おかえり!

ジェイクとの闘いはとりあえずバーナビーの勝利ということで終わり、シュテルンビルト市民は喜びに沸いている。
入院している3人を除いたヒーロー達5人は、一旦病院に見舞いに向かうことになった。
もっとも、虎徹とバーナビーはこれから怪我の治療が待っているのだろうが。
虎徹はバーナビーに寄りかかるようにして、よろよろと病院のドアをくぐる。
「ワイルドタイガーさん! 何してるんですか! あなた、死に掛けてたんですよ!!」
入ってきた虎徹を看護師が見つけて、慌てて駆け寄ってきた。
バーナビーが驚きに目を見開いて虎徹を見つめる。
「あ、いや、大丈夫、大丈夫ですよ〜」
看護師の物凄い剣幕に後ずさりながらこの場を適当に誤魔化そうとする虎徹を捕まえて、バーナビーは虎徹を横抱きにした。
「うわ、バニー、何しやがる!」
「すみません、この人の病室はどこですか?」
じたばたする虎徹を盛大に無視して、バーナビーは看護師に問いかける。 「ま〜、ハンサム、王子様っぽいわねぇ」
ファイヤーエンブレムがニヤニヤしながら冷やかす。……もっともこれも、ジェイクとの闘いが終わったから見せられる余裕なのだけれど。
「他のヒーローの方達と同じところにあります。こちらです」
看護師はちょっとぽーっとした顔でバーナビーを見て、案内を始めた。
「バーナビーはどうして、タイガーをお姫様だっこするのが好きなの?」
不思議そうに首を傾げるドラゴンキッドを見て、ブルーローズが渋い顔をする。
「……あれは半分、嫌がらせだと思うわよ」
「まだまだ子供ねえ、ブルーローズも」
意味深な言葉を残し、ファイヤーエンブレムが二人を誘導して病室に向かった。






「ここですか?」
ベッドに寝ていたスカイハイとロック・バイソンは、横抱きにされた虎徹を見て驚きに目を見開いたが、その後に続く女子組の顔に安心したのか、笑顔を浮かべた。
バーナビーは空いていたベッドに虎徹を寝かせて、自分はその足元に腰掛ける。
女子組3人は壁に立て掛けてあった折りたたみ椅子に各々座った。
「バーナビーくん、今日は最高にクールだったよ!」
全く屈託を感じないその口調は、キングオブヒーローの名に相応しい爽やかなものだった。
「……ありがとうございます」
バーナビーはその素直な賞賛の声に、僅かにほろ苦い笑みを浮かべる。
「……僕一人の力では、なかったと思うので」
ちらりと虎徹に視線を移す。
「なんだなんだ、今日はえらく謙虚だな、バニー」
虎徹が目を丸くする姿を見て、バーナビーはむっとしたようだった。冷たい目で虎徹を睨み付ける。
「……僕はもともと謙虚ですよ、虎徹さん。これまで僕の何を見てたんですか?」
「まあ、なんだ、コンビが信頼を深めるのは、いいことなんじゃないのか? その辺にしとけよ、今日はめでたい日なんだから」
ロック・バイソンが苦笑しながら二人を宥めた。
「あら、折紙はどこかしら?」
ファイヤーエンブレムがきょろきょろしていると、スカイハイが穏やかな笑顔を浮かべる。
「彼は最初別の病室にいたんだ。そのうちこっちに来ると思うよ」
その言葉と同時に、病室の窓ガラスの向こうに、車椅子に乗った折紙サイクロンの姿が映った。
窓の向こうの折紙サイクロンは、ファイヤーエンブレム達の姿を見つけて、はにかんだような微笑みを見せた。
「折紙……!」
車椅子をまわして、折紙サイクロンが病室に入ってきた。
「おかえりなさい、お疲れ様でした、みなさん」
ファイヤーエンブレムの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。
「『おかえり』をいうのはこちらの方よ……! 生きてて良かったわ!」
車椅子に駆け寄って、ふわりと折紙サイクロンに両腕を回す。そして頬に何度もキスをした。
「わ、く、くすぐったいです」
「いいのよ、くすぐったいのも生きている証よ! 本当に良かった……!」
おろおろする折紙サイクロンを全員が笑顔で見守る。
「……無茶させたな。悪かった、折紙」
虎徹が少しだけベッドを起こして、折紙サイクロンに頭を下げた。
「ぼくはタイガーさんほど無茶してないですよ。だから、そんなことしないで下さい」
バーナビーが折紙サイクロンの謙遜をやんわりと否定する。
「この人はもっと、周りに迷惑をかけていることを自覚すべきなんです。謝罪はきちんとさせた方がいいんですよ、折紙先輩」
折紙サイクロンは穏やかな笑みを浮かべた。
「ぼくもヒーローとして何か出来るってわかったので……本当なら僕はお礼をいうべきなんです。ありがとうございます、タイガーさん」
頭を下げる折紙サイクロンの姿を見て、虎徹はぽりぽりと頬を掻いた。
「マッドベア制圧の最大の立役者は君なんだからね。危険な敵地に潜入した上、貴重な情報をもたらしてくれたんだから。それを誇りに思っていいんだ」
スカイハイが折紙サイクロンを優しく見つめる。
「私は今回、大した役には立てなかった。キングオブヒーローの名に懸けて、もっと何か出来たのではないかと思うのだが……君の活躍を見ていて安心したよ。ありがとう、そして、ありがとう」
「スカイハイさん……」
病室にぽつりと静寂が落ちる。
ウロボロスを巡る未曾有の事態に、もっと良い対処の仕方があったのではないか。
全員がどこかで思っていることだ。……全員そう考えているのだと、確信できる。それがヒーローというものだから。
「……まずは怪我を治してから、全員で反省会兼ねて打ち上げすっか!」
静寂を打ち破ったのは虎徹だった。
「それはいいアイデアだよ、ワイルドくん!」
「そうですね、落ち着いたら、是非」
「あたしとドラゴンキッドはお酒飲めないから、美味しいスイーツの出るところにしてね」
「ボク、中華がいい!」
「……じゃあ2次会で酒飲むか。いつものところでいいよな虎徹」
「アタシも今回は美味しいお酒をたっぷり飲みたいわぁ」
それぞれがそれぞれの言葉で賛同してみせる。
「肝心のあなたの怪我が治ってからですよ、虎徹さん」
バーナビーが相変わらずの口調で、でもこれまでよりもほんのちょっと優しい声で嗜めた。
「……なんだよ、俺はもう治って」
「あなたが一番酷いんでしょう。……早く治ってくれないと、コンビとして動けないじゃないですか。だからしばらく大人しくしてて下さい」
「はいはーい。つーかお前も人のことどうこう言えるのか、怪我してんだろどうせ」
「僕よりあなたの方がよっぽど悪いはずですが?」
言い争う二人の姿を、他のヒーロー達が笑いながら見ている。
穏やかな日々が、ようやく彼らに戻ってきたのだった。

1クール終了記念&10000ヒット御礼ということで。
まずはヒーローのみんなに戻ってきた穏やかな日々を書きたかったのですよ…!
カップリングものは今は「深海」で手がいっぱいなので、とりあえずこちらをアップさせて頂きました。短いですが。