「ちょっとブルーローズ。アンタ最近化粧濃くない? 若いうちから厚化粧してると、トシ取ってから泣くわよ」
平和な休日のトレーニングルーム。今日は珍しく、在室しているのはネイサンとカリーナだけだった。
「はあ?! 何、あたしが若いからって嫉妬してんの? あたしは必要最低限しかしてないわよ」
ランニングマシンの上で軽快に走るカリーナが、ものすごい剣幕で言い返してくる。
鏡の前でダンベルを持ち上げていたネイサンが、反抗的な態度にカチンときて詰め寄った。
「アンタねえ、前から言ってるけど、その反抗的な態度を何とかしなさいよ。社会に出てから叩かれまくるわよ?!」
睨みつけたネイサンの視線にたじろいだのか、カリーナはちょっとだけ目をそらしてから反論する。
「何よ、あんたみたいにオーナーの片手間でヒーローやってる人とは切実さが違うんだから。あたしは一日も早くアイドルデビューしたいの。
テレビ映りがいい方がいいに決まってるじゃない」
途中から何故か声が小さくなったカリーナに、ネイサンはふうん、と言いながら意味深な笑みを投げかけた。
「アタシが言ってるのは変身前のアンタのことよ」
カリーナは、あからさまにむっとした顔をした。
「あんたには関係ないでしょ。……そうよ、他の事務所にスカウトされたらいいと思わない?」
ネイサンの笑みが深くなる。
「で、アンタの本命はハンサムくん?」
カリーナの言葉を華麗にスルーして突っ込みを入れる。
「馬鹿じゃないの。暇なんだったら帰ったら?」
だが、カリーナはネイサンの予想に反して、それを冷たくあしらった。
図星をさされたような様子は全くない。
「あたしはバーナビーみたいにナルシストな男には興味ない」
ランニングマシーンが徐々にスピードを落としていく。
「おかしいわねえ、アンタみたいなお子ちゃまは正統派ヒーロータイプに弱いかと……」
首をかしげたネイサンは、ある一つの可能性に行き当たった。
「ああ、いたわね。正統派ヒーローがもう一人。熱血漢なのだけが取り柄だけど、オトナの魅力が良かったのかしら?」
ぽん、と手を打った瞬間、カリーナの顔が真っ赤になった。
「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよ! なんであたしがあんな落ち目のおじさんに……」
あ、引っかかった。
ネイサンはふん、と鼻を鳴らす。
「アタシはタイガーだなんてひとことも言ってないわよ?」
ネイサンが満面の笑みを浮かべているのが余程悔しいのだろう。カリーナは目に涙を浮かべそうなくらいの勢いで、全否定にかかった。
とりあえず一通り反論させておいて、ネイサンはすっと表情を引き締める。
「タイガーはねぇ……多分アンタの手に負えないくらい、やっかいな男だと思うわよ」
カリーナもその只ならぬ雰囲気に、自然と緊張した表情を浮かべた。
「何それ。あんなに、裏表ない感じの、おせっかいな人が?」
いかにも子供な答えだ。まあ、高校生の洞察力ならそんなものなのかもしれない。
「んー、人間、外面だけはどうとでもなるからねぇ。……もしかしたら、ハンサムよりもっと、闇が深いかも」
世話焼きな外見にじわりとまとわりつく暗い影は、おそらく今のカリーナには見えないものなのだろう。
「……まあ、アタシもそこが気に入ってるんだけど。あ、そうそう」
これ以上の追求を避けるように、ネイサンはスポーツバッグをごそごそと探り始める。
どんな相手を好きになろうと、恋は恋。
願わくば、それがカリーナの人生を豊かに彩るものでありますように。
「この美容クリーム試してみない?」
ネイサンは小さな容器をカリーナの目前に突き出してみせた。
「へえ、これ、効くの?!」
興味が移ったのか、これ以上の深入りは避けてほしかったのか、カリーナも不自然なくらいのテンションで容器を受け取り蓋を開けた。
「試しに塗ってみたら? いいわよぉ」
カリーナの指にはねっとりとしたクリームがまとわりついている。
うわ、なんかベトベト、と感想を述べながら、手の甲にクリームを伸ばしたカリーナに向かって、ネイサンは決定的な一言を告げた。
「それ、かたつむりのクリームよ。綺麗になるための試練は厳しいわよ?小娘ちゃん」
一瞬の静寂の後。
「……いやああああああああああああ!」
全て世は事もなし。
2011.6.4修正。
タイトル通りです。タイバニはどのキャラも愛しいですねえ、ということで、小話。
書いてる私は楽しいんですが、読んで下さる方はどうなんだろう…。
まさに俺得なネタですみません。
つーか愛されてるな虎徹w