「なぁバニー、これこれ、見てくれよ!」
虎徹のアパート。ソファに二人並んで座り、酒を片手に他愛のない話をする、いつもの夜。
不意に、ドヤ顔の虎徹がバーナビーに、ちょっと大きなビニールの手提げ袋を突き出してきた。
「……なんですか?」
バーナビーは首を傾げながらそれを受け取り、ごそごそと中身を取り出した。
「……あ」
それは、30センチ程の厚紙で出来たジャケット。今は極々少数のマニアのためだけにプレスされているCD用のジャケット写真を、大きく引き伸ばしたものだった。
「どうしたんですか、これ」
虎徹は嬉しそうに、そして自慢気だった。バーナビーからそのジャケットを受け取り、ジャケットを見せびらかす。
「作ってもらったんだよ、頼んで。中のレコードもちゃんとプレスしてもらった! なんだったら聞くか? うちのプレイヤー、ちゃんとレコード再生出来るんだぜ?」
まるで子供みたいに瞳をきらきら輝かせながら、矢継ぎ早に話しかけてくる虎徹に苦笑しながら、バーナビーはもう一度そのジャケットを受け取った。
先日販売が始まった、ヒーロー達のヴォーカルアルバム。
一体どこに行かせようとしてんだよ俺達を、とぶつぶつ文句を言いながらも、虎徹は頑張ってメロディと歌詞を暗譜してきていて、レコーディングの時にみんなを驚かせたのだけれども。
ジャケットはそれぞれが写真撮影をしたものをコミック調にレイアウトしたものだった。写真はダウンロード販売の際に楽曲のアイコンになっていたけれど、こんな風に大きな画像になってみると、また雰囲気が違う。
ヒーローに復帰して、虎徹はブロンズステージの、以前住んでいたアパートに戻ってきた。
前とは少しレイアウトを変更したそこには、相変わらずレコードとプレイヤーが置いてある。
虎徹所有のレコードのデータはレーザーで読み取るものだとバーナビーはずっと思っていたのだけれども、実はちゃんと、針を落として再生するものだったらしいというのは、最近になって聞いた話だ。
この人の、変に凝り性な所は一体なんなんだろう。
バーナビーは不思議に思う。小物にこだわったりするのは自分もそうだからわかるけれど、意外にレトロなものが好きだったりとか。
「……新しいものの使い方も覚えないと、いい加減時代に取り残されますよ?」
バーナビーは笑いながら、虎徹にからかう視線を向けた。
出会った頃は、古いんですよ、と虎徹の存在を切って捨てていた。
懐くものか、と半ば意地になっていたはずなのに、虎徹はバーナビーを、まるで宝物のレコードみたいに、大切に思っていてくれた……らしい、多分。
アルバート・マーベリックに記憶を操作されて、完全に虎徹を敵だと思い込まされていたその時。
正気に返ったバーナビーの目の前に、ボロボロと涙をこぼす虎徹の姿があった。
――ああ、泣いてる。
どうして。
マーベリックのかけた鍵が外されて、じわじわと外に零れ落ちる記憶。バーナビーにとっては確かに、これまで経験した事のない日々だった。
誰かと笑って、本音をぶつけ合って、自分の内面まで曝け出す。
それは、とても、とても幸せな日々なのだと。バーナビーは独りきりで過ごした1年間を経て、改めて思う。
「あー、そうだバニー、これ、お前の分だから」
「……え?」
何故かちょっと照れくさそうに、虎徹は意外な言葉を口にした。
「いや、ピンバッジもなくしちまったし、なんか思い出になるものがねぇかなー、って、考えたんだよ。で、折角だから、作ってもらった」
虎徹がオーディオセットを指さす。そこにはもう1枚、同じジャケットのレコードが置いてあった。
「虎徹さん……案外、ロマンチストですよね」
なんだか物凄く照れくさくて、バーナビーはつい、からかうように、混ぜ返すようにそう言った。虎徹はむくれて「なんだよその言い方」と返したけれど、バーナビーの反応は予想の範囲内だったのだろう、声が明るく弾んでいる。
「僕は……貴方のそういう所、好きです」
ははっ、そっかそっか、と笑って、虎徹はグラスに少しだけ残っていた焼酎を一気にあおった。
ほんのりと顔が赤い。
その頬に、バーナビーはそろりと唇を寄せてみた。
「……んだよ、いきなり」
くすぐったそうに肩を竦めながら、虎徹は少しだけ、バーナビーから距離を置いた。
「……この間、言ったでしょう。僕は貴方の事が好きです。だから」
「だっ、ちょ、ちょっと待て、な?」
今からひと月ほど前の事だ。ニューイヤーパーティのあと。酔っ払ったあげく頬にキスしてきた虎徹に、バーナビーは耐え切れなくなってくちづけた。その時から何度も何度も虎徹に好きだと言い続けて。でも、虎徹はそれを曖昧な態度で、のらりくらりとかわしてきていたのだけれど。
今、多分、一番重要な時なんだ、と。
バーナビーは殆ど使命感のような感情を抱いて、改めて虎徹の顔の側に、自分の顔を近づける。
――僕の本気を、虎徹さんにわかってもらわないと。
「なんで貴方、そんなにかわいいんですか? 処女の女の子みたいだ……って僕は女性とあんまり長く付き合った事はないから、想像ですけど」
「はぁ?! 何言ってんだおまっ! 意味わかんねぇし!」
絶句した虎徹に、バーナビーは思いっきり密着してから矢継ぎ早に続ける。
「僕が貴方の事をどう思ってたかなんて、考えた事なかったでしょう。僕はずっと虎徹さんの事ばかり考えてました。……本気で好きです。だから」
虎徹の表情が、おろおろとしたものに変わる。
嘘がつけない人だな、とバーナビーは改めて思う。
ああもう。
どうしてこの人はこんなにかわいいかな。
その裏表のなさが、何故か愛おしくてたまらない。
「……馬鹿言うなっ! それにかわいいかわいい連呼すんなっ! かわいくねぇし! おっさんだぞ俺は! 普通の女の子でもねぇし。子持ちのシングルファザーなの、わかって言ってんのか?」
逆上してしまうその様子に、バーナビーは耐え切れなくなった。
不意にしがみついて、ぎゅっときつく抱き締める。
虎徹はじたばたとバーナビーの腕の中で暴れるけれども。その耳元に、バーナビーはありったけの気持ちと、熱を込めて囁きかけた。
「かわいいですよ。ピンバッジとか、このレコードとか。そういう風に、思い出を大切にしたりとか、僕に忘れられて本気で泣いたりとか。娘さんに叱られてしゅんとしたり、結婚指輪を手放せなかったり。そんな貴方だから、僕は好きになったんですけど。……虎徹さん」
名前を呼ぶ声が掠れた。吐息にくすぐられたのか、虎徹はぴくり、と体を弾ませる。
そして、不意に身体から力が抜けて、抗うことをやめる。
虎徹はいくばくかためらったあと、ゆるりと身体を預けてきた。その重みが、暖かさが、たまらなく愛おしくて。バーナビーは嘆息する。
「……ん? どした、バーナビー」
溜息が心配になったのか、労るように問いかけてくる虎徹を、バーナビーは一際強く抱き締めた。
そして。
「愛してます。愛してます、虎徹さん……ありがとうございます。大切にします、レコード」
今、バーナビーが伝えられるありったけの気持ちを、言葉にして虎徹の耳元へ届ける。
部屋に戻ったら、レコードはどこか場所を作って飾っておこう。埃をかぶらないようにして。
沢山のものを喪って、築いてきた筈のものが砂上の楼閣だったことを知った。そして何もなくなったバーナビーに新しく与えられる、それは暖かな思い出の品だ。
「そんなに喜んでもらえるとは、思わなかった。……お前もっと、そっけない態度かなって」
虎徹がバーナビーの背中にそろりと腕を回す。
「……あのなバニー。あれから俺もずっと考えてた。お前に忘れられるのは……何より苦しかったし、ああ、死ぬかもしんねぇ、って思った時に、まず何か伝えたい、と思ったのはお前と楓だった。……他の誰でもねぇから」
バーナビーは押し黙って、考えに沈むように眼を伏せた虎徹の、次の言葉を待つ。
ほんの少しだけ張り詰めた空気が、二人の間に流れる。
不意に、虎徹がバーナビーの肩口に頭を乗せた。
俯いたまま、虎徹は、ゆっくりとバーナビーに告げる。
「あのな、バニー……俺はお前を失いたくないってす げぇ思う。忘れられた時、悲しかったし、正直、ムカついた。お前にとってコンビを組んでからの日々は、こんなに簡単に忘れられるモンなのかよって。……でもそれは、俺がそう思ってるから、なんだよな。俺にとって大切な日々だから、お前にとってもそうで当然だろ、くらいに思ってた。なんの根拠もねぇのに、な」
虎徹の体温はバーナビーよりもずっと高いから、自然、温もりはバーナビーの身体の方に伝わってくる。
虎徹の身体は、まるで虎徹の内面から湧き出るように温かい。
覚悟をするようにふう、と息をついて、虎徹は続けた。
「これが恋愛感情かはわかんねぇ。もしかしたら、ただの執着なのかもしれねぇ。……俺は、友恵と付き合ってきた時みたいな感情を恋だと思ってた。でも、お前に対して抱く感情は全然違うんだ。もっと苦くて、えげつなくて、ドロドロしてるかもしんねぇ。……それが、恋なのかはわかんねぇけど、少なくとも他の誰にも、こんな気持ちは持った事ねぇから。多分、特別なんだと、思う」
つっかえつっかえ、考えながら紡がれる、虎徹の想いにきっと嘘はなくて。
「虎徹さん……」
バーナビーはいつの間にか涙ぐんでしまっていた。
「……僕は貴方を、愛してます」
「ありがとうな、バニー……」
部屋に沈黙が落ちた。
静かで、穏やかな時間。
お互いの体温が行き来するのを、バーナビーは瞳を閉じてじっと感じる。虎徹が背中から、バーナビーの髪の毛に指を絡めて弄びはじめた。
「……それ、やめて下さいよ、虎徹さん」
「いや、ふわっふわで手触りいいじゃねぇか、お前の髪の毛。……俺は好きだぞ」
「あんまり触られると、変な気分になりますよ……?」
バーナビーが自分の恋心を自覚してから、虎徹に対してある衝動が爆発しそうになるのを、必死で抑えていた。
――この人を抱きたい。
ネクタイを外して、ベストを脱いで、無防備な姿を晒している虎徹さんを。
組み敷いて、たくさん感じさせて、僕が欲しいと言わせたい。
どうしようもなく欲しくなって耐えられない時は、自分一人で性欲処理をするのだけれど、思い出すのは虎徹の顔ばかりで。
バーナビーには同性同士のセックスについての実践はなくても知識はある。ただ、妻一筋だったという虎徹にそれを受け入れられるかどうかは全くの未知数だった。
――だったら、せめて。
「虎徹さん」
苦し紛れの提案だったかもしれない。このままだったら自分が暴発しそうで怖かったから。
「ん?」
虎徹は顔を上げて、バーナビーの瞳をじっと覗き込んだ。
きっとこの人は、僕が頭の中で虎徹さんを裸にして、貫いて、喘がせている事なんて想像もつかないんだ。
「キス、させて下さい。……それ以上は、望みませんから。……今は」
虎徹の瞳が驚愕に見開かれる。
――ああやっぱり。そうだろうな……。
予想通りの反応は、バーナビーをほんの少しだけ失望させた。
けれども、バーナビーの奥ふかく、もう一つの感情を呼び起こす。
――絶対に、虎徹さんから快楽をねだるようにさせてやるから。
さっき虎徹が言ったように、これはもしかしたら執着なのかもしれない。優しくしてくれる人に対しての独占欲なのかも。
けれども、復讐だけを望む昏い日々から引っ張り上げてくれたたった一人の存在に対して、特別な感情を抱く事はきっと、おかしなことじゃない。
それはバーナビーにとっては居直りに近いような感情だったのかもしれないけれど。
「スキンシップの延長線上、でしょう?」
キスに慣れて、抵抗がなくなって、少しずつ快楽を知ればいい。
時間はたっぷりあるのだから。
そしてバーナビーは、躊躇する風の虎徹を挑発する。
「……この間だって、したでしょう、キス。1度したら、もう同じ事ですから。それとも、そんな勇気、ないですか?」
本当は勇気がどうとかいう問題ではないのだけれど、バーナビーはあえて論点をずらし、虎徹の答えを待つ。
虎徹は唇を思いっきり歪めて黙り込んでいたが、やがて黙って目を閉じた。
「……わかったよ。減るもんじゃねぇし。お前が満足するんだったら、好きにしろ」
覚悟を決めたのだろう。少しだけ顎を突き出したその姿はバーナビーを酷く煽った。
「それでこそ、虎徹さんです」
「……だっ、なんだそれ。……早く、しろよ」
「ええ」
最初は様子を伺うように、そっと唇を寄せる。しっとりとした感触と、酒の香り。薄目を開けて虎徹の様子を伺う。緊張しているのか、僅かに汗ばんでいた。そのせいか、ふわりとスパイシーながらどこか甘いフレグランスの香りが立ちのぼる。
バーナビーが少しだけ舌を出して、虎徹の唇を舐めた。唾液に濡れて、もう一度唇に触れた時にはちゅ、と微かな水音が立つ。
――食らい尽くしてしまいたい。
衝動を押し込められなくなって、バーナビーはその唇を強く吸った。
「ん……っ!」
驚いたように目を見開く虎徹の琥珀の瞳の色が、一段と深くなっている。もしかして煽られているんだろうか。
まるで食べてしまうように、バーナビーは自分の唇で虎徹のそれを挟み込む。
ぬるりとした感触。
少し息苦しくなったのか、虎徹の唇に隙間が出来る。バーナビーはその中に、無理やり舌をねじ込んだ。
「ん、んう……」
虎徹の眉間には皺が寄っている。苦しいのか驚いているのか、頬がますます赤い。
――もっと、深くに。
虎徹の舌の付け根まで思いっきり深く舌を突き入れて、とろとろとねぶる。強く啜ると、虎徹の唾液がバーナビーの中にとろりと流れ込んできた。
こくり、と音を立てて飲み込むと、虎徹が恥ずかしさに耐え切れなくなったのか視線を逸らす。
でも、バーナビーはここで開放しようとはしない。
深く浅く、舌を出し入れする。ねっとりとした唾液が、泡立ってくちゅりと音を立てても、なお。
まるで虎徹を貫いて、犯すみたいに。
リズミカルな動きで、口内を擦り上げて、唾液をすすった。
虎徹の目の縁に、じわりと涙が浮かんでいる。
「う……っ、く、ん」
虎徹の身体から少しずつ力が抜けてゆくのがわかった。バーナビーの意図する事がわかっているのかもしれない。
セックスよりは間接的で、だからこそ官能的なキスを、バーナビーが与えている事を。
バーナビーは口づけを続けながら、そっと虎徹の身体のラインを、掌で辿ってゆく。
びくびくと虎徹の身体が震えた。
さっきよりももっと熱い身体。虎徹の額から滲む汗が玉になって、ぽたりと落ちた。
ちゅくちゅく、と音で耳を犯しながら、舌で弄びながら、掌は虎徹のパンツの上をそっと撫でた。
「んん……っ!」
虎徹は塞がれた唇で、抗議の言葉を告げようとしたのだろうか。しかし言葉は出ず、目の端から生理的な涙がぽろりと溢れる。
掌で包むようにしたそこは張りつめて、一際熱をはらんでいた。
バーナビーはそろりと唇を離す。虎徹との間に糸を引いて、それがとろりと空気に溶けた。
「……感じてます、か?」
「ばっ……」
横を向いた虎徹の身体は如実に形を変えていて、その昂りを露骨にバーナビーに伝えていた。
「イキたい、ですか?」
「……」
「苦しいでしょう……?」
虎徹は苦しくねぇよ、と勢い良くかぶりを振った。けれども、身体の反応は言葉を裏切っている。
バーナビーはその顎をつまむと強引にバーナビーの方を向かせて、再び口づけた。
今度は最初から深く舌を入れ、吸い上げる。苦しげに身を捩らせるのにも構わずに。酷くいやらしい音が、耳に伝わってきて、その度に虎徹の身体が慄えるのがわかった。
もっと感じればいい。
もっとバーナビーを欲しがればいいのに。
不意に、虎徹の手が、バーナビーの腕を掴んだ。爪が食い込むほどに強く。
「っ……」
きりりとした痛みが走るけれど、バーナビーは構わずにキスを続ける。
――バーナビーの中で、残酷な自分と、優しくしたい自分がせめぎ合う。
もっと酷くしたい。ジリジリと追い詰めて、欲しいと言わせたい。
けれども、全身に蕩けるような愛撫を施して、気絶するまで感じさせたい。
正反対の欲求はしかし、どちらも虎徹の全てを欲するものには違いなくて。
――ねえ虎徹さん。
愛してます。
だから。
バーナビーはキスを続けながら、そっと虎徹のパンツのボタンを外し、ジッパーを下ろした。
張り詰めてじわじわと下着を濡らしていた虎徹の性器を、その薄い布の上から刺激する。
「う、んん、ふう……っ!」
虎徹がバーナビーの名前を呼ぼうとするのにも構わずに。
身じろいで逃げようとする虎徹を抱き寄せて、下着の中に手を突っ込む。
虎徹の性器はもう、先走りの液体を滲ませていた。ぬるぬるとしたそれを、指でそっと広げてゆく。
「ん……っ!」
虎徹の身体が跳ねた。ビクビクとけいれんするように何度も。
ただその様子が愛おしい。
だから。
バーナビーの手の中で、達してしまえばいい。
口腔を舌で犯しながら、バーナビーの手は虎徹の性器を上下に扱く。先走りのぬるみを借りて、動く手は少しずつスムーズになってゆく。
「う、く、……っ、ふ、んん」
――どうか僕の手で、達って下さい。
紅潮した顔が、快楽に歪む表情が、たまらなく愛おしくて、バーナビーは煽る動きを強くした。
程無く。
「ん、んん……っ!」
バーナビーの手の中で性器がふるりと震え、熱い液体を吐き出す。
くたりと力を失った虎徹の唇を開放して、バーナビーは手の中に放たれたそれをぺろり、と舐めた。
「……う、ん……え? あ、何してんだ、馬鹿……!」
バーナビーの行為に気がついたのだろう。虎徹は大慌てでバーナビーの腕を押さえにかかった。
「何って、精液を舐めただけですよ? ……すっごい濃くないですか、これ」
「だっ! 馬鹿、きたねぇだろ……っ!」
「いえ、貴方のものですし」
「……!」
虎徹は達した余韻だけでなく、顔を真っ赤にしている。
「イクときの顔、物凄く色っぽかったですよ……? 自覚、ありますか?」
虎徹は近くにあったクッションを投げつけそうな勢いだったけれど、ふと何か気がついた風で、そのクッションを遠くに投げ捨てた。
「……って、俺だけイカせて、お前どうすんだよ……」
バーナビーは苦笑する。流石に今の段階の虎徹にそこまでは望むのはぜいたくというものだろうし。
「……後で自分で何とかしますから。僕は虎徹さんのイク時の顔を堪能出来たので」
虎徹はそれを聞いて俯いた。……そして。
「……馬ぁ鹿、俺だけイカせてんじゃねぇよ、バニー」
何か、覚悟を決めたような顔をして。
虎徹は唐突に、ソファに座るバーナビーの前に跪いた。
「……えっ」
何をするのかわからずにバーナビーが見守っていると、虎徹はおもむろに、バーナビーのカーゴパンツに手を伸ばす。
「……うっわ、カチカチになってんな」
驚いて動けないバーナビーのカーゴパンツを寛げて。
虎徹は何の前触れもなく、、バーナビーの性器に口づけた。
「え……こ、てつさん?!」
「……黙ってろ」
呆然とするバーナビーの目の前で、虎徹はバーナビーのそれに真っ赤な舌を這わす。
「ちょ、ちょっと……っ!」
「馬鹿、動くな、噛んじまうって」
言うなり、虎徹はその先端を、ためらいがちに咥えた。
ちろちろと舌でラインを辿りながら、先走りをぺろりと舐めとり、こくりと飲み込む。
「って……はっ」
いきなり強く啜られて、今度はバーナビーの身体が跳ねる番だった。
虎徹の唇が張り詰めたバーナビーのものを呑み込んでゆく、その背徳的な情景。
たまらなかった。
ぎこちなく舐めるだけのそれは、たどたどしい愛撫だった。それでもその行為は、バーナビーが強制した訳ではなく、虎徹から進んで施すもので。
「こてつ、さん……っ!」
まるで蠱惑するようだった。上目遣いにバーナビーを見るその視線が。琥珀色の瞳が。そして、ちらりとのぞき見える赤い舌が。
ちゅ、ちゅ……と何度も口づけられる。その水音が、淫らがましい行為に没頭する虎徹の姿は堪らなく煽情的で。
程無く、バーナビーは自らを解放した。堪え切れなくて。何も知らなかった人が施す、ぎこちない、けれどそれだけに、蠱惑的な行為がたまらなくて。
性器が震え、虎徹は唇を少しだけずらした。その頬に、白濁がとろりとかかる。
「……あ、顔射されちまった? 結構、熱いなこれ」
虎徹は苦笑しながら指でそれを拭い、バーナビーがしたように、ぺろりとその精液を舐め取る。
「……っ! な、んてこと、するんですか、貴方は……!」
呆然とするバーナビーに、虎徹はひたりと、澄んだ琥珀の瞳を向けて、力強く告げる。
「なぁバニー。……お前ばっかりじゃ、ねぇからな。わかれよ? 俺も、おんなじだからな」
「……それ、って」
「俺もお前が好きだから」
力強くそう告げる虎徹の頬は真っ赤だった。
「って、照れくせぇだろ馬鹿! ……あと、今日はここまでな! 俺にはまだ最後までやる覚悟はねぇから」
「……ぼ、僕だって、まさかあなたが口でしてくれるなんて思ってませんでしたからね……っ。どうして貴方は、そう無謀な事をするんですか……っ!」
「んだよ無謀って! 先にし始めたのはお前だろーが!」
お互いの乱れた服を整えながら、結局はいつものようなくだらない言い争いになってしまったけれど。
「……じゃあそのうち、この続きをさせてくれるんですか?」
責めるように問うたバーナビーに、虎徹は顔を真っ赤にしながら吐き捨てた。
「……もっと、抵抗がなくなったら、な!」
「その言葉にウソはありませんよね? 僕は絶対、忘れませんからね!」
ああしまった、という表情の虎徹を指さして、バーナビーは断言した。
――さあ、勝負はこれから。
僕は全力で、貴方の全てをもらいますよ、虎徹さん。
小さく溜息をついた虎徹を、バーナビーは抱き寄せる。
その温もりを腕の中に感じながら、今日はこれでやめておきますよ、と虎徹の耳元に優しく囁きかけた。
2012.9.16up。「A HAPPY NEW YEAR」のその後の話です。
実は裏テーマは「虎徹さんにフェラさせたい」で、この中では最後まで致していないのですが、バニーに本懐を遂げさせてあげた方がいいんでしょうか…(苦笑)
もしご希望の方がいらっしゃいましたら、拍手ででもご意見頂けると嬉しいです…w