ぼんやりと目を開けて、まだ半分眠っている体を起そうとした瞬間、虎徹の頭に、斧でかち割られたのかと思うくらい強烈な痛みが襲ってきた。
「……だっ!」
あまりに酷い衝撃に一瞬息が止まる。とりあえずもう一度枕に頭を沈めようとして、それがいつもの感触と違う事に気がついた。
頭が痛まないように、そろりと横を向く。
虎徹が枕にしていたのは、黒いシーツに埋もれて熟睡しているバーナビーから伸ばされた腕、だった。
「……何だ、この状況……い、てて」
状況がうまく飲み込めず、そろりと布団から出した手をこめかみに持っていく。その腕もなんだか重く感じられる。
そして、謎の痛みは頭だけではなく、体中が発しているものだった、とようやく気がついた。
体中からぎしぎしと軋む音がしそうだ。特に、下半身を覆うこの気怠さと鈍痛は何だろう。
そして、ふと思い出す。
目が覚めるまでうつらうつらしながら見ていたはずの、奇妙な夢を。
★
今日は平日なこともあって、昼間からトレーニングセンターにいるのは虎徹とアントニオだけだった。
女子二人は学校へ。
スカイハイと折紙サイクロンはヒーローイメージアップイベントに出席中。
バーナビーは何をしているのかわからない。とりあえず非番らしいが……きっと調べ物をしているんだろう。
何となくやる気が起きずに、虎徹がだらだらと筋トレマシーンを動かしていると、めかし込んだネイサンが紙袋をいくつか持って入ってきた。
「ちょっと、レディが重いものを運んでるんだから、代わりに持ってくれるくらいの配慮はないのかしら?!」
紙袋はそれ程大きくはないものの、どれも底がたわんでいて、気をつけないと今にも底が抜けそうだ。
「おりゃ!」
ピリピリと持ち手が破れる音がしたので、ネイサンが慌ててソファまで走る。紙袋は何とか破れずに、ソファの上に収まった。
「なんだ、そりゃ」
マットの上で腕立て伏せをしていたアントニオが、興味深そうにソファへ近づいていく。
「貰いもののお酒よ。結構上物ばっかりだから、良かったら、いかが?」
「へぇ。お、旨そうだな、これは」
アントニオがごそごそと紙袋の中身を漁り始めたのを見て、虎徹も二人の所へ向かった。
一つの紙袋の中に、酒瓶が3つと、つまみらしき箱が一つずつ入っている。
ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、ワイン、焼酎、日本酒、泡盛の古酒まで、どれもかなり高価なものばかりだ。
「これ、好みのものに入れ替えてもいいのか? ……折角だから今晩これで飲るか、アントニオ」
虎徹の質問に、ネイサンはウィンクしながら答えた。
「いいわよ、早い者勝ち。……あ、ロックバイソンは、今晩はアタシとデートだから、覚悟してて、ね?」
答えながらアントニオに向けて秋波を送るネイサンの視線に、彼は何とも言えない複雑な表情をしている。
「……あー、悪ぃな。今日、夜からヒーローを囲む会、という名のスポンサー接待があってだな……。
俺とファイヤーエンブレムで行く事になってんだ」
言いにくそうに説明するアントニオに軽く頷いた虎徹は、折角だからバーナビーにも持って行ってやるか、と妙な仏心を出してしまったのだ。
「お、ロゼワインがあるな。これ、バーナビーに持ってってやってもいいか? 俺は焼酎と古酒の入った奴を貰うわ」
ワインの入っている袋の中を覗くと、青い箱に入ったお菓子らしきものが入っている。
「なんだこりゃ」
つまみ上げようとした虎徹から、ネイサンは慌てて青い箱を奪い取り、替わりに赤い箱に入った何かを手渡す。
「チョ、チョコレート、よ。この青いのはアタシが食べようと思ってたヤツだから、こっちを食べてね?」
虎徹にはチョコレートのブランドや善し悪しはよくわからないから、ネイサンの言うままに赤い箱を紙袋に入れた。
「ああ、サンキュー」
これが悪夢の始まりだとも知らず。
★
バーナビーは一度コールしたくらいでは携帯に出てくれなかった。
5分おきに4,5回掛け直して、ようやく出た時は壮絶に機嫌の悪い声だ。
『……なんですか、おじさん。僕は今忙しいんですが』
「まあまあ、そう怒るなよバニーちゃん。ファイヤーエンブレムがいい酒くれたから持って行っていいか?
どうせ調べ物してるんだろ? 気分転換に一杯どうよ。俺も一人で飲むより楽しいし」
受話器の向こうから盛大な溜息が聞こえてくる。
『貴重なオフの日なんだから、調べ物くらいさせて下さい』
虎徹は思わず苦笑した。これでも、最初の頃に比べれば随分態度は軟化したなと思う。
先日のドラゴンキッドの一件以降、トゲトゲしさは無くなった気がするし。
「結構旨そうなロゼワインを貰ってきたんだけどな〜」
この間飲み倒した時に、ワインセラーにロゼワインが沢山あったのを虎徹はちゃっかり覗き見ていたのだ。
バーナビーにとってはダメ押しの一言だったらしい。
『……今、家にいますので』
★
バーナビーの部屋は相変わらずがらんとしているが、デスクの周囲だけは図書館あたりから借りてきたらしい資料が山積みになっていた。
先日の赤ちゃん騒動の時に気に入った、座り心地の良い椅子にちょこんと座って、ごそごそと貰ってきた酒を広げる。
虎徹が自分用に貰ってきたのは、泡盛の古酒と焼酎にコニャック。
バーナビー用の袋にはロゼワインが2本とブランデーが入っていた。
それから、赤い箱に入ったチョコレートらしきものが二つ。
「……で、なんでおじさんは僕の部屋に来ると、さくっと上着を脱いでしまうんですか?」
バーナビーがテーブルの上に軽いつまみをいくつか並べながら眉を顰めた。
「いーだろ酒飲んでたら暑くなるんだから。細けぇことは気にすんな」
シャツを椅子の背に引っ掛けて、虎徹は泡盛をグラスについで呷る。
「うっわ、うまいなーこの泡盛」
10年物の古酒はふくよかな香りと濃厚な味なのに一気に飲める。
バーナビーは釈然としない顔をしながら、濃いピンク色のフルーティな香りが漂ってくるロゼワインに口をつけた。
「……美味しいですね。で、このチョコレートも貰ったものですか?」
赤い箱の中にはトリュフ状の丸いチョコが11個。きついブランデーの匂いがする。
「ブルジョアオーナーの貰いもんだから、多分超高級品だろ。ブランデーだけじゃなくて泡盛にも合うんだよな、チョコ」
虎徹はひょい、とつまんで口に放り込んだ。中身は洋酒テイストだったが、上質な泡盛の薫りと相まって、心地よい酩酊感が体を包む。
バーナビーもつられたのか、一つ、二つ、と食べている。
赤い箱はあっという間に残り一つになった。
「ロゼワインにはあんまり合わないですね……」
不服を言いながらも、バーナビーは虎徹より二つ多くチョコレートを食べたのだ。
「お前、食い終わってから文句言うなよ。でも、なんか癖になるな、このチョコ」
何だか奇妙なチョコレートだ。
食べ終わってから虎徹は首を傾げる。
確かに旨い。次々に食べてしまう。味は普通のウィスキーボンボンだけど、何か変だ。
じわりと汗が浮かんできた。今日は少し肌寒いくらいなのに。いつもと様子が違う。
「……なぁバニー、なんか暑くないか?」
バニーに問いかけてみるが、何故か返事がない。
「おいバニー?」
突然バーナビーが立ち上がって、虎徹の側に近付いてきた。
「な、なんだよ、バニーちゃん?」
見上げたバーナビーの目が据わっている。
一体どうしたことだ、と思った瞬間に、バーナビーが残りの1個のチョコレートを口に含んで、無理やり口移しにしてきた。
「……!!!」
チョコレートが体温でとろりと溶けて、虎徹の口の中に流れ込んで来る。
そして、一緒にバーナビーの舌が。
濃厚な味とウィスキーらしき薫り。僅かにロゼワインのフルーティな香り。
とろりととろけたチョコレートは虎徹の舌に絡まり、そのチョコレートをバーナビーが執拗に舐め取った。
目眩がする。
なんだこの状況。
想像の外にあったシチュエーションに茫然としながらも、絡められた舌の感触に、何故か体はぞくり、と粟立ち。
体温がどんどん上がっていくのがわかって、虎徹は自分の体に怖れを感じた。
このチョコレート、何かおかしい。
何が中に入ってるんだ。ただのトリュフじゃない……?!
バーナビーに伝えようとするが、執拗に舌を絡められるせいで、言葉を発することも出来ない。
交り合った唾液と、とろけたチョコレート。口から溢れ出そうになって、堪らず飲み下す。
「んう……っ」
苦しい。熱い。……体が発火しそうだ。
口腔中を蹂躙される感覚で気が遠くなりそうだ。
何かがおかしい。虎徹は再認識する。普通のキスでは、こんなに感じない。
ファイヤーエンブレムのやつ、一体何のチョコレートをくれたんだ?!
バーナビーを突き放して落ち着かせようとするが、びくともしない。
もがく虎徹を、バーナビーはいきなり横抱きに抱え上げた。
「おいバニー! やめろ! なんかこのチョコ変だぞ! ……バニー!!」
バーナビーは未開封のチョコレートの箱を掴んで、暴れる虎徹を横抱きにしたまま寝室まで虎徹を運び、
虎徹は黒いシーツの被せられたベッドの上に放り出され、ついでにチョコレートが虎徹の頭の横に置かれた。
「だっ!」
バーナビーは虎徹の上に覆いかぶさる。
「……おじさん、意外と軽いですよね」
そして、首筋に噛みつくようなキスをした。
「ちょ、待て、落ち着け、バニー!」
バーナビーの目からは完全に理性が飛んでいた。何を考えているかわからない瞳で、じっと虎徹を見ている。
そして、その長い指が、包帯が取れてガーゼだけになった虎徹の右肩の傷跡をそっと撫でた。
「……あの、まだちょっと痛いんですけど?」
あんまりな状況に耐えきれなくて冗談めかしてみるが、バーナビーは完全に無視して虎徹のガーゼの周りを撫で続ける。
唐突に、鎖骨にざらり、とした感触が伝わった。
窪みに沿って舐められている。……一体何の冗談だ。
虎徹は上着を脱いでしまっていたことを心の底から後悔した。なんだこの状態は。どうしてこうなったんだ?!
そして何よりも怖いのは、虎徹の意思に逆らって体が勝手にバーナビーの行為に同調し始めていること。
「……おい、落ち着……んく……っ」
黙れ、とでも言わんばかりに、また唇が塞がれる。全てを奪うような、深く激しいキス。
喉の奥のの深い所まで接触するような感覚が息苦しい。しかしその苦しさの奥に、長いこと忘れていた感覚が甦る。
一人では得られない、素肌で触れ合う時の、ぬくもり。
深いところまで感じて、快楽を得るための、共犯者めいた行為。
バーナビーは薄く目を開けて、虎徹の様子を見ている。
その視線から逃れたくて虎徹が目を閉じると、さらに深く口の中を貪られた。聴くに堪えないような水音が耳を打ち、唐突に危機感を感じた。
酒のためだけではない酩酊感に、飲み込まれてしまう。
バーナビーの腕に爪を食いこませた。喉声がしたが、キスを止めようとはしない。
何度も何度も舌を舐め上げられ、その度に静電気のように、ちり、とした痛みのような、そうでないような感覚が体を走る。
しかし、かさ、と音がして、不意にバーナビーの舌が離れていった。
その代わりに、新しく開けられたチョコレートがまた一つ、虎徹の口の中に放り込まれた。
そのチョコレートを口の奥に押し込むように、バーナビーの舌が虎徹の中を蹂躙する。
「う、ん……」
二人分の体温でチョコレートはすぐに溶けてしまう。
そして、虎徹の理性も、同じ速さで。
酒のせいではない。何度も繰り返される深い口づけに酔わされていることを、虎徹は少しずつ自覚する。
バーナビーの舌に絡まるとろけたチョコレートを、自分からも舐めとってみた。
一瞬バーナビーの動きが止まる。
その隙をついて、虎徹はバーナビーに縋りつき、引き寄せた。
遠くから、理性が虎徹を留めようと呼びかけているが、それは少しずつ遠くなり。
甘くて美味いチョコレートを、もっと。
酒よりも深い酩酊感を、二人で一緒に。
相手がバーナビーだとか、男だからとか、そんな事は、このチョコレートの味に比べれば些細なもの。
一度陶酔感に身を任せてしまえば、あとは何の抵抗もなかった。
チョコレートが僅かに残ったバーナビーの舌が虎徹の体を舐めると、ケーキをデコレートするようなラインが残る。
バーナビーはそのラインを指で辿り、今度は舐め取るためにもう一度、舌を這わせる。
「……っは……!」
自然と、愉悦の声が上がる。
快楽が深すぎて、すぐに体が弾けてしまいそうだった。
「……甘い……ですね」
バーナビーが、既に綺麗にチョコレートの舐め取られた上半身に、執拗に愛撫を加えた。
胸の果実に強く歯を立てられて、その感覚が快感であることを知る。
まるで木の皮を齧る兎みたいだ、と、快楽に湧いた頭でぼんやりと思った。
見かけとは裏腹にその強靭な歯で、硬い皮をバリバリと噛み砕いて飲み込んでしまう。今の虎徹がされているように。
「……感じてるんですか?」
自らの昂りを抑えられない熱い声で、バーナビーが囁く。
「馬鹿、言うな……」
その深い官能に抗う力は、虎徹にはもうない。
気がついたら下半身も裸にされていて、自らの昂りをバーナビーの目の前に曝していた。
「……素直ですね、おじさん」
揶揄するような口調がまた、虎徹を煽る火種になる。
でも、ひとつだけ聞いておきたい事があった。辛うじて残っていた一欠片の理性が、バーナビーに問いを投げかけた。
「……お前、後悔しないか?」
ふと、バーナビーの瞳に光が戻ってくる。
「何がですか?」
「その……だな、俺とこういう事、本気でしたいのかって、聞いてる」
多分これはネイサンのくれた変なチョコレートのせいだ。
「……俺と事に及ぶ前に……だな、お前のファンの可愛い女の子っていう選択肢もあるぞ?」
虎徹自身に失う物は別にない、と思う。
長く生きていれば大概の事には柔軟に対応できるものだ。
しかし、バーナビーの反応は、虎徹にとって意外なものだった。
バーナビーは一瞬目を丸くして、何を問うているのかわからない、という表情を見せた。
そして、それは憮然としたものに変わり、彼は溜息とともに告げたのだ。
「……あなただから、構わないと思ったんですが」
バーナビーはそこから、虎徹の反論を許さなかった。
乱暴に自分の服を脱ぎ捨てて、どこか余裕のない性急さで、虎徹の唇を塞ぐ。
これ以上の追求を許さないかのように。
「……あなたが欲しいから、こうしているんです」
何の飾り気も衒いもないシンプルな言葉で欲望を顕にする若さに、焼き尽くされてしまう。
その後に残る自分は、どんな形を成しているのだろう。
「……じゃあ、後で泣き言、言うなよ、バーナビー」
これで共犯関係、成立だ。
あとは、二人で快楽を分かち合うだけ。
バーナビーは容赦なく攻め立ててきた。
キスが終わると、とろりとした蜜を溢れさせた虎徹のものを躊躇なく咥え、歯を立てながら吸い上げる。
「は……っ!」
「……チョコレートの味がしますよ」
上目遣いに虎徹を見やるバーナビーの瞳は欲情に彩られている。
一回りもしたの青年に翻弄されるばかりなのが悔しい気もする。
しかし、追い詰められた体は発熱して、全ての神経がバーナビーの動きに、視線に流れ込んでいくようだった。
括れた部分を軽く齧られて、呆気無く虎徹は果てた。
バーナビーは口の中に吐き出されたそれを掌に乗せる。
一瞬、白く光るものがちらりと見え、その情景に耐え切れずに虎徹は目を逸らした。
それきり会話は途切れ、ただ悦楽をお互いに与え合う行為に没頭した。
部屋には熱っぽい吐息と、シーツの擦れる音、そしてバーナビーが慣らすためにする動きがもたらす水音だけが響く。
そろり、とバーナビーの指が入ってきた。異物感が気持ち悪い。
顔を顰めると、バーナビーは一度虎徹から離れた。
そして、枕元にあった小さなケースから、傷薬のクリームを出してきた。
「これなら、多分無理せずに済むだろうから」
一応気遣ってくれてはいるらしい。自然に笑みが零れた。
「Thank you」
「……そんなこというと、後悔するかもしれませんよ」
バーナビーは苦笑して、クリームをたっぷり手に取り、これからバーナビーを受け入れるであろう場所に、押し込んでいく。
やはり違和感は消えない。バーナビーにしがみついて耐えていると、少しずつ楽になってきた。
ゆるゆると動く指の感覚が感じられた。……その生々しい形まで、はっきりと。
「もう……我慢、できません、よ」
不意に指が抜かれ、バーナビーが掠れ声で虎徹に告げる。
お互い向かい合ったままで。
指よりも大きくて、張り詰めた熱いものが、少しずつ虎徹の中に入ってきた。
「……っつぅ……!」
容赦のない異物感に息が詰まる。
しかしそれは一瞬だけで、繋がった先から痺れにも似た感覚が湧き上がってきた。
「あつ……っ」
異口同音に吐き出された言葉。確かに快感を分かち合っていることがわかって、余計熱が上がる。
痛みはもうない。バーナビーの口づけを受け入れながら、虎徹はきつく縋りつく。
流される。
体が融け合う熱さを、舌を契る陶酔を、作り出しているのはお互いの動きで。
「バ……ナビ……っ!」
容赦のない動きで、いきなりバーナビーが最奥まで貫く。激しく何度も揺さぶられ、穿たれる。
……溺れる。
二人分の汗が流れ、混じり合ってシーツに落ちた。
バーナビーの激しい律動に、堪え切れない嬌声が上がる。
しかしバーナビーはそれに煽られるのか、さらに深く浅く、虎徹を翻弄し、酔わせた。
声を抑える余裕すらない。虎徹は何度もバーナビーの名を呼び、押し寄せる波に飲み込まれないようにバーナビーを抱き締めた。
深い欲情に彩られ、目の縁を赤くしたバーナビーが、もう何度目かわからないキスをしてきた。
さっきまで声を上げて逃していた快感が体の中に押し留められる。
自然と腰の動きがバーナビーを引き留めるものになり、余計に快楽を募らせた。
汗とも、涙ともわからないものが虎徹の瞳から零れ、流れた。
もう、我慢できない。
「んん……っ!」
「くっ……!」
迸るのはほぼ時を同じくして。
深い口づけとともに、白濁が互いの体を濡らした。
「……っ、は……」
お互いの荒い吐息の音だけが寝室に響いている。
繋がったままぐったりしていると、バーナビーが優しく口づけてきた。
「……もう一度、いいですか?」
「え……?!」
拒否する暇もなく、虎徹の中のバーナビーがゆるゆると煽る動きを再開した。
「ちょ、まて……あ……っ」
「待てません、よ」
再びバーナビーが起こす波に飲まれて。
あとは、よく覚えていない。
★
隣りで寝ていたバーナビーが目を開けた。
虎徹の顔を見た瞬間、彼の顔から血の気が引くのがわかって、虎徹は苦笑する。
「僕と……したことが」
茫然とした表情のバーナビーの頭をぽんぽん、と叩く。バーナビーは我に返って、目を伏せた。
「悪ぃ……お互い夢じゃなかったみてぇだな」
あとで、ネイサンにチョコレートの中身を聞いてみよう。……どうせ媚薬か何かなんだろうが。
黙り込むバーナビーに、虎徹は問いかける。
「後悔はしない、って言ってなかったか?」
一瞬の間の後。
バーナビーは静かに頷いて、そっと、虎徹の唇にキスをした。
★
パーティ会場にて。
「ねぇロックバイソン。このチョコレート食べてみない? 面白い趣向があるらしいのよ」
言うや否や、ネイサンは無理無理タキシードを来ているアントニオの口の中にチョコレートを放り込んだ。
アントニオはもぐもぐ、とそれを噛み砕き。
「……ぶはっ!」
盛大に吹き出した。
「え、どうしたの? 大丈夫?!」
アントニオはむっつりとした声で、ネイサンに告げた。
「これ、ハバネロ入りチョコレートだぞ」
ネイサンは一瞬ぽかんとした表情をして、それから顔面蒼白になる。
「え、あら? もしかしてアタシ、間違えたの?!」
「間違えた? ……何のことだ」
怪訝そうな表情をするアントニオの追求を、ネイサンは笑みを浮かべて必死で誤魔化した。
★
その後。
慌てて電話をかけてきたネイサンに対して、虎徹はしらばっくれることにした。
……正直に言える訳もないが。
『ねぇタイガー、チョコレート食べちゃった?! 何ともなかった?!』
「……何言ってんだ? なんか変なもんでも入ってるのか、あれ」
『い、いや、ちょっと、その……ね。良かったら、捨てておいてもらえる?』
「……わかった。酒は旨かったよ。ありがとな。……ところで、あのチョコ、何かあるのか?」
ネイサンはしばらく間をおいてから、言いにくそうに答えた。
『……自分の望む事に、ちょっと素直になれる、チョコレート、かしら。……あ、いや、気にしないでちょうだい』
昨夜、二人の間に起きたことは死んでも言えない。
が。食ったのがロックバイソンだったら、一体何が起きていたのやら……。
虎徹は電話を切ったあと、あちこち痛む体に湿布を貼りながら、溜息をついた。
そんな虎徹の様子をベッドに寝そべったまま見ていたバーナビーが苦笑した。
「……ヘリオスエナジーのオーナーともなると、凄いものを手に入れられるんですね」
バーナビーも起き上がって、一つ伸びをする。
「とんでもねぇな」
「でも……本当に効果があった、かも」
え、と目を丸くした虎徹の頬に、バーナビーは音を立てて口づけた。
★
後日、お姫様だっこでピンチの虎徹を救ったバーナビーの一言。
「ちょっと、重くなりました?」
「……お前、うるせぇ、降ろせ」
……そりゃ、あれだけチョコレート食わされればな!
虎徹は心の中で毒づいたのだった。
2011.6.7アップ。6.8修正。ええと、10話見て色んなものがふっとんだあげくに出来ました。でも後悔はしていない。
短い上にアホエロネタでごめんなさい。酔った勢いシリーズ第2弾(?)
あえて時間軸ははっきりさせてませんが、だいたい9話と10話の間くらいだと…いうことで…。
このタイトルにしよう、と決めた時に時にこの流れが決まってしまった…ははははは(乾いた笑い)。