に、誰かに相談をしていたら。母を連れてシュテルンビルトを出ていたら。沢山のIFに目を瞑った末の選択肢。
……もし殺していなかったにしても。あの男に対して殺意を抱いた事だけは、紛れもない事実。私はその彼岸に、辿り着いただけ。/例えば
曇天の空の隙間から月が僅かに顔を覗かせている。明日は満月。二度と戻る事の出来ない道へと歩みを進める私に、静謐な月光が降り注ぐ。正義を遂行出来るものは此処にはいない。背徳の炎を胸の裡に抱いた青年ですら、実態は生温いものでしかなかった。掌で蒼炎が踊る。間もなくだ。/空
掌が蒼白く光った。これは何。やがてそれは熱を持ち燃え上がる。……ああ、僕は。自らの身体を焼くことのないそれを茫然と見つめる。あの男と同じものだったんだ。それは絶望にも似た。けれど、目覚めたのは全く異種の。ならばこの能力をどう使うべきか。道はひとつ……。/てのひら
「どんな悪党だろうと、生きる権利があるだろーが!」
苛立ちに満ちた叫びが、私に投げつけられる。正論だ。しかし。改悛の情を持たず同じ事を繰り返す輩に対して、お前達
ヒーローは何の力も持たないだろう。……かつて父親だった存在を、ただ持ち上げ続けたように。/Right
父だった男の市民葬。涙を流す大勢の人々。男にとっては幸せな最期なのか。お綺麗なまま、英雄の名を冠したまま旅立つ。ぼろぼろの母と、沢山の罪を地上に遺したまま。… そして僕の肩にも、罪は覆いかぶさったまま。 /ハッピーエンド
最愛の夫を亡くし、心労で窶れ果てているのです、と言って見舞いを断る。何度も何度も。同じ事を言うのに飽きる程。誰にこの姿を見せられるだろう。顔を腫らし、足が動かないからと這いずり回って、今はもう消えた伴侶をいつまでも探し続ける姿を。/憔悴
冷気がシャワーを浴びた身体の温度を下げる。微かに身震いしつつキッチンへ向かうと、幻に語りかけるママの姿が余計寒々しさをもたらした。
「…今日は寒いから、早めに食事を済ませよう」
「あんたは私に死んで欲しいんでしょうユーリ。煩いわ」
その瞳に心が冷えた。/シャワー
憂い顔のヒーロー管理官が珍しくトレーニングセンターにやってきた。
「皆さんにお願いがあるのですが」
眉間に皺を寄せて告げるのは。
「先日壊れたシャワーの修理代がかなりの額になると思いますので、皆さんのスポンサーに出資して頂いて下さい」
はぁ?!/憂鬱
コーヒーが余ったのでゼラチンを入れて火にかけた。
マグカップに流し込んで冷蔵庫に入れる。
「ユーリはコーヒーゼリー大好きだものねぇ」
時を止めたママがそれを毎朝食卓に並べる。代わり映えのしない、終わらないループ。
作らなくなったら? 考えかけて、やめた。/ゼリー
「ヒーロー管理官と言えば聞こえはいいが、要は雑用係を押しつけられたのか」
「奴らに遠慮というものはないのか……!」
出るのは溜息ばかり。そして上がる要望はどれも下らないものばかり。
「やはり、ヒーローなど信用出来ない」
彼が決意を固めたのはこの時かもしれない。/憂鬱
裁判用の書類を受け取るために執務室に入ると、ふんわりコーヒーの香りがした。
「おいしそうなコーヒーっすね」
裁判官はニコリと笑って言った。
「これはコーヒーフレーバーの紅茶です、鏑木さん」
なんだそれ意味わかんね。/コーヒー
司法局からの帰り道。辻占いの老婆が私を呼び止めた。
「あんた、罪を犯したろう?」
黙って立ち止まる。
「このカードは審判。裁くものと裁かれるもの。そして、再び出会う。あんたの運命と」
戯言だ。足早に通り過ぎる。翌日、その姿はなく。
……鏑木虎徹の復活は、その1月後。/審判
鏑木虎徹がルナティックの逮捕状を受け取りに来た。怒りを抑えられない表情で、吐き捨てるように言う。
「奴に、生きながら焼かれる痛みとか苦しみががわかんのか!」
……嫌という程知っている。時を経てもなお疼く、自らの炎で焼かれた/痛
シャワーで冷えたせいか軽い風邪を引いたらしく、くしゃみが止まらない。
通りがかったワイルドタイガーが、しばらくしてカップ片手に戻ってきた。
「これ、風邪に効くから、どうぞ」
一口すすると生姜の香りが広がった。不思議な味の飲み物。
……全く、人の好いことだ。/シャワー
薬物の密輸情報が流れてきた商船に踏み込んだ。
大乱闘の末船員を逮捕し、押収した薬物を甲板に集めた時、不意に蒼い炎が上がった。
「ルナティック……!」
1カ月後、警官が押収薬物を横流しして逮捕されたニュースが流れた。
もしかして、あいつは……? /トレード
罅の入ったマスクから欠片が零れ落ちて素肌が外気に晒される。
ロートルヒーローだからと侮った結果がこれか。
ぴしりと音を立てて広がるそれを掌で覆い隠しながら、いっそここで素顔を見せてしまえれば、と脳裏に閃いた思考はどこか自傷行為にも似ている気がした。/素
伝説のヒーローの光と影。光しか知らぬ者は後を追ってヒーローになり、影を知る者は……。
「ルナティックは新世界のヒーロー、か。……私は彼らとは違う」
死をもたらす事だけが決定的な差異。その為の生。
他の誰にも出来ない選択の果ての。
また満月が訪れる。/リバース
大量に酒を飲んでキッチンで酔い潰れた父親の姿はあまりにも醜い。堕落したヒーロー。
どうして。なんでこんな事に。
不意に、テーブルに投げ出された書類が目に入った。中継での細かい段取りと逮捕までのシナリオ。
……ああ。この人は。堕ちる所まで堕ちてしまったんだ。
/堕落
伝説のヒーローに憧れてヒーローになった男は、自分の能力減退を公表し、引退する。
市民に惜しまれながら、コンビを組んで伝説を超えた青年と共に。
もしあの時、あの男が同じ選択をしていたら。
映画のように幸せな引退セレモニーに背を向け、溜息をついた。/ハッピーエンド
☆OTOME CLUB
オペラにフルーツタルト、ロールケーキにプリンにゼリーに……テーブルに並んだスイーツバイキングのケーキで楽しく女子会。
こういう時はキッドよりローズの方が沢山食べるのよね。
「甘いものは別だもん!」
「ボク、点心だったらいっぱい食べられるのになぁ!」/オペラ
みんなが学校に行ってる時間にボクは部屋で先生から出された宿題を広げてる。
いいなぁ、ワイワイしたいなあ。
あ、ローズからメールが来てた。
「おはよーキッド、今晩みんなでごはん食べに行こうよ!」
ただの仲間じゃなくて、大切なともだち。/8:00
「あーもーニキビ出てる!」
「あらぁ、潰したりしちゃダメよローズ。あと、ニキビが出来ない、とっておきの魔法を教えちゃおうかしら?」
「え、なに? 聞きたい!」
「チョコレート食べる量減らしちゃいなさい」
「だって、美味しいんだもん……」/魔法
白雪姫に出てくるような水鏡を作って。カリーナからブルーローズに変身。一番綺麗なのはあなた、って鏡は答えるんだろうな、って言ったら、ローズ、怒り出して。
「そんな訳ないから! 色々足りないから、化粧とかスタイリングとか頑張って、自分に魔法をかけるんだからね!」/魔法
「ねぇ、ネイサン、ボクの歳くらいにはもう女の子になりたかったの?」
「そうねぇ……アタシは産まれた時から女だったわよ? ただ、身体がオトコだっただけで。女の身体になれる魔法をかけて欲しい、ってその頃は思ってたけど……今は好きよ、アタシの心も身体も、両方ね☆」/魔法
ドキドキする瞬間があるの。ねぇ、わかる? ロックバイソン、一緒に体験してみましょうよ。心踊る、二人だけの時間。
……え、何よ、お尻くらい撫でてもいいじゃない、減るもんじゃないんたわから。/踊る
「ハシカみたいな恋だってあるわ。女心は変わりやすいの。でも、本気だったら、とことん貫くのよ?」
泣きじゃくるあたしにネイサンはそう言って、頭を撫でてくれたけど。1年経って、でも変わってないよ。見ててネイサン、あたし、今度こそ本気出すからね!/秋の空
「ファイヤーエンブレム、ちょっと教えて!」
「何よローズ怖い顔して」
「む、胸が大きくなるようなレシピ知ってる?」
「そんなのプロテイン飲んで筋トレすればすぐじゃない」
「……聞いたあたしが馬鹿だったわ」
「女の魅力は胸の大きさだけじゃないわよ、まだまだコドモね」/レシピ
「最近ヒーロースーツの胸の部分が苦しいんだ、やだなぁ」「あ、あたし、スーツのパットの部分、……。」
「バカねローズ。いつも言ってるでしょ、男も女も胸じゃなくてお尻よぉ!」/永遠じゃない
子供番組で、ヒーローの似顔絵を描いて送るコーナーがあるの。ある日アタシに来た質問。
「かおのいろはなにいろでぬればいいの?」
何色でも、いくつクレヨンの色を重ねてもいいの。アタシの顔は、人生は、色彩豊かなものなんだから。いいわね?/なんしょく
「氷の薔薇を背負った女王様が、とけたらこんなにめんどくさくなるとか、アタシでも想像してなかったわよ……。ホント、めんどくさいわ……」/とける
自分に嘘をついてきた。でも、性別を偽るのは、もう限界。本当のアタシでいるために、身につけてみたピンク色の服。鏡を見て涙が出てきたのは、どうしてかしらね。/嘘
「ねー誰、キッドに最初に箱渡したの! 全部食べちゃうに決まってんじゃん!」
「え、ローズ、こないだ太るから食べないって」
「今日はカロリー消費したからいいの!」/ポッキー
ルナティックがワイルドタイガーを逃がしたっていうニュースはやっぱりどこにも流れない。でも、アタシは目撃したの。タイガーちゃんの事を思い出した今でも覚えてる。一体どんな心境の変化なのかしら。……まあ目的の為に手段を選ばないって所は似てるものねぇ……。/ニュース
タイガーとバーナビーが引退した。ローズがぼろぼろ涙を流してる。
「……大丈夫、ローズ?」
「大丈夫だから、キッド」
涙が凍ったらきっとローズはティアドロップに溺れちゃうだろうな、ってくらい。
ボク? ボクは、泣いて……ないもん!/ティアドロップ
☆ORIGAMI ROCK HIGH
懺悔します!
神様、俺は最近ファイヤーエンブレムに尻を揉まれても平気になってしまったどころか……あああ、一体どうすればいいんだー! どうかお導きを……!/神様
虎徹の顔が変だ。
「……お前、ヒゲの形変えたのか?!何だそれ!ネコか!」
「だっ! っせーよ! すぐ俺だってわかるからいーだろ!」そんなやりとりがあった事を知っているヒーローも、今は少
ない。
時は流れ、お互い老けたけれど、それでも俺達はまだヒーローだ。/トレード
空を駆けるスカイハイさんが、実はジェットパックがないと浮くだけなんて意外だったけれど。
「ははははは!」
カクテル一杯で酔っぱらってふわふわ浮かんでいる姿を見たら、自力で飛べなくて良かったかもしれないと思った……とブログにポストしかけて止めた。炎上怖い……。/かける
「スカイハイさん、ジェットパックを装備する前って、どうやって空を飛んでたんですか?」
「それはね折紙君。能力が目覚めた頃、私は浮かんでいるだけだったんだ。しかし、ハリケーンの日に浮かんでいたら、風に吹き飛ばされたんだよ!」
「要するに、風任せだったんですね……」/空
ジョンの散歩に出かける。4,5歳くらいの男の子に会った。
「さわっていい?」
「勿論! ジョン、ダウン!」
伏せたジョンを撫で、その子は笑顔で言った。
「ありがとう、そして、ありがとう!」
え。
「……スカイハイが好きなのかい?」
「うん!」
礼を言うのは私の方だよ……!/感動
ふわりと宙に浮かぶだけだったのが、推進力さえあれば高速で飛べる事に気がついた。
そして風をカマイタチのように扱える事にも。自分の能力の限界は何処にあるのだろうか。
……私は怖くなったんだ。だから、ヒーローになろうと思ったんだよ。自分が道を間違えないように。/とぶ
☆HEROES
「俺がヒーローになった頃は皆顔を隠しててだな……」
「僕、学生時代に虎徹さんのデビューの特番を見た覚えが」「あ、あたしが小学校に入った位の時?」
「ボク、よく覚えてないや、気が付いたらタイガーさんはヒーローだったし」
「だっ」/昔々
「昔々、俺達がまだローズ位のトシだった頃の話だ。こいつ性格ひねくれてたんだけど、ちゃっかりかわいい委員長と仲良くなったりしやがって……」
「待て、お前、そんな事言うなら、俺もとっておきの秘密をバラすからな!」
「……涙目だぞ虎徹」/昔々、
「……ねぇ、空の上でくるくる回ってるのって、スカイハイかなぁ?」
「……あ」
「何?」
「ジェットパックが故障してたら、スカイハイさんは浮くだけになるはずだから……」
「え、じゃあこのままじゃ永遠に回ってるって事?!」
「あ、いや、目が回ったら落ちるかも……」/くるくる
「楓がお前のサイン会に来るって言って聞かないんだ」
「僕は構いませんよ?」
「でもなぁ……」
「鈍感ねぇ、女心もわからないの?」
「何だよファイヤーエンブレム」
「いっつも大好きなハンサムの隣にいるアナタに嫉妬してるんじゃない?」
「……へ? 何でバニーも納得してんだ!」/サイン
「折紙先輩、何だか表情が暗いですよ?」
「……実はまたブログが炎上して……匿名掲示板のウォッチスレには散々書かれてるし、僕はもうダメだ……!」
「一体何がきっかけで……?」
「ヒーロースーツにスモウレスラー的なマワシをつけた写真をアップしただけなのに……」
「そうですか……」/祭
イベントの企画書を見てバニーが首をかしげた。
「マジカルバナナ?」
「知らないのハンサム? チョコをコーティングしたバナナを端を二人で食べていって、先にギブアップした方が……」
「……何かの罰ゲームですか?」
「大人のお楽しみよぉ」
「その辺にしといてやれよ……」/マジカルバナナ
「キッドの故郷の七夕ってどんなんだ?」
「えっとね、織姫様って子供の守り神だから、子供のいる家は床母っていうのをまつるの。お母さんもまつってくれてたなぁ」
「こっちと随分違うなぁ。そっか、愛されてるな、キッド」「……なんか、てれくさいよタイガー」/七夕
「どうしたの折紙、疲れきった顔して!」
「心配してくれてありがとうドラゴンキッド、ちょっと……ブログが炎上しただけなんだ」
「え、この間もしたって言ってたよね」
「僕の何がいけなかったんだろう……」
「うーん、多分、最後の一文が余計だったと思うよ」
「読んだんだ……」/憔悴
「ワイルドちゃん何食べてるの?」
「あ、これ羊羹。食ってみる? 和菓子」
「……何これ豆を甘くしてるなんて正気?!」
「俺は前からチリコンカーン以外認めないっって言ってんだぜ」
「いーじゃねーか伝統の菓子だし、芸術なんだぞなあ折紙」
「僕も実はあんまり……」
「え?!」/和
「市民の平和」
「キングオブヒーロー」
「全ての男はアタシに跪くの!」
「好きな人が気づいてくれますように」
「美味しいものいっぱい食べる」
「スモウレスラー流行」
「キングオブヒーロー」
「次のシーズンもヒーローでいられますように」/七夕
「あっ、ちょ、そこぐりぐりすんのやめろって!」
「少しは我慢して下さい」
「出来るかっつの!」
「動かないで!」
「無理!」
「……何喘いでるのよタイガーちゃん」
「バラのトゲが刺さったんだよ指に! なんでこんな所にあんだよ!」
「すまない、そしてすまない!」
「スカイハイかよ!」/痛
☆OTHERS
堕落した人間どもから独立して、NEXTだけの楽園を作るんだ。
愛しい人はそう断言した。
本当はどうでもいい。
私はこの人の隣にいられれば。そう思っていたけれど。
でも人間は私からあの人を奪ってしまったの。
ならば、私はあの方の理想を実現して、あの方を楽園へ呼び戻すわ。/堕落
「ちょっとバーナビーがフレームアウトしてるわよ! カメラ、パンして!」
「はいっ!」
「……どうしてタイガーをお姫様抱っこしてるの?!」
「わ、わかりません!」
「あーもう絶好のチャンスだったのに! ちゃんと仕事して頂戴!」
「す、すみません!」/パン
☆SERIES
【子守歌】
市長のお子さんが眠った後も、おじさんは子守歌を口ずさんでいた。キーが高めで歌い辛そうだ。
「あー、声出ねぇな」
苦笑する彼の顔をじっと見る。どこか懐かしげな表情。
「ママのうたの方がいいって、泣かれたなぁ」
僅かに浮かぶ笑顔の奥に、深い喪失感が透けて見えた。/子守歌
市長の赤ちゃんを預かってたとき。二人でベッドに転がってうとうとしてたら、タイガーが子守歌を小さな声で歌ってくれた。
……赤ちゃんがすぐに泣きだしたから止まっちゃったけど、久しぶりにきいたな。
今度ぜんぶ歌ってもらおっかな。/子守歌
ママの調子が良い時にだけ、聞こえてくる歌がある。懐かしい旋律の子守歌。最後のフレーズだけ歌詞を変えて、
「おやすみユーリ」
と優しい声で。夢の中に住む彼女にとって、私は永遠に幼い子供であり続ける。
どう足掻いても醒める事のない、これは現実。/子守歌
☆Sternbild Citizens
「ヒーローの新曲DLの話聞いた?」
「当選者にライブのチケット当たるんでしょ? 倍率どれくらいになるんだろ……絶対無理だよね。ホント、あざといと思うわ」
「(色んな端末使って沢山DLしてるなんて言えない……)」
/あざとい
昔々、Mr.レジェンドという伝説のヒーローがいました。彼は街の平和を守っていましたが、凶悪な犯罪者と闘った末、命を落としてしまいました……。
人々は悲しみました。しかしその功績をたたえ、記憶に残すため、街の至る所にその像が建てられるようになったのです!/昔々、意味怖
あの日、中継で女神の破損を見ていた人々から寄せられた寄付を原資にして、壊れたジャスティスタワーの修復が終わった。セレモニーには思いがけず沢山の市民が集まった。
愛される女神と愛される街。
再び創られた女神の瞳は、穏やかにシュテルンビルトを見下ろしている。/あの日
「ヒーローカード、小さい頃は集めてたけど」
店の前を通りかかる。友達が笑った。
「懐かしーけど、今はねーな」
僕は黙って胸ポケットに手をやった。IDカードと一緒に入れているスカイハイのカード。
……実は僕も彼みたいになりたいんだ。空を、飛べるようになったから。/市民目線
馴染みのバーのカウンター、よく見かける二人組がいたんだけど、ある日、そのうち1人が来なくなった。
大男が背中を丸めて飲んでたけど、気がついたら、ピンクの服を来た派手な人が隣りに座るようになってて。
しかもイイ雰囲気。1人の時に声かければ良かったかしら。/市民目線
銀髪にもグレーにも見える長い髪をまとめたヒーロー管理官がインタビュー受けてる。
俺みたいに板挟みなのかなー。
ちょっと同情するわ。
レジェンドの名前が出た瞬間、すげえ怖い目したもんなあ。余計な仕事増やしやがってって感じ?
本来ならエリートだろうになぁ。/市民目線
☆The Beginning
あれいいな。吹き抜けのはるか上、金色のキラキラしたものが見える。
人がいっぱい。その場で飛んでみるけどわからない。見せてよ。邪魔だよ、そこの人。
……世界がゆがんだ気がした。目の前に金の像。何これ。
ああそうか。望むものがあれば、その一番近くに行ける力なんだ、これ。/とぶ
素顔を晒し本名を名乗る新人ヒーローの様子を知っておくべきだと思った。所在無げな様子の彼に、当たり障りのない挨拶をする。
彼の過去。境遇。それは自分と同じベクトルを持つものかもしれないし、あるいは。
その過酷な経験の裏で抱えている本心を暴くのも、一興。
/裏
来季からヒーローになる事を市民に公表した日。
ユーリ・ペトロフと名乗ったヒーロー管理官に挨拶をされた。司法局との円滑な連携の為に、良い関係を保ちたいけれど。
「正義」という言葉を口にした瞬間、瞳が冷たく光ったように見えたのは、僕の気のせいだろうか。/裏
トランスポーターなんてない。研究チームも解散した。
他のヒーローとの扱いの差は広がるばかりだった。何となくわかってて、見ない振りしてた結果がこれ。
きっとベンさんはあちこちに頭を下げ続けてきたんだろう。沢山の想いを背負ってるから、ここで辞める訳にはいかねぇんだ……。/差
年齢と経験の差が、大したものだとは思わない。他のヒーローの事を研究してきたけれど、結論はいつもそこに辿り着く。華々しいデビューを。そして、KOHを目指す。その目標の果ての、僕が本当に成し遂げたかった事の入口に、今、ようやく立てた。/差
ヒーロー全員で、アパレルメーカーのCM撮影。
普段にはない衣装で、皆でワイワイ言いながらスタンバイ。
「この曲が流れます」
歌のワンフレーズが耳に飛び込んだ。
「永遠じゃない」
……十年後にはメンバーも入れ替わってるだろう。
でも、映像とこの記憶だけは残るよな。/永遠じゃない
撮影用に準備してあったのは、シャツにフレアスカートのセットと、大人っぽい黒のワンピース。ボクがセットに手を伸ばそうとしたら、ローズがクスッと笑って、ボクの手を止めた。
「ねぇパオリン、面白い事、しよ?」
え、なに、どういう事?! 怖いよローズの顔!/服
ワイルドタイガーとバーナビーがスタイリングを終えてスタジオに入ってきた。バーナビーがかっこいいのは勿論だけど、ワイルドタイガーの不思議な色気に、スタッフが一瞬ざわつく。
「馬子にも衣装、ですか」
鋭い眼差しのバーナビーはどこか張り合ってるみたい。
/眼差し
「折紙くん、その衣装よく似合う、そして素晴らしい!」
「スカイハイさんこそ、普段着ないカラーリングがカッコイイです!」
撮影前で興奮気味の二人に虎徹が呼びかけた。
「おーい、こっち来いよ! 記念に写真撮っとくからさ!」
「タイガーさんが一番興奮してますね」
/興奮
「ねぇバイソン、その格好でデートしましょ、デート!」
「それは勘弁してくれ。しかし、その服似合うな」
「アリガト! 既製服着たの久々だけど、たまにはイイわね」
「流石ブルジョワ直火焼き……」/きせい
☆The Live
「ねぇ、これ、あたしがメインのイベントだよね?!」
「あー、まぁ、そだな」
「なんでバーナビー、あんなにノリノリなの?! あったま来た!」
「そんなに怒るなよローズ、あいつ多分アイドル気質なんだと……」
「わかってるからムカつくの!」/踊る
纏わりつく陰。奏でる事を封じられた俺を擽る甘美な響き。願いはただ一つ、昔のようにギターを弾きたい。
そのためならば、あいつの言うままに踊ってみせよう。
もう一度、あの懐かしい舞台に戻るために。/踊る
此処に来て、弦を弾く感触なんて忘れた。作業で荒れた指先。思うように動かないだろう。溜息をつきながら顔を上げる。
目に入ったのはワイルドタイガーの引退会見。
能力が減退したのだと、少し悲しげな笑顔で告げた。永遠なんて、保障された未来なんて、誰の処にもない。/永遠じゃない
休憩室に、ボランティアが置いて行ったニッポンの弦楽器があった。
何となく気になって弾いてみる。
不思議な音がした。
……それだけ。何も、壊れない。
呆然とした自分の耳に微かにニュースが聞こえる。
「ワイルドタイガー復活!」
……引退って永遠にするもんじゃねぇのかよ!
/永遠じゃない
2013.1.14up。ツイッターアカウント@kaya_sstbでポストしている#同題SSTBの7〜11月分まとめです。丁度原稿時期に入って本数が減ってしまったのでまとめてアップしました。
年が明けて#同題二次TBに移行して書かせて頂いてます。そちらも宜しくお願いします(^^)