バーナビーの誕生日の夜のこと。
騒動も一段落ついて、ようやくヒーロースーツを脱ぐことが出来、バーナビーは偶々虎徹とともにオフィスを出ることになった。
「そういや、改めて。誕生日プレゼントに何か欲しいもん、あるか?」
とことんお人好しの落ちぶれ中年ヒーローは、まだ誕生日の事が気になっていたらしい。
一体僕のことを何歳だと思っているんだろう。バーナビーはうんざりとして溜息をつく。
一人でいたいのに距離を取らせてくれない事が苦痛だった。
自発的に離れてもらうにはどうしたらいいんだろう。慣れ合いはもう沢山なのに。
そして、ふと、ひとつのアイデアを思いつく。
最初は単なる嫌がらせのつもりだった。
「誕生日プレゼントですか? ……そうですね。じゃあ、おじさんにリボンをかけて僕に下さい」
つまらない小芝居も和気藹々とした慣れ合いムードも、バーナビーにとってはうっとおしさが勝るものだった。
誕生日はただ、手作りのパウンドケーキを食べながら、自分が為すべき事を思い出す日。
志半ばで殺されなければならなかった、父と母の敵を討つ事を。
「随分ウィットに富んだアメリカンジョークだな、真面目なお前にしては」
虎徹は完全に冗談だと思っているらしい。ニヤニヤしながら、両手をバーナビーの方に差し出してみせた。
「プレゼントはア・タ・シ!? みたいな?」
こめかみに頭痛を感じながらも、バーナビーは虎徹の悪乗りを遮り、頷いてみせた。
「悪いけど僕は本気です。……あなたが僕の事を相棒だと思うのなら、こういう形でのコミュニケーションも厭わないんじゃないんですか?」
虎徹の顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。
「……こういう形?」
バーナビーは馬鹿にしたような笑みを閃かせた。
「決まってるじゃないですか。その体を僕に下さい、と言ってるんですよ。わかりませんか?」
その場で固まってしまった虎徹の脇を通り過ぎ、バーナビーは言い捨てた。
「2時間後に僕の部屋に来るのなら、あなたのプレゼントを喜んで受け取りますよ。
あ、僕、男性とセックスするために必要なものってよくわからないですから、自分で準備してきて下さいね」
どんな表情をしていようと知ったことか。
絶対来ないという確信があるからこそ言えた、バーナビーが考える中でも一番酷い台詞だった。
左手の薬指に光る指輪はその証拠。
大人げないのはわかっていたが、ほんのちょっとだけでも意趣返しをしたかったのだ。
虎徹がどんな表情をしているか確認することもせず、バーナビーは足早にその場を去った。
★
薄暗い、がらんとした自分の部屋に帰ってきて、タブレットの中の資料を眺める。
殆どバーナビーの日課のようになっていた。
何かの拍子に犯人の顔を思い出せるかもしれないと思って始めたことだった。
目を閉じて自分の記憶を深く追ってみる。
炎に包まれた部屋の中で力なく倒れた両親。そしてこちらを向いた男の顔。
ゆっくりと焦点を合わせ、4歳のバーナビーがその男を見上げようとした瞬間、それを邪魔するようにインターホンのベルが鳴った。
舌打ちして応答したインターホンの画面を見て、バーナビーは絶句した。
映っているのは、体に巨大なリボンを巻いて、ドラッグストアの袋を片手に、ピザの箱をもう一方の手に提げた虎徹の姿だったのだ。
とりあえず虎徹を部屋に上げ、クロゼットに無造作に置いてあったラグを敷いて座らせた。
虎徹は馬鹿みたいに大きくて長いピンクのサテンリボンを体に巻きつけたまま胡坐をかいて、ラグの上にピザを広げもぐもぐと食べ始める。
「良かったらお前も食えよ。腹減ったろ」
……食欲なんて湧く訳がない。バーナビーは大きな溜息をついた。
部屋に上げるべきじゃなかったと、心の底から後悔が湧きあがってくる。
嫌味にしては強烈過ぎる。掠れる声で問いかけてみた。
「他の住人がその格好を見たら、どう思うと?」
怒りを抑えつつ問いかけると、虎徹はしれっとして答えた。
「バースデーパーティの仮装だって説明したら面白がってたぞ」
もう見られている。当たり前か。……ああ、頭が痛い。
バーナビーがぐるぐると考えている間に、虎徹はピザを半分平らげてしまい、缶ビールでそれを飲み下していた。
「酒まで持ってきたんですか?」
「ああ、安かったからついでに買ってきた。……お前も飲むか?」
ドラッグストアの袋から缶をもう一つと、ワインボトルより一回り大きな黒い瓶をごそごそと引っ張り出す。
「酔った勢い、にしといたら、お互い後で気まずくないだろ。焼酎もあるから」
「焼酎?」
バーナビーには聞き慣れない単語だった。
「あー、バニーちゃんあんまり酒知らない? ニッポンの酒。うまいんだこれが」
ご丁寧に使い捨てのプラスチックカップも買ってきていたらしい。
「……酔っ払ってたらジョークで済ませられるし」
最後の呟きはどこかヤケッパチな感じだった。
「あなたはジョークかそうじゃないかもわからないんですか?」
自分の発言は棚に上げておいて、バーナビーが虎徹を責め立てた。
「馬鹿かもしれないと思ってましたが、こんなに酷いとは。僕が本気で言ったとでも思ったんですか?!」
虎徹は黙ったまま、カップを二つ並べて焼酎を注ぎ、一つをバーナビーに突き出す。
「まあ飲めよ。それとも、お前、アルコール全然ダメか?」
初めての焼酎は独特な匂いがする。飲めずに馬鹿にされるのは嫌だったので、とりあえず半分くらい流し込んでみた。
「……げほっ」
強いアルコールが喉を焼いて、思わず噎せてしまう。
目の前の虎徹はおかしそうに笑いながら、カップを掲げて焼酎に口をつけた。
掲げた左手の薬指に、いつもの指輪はなかった。
「いきなり飲むとクるぞぉ」
予想もしていなかったアルコール度数の高さにクラクラする。
「ケーキも買ってくれば良かった。悪ぃな」
「……いりませんよ。帰って下さい」
突き放すバーナビーに対して、虎徹は悪びれもせずに返した。
「あーもう車運転出来ねぇわ。今晩泊めてくれるか?」
カップの中の焼酎を飲み干して、もう一度注ぎ、それも一気に呷る。虎徹は空のカップを振った。
あまりの図々しさに絶句するしかない。
「……僕が本当に襲うかもしれなくても、ですか?」
アルコールで体が熱い。怒り過ぎて自分で自分がコントロール出来ないんだ、きっと。
虎徹の体をラグに押さえつける。見降ろした虎徹の瞳は、常にない程醒めていた。
「バニー。俺がその覚悟もなしに来たとでも思ってんのか? ヒーローに二言はねぇよ」
虎徹は身に巻いたリボンを引き剥がしにかかった。体にまとわりついたリボンを無理やり引っ張っている。
のしかかるようにしたまま虎徹をじっと見つめるバーナビーに、虎徹の言葉が突き刺さる。
「お前がそんなに俺を信用出来ねぇってんなら、信用出来るようになるまでとことんやるしかないだろ。
……お前が望むのがこういう関係なんだったら、お安い御用だ。お前とセックスしようが別に俺の体が減る訳じゃねぇし」
「あなたは、男とセックスするのが当然な性癖を持ってるんですか?」
どこかで音を上げてくれないだろうか、と祈るようにして、虎徹に問う。俺はネイサンとは違う、と虎徹は眉間に皺を寄せて答えた。
「10代の処女じゃねぇんだから、犯されたくらいじゃ何とも思わねぇよ。まして俺は一応同意してる」
虎徹がこんなことを言い出す意味がわからない。バーナビーはかぶりを振った。
「だから、何故あなたが同意するのか、意味がわからないんですよ」
「……俺もお前の考えることはさっぱりわからん。
だから、せめて体だけでも交わってみたら、わかるかと思ったんだよ。お前がそう望んでるんだったらな」
あまりにぶっ飛んだ虎徹の発想に唖然としてしまう。
「……ポジティブ思考にも限界ってものがあるでしょうに。セックスしただけで心が通じるとでも?」
「んなこたぁ思ってねぇよ。でも、言葉で通じさせるのだって限界があんだろ。……まどろっこしいんだよ、それじゃ」
虎徹がバーナビーの頬に手を伸ばしてきた。
節くれだった手は、まるで熱を持っているようだった。
「言ってんだろ。酔った勢いって事にしとけ。明日になったら、お互い忘れて、頭痛だけ残ってんだ」
虎徹の唇が酒に濡れて光っている。
その艶に引き寄せられるように。
バーナビーはそっと口づけてみた。
頬に触れた手より、虎徹の唇は少しだけ冷たい。息を継いで、もう一度唇に触れる。
「……お前、あんまり経験ねぇだろ」
虎徹の指摘にバーナビーは固まってしまった。
実際に、何人かの女の子と付き合ったことはあるし、一通りのことはしてきている。
ただそれは、対人関係を学ぶために必要なものだからと割り切っていた。
どの子とも長くは続かなかったし、続ける気もなかった。
セックスすることにもあまり興味がなかった。
……見透かされたようで居心地が悪い。
「ま、人間にそんなに興味なさそうだもんな、お前」
虎徹のもう一方の手がバーナビーに伸ばされて、両方の頬を挟まれる形になった。
「人肌の温もりに癒されたような経験なんてないんじゃねぇか?」
「……年齢の分、色々経験を積んでいる、とでも言いたいんですか?」
揶揄されるのが悔しくて嫌味を言ってみるが、虎徹は意に介さずに続ける。
「まだまだ子供なんだな、お前。人肌のぬくもりって、安心すんだぜ」
余裕に満ちた大人の笑みを浮かべて、虎徹は優しい眼差しをバーナビーに向けた。
頬に、虎徹の体温が伝わる。
「お互い、酔ってんだよ。バニー」
それはバーナビーを暗に誘う言葉。
今度は深く口づけてみた。隙間からお互いの舌が触れ合う。アルコールの匂いで、また酔いが強くなったような気がする。
絡めてきたのは虎徹の方からだった。慣れていそうなのは確かだ。
吸うようにして舌を愛撫してみる。僅かな喉声がバーナビーの耳に入った。
ぬるみを帯びた舌は掌よりさらに熱くて、まるで悪戯をするように絡んでくる。
もしかしてテクニックでは敵わないんだろうか。虎徹にリードされているこの状況が、バーナビーのプライドを刺激した。
一際強く吸ってみると、虎徹が苦しいような顔をする。
じわりと汗が滲んだ。自分の体温も少しずつ上がっていく。
再び唇が離れた時には、虎徹の顔が赤らんでいた。
「……あんまりキスうまくないな、お前」
「余計なお世話です」
虎徹は正直な感想を述べているだけのようなのだが、バーナビーにはそれが大人の余裕に感じられて悔しい。
「そういや、さっき言ってたの、本当か? 男同士のやり方わからないから、ってやつ」
「……僕が経験不足だってあなたが思うのなら、わざわざ言わなくてもわかるんじゃないですか?」
「あー、やっぱ知らねぇか……」
虎徹はバーナビーの言わんとするところがわかったらしい。深く溜息をついて、ドラッグストアの袋をバーナビーの目前に突き出す。強烈なイチゴの匂いがした。
「これ使って……だな、その……後ろに……入れるワケだ」
言いづらそうに説明を始めた虎徹にどういう表情をすればいいのかわからず、バーナビーは黙って聞いていた。
「……受け取れよ」
そっと手に取ると、中にはピンクの箱に入ったコンドームと潤滑ジェルが入っていた。イチゴの匂いは箱の中からしているらしい。
「あなたは……どこまで馬鹿なんですか」
どうしてここまで出来るのか、バーナビーにはさっぱり理解が出来なかった。
「馬鹿なのはわかってるさ。けど、俺には他に方法がわかんねぇ。それだけ。
……早くしろよ。酔いが醒めちまうだろ」
虎徹が自棄になっているだけなのか後に引けなくなっているだけなのかもよくわからない。
泳いでいた手を引っ張られて、今度は虎徹の方から口づけてきた。
いきなり舌を絡めてくる。決定的な経験の差が感じられて悔しい。負けたくなくて、バーナビーは虎徹の服を脱がしにかかった。
「……ぅ、ん」
粘膜の触れ合うねっとりとした感覚が、少しずつバーナビーの理性を融かしていった。
熱い唇を離れて、虎徹の喉へ。鎖骨へ。その下にある小さな突起へ。
唇と舌を這わしてゆくと、その度に虎徹の体がぴく、と反応する。
肌に指を辿らせる。もしかして敏感なのだろうか。一気に虎徹の息が上がった。
左の胸の果実に歯を立てる。虎徹の体がしなった。
どこをどんな風に触れば、どういった反応を返すのか。
バーナビーはそれを知りたくて、徐々に愛撫を強くしてゆく。
「く……っ」
感じやすい場所を見つける度に、虎徹は唇を噛んで声を殺そうとした。
その赤みを帯びた唇にまたキスをしながら、指での愛撫を幾度も繰り返した。
シャツのボタンを外し、絡みついていたリボンを投げ捨て、そして下着ごとズボンに手をかける。
僅かに兆した虎徹の性器にそっと指を絡めると、虎徹の息がさらに上がった。
「僕の愛撫でも……ちゃんと、反応するんですね」
僕の事を好いてはいないだろうに。
虎徹の体は確かに快楽の証をバーナビーの目前に晒している。
「あ……たり前だ、……酔ってるから、な」
言い訳をするように虎徹は吐き捨てて、何故かふいと横を向いた。
間接照明のおぼろげな明かりが浮かび上がらせる虎徹の体は否定しようもなく同性のもので、その上半身に愛撫の跡をつけたのは自分。
酔っているから。強い酒のせいで訳が分からなくなっているから。
まるで免罪符のように、バーナビーは自分に言い聞かせていた。
……だから。
「……で、ここから、僕はどうすればいいんですか? おっしゃる通り僕は経験が浅いので、よくわかりません」
バーナビーは意地の悪い口調で続きを促した。
「そ、それは……だな。とりあえず、お前も服脱げ」
腕に絡まっていた自分のシャツを脱いでしまってから、虎徹はバーナビーのジャケットに手をかけた。
バーナビーは見下ろしたまま膝立ちになって、虎徹の動きに合わせジャケットとアンダーシャツを脱ぐ。
虎徹は何となく気まずそうに、バーナビーのベルトを緩め、パンツのボタンに手をかけた。
「……いやまあ、俺も、脱がされる側は初めてなんだけど」
虎徹はいたたまれないのか、無駄に明るい口調で引きつった笑みを浮かべた。
「あ、お前のも勃ってる。反応してなかったらどうしようかと……」
「……酔ってるからですよ」
虎徹が言ったことを鸚鵡返しにする。そうでもしないと、この雰囲気に耐えられそうになかった。
「……じゃ、ちょっと待ってくれるか? ……準備するから」
そう言って虎徹は置きあがり、バーナビーをラグの上に座らせた。
ピンクの箱からごそごそとコンドームを一つ取り出し、端を咥えて封を切る。強烈なイチゴの匂い。
「……なんですか、それ」
バーナビーが顔を歪めると、虎徹は苦笑しながら答えた。
「あーこれ、イチゴ味のコンドーム。ちょっと待って、な」
ご丁寧にオーラルセックス用のものを買ってきたらしい。絶句するバーナビーを尻目に、虎徹はジッパーを下げ、頭をもたげつつあったバーナビーの性器を曝した。
バーナビーの脚の間にひざまづいて、怪しいピンク色をしたコンドームを被せる。
「うわー、これで何人の女の子を泣かせてきたのかなー」
虎徹はゴムを被せた根元の方から、ぺろりとそれを舐め上げた。
「……不味っ」
ゴム越しに虎徹の舌の感触が伝わる。最初は猫が水を飲む時のように舐めていたが、そのうち深く咥えられた。
ゴムが唾液で濡れてぬるついているのがわかる。口腔の熱さがゴム越しにじわりと伝わった。
水音が鼓膜に届く。体温で溶ける性質のものらしく、イチゴの匂いが立ちのぼる。
目を伏せた虎徹の表情は、バーナビーからは窺えない。
ただぴちゃぴちゃと水音がする。そして、ちらちらと舌が覗く。
時折苦しそうに息を継ぐ音。まるでバーナビーを煽るようだった。
直接的な行為なのに焦らされているような感覚がもどかしかった。
「……も、う、味……しなくなるのな」
不意に愛撫を止め、息苦しいのか、虎徹は途切れ途切れに呟いた。
バーナビーの性器は張り詰め、さらなる快楽を欲している。……足りない。こんな刺激では。
「……あとは、あなたの方に準備が必要でしょう? どうすればいいんですか?」
バーナビーはそっと虎徹を起こして向かい合った。着色料が付いてしまったのか、虎徹の唇は赤い。唇の端からとろりと雫が零れた。
我知らず、その雫を舐めとっていた。
頬から唇へ舌を這わす。そのまま口づけて、虎徹の舌に自分のそれを絡めた。
甘くて毒々しい、偽物のイチゴの味がする。
まるで、今二人でしている、このセックスとも言えないような行為みたいだ。
「バニー……? ん、ふ……」
何度も唇を吸って、舌を深く追いかけた。虎徹が苦しそうに身じろぐのにも構わず。
「どうすれば……いいんですか? 僕に説明して下さいよ」
たじろぐ虎徹の反応が見たくて、意地悪く問いかけてみた。
虎徹はひとつ深い溜息をついて、潤滑ジェルをバーナビーに手渡す。
「これで……後ろを慣らして……お前のを入れる。OK?」
バツが悪そうにする虎徹をさらに困らせたくて、バーナビーはくすりと笑いながらさらに追い詰めた。
再び虎徹を組み敷いて、ジェルをとろりと自分の掌に垂らす。
「……ここから、どうするんですか?」
虎徹は目を逸らしながらも、生真面目に答えた。
「ジェルを……指で馴染ませて……だな、お前のモンにも……つけて」
だんだんと声が小さくなる。多分、心が痛んでいるだろう。……バーナビーはわかっていて傷つけているのだ。
……自分の心が重いように感じるのは、きっと、気のせいだ。
「……こんな風にですか?」
指を一本、そろりと差し入れてみる。痛みか違和感にか、虎徹は眉根を寄せて唇を噛んだ。
くちゅり、と生々しい水音がする。
ジェルを足しながら、少しずつ指を動かしていく。熱くて、きつい。
「す……げえ、気持ち悪ぃ……感触がする」
苦しそうな声を上げて虎徹が身じろいだ。
「体、ガチガチですよ? ……じゃあ、さっきのお礼に」
バーナビーは指をもう1本入れると同時に、萎えかけていた虎徹のものを、そのまま口に含んだ。
何の躊躇も戸惑いもなく。ただ、虎徹の反応が見たかった。
「ぅあ、馬鹿、お前、そのまま咥えんな……!」
一気に虎徹の体温が上がる。さっき虎徹がバーナビーに施した愛撫よりうまく出来る自信があった。
強く啜って、深く咥えて。括れた部分を舌で辿って。時折口付けて吸い上げながら。
「ば……か、離せ、もう……!」
虎徹のものがさらに張り詰める。体内を探る指をもう1本増やすと、そこは柔らかくバーナビーを受け入れた。
「イッても……いいですよ?」
意地悪く見上げると、顔を紅潮させて頭を降る虎徹の姿が目に入った。
「シャレに……なんねー、だろ……!」
虎徹の息が荒い。多分あと少しの刺激で昇り詰めてしまうだろう。バーナビーは愛撫を止めて、指を引いた。
「……酔ってるんですよ、お互い。……そうでしょう?」
コンドームに包まれた自分のものにジェルを垂らす。虎徹の右足を抱え上げ、一気に奥深くまで貫いた。
「ぅああ……っ!」
いきなり突き上げられた衝撃で、虎徹が息を詰めたのがわかった。
「中、熱……っ」
ジェルのおかげか、バーナビーの性器はあっさりと虎徹の中に呑み込まれてしまった。
バーナビーは最奥から動かないまま、余ったジェルをさっきまでねぶっていた虎徹の性器に垂らし、掌で愛撫する。
「は……っ!」
この人を追い詰めたい。
快楽でどろどろに溶かしてしまいたい。
……達する瞬間、どんな表情をするのだろう。
他の誰にも感じたことのない感情が、バーナビーの内側を駆け抜ける。
「あ……く、ダメだっ、もう……!」
熱を吐き出そうと震える虎徹の性器を根本から握り、堰き止める。
「……ダメですよ、まだ……僕は、味わってません」
虎徹の体を。誘うように蠕く最奥を。ゆるゆると腰を動かし始めると、虎徹は堪え切れない声を漏らす。
「バニー……バーナビー……!」
堰き止めたバーナビーの手に、虎徹の手が絡められる。指輪の跡がくっきりと残った薬指。……どんな覚悟でここに来たのだろう。
そして達する事を乞う、哀願にも似た声。もしかしたらこの人は、快楽に弱いのかもしれない、と思う。
いや、きっと、肌の熱さを交わす快びを深く識っているからこそ、これだけ自分に体を委ねているのだろうか。
……それとも本当に、ただ酔った上の成り行きなのだろうか。
本当の事が知りたいと、初めてバーナビーは思った。
この人が心の奥底で何を考えているのか。
徐々に突き上げを激しくしてゆく。バーナビーが最奥に届くたびに上がる嬌声。バーナビーも、その熱い感触に囚われてゆく。
交わればわかるなんて大嘘だ。
この人の考える事が、ますますわからなくなっていく。
「欲しいって……言って下さいよ。……イきたいから、もっと深くって、ねだってみて下さい」
せめて虎徹が達する瞬間だけでも知りたい。バーナビーは虎徹に乞うた。まるで祈るような口調で。
何度も何度も最奥を貪る。どちらのものともわからない汗が飛び散り、堰き止められて行き場を無くした快感を逃がすように虎徹は声を上げた。
虎徹の中でバーナビーの性器が一際大きく震える。
そして、虎徹はバーナビーが望む通りの事をした。
★
バーナビーが目を覚ますと、虎徹は既に部屋を出た後だった。
頭の横に、「シャワーとタオルを借りた。Thank You.」という書き置きだけ残して。
体を起こして、情事の後の散らかった部屋をぼんやりと眺める。
達した後気を失った虎徹の隣で、バーナビーもうっかり眠ってしまったらしかった。
バスルームから引っ張り出したらしい乾いたバスタオルがバーナビーにかけてある。
一人でいると部屋のひんやりとした空気が、いつもなら肌寒いくらいに感じるのに、今日は何故か温かい。
バーナビーはひとつ、大きな溜息をつく。
次に会うとき、きっと虎徹は何事もなかったような顔をして、いつもの態度でバーナビーに接するのだろう。
あの人は……狡いくらいに大人だ。
普段は大人げない態度を取っていても、そういう部分できっと隙は見せないだろうから。
そして、自分は……今日の事を思い出して、心の奥底で思い悩むのだろうか。
口の中に僅かに残るイチゴの匂いは、何故かとても苦かった。
本当はDTくんに経験豊富なおじさんが性の手ほどき、という気軽に読める話を考えていたのですが、
何だか重くなってしまったような気が…。
もっと長い話も書きたいのですが、何しろ本編でまだ明らかになっていない謎が沢山あるからなあ。とりあえず奥さんどうなった。
ぼちぼちペースで行きたいと思いますので、宜しくお願いします。