おなじそらのした〜Confession〜

「もしもし、バニー?」
『……もしもし? ……虎徹、さん?』
「そうそう! 久しぶりだな、バニー!」
『え、どうしたんですか?』
「あー、なんか、映像出ねぇな。顔、見えねぇや」
『……こっち、通信状況がシュテルンビルト程良くないみたいで。……お久しぶり、です』
「そーだ、そっち、今何月何日の何時だよ」
『え? ええと、……10月31日の午前1時ですが』
「あー、悪ぃな真夜中に。こっちは10月30日の朝10時だわ。明日楓の小学校でハロウィンパーティーやるからって、昼から準備の手伝いでバタバタするから、今、と思って」
『何がですか?』
「ハッピーバースデー!」
『……え?』
「え、ってなんだよ。誕生日だろ、今日」
『そうですけど』
「今お前がどこにいるかわからなかったからさ、一応標準時の31日0時に合わせて電話してみたんだよ。頭いー俺!」
『……それ、自分で言うんですか?』
「んだよ、何で笑うんだよ。いーじゃん、お前、居場所もロクに知らせてくれねぇし」
『すみません、もうちょっとしたら、シュテルンビルトに帰ろうと思ってたんですけど。……それまでに行ける所に行っておきたかったから』
「そっか。もうすぐ終わりなんだな。……一人旅、楽しいか? 色んな人に会ったか?」
『ええ、沢山の方にお世話になって、印象的な出会いがいくつもありました。……シュテルンビルトにいれば大抵の人種の方達には出会えますけど、世界は僕が思ってるよりもっと多彩で、広いな、って思って』
「……そう、だな。俺も若い頃、フラッと旅に出た時にそう思った。懐かしーなー!」
『虎徹さんと同じ事してるんですか、僕。ちょっと考えるな……』
「んだよその微妙な反応! 元コンビなんだから、そういう所、似ててもおかしくねぇだろ!」
『元、コンビ……ええ、そうですね』
「で、いい出会いとか、あったのか? あっちこっち行ったんだったら、可愛い女の子も山程いただろ?」
『……そういうのを<下衆の勘ぐり>って言うんじゃないんですか?』
「冷てぇなあ、その反応。せっかく旅行に行ってんだから、一夜のロマンスもいいんじゃねぇの?」
『行きずりの相手と一晩なんて、リスクが高すぎる。どんな病気持ってるかわからないじゃないですか』
「え、そーゆー問題? バニーちょっとそれ、潔癖症過ぎるんじゃねぇのか?」
『奥さん一筋の貴方に言われたくない、っていう話ですよ』
「……いやまあ、確かにそーだけど」
『そういう虎徹さんは、お元気でしたか?』
「ああ、俺は田舎でいいパパしてるぜ? マーベリックの事件で顔割れちまってるからな。小学校でも俺大人気、みたいな」
『……楓ちゃんも元気ですか?』
「お前今スルーしたろ。失礼だなー。楓も元気だ。能力もだいぶコントロール出来るようになってきたしな。傍についてやってて正解だったよ」
『貴方の、能力は……?』
「ああ、俺か? 発動時間1分で固定したみてぇだ。これ以上は減らなくなったから。学校のキャンプとかで重い物運ぶときに重宝すんだぜ」
『……1分』
「そ、1分。でも今のところ、これ以上は減らねぇみたいだし」
『そう、なんですね』
「まぁ、1分使えるだけでも、全然違うしな。慣れたら便利だぞ?」
『……』
「だっ、んだよ、黙りこくって。そう暗くなるなよ。……どれだけ目を逸らしたって、現実は変わらねぇし、奇跡なんて起きやしねぇ。でもな、俺が鏑木虎徹としてやれることは、他にもいっぱいあるから。……だから、気にすんな」
『虎徹さん』
「……んだよ、そんな、泣きそうな声出すなよ。顔、映らねーから、わかんねぇよ。……お前が今、どんな表情してるか、とか」
『……虎徹さん』
「泣いてんのか? バニー」
『こ、てつ、さん』
「……あー、そんなに、泣かなくていいから、な? ……お前の表情がわかんねぇから、もどかしい、っつーか、さ」
『……っ』
「オトナになるために旅に出たんだろ? だから、泣くなって……」
『……あ、なたも、涙声じゃない、ですか』
「お、お前が泣くから、つられちまったんだよ」
『虎徹さん……僕、は』
「……ん?」
『旅をしている間、気がつくと、貴方の事を考えてました』
「……」
『今、何をしてるんだろう、とか、……コンビを組んでいた頃、解決した事件のこと、とか』
「……バニー」
『最初は、僕に構ってくる貴方の事が煩わしくて仕方なかった。僕は一人でいたかった。……でも気がついたら、貴方は僕の心の中まで侵食してきて。貴方が一緒にいるのが、当たり前で』
「……」
『昔からずっと一人で自分の身の回りの事はしてたから、一人旅なんてどうってことないと思ってました。……でも、貴方がいないだけで、こんなに、寂しいなんて思わなかった』
「バニー、……俺は」
『貴方の傍にいたい。貴方がいるシュテルンビルトに、帰りたい』
「シュテルンビルト……。お前だけじゃねぇよ……俺も、会いてぇよ、バニー」
『……え?』
「お前の顔が見てぇ。……声しか聞こえねぇって、こんなにしんどいんだな。ボロボロ涙零してるんだろ、お前。……今ここにお前がいたら、涙、拭いてやるのに」
『虎徹さん』
「……はは、でも、顔映らねぇから、こんな風に言えるのかも、な。コンビ組んでた時みたいに、笑って、怒られて、バカ話して、……そんなささやかなことの積み重ねが、すっげぇ大切だったんだな、って、後になって気がつくんだよな。今更、なんだけどな」
『虎徹さん、僕は』
「……ん?」
『僕は貴方が好きです』
「……バニー」
『好きです。……友情じゃなくて、恋愛感情です』
「……」
『応えてくれなくてもいいです。ずっと旅をしてきて、もしかしたら勘違いかもしれないってずっと悩んで、でも、結局そういう風にしか思えなかった。……愛してます、虎徹さん』
「……バニー」
『亡くなった奥さん一筋で、娘さんを猫かわいがりしてて、その為にヒーローを引退した貴方が、大好きです』
「……」
『こんな風に誕生日を覚えてくれてて、電話をかけてきてくれて。……そういう不器用なところも、ダメなところも、引っくるめて』
「……ホメるのかケナすのかどっちかにしてくれよ、バニー」
『どっちも、貴方ですから。そんな貴方だから、僕は惹かれたんです。……もし今日貴方から連絡があったら、伝えようと思ってました。連絡がなくても、僕から言おうと思ってた』
「……俺も、だよ」
『え?』
「お前にどうしても伝えたかった。ハッピーバースデーと、……お前が好きだって、な」
『え?!』
「仏壇の前で友恵に散々謝ってから電話してるんだぜ、一応」
『何を……』
「1年ちょっと……だよな、お前とコンビ組んでたの。最初はとっつきにくい新人だって思ってたし、正直若造の引き立て役なんて御免だって、……でもお前はずっと苦しい思いを抱えてて、だけどその苦しさから逃げなかった。復讐に生きるっていう道もあったけど、お前はそこを乗り越えて、辛い思い出も受け止めようとしてる。そういうお前の脆さや危うさと、とてつもない強さが同居してる部分から、気がついたら目が離せなくなってた」
『虎徹さん』
「言っとくけど、気がついた時、もんのすげー葛藤があったんだからな、これでも。え、俺、妻と死別してるし、バニー男だし、年頃の娘もいるんですけど、みたいな! ……でも、どうしようもねぇ時って、あるもんなんだよな」
『……』
「好きだ、バニー。愛してる」
『……っ』
「……んだよ、また泣くのかよ……反則だろ」
『まさか、貴方がそんな風に言うなんて、思わなかったから』
「……俺だって、色々悩んだって。でもな。もう、失った時に後悔するのは御免だ」
『虎徹さん』
「俺は欲張りだから、もう大切なものを失いたくねぇ。だから、黙っとかないで、さっさと言うことにした!」
『だったら……僕より先に言って下さいよ』
「って、俺が言うより前にお前が先に言っちまうから!」
『僕だって、早く伝えないと、貴方はさっさと電話を切るんじゃないかと思ったから!』
「……んだよ!」
『本当に、貴方、自分の不手際を認めないですよね!』
「お前に言われたかねぇよ!」
『……いいですよ。そういう所も含めて好きになったんですから』
「……っ」
『なんですか、突然黙って』
「いや、俺、すっげーストレートに言ったつもりだったんだけど……」
『僕には十分勿体ぶって聞こえましたよ。……愛してます、虎徹さん』
「……ああ、愛してる、バニー。こっち帰ってきたら、遊びに来いよ。俺は……元気だから」
『ええ、帰ったら一番に。もう少ししたら、戻ります。父母にも、挨拶に行きたいし』
「そうだな……こっちはだいぶ寒くなってるから、油断すんなよ。風邪引いちまうから」
『……そういう心配性な所は変わりませんね。僕は子供じゃないから大丈夫ですよ』
「んなこと言ったって、心配なもんは心配なんだよ」
『そうですね……貴方は、そういう性格だから』
「あ、やべ、楓が呼んでる。また、電話するな。……誕生日、おめでとう。この1年がバニーにとって、幸せなものでありますように!」
『……僕は、貴方の告白が聞けただけで、幸せですよ。……距離は離れているけど、少なくとも、僕と貴方は同じ空の下にいますから。シュテルンビルトに帰ったら、オリエンタルタウンに会いに行きます』
「……あー、そ、そうだな。……まあいっか。とりあえず、またな、バニー! ……そっちの時間じゃおやすみ、か。おやすみバニー、良い夢を!」
『ええ、近いうちに。では、おやすみなさい……愛してます、虎徹さん』

2011.11.1UP。バニーちゃん誕生日おめでとう、そしておめでとう!
31日には間に合わなかったですがとりあえずアップ−!
そしてこれには続きがあるのです…が11月6日の福岡イベントで続き出します。
そちらはR-18です。つか、書いててすんごい恥ずかしかった…。