For Stein Bild

For Mr.Judge 女神像がクリスマス仕様に美しく飾り付けられるのもあと数日。明日はクリスマスイブだ。賑やかなジャスティスタワー周辺に背を向けて、ユーリ・ペトロフは自宅へ向かおうと、駅へ向かって歩き出す。
「もー、お父さん!」ジャスティスタワーに向かう父娘。娘が凄い剣幕で父親を叱り始めた。
「ケーキ作ってくるって言ったでしょ! どうして買ってきたの! ブルーローズさん達も作るって言ってたのに!」
「あ、いや、ケーキはいくらあってもいいよな、と思って…」
たじたじになっている父親はワイルドタイガー、鏑木虎徹だ。
では娘は、マーベリック事件の時に裏で能力を発動させて解決に貢献した娘の鏑木楓だろう。二人とも手に大きなケーキの箱を一つずつ持っている。娘の方は、他にもいくつか紙袋を持っていた。
自分でラッピングした、という風情の素朴な包装はいかにも子供の発想だ。
   不意に、タイガーと目があった。
「あ、裁判官さん、こんばんは〜」
「こんばんは、今日は可愛いお嬢さんとご一緒なんですね」
よそ行きの笑みを浮かべて挨拶に応えると、娘の方が一瞬目を丸くしたかと思えば、不意に満面の笑みを見せた。
「こんばんは! えっと、ヒーロー管理官、ですよね? ニュースとかで見てます!」
「え、楓、知ってるのか! 凄いな!」
「だってよくインタビューとかに出てくるよ? お父さんニュース見ないの?」
「いやぁ、パパは出るの専門だから……」
タイガーは娘には頭が上がらないようだ。頭を掻きながら娘に言い訳をしている。
「今日はパーティか何かがあるんですか?」
ありきたりの質問を投げかけてみると、楓が嬉しそうな笑顔を見せる。
「ヒーローの皆でクリスマスパーティをするのに、私も呼んでくれたんです! だから張り切ってケーキ作って来たのに、お父さん、別にケーキ買って来ちゃって」
頬を膨らませて不服そうにタイガーを睨みつける。
「だからいーだろ。大丈夫、ドラゴンキッドが全部食べちまうって……」
タイガーは反論しながらも、その声が段々小さくなっていった。
「今日は時間通りに迎えに来てくれたから、うれしかったのに……もう!」
楓はぎゅっ、とタイガーの靴を踏んだ。
「……だっ!」
タイガーが顔をしかめるが、娘は容赦なかった。
「今は手が出ないから! これでも手加減したから、ね!」
……賑やかな親子だ。
苦笑を浮かべてユーリはその様子を見ていたが、何故だか少しだけ気分が重い。
きっと、自らが望んで、しかし手に入れられず自分から希望を打ち砕いた希望の欠片が、目の前に見えているからなのだろう。
「……そういや裁判官さんは、クリスマス休暇はどうするんですか?」
「私は……自宅で家族と過ごします」
――きっと母親が、三人分のクリスマスディナーを用意して待っている。七面鳥、ケーキ、沢山のオードブル。 
要らないよ、と数日前に説得をしたら暴れ始めたので、仕方なく希望した材料を買ってきた。冷凍しておけば保つだろうから、しばらくは食料に困る事はないだろうが、帰宅してからの状況を考えると溜息しか出ない。
毎年繰り返される、聖夜の呪い。自分の行動の結果でもあるから、甘んじて受けるしかない事はわかっていても。
「……えっと、じゃ、ペトロフ管理官」
鏑木楓が、ふと何かを思いついたような表情で、ユーリに声をかけた。
「何でしょう?」
「ケーキの他に焼き菓子を持って来たから、良かったら、食べて下さい」
「え、お前、そんなのまで作ってたのか?」
「みんなへのプレゼント用!」
驚くタイガーを睨みつけながら、楓は小さな紙袋を一つ手に持って、ユーリへと差し出す。 
「……ありがとう」
ユーリはしゃがみ込み、楓と目線を合わせた。父親と同じ色の瞳が、きらきらと輝いている。
「おばあちゃんに先生になってもらったから、失敗はしてないと思います!」
不安を振り切るように威勢よく言う楓の顔があまりにも生真面目だったので、思わず笑顔が浮かんだ。そして、ユーリは紙袋を受け取った。
「きっと美味しいだろうね。今晩頂きます。ありがとう」ユーリは改めて礼を言い、立ち上がった。
「お前、大胆だな、楓」
「……ちゃんと味見してるもん!」
「いや、そういうんじゃなくて」
苦笑するしかないような親子の会話の合間を遮るように、19時を告げる鐘が鳴り始めた。
「あ、お父さん遅刻しちゃう!」
「ああ、急ぐか。じゃ、裁判官さん、失礼します」
早足で去ってゆく父娘に背を向けながら、ユーリは駅へと歩き始めた。掌の中では紙袋がカサカサと音を立てている。
……小さな頃、クリスマスに母親が作ってくれるケーキがとても楽しみだった。暖かで穏やかなクリスマスディナーは、いつから消えてしまったのだろう。皮肉な事に、父が死んで……自分が殺してから、三人分のディナーが並べられる風習は復活したけれども、ユーリにとってそれは苦痛でしかなかった。聖夜に突きつけられる、自らの罪の重み。
ユーリはそれから逃げるつもりは一切ない。しかし夢の国の住人の母が、この時期になると一層深く夢の中に入り込んでしまう事を直視するのは、決して容易な事ではない。
ユーリは溜息をついて、大通りから一本裏に入って、駅への近道を選んだ。こちらを通れば五分程到着が早くなる。人通りの少ないここは、時折早足のビジネスマンが通り過ぎる程度だ。明日からクリスマス休暇の市民も多いだろうから、皆帰宅が早いのだろう。 ……途中にケーキ屋があった。外に折り畳みのテーブルを出して、ケーキのボックスを積んでいる。
「クリスマスケーキいかがですか?!」
この店の子供なのだろう、そばかす顔の12歳位の少年が、ユーリに声をかけてきた。今夜はかなり冷えている。厚着をしているとは言え、この寒さは堪えるだろう。よく見ると、ケーキの入った箱は、鏑木虎徹が持っていたものと、リボンが同じだった。
「もうすぐ品切れするから、買うんだったら早い方がいいですよ!」
少年は愛想の良さそうな笑顔を浮かべた。店内ではニ、三人の大人が忙しそうに走り回っている。もしかしたら配達の準備をしているのかもしれない。少年は笑いながらも、縋るような瞳をユーリに向けた。
「……では、一番小さいケーキを、一つ」
溜息混じりにユーリは注文し、財布から金を取り出した。未成年者をこの寒空の下、遅い時間まで働かせるのは好ましくない。
「ありがとうございます! あ、おまけで、ローソクつけときますね!」
手慣れた様子でケーキのボックスを大きめの袋に入れて、少年が袋を差し出した。
「寒いから気をつけて」
ユーリはそれだけ言って、ケーキ屋の前を離れた。
父親の能力減退が酷くなって生活が荒れ始めた頃、ユーリは母親に手を上げる父親の態度に耐えかねて父親の前に立ちはだかった。結果、殴り飛ばされ家の外に追い出された。……楽しいクリスマスディナーのはずだったのに。いつからこうなってしまったんだろう。煌めくシュテルンビルトの明かりが、ユーリには氷よりも冷たく見えた。
――その日に生まれた神様が、僕と僕の家族を助けてくれればいいのに。そう願うこともいつしか止め、ユーリは自らの力で、運命に抗った。それより他に道はなかった、という気持ちは今も変わらないけれど。
「また来て下さい!」
嬉しそうに笑う少年の声に頷き、ユーリはその場を離れた。遠くでクリスマスソングが聞こえる。穏やかな聖夜。
……駅に着くと、次の電車まで15分程待ち時間があった。待合のベンチが空いていたので、ケーキを横に置いて座る。鏑木楓から受け取った紙袋をそっと開けてみた。中には小さなマドレーヌが一つ。そして、いかにも少女が好きそうな、可愛らしいメッセージカードが入っていた。
『メリークリスマス! あなたに幸せが訪れますように!』
兎の形をしたシールがいくつか貼ってある隣に、どこか幼い文字が書かれている。ユーリはカードを自分の鞄に仕舞い、マドレーヌを入れている袋を開けた。ふわりとバターの香りが広がる。アルミカップを外し一口食べると、優しい甘みが感じられた。
手作りの素朴な味。飾り気のない素直なそれはまるで、鏑木楓の育てられた環境そのもののようで。
ほろほろと口の中でマドレーヌが小さくなってゆく。それはあっという間になくなってしまった。
ユーリはコーヒースタンドでホットコーヒーを買い、再びベンチへと戻る。湯気を上げるコーヒーを啜りながら、失われた暖かな日々を惜しむように溜息をついた。
……どうか今晩が、穏やかなものでありますように。そして柔らかな甘みをもたらした少女の聖夜が、ケーキを売っていた少年のクリスマスが、楽しいものであるように、と祈りながら。






From Heroes

「おいスカイハイ、なんでケーキ5つも持って来てんだよ!」
「バーナビー君みたいだろう? ケーキの中身は全部違うけれどね!」
 トレーニングセンターでヒーロー全員集まって、クリスマスパーティをしよう、と言い出したのはドラゴンキッド。丁度楓がスケート大会の関係でシュテルンビルトに来る事になっていたから、試合後の23日夜に日時を決めてもらって、それぞれ飲み物と食べ物を持ち寄って騒ごう、と決まったのだが。
 虎徹はケーキの箱を積み上げて自慢気なスカイハイにツッコミを入れながらも、苦笑するしかない。呼び出された関係で会場を途中で抜け、一人で会場から電車で移動してきた楓を駅まで迎えに行く途中、虎徹は通りがかったケーキ屋で少年がケーキを売っているのを見かけて、つい一箱買ってしまった。スカイハイが持って来た箱も同じリボンが巻かれているから、多分一緒の店で買ったんだろう。
 楓も作って来てるし、ブルーローズとドラゴンキッドも持って来る予定だし。
 ――どーすんだこんなに。
「あのー……」
「お、遅かったな折紙……って、なんだ、その箱」
「いや、実は」
 続いて入ってきた折紙も、右手に食料が沢山入った袋、そして左手に箱を持っている。
「……それケーキ?」
「は、はい」
 ――さて、次は誰がケーキ持ってくるかなー。

 結局ロックバイソンが、その店でケーキを買い占めてきたらしい。ケーキの箱がソファの上で山になっている。
「遅くなってすみません……なんですか、この箱は」
 ファイヤーエンブレムとブルーローズがケーキの山の前で渋い顔をしていると、ランチボックスらしきものを下げてバーナビーがやってきた。
「何って、ケーキ」
「……一人一ホールどころの話じゃないですよね」
 バーナビーも呆れ顔だ。
 ……まあ、そりゃそうだよな。
 ドラゴンキッドが楓と二人で、作ったケーキを先に広げて騒いでいる。年齢が近いからフィーリングが合うんだろう。楽しそうに話をしている二人を見て虎徹は思わずほのぼのしてしまったが、ケーキをどうするかというのは目を逸らすことの出来ない重大な問題だ。
「困った、実に困った!」
「いや、買ってきたお前が言うなよスカイハイ……」
「お前だって買っただろう虎徹! 楓ちゃんが折角作ってきてるってのに!」
「うっせぇ! 残り全部買って来たのはどこのどいつだ!」
「不毛な言い争いはやめて下さい。とりあえず、このままでは食べきれない事は確かですよね」
 しかつめらしい顔でバーナビーが腕を組んだ。
 その後ろに、とことこっとドラゴンキッドが近づいて来る。首を傾げるみたいにして、一つの提案をした。
「そーいえば、外でクリスマスのイベントやってるよね。そこでプレゼントに出しちゃえば?」
 ジャスティスタワーの前で、クリスマスのチャリティ・コンサートをやっているのだ。そろそろ人が集まって来る頃かもしれない。
「……そーねぇ、カットして配って、寄付を募る、なんていうのはどぉ? そうすれば沢山の人から寄付も頂けるし」
 ファイヤーエンブレムがドラゴンキッドの後ろにやってくる。
「アタシたちのケーキはローズと楓ちゃんのがあるものねぇ。それ以外は全部配っちゃえば?」
「あと、ホットコーヒーとかもどう? 今日寒いし、コーヒーサーバーならここにおっきいのがあるし」
 ブルーローズもそれに加わる。
「あ、わたしも、何かお手伝いしたいなぁ」
 楓がブルーローズの後ろから、ひょこっと頭だけ出した。その頭に、ローズがぽん、と掌を置いた。
「それは素晴らしいアイデアだ! では、皆で外に出ようじゃないか!」
 嬉しそうにスカイハイが言った瞬間。
「待って下さい!」
 バーナビーが流れを止めた。
「何よハンサム、不服な事でもあるの?」
「いいえ、実は……ちょっと発注ミスで、七面鳥の丸焼きを買い過ぎてしまったので。それも一緒に、配りませんか?」
「いっぱいって、どれくらいなんだバーナビー」
「一羽だけ頼むはずが、入力ミスをして十羽になってしまっていて」
 随分と豪快なミスだ。俺達で食べるなら…一羽、いや、ニ羽あれば足りるかな……って、そういや、バイソンがシュラスコ持って来てるんだよな確か、と虎徹は思い出す。
「それ、どこに置いてんだよバニー」
「……ロッカーのチェアの上に」
「折角だからバゲットとかも用意しちゃいましょうか。ヒーローファンの皆とクリスマスパーティーみたいで、楽しいわよぉ」  ファイヤーエンブレムの提案に全員が頷いた。
「あたし達の分は少しあればいいもんね」
 ブルーローズが腕まくりをしながら、楓とドラゴンキッドに指示を出す。
「うん、みんなでパーティーしよー!」
 虎徹は苦笑しながら、バーナビーの顔を見た。
「虎徹さん、七面鳥切り分けるの手伝って下さい」
 ――しまった、目、合わすんじゃなかったかな。ただ、バーナビーの表情は穏やかだ。笑みを浮かべて虎徹が動くのを待っている。
「スカイハイと折紙はアタシと一緒に買い出しについて来て。荷物持ちになってもらうわよ。あと、コンサートの責任者とアニエスにも声かけなきゃね」
「は、はい!」
「急ぎのものがあったら飛んで運ぶからから言ってくれ!」
「俺はシュラスコの準備するからな。知り合いの所に肉頼んでたんだけど、追加出来るって言ってたから電話してみるから」
 それぞれが、どこか嬉しそうな顔をして動き始める。
 ――こういうのって、いいよな。
 思わず浮かんだ笑みをバーナビーが見つけて、からかうような表情を見せた。
「何、ニヤニヤしてるんですか、虎徹さん?」
「なんだよ、楽しがっちゃいけねぇのかよ、このノリの良さによぉ。俺もチャーハン作るかな」
「いいですけど、チャーハンは冷めると辛いかも」
「だっ! ……でも言うとおりだな。あ、楓、お前大丈夫か? あんまり迷惑はかけんなよ?」
 ブルーローズ達とケーキを運ぶ算段を始めた楓に、思わず訊いてみた。
 楓はぷぅ、と頬を膨らませて睨みつける。
「なにそれ、子供あつかいしないでよね! 今日だってちゃんと電車で移動したでしょ?! デリカシーない!」
「それとこれとは別だろ?」
 言い争いにブルーローズとドラゴンキッドが割って入った。
「タイガー、そんな言い方すると楓ちゃんがかわいそう」
「そうよ!」
 虎徹は後退りしながら悲鳴を上げる。
「え、何、俺悪者?!」
「ほら、絶対お父さんの言い方ひどいよ!」
 したり顔の楓を見て、バーナビーがくすり、と笑った。
 ――やれやれ、とんだクリスマスだ。
 ま、楽しいからいいけどな。






   For Buddy

 大騒ぎになったクリスマスコンサートのチャリティ・サプライズイベントも無事に終わり、打ち上げ代わりに皆でパーティーをした。散々飲んで騒いで。未成年組を先にセンターの隣の仮眠室で眠らせて。折紙とスカイハイはソファで眠っている。ファイヤーエンブレムとロックバイソンは飲み足りない、と言って外へ出かけてしまった。
 しんと静まり返ったトレーニングルームの隅に、虎徹がご機嫌な顔をしてぺたりと座り込んでいる。
「いやー、楽しかったなバニー」
 相当飲んでいたからか、珍しく顔が真っ赤だ。
「そうですね、こんな賑やかなクリスマスになるとは思ってませんでしたけど」
 バーナビーが苦笑しながら応えると、虎徹は突然、くしゃり、と頭を撫でてきた。
「……どうしたんですか」
「寂しいクリスマスは、過ごさせたくねぇしな」
 バーナビーは黙り込み、じっと虎徹の顔を見た。クリスマスは辛い思い出と一体だった。けれど、一応の決着を見て、コンビを再結成し、ヒーロー皆で大騒ぎをする日が来るなんて、なったばかりの頃には思いもしなかった。
「……ええ、とても、楽しいです」
 きっと家族とならば、朝からミサに出かけ、静かに過ごしていただろう。
 早々に家族を失ったからこそ、今こうして、まるでお祭りのような時間を共有出来るのかもしれない、とも思う。
「……良かった良かった」
 ぐしゃぐしゃっ、と髪をかき混ぜて、虎徹が笑う。
「あ、そーだそーだ。バニー」
 虎徹がごそごそとズボンのポケットを探している。
「これ、プレゼントな」
 掌の中のものは小さなプラスチックケース。赤いリボンが巻いてあった。ちょっとだけ撚れていたけれど。
「……え」
「とりあえず開けてみろよ」
 言葉のままに開くと、中には小さなネクタイピンとカフスのセットが入っていた。
 バーナビーの瞳と同じ色の石が嵌めこまれている。
「……これ」
「メリークリスマス! 楓がこっちに来た日にな、二人で選んだんだ」
 仕事柄、スーツ姿で人前に出る事は多い。しっかりとした造りのこれなら、つけてテレビに映っても問題はないだろう。
「……虎徹さん」
 バーナビーが思わず見つめると、虎徹は一層笑みを深くした。
「ま、今時あんまり使わねぇかもだけど……良かったら、受け取ってくれよ」
「……ありがとうございます」
 受け取る手が軽く震えた事に、虎徹は気がついただろうか。バーナビーは嬉しさを抑えられない自分に驚きながら、虎徹に告げる。
「実は……僕からも、あるんです。プレゼント」
「へ?」
 バーナビーは少しだけ虎徹を待たせ、ロッカーの自分の荷物から、それを持って来た。
「どうぞ」
 目を丸くしていた虎徹が、赤と緑の包装紙に包まれた箱を手に取り、少し照れたような顔をする。
「……うっわ、なんか、すげえ嬉しい。開けてもいいか?」
「ええ」
 後ろのテープを綺麗に剥がして、出てきたのはダークグリーンに細いストライプの入った、シルクのネクタイ。
「これ、すげぇカッコイイな!」
 虎徹の琥珀色の瞳がきらきらと輝いて、まるで子供観たいだ、とバーナビーは思う。
「喜んでもらえて、良かったです。……貴方には、沢山のものをもらっているから、せめて」
 虎徹はふう、と軽く溜息をついたかと思うと、ほんの少しだけ切なげな笑顔を見せた。
「何言ってんだよ。……沢山もらってんのは、俺の方だって」
 虎徹は今自分がしているネクタイを外してしまい、バーナビーのプレゼントをきゅっ、と結んだ。
「これに合うようなシャツとスーツがいるよなぁ。折角だから買うか。ありがとうな、バニー」
「僕こそ、ありがとうございました」
「……しっかし、タイピン用意してたら、ネクタイもらうなんてな」
「そうですね」
 思わず二人で顔を見合わせて、密やかに笑い合う。
 ――こんな穏やかな日々がこれからも続きますように。
 バーナビーは心から祈る。
「もうちょっと、酒飲むか。残ってるし」
「ええ、僕もまだ飲み足りないので」
 穏やかなクリスマスイブ。もし今日出動命令が出たら、未成年組以外は二日酔いで出動だな、と思いつつも、遠くに微かに流れるクリスマス・ソングを肴に、再びワインで乾杯をするのだった。
 合わせたグラスから澄んだ音が響く。
 キリストの生誕を祝う厳かな、そして賑やかな日をこういう形で迎えられる事に感謝をしながら、バーナビーは虎徹に笑いかけた。
「……乾杯」
「乾杯! メリークリスマス!」


2013.1.14アップ。本編終了後、クリスマスを迎えた皆の話です。ちょっと時期が外れてしまいましたが…。
冬コミ無配の内容をアップしました。