「これはこれは…第二棟の責任者である貴方がどうしてまた?」
言葉を発したのは若い男だった。それを受けて答えたのも若い男だったが。
「いや、何やら面白いものを飼っていると聞いたのでね」
もう1人の男は「貴方らしい」と呟くと、再び視線をモニターに戻した。
そこは一般の人間の抱く「研究室」のイメージを具現化したような部屋だった。
様々な機材、計器が所狭しと置いてあり、それに縦横無尽にコードが絡みついて、何か前衛彫刻のようにも見て取れる。
その機材の隙間には白衣の男女が数名、無表情に立っている。
ただ、最初の男も、次に口を開いた男も、わずかに口元を綻ばせていた。
しかしその笑みは、遊びまわる子供に対する微笑ましさのような受動的な感情ではなく
攻撃的なまでに深い好奇心を抱いている、一種狂気のように感じられるものだった。
「で、これは一体何なんだい?」
先ほど『責任者』と呼ばれた男が、モニターを指差した。 先ほどから始めの男が見ていたものである。
映し出されているのは、隔離室のような真っ白い部屋だった。
そこには『これ』と示されたものが蠢いているのがはっきりと見て取れる。
「…多分、貴方の聞いてきたヤツですよ」
子供が新しい玩具を自慢するような口ぶりだ。
しばらくすると、『責任者』の近くにあった別のモニターに、拡大された画像が映し出される。
それは異様な光景だった。 流石の『責任者』も驚きを見せた。
「これは…」
「えぇ。『犬』です」 音声さえなかったが、はっきりとした画質がモニター越しの光景を伝える。
そこにいたのは複数の人間だった。
彼等は一様な群ではないらしく、二つの立場を持っていたが。
1人の青年を、周囲の男たちが押さえつけるようにして囲っている。獲物と捕獲者のように。
実際、そうらしい。青年は威嚇するように手足をばたつかせるが、組み伏せられている。
いや、それどころか…
「…なんで彼は…」
疑問を口にしかけた『責任者』を、始めの男がさえぎった。
「『犬』ですよ。『犬』を甘やかさないために人間扱いはしないよう」
「…失礼したね。じゃあ聞かせてもらうよ。…なぜあの『犬』は犯されている?」 映像は気がつけば卑猥極まりない代物と化していた。
『犬』と呼称される青年が、屈強そうな男数人に寄ってたかって明かにレイプされている。
音声がないために、その口から漏れる声が悲痛な咆哮なのかそれとも屈辱の嬌声なのか
判断する事は不可能に思えたが。 1人の男が青年の右腕を押さえ、別の者が左を、
他の数名は群がるように下半身を押さえたり攻めたりしていた。
攻めていると決定的に判別できるのは、青年の引き締まった腰をつかんで揺さぶっているひときわ屈強な男だけだった。
彼が腰を打ちつけるたびに、『犬』の瞳から涙が溢れ、黒髪がばさばさと舞う。
日に焼けた褐色の肌には白濁が彩りを添えている。
自分が来る随分前からこのような状況だったのだろう――
と、『責任者』はひととおり分析をすると、にやつきながらこちらを眺めている始めの男を見返した。
見返された男は楽しげに口を開いた。
「えぇ、趣味は多少入っていますがね。…あれは罰です」
「罰?」
訝しげな声音に、男がさらに笑いを深める。
「…元々『犬』はベースに人体を使い、遺伝子改竄をして強化するというプランの成功例です。
犬という別種の生物の遺伝子を組み込む事で誕生した、 忠実で屈強極まりない存在のはずでしたが…」
男は軽く独りで頷いて見せた。
その間も、モニターの向こうでは『犬』が悶えつづけていた。
先ほどと違う男に体を開かれて、なんの抵抗もできずに。
「…あれは失敗作です。 あの『犬』は犬遺伝子への素晴らしい適正を示したが、
まったく忠実と言う性格を欠いていて何度も脱走を図っている…今回で四回目だったか。
ヘタに兵器として優秀な分、捕まえるのも一苦労で…
こちらも今回損害を与えられましたのでね」
「つまり脱走の罰であると」
「そうです」
その言葉の後は暫く沈黙が落ちた。
『責任者』も始めの男もモニターを眺めている。
その視線の先では『犬』、が正常位のまま幾度となく貫かれて鳴いていた。
1人の男が『犬』の内部を蹂躙している間、暇を持て余したものは何をするかと言えば、
おそらくは下卑ているであろう言葉を吐きかけながら『犬』の体を愛撫することだった。
先ほど男が「優秀な『犬』」と呼んだだけあって、押さえつける者は手出しをしないが、
それ以外のものは好き勝手にその体躯を弄ぶ。
声を上げつづけるその唇をふさいだり、わき腹を撫で上げたり、胸に舌を這わせたり、
あるいは先走りに濡れる器官を焦らすように撫でる者、結合部を覗きこむものもいる。
『犬』は勿論抵抗した。だがそれは無駄であり、男たちのふるまいを助長するだけだった。
正に慰み者といった扱いである。
絡みが1段落ついたのと同時に、観察していた二人の肺が緩んで同時に溜息をついた。
「…彼に罰を科したのは今回が?」
「いえ、日頃の罰も加えるともっと…おそらく十回はくだらないかと」
始めの男は『犬』の態度に腹を立てるどころか、楽しむようなそぶりを見せた。
そしてこちらを振り仰いで尋ねた。
「まだまだご覧になりますかな?」
「ふむ…」
『責任者』は暫く思案すると、ふと思いついたように言った。
「生で見れないかい?」
「…お気に召したようで光栄です」
そのような返答は考えていなかったのだろう、わずかに驚き、そして綻んで歪んだ笑顔を見せた始めの男が鷹揚に頷いた。
そしておどけた調子でキーを渡した。部屋の番号がプリントされたタグがぶら下がっている。
「勿論見ていただけます。…哀れな『犬』を存分にご鑑賞あれ」
アンダーグラウンドな実験ばかりが日夜行われているこの研究所は、
混沌とした時代の象徴だと囁かれる。
都市の中央部は法律が通用するが、すこし足を伸ばせば、がれきと繁華街とスラムの世界が広がっていた。
大都市の真中に聳え立つ巨大な塔と、それを取り囲む清潔そうな棟の連なり。
それは整然とした『都市』を思わせたが、そこに囚われた者達の発する叫びはどの街の弱者より弱弱しい事を、都市に住まう恵まれたもの達は知らない。
『責任者』は軽い足取りで歩いていた。
文字通りアンダーグラウンド……地下何階にもなる、研究棟の最深部を。
その中でも実験体達が保護なり保存されている区画は分厚い2重の鉄格子と、『KEEP OUT』の看板で隔てられていた。
壁には研究員がジョークで書いたのだろう、「最下層へようこそ!」などという言葉が残っていた。
『責任者』はタグを頼りに、1枚の扉の前に辿りついた。
ノックなど無しに、鍵を開けて中に入ると異臭と熱気が溢れ出した。
そこの扉は1重ではない、鉄の太い格子が渡され、正に獣の檻のような様相だった。
だが室内はクリーム色で塗装され、例のモニターとつながっているカメラを除けば明るい設えであると言えば言える。
そしてそう広くない中で、数人の男たちがせわしなく蠢いていた。
モニター越しに見ていた時と体位こそ違えど、犬は何人目とも知れない男の性器を銜え込まされていた。
ちょうどカメラに犬の卑猥な映像が写るようにすると入り口に背を向ける格好になるのだろう。
後手に拘束され、轡を噛まされた(犬と言うからには牙でもあるからだろう)犬が、
ひときわ大柄な男に対面座位で揺さぶられている、その顔が入り口を向いていた。
その目が『責任者』の白衣を見て、かすかな光を得た。
解放される時間だと思ったのだろう。
「…あれ?いつもの先生じゃねぇな。おわりじゃねぇのか?」
男の1人が訝るように声を上げた。
いつも電子グラスの男が直接終わりを告げに来るらしい。
「いや、彼に面白いものはないかと聞いたらここに行けと言われてね」
途端に犬の瞳が翳った。
それはまだまだ続くであろう陵辱に絶望しているようでもあったし、電子グラスの男に対する湿った殺意かもしれなかった。
だが、その瞳がすぐに崩れた。
最初に言葉を発した男が、こちらに安心したために愛撫を再開したからのようだった。
「よかったなぁワン公。まだまだ遊んでやれるってよ」
「ぅん……ふぅッ、は、」
轡越しに漏れる吐息と声の中間のような音が酷く艶かしい。
だが掠れた音もかなり混じっている。もう声も出ないらしかった。
「先生はここの研究棟…第零棟じゃないんだろ?」
その犬の上半身を支えながら、それこそ犬のように首筋を舐めまわしている男が急に声をかけた。
「ああ。僕は第二棟に籍があるけど」
「そこじゃあこんなつくりの部屋はないやな。檻開けてこっちにくれば良いのにと思って」
彼は彼なりの厚意で言っているようだった。 更に別の男も同じ様な意見らしい。
揺さぶられている犬の黒い前髪をつかむと、無理やり顔を上げさせる。
よだれを吸っているらしい轡が、褐色の肌にいくらか食い込む。
開いた口から、鋭そうな牙とよだれが糸を引いているのが見えた。
「何、このワン公、何重にも縛ってあるし轡もしてるし大丈夫だって」
「そうそう、なによりやられまくって足腰たたねぇだろうよ」
その言葉に、その場にいた男たちが豪快に笑った。
いい加減彼等も体力があるものだ、と妙に感心しながら『責任者』は檻に手をかけた。
「今一段落ついたら開けるよ、もうちょっと待っててくれ」
どうやら何か鍵となるものを、今犬を蹂躙している男が持っているらしい。
偉い先生を待たせてすみませんな、と男が言って動きを早める。
「ふ、ふ、……ふぅッ、!」
くぐもった間抜けな声を漏らす唇が艶かしく動いた。
目を閉じて無遠慮な視線を遮っている様が「早く終われ、早く終われ」と祈る姿とだぶる。
だが男たちは容赦なく攻めたてた。
まず「折角だから」とかなんとか言いながら、犬を抱え上げ背面座位に設えた。
ぐったりとした犬から性器を一旦抜くと、その孔から吐き出すように白濁をこぼした。
また犬の性器はそのまま、人間の性器だった。
ピンクとグレーの混じったような色で、同じ様に白濁を押し出している。
3人がかりで押さえつけ、また支えながら犬をこちらに向けると、男はようやくそれを、犬の中に埋めなおした。
中腰になった犬の尻の間に肉棒が埋まっていく様は処刑のようにも見えた。
……とそこで私はモニター越しには良くわからなかった事に気が付いた。
「……それは…」
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