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錦秋名古屋 顔見世

2017年10月1日(日)~10月25日(水)
【貸切】17日(火)昼の部、24日(火)夜の部

日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(中ホール)

配役

昼の部(11:00開演)

一、恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな) 重の井

乳人重の井:二代目 中村魁春
腰元若菜:三代目 中村吉之丞
田弥三左衛門:六代目 中村東蔵

二、番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)

青山播磨:四代目 中村梅玉
お菊:初代 中村壱太郎
後室真弓:三代目 中村歌女之丞
腰元お仙:初代 中村梅丸
奴権次:三代目 中村吉之丞
用人柴田十太夫:六代目 嵐橘三郎
放駒四郎兵衛:六代目 片岡愛之助

三、蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)
片岡愛之助五変化相勤め申し候

小姓寛丸、太鼓持愛平、座頭松市、傾城薄雲太夫、蜘蛛の精:六代目 片岡愛之助
碓井貞光:六代目 中村松江
坂田金時:二代目 中村亀鶴
源頼光:四代目 中村梅玉

夜の部(16:00開演)

一、春重四海波(はるをかさねてしかいなみ)

高砂頼母:六代目 片岡愛之助
伯母磯路、磯路娘八重:三代目 中村歌女之丞
若党与八:初代 中村梅丸
沖津俊斎:初代 中村寿治郎
沖津浪路:初代 中村壱太郎

二、恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい) 新口村

忠兵衛、孫右衛門:四代目 中村梅玉
忠三郎女房:六代目 嵐橘三郎
万歳:三代目 中村吉之丞
才造:初代 中村梅丸
傾城梅川:二代目 中村魁春

三、連獅子(れんじし)

狂言師右近 後に親獅子の精:六代目 片岡愛之助
狂言師左近 後に仔獅子の精:初代 中村壱太郎
僧蓮念:二代目 中村亀鶴
僧遍念:六代目 中村松江


データ

筋書

愛之助丈関連
39~40ページ:「ありがとう、そしてさよなら金山」内にコメントと記者会見の写真あり
63ページ:出演者プロフィール(舞台写真「蜘蛛絲梓弦」蜘蛛の精、カラー)

料金

一等席:17,000円
二等席:10,000円
三等席:6,000円
特別席:19,000円
筋書:1,500円

雑誌

『演劇界』2017年12月号

愛之助丈関連
20ページ:舞台写真「月形半平太」月形半平太(モノクロ 1枚)
63ページ:舞台写真「春重四海波」高砂頼母(老年)(カラーグラビア)
85ページ:舞台写真「蜘蛛絲梓弦」小姓寛丸(モノクロ 1枚)
85ページ:舞台写真「蜘蛛絲梓弦」太鼓持愛平(モノクロ 1枚)
85ページ:舞台写真「蜘蛛絲梓弦」座頭松市(モノクロ 1枚)
85ページ:舞台写真「蜘蛛絲梓弦」傾城薄雲太夫(モノクロ 1枚)
85ページ:舞台写真「蜘蛛絲梓弦」蜘蛛の精(モノクロ 1枚)
86ページ:舞台写真「番町皿屋敷」放駒四郎兵衛(モノクロ 2枚)
88~89ページ:舞台写真「春重四海波」高砂頼母(若年)(モノクロ 3枚)
88~89ページ:舞台写真「春重四海波」高砂頼母(壮年)(モノクロ 3枚)
88~89ページ:舞台写真「春重四海波」高砂頼母(老年)(モノクロ 3枚)
91ページ:舞台写真「連獅子」狂言師右近(モノクロ 2枚)
91ページ:舞台写真「連獅子」親獅子の精(モノクロ 2枚)
102~103ページ:「錦秋名古屋 顔見世」の劇評
127ページ:十二月大歌舞伎(歌舞伎座)の紹介(1/3ページ)
演劇界 2017年 12 月号 [雑誌]

感想

昼の部

21日に前方花道側で観劇。

恋女房染分手綱

初めて見る演目。
幼いお姫様が東国にお嫁入りするのを「いーやーじゃー、いーやーじゃー」と嫌がっており、乳人の重の井(魁春丈)と本田弥三左衛門(東蔵丈)が困っている。弥三左衛門は真っ赤な裃姿でとても派手。(還暦ですか?)
姫の機嫌を取るために馬子の三吉を連れてきて、道中双六で遊ぶことになる。姫の期限が直り、重の井は三吉に褒美のお菓子を持ってくる。

ここで、三吉は重の井の実の息子ということが発覚する。しかし、三吉は不義の子で、重の井は御手打ちになるはずだった。父親が代わりに切腹したことにより、重の井は許されて乳人として仕えるようになった。そういういきさつがあるので、親子だとは公表できない。
それを説明しても、三吉は納得せず、「乳母が自分と姫様は乳兄弟と言ってたから、親子が一緒に暮らせるように姫様に頼んでくれ」みたいなことを言い出す。

重の井は三吉を突き放すが、こらえきれずに「もう一度顔を見せておくれ」と呼び留めて抱き合うところは不憫。
「我が子に馬子の恰好をさせて、自分はお乳の人、お局と呼ばれて綺麗な衣装を着たところで何の甲斐があろうか?」という嘆きが切ない。
重の井は三吉にお金を渡そうとするが、三吉は「親でもない、子でもないというなら、放っておいてくれ」とつっかえす。これは子役が達者でないと成り立たないお芝居だなと思った。下手したら子役が全部持っていっちゃいそうなものだが、魁春丈の存在感は流石だ。

重の井を探しに来た腰元(吉之丞丈)が三吉を見つけて、「まだここにいたのか。親方が馬に餌をやる時間だと言って探していた」と、三吉を連れていく。
姫君出立にあたり、馬子唄を歌うようにと促されるが、三吉はべそをかいていて唄えない。侍に「こいつめ」とこずかれて、泣く泣く馬子唄を唄う。
泣きながら花道を走り去る三吉を、重の井が見送りながら、幕。

番町皿屋敷

この演目も初めて見た。(「播州皿屋敷」はずいぶん前に見た。)
青山播磨(梅玉丈)が深編笠で顔を隠して茶屋で休息していると、町奴が喧嘩をふっかけてくる。
播磨は水野十郎左衛門(←幡随院長兵衛を風呂場で刺した人)率いる白束組(旗本奴)の一員で、長兵衛一派の町奴とは犬猿の仲。
最初は相手にしなかった播磨だが、後からやってきた放駒四郎兵衛(愛之助丈)に長兵衛の名前を出され、喧嘩を買ってしまう。

そこへ伯母様(歌女之丞丈)が登場。
播磨はこんな顔→(´・ω・`)になって急におとなしくなる。
伯母様に「その喧嘩を預けてほしい」と言われ、放駒四郎兵衛は「女と喧嘩するわけにはいきますまい」と去っていく。出番は少ないけど、なかなかかっこいい役だった。
播磨は伯母様に縁談を持ち掛けられるが、それを断る。播磨は浮かない顔で、伯母様が去った後に「伯母様は苦手じゃ…(´・ω・`)」と呟く。ええ、そうでしょうとも。

場面は変わり、播磨のお屋敷。
柴田十太夫(橘三郎丈)が腰元のお菊(壱太郎丈)とお仙(梅丸丈)を連れて、宴の準備をしている。水野ら白束組が屋敷に来るのだ。
十太夫は家宝の皿に問題がないかチェックをして、腰元2人に「割ったら御手打ち。傷をつけてもダメ」と厳しく言い聞かせる。
どうでもいいことだが、このお屋敷の腰元はレベルが高い。

お菊と播磨は身分違いの恋仲で、播磨の縁談の噂を聞いたお菊は、播磨の心を試すためにわざと皿を割る。運が悪いというか、悪いことはできないというか、ちょうどその場をお仙に見られていた。
皿を割ったのがお菊と知って、播磨は「粗相なら仕方ない」と不問に処し、割れた皿を井戸に捨てるよう命じる。
その後、「お前の母をこの屋敷に呼んではどうだ? 旗本の青山播磨が婿では不足か?」などとラブラブだったのだが、十太夫がに「お菊がわざと皿を割った」と告げにきて、空気が変わる。

お菊が「播磨の心を疑った」と白状すると、播磨は「俺を試そうとしたのだな」と激怒。(馬鹿正直に告白せずに、「奥様を迎えると聞いたので、いっそ殺してほしいと思って割りました」とでも言っておけば、播磨はころっと騙されたんじゃないか?)
「男の付き合いも断って操を立ててきたのに…!」と播磨の怒りのボルテージは上がる一方。(これ、播磨が余所で火遊びしてくるタイプだったら、お菊も諦めがついて逆に上手くいったんじゃないのかね。)

ぶち切れた播磨はお菊を手打ちにしようとする。奴(吉之丞丈)が必死に止めるのだが、多分それって逆効果。(吉之丞丈を見て「吉右衛門丈に似てる」と思ったのだけど、やはりお弟子さんは師匠に似るのかな?)
「皿が惜しくてお菊を斬るわけではない!」と、播磨は家宝の皿を次々ぶち割っていく。(1回の公演で5枚割るとして、1カ月で125枚も割ってしまうのか…)
名古屋の客席は割とうるさい(と思う)のだが、梅玉丈の迫力に場内が息を飲んで成り行きを見守る。
播磨はお菊を斬り捨て、その亡骸を井戸に捨てるように命じる。(ここで「殿、そんなとこに捨てちゃったら、腐乱して臭いますよ」と思った私は根性が腐っている。)

そして来ました、名台詞。
「家重代の宝も砕けた。播磨が一生の恋も滅びた」
梅玉丈の名調子が場内に響く。(役者は「一声、二顔、三姿」だとしみじみ思う。)

重い空気の中、水野が町奴に絡まれているという知らせが届く。
播磨は槍を取って、「これからは喧嘩三昧だ!」と、水野に加勢するために花道を駆けていき、幕。
お菊が殺された後の重い空気を吹っ切っていく感じなので、それほど暗い気持ちで終わらないのがよい。

蜘蛛絲梓弦

永楽館で見たのとほぼ同じ。 碓井貞光(松江丈)、坂田金時(亀鶴丈)が源頼光(梅玉丈)の警護をしているところへ、小姓(愛之助丈)が現れる。
舞台上で小姓から太鼓持(愛之助丈)に早替り。
太鼓持が蜘蛛の糸を投げて逃亡した後、座頭(愛之助丈)が花道からやってくる。座頭も蜘蛛の糸を投げつけて逃げていく。やたらと金時に糸が絡まるのは衣装のせい?

続いて、傾城薄雲太夫(愛之助丈)が源頼光の寝所に現れる。頼光は小忌衣を着ている。
愛之助丈の女形は珍しい。当たり前ではあるが、声もきちんと女形になっている。
最後は蜘蛛の精(愛之助丈)が本性を現すが、頼光の持つ刀の威徳にはかなわない。
壇上で見得をして、幕。
紅葉の背景が描かれた舞台から、白い蜘蛛の糸がパーッと客席に飛んできれいだった。

今回は舞台写真の販売がなくて残念だった。
傾城姿の写真がほしかったなぁ。

夜の部

21日に前方花道側で観劇。

春重四海波

去年の永楽館で上演した演目の再演だが、劇場の大きさが違うせいか、ところどころ内容が変わっている。(物語の舞台も尾張になっている。)
幕開きに腰元(愛一朗丈)と中間(翫政丈)が力比べをする場面にギャラリーがいた。
花道から高砂頼母(愛之助丈)と若党の与八(梅丸丈)が登場し、客席通路から浪路(壱太郎丈)と腰元のおくら(中村光丈)が登場する流れは同じ。
場面転換がスムーズにできるためか、太陽と月で月日の流れを説明する演出はカットされていた。(あれは芝居小屋だからよいのであって、大きな劇場でやったらしらけるかもしれない。)

最初は若くて初々しかった2人だが、20年経つと少し落ち着いた雰囲気になる。(声も低くなっている。)
頼母に「20年経つがお前は変わらんな」と言われて、「相変わらず童顔です」と答える与八が可愛い。
今回も客席からの乱入者と警備員が登場したけど、筋書に配役が載ってない。(まあ、載ってたら興ざめだけどね。)
さらに25年が経って、老人姿で現れたときは客席から笑いが起きていた。
最後は俊斎先生(寿治郎丈)と与八の幽霊も出てきて、皆で仲良く踊って幕。
永楽館の時よりすっきりとまとまっていてよかった。

新口村

幕が落ちると、忠兵衛(梅玉丈)と梅川(魁春丈)が身を寄せ合って立っている。
雪の中黒い衣装の逃亡者なんてありえないのだが、この場面は美しいと思ってしまう。
2人は今の境遇を嘆き合い、父の家来のようなものである忠三郎の家に身を隠す。
梅玉丈が忠兵衛と孫右衛門の2役を演じるからか(拵えを変えるまでの時間稼ぎか)、途中で万歳(吉之丞丈)と才造(梅丸丈)が登場して大和漫才を万歳する。

孫右衛門(梅玉丈)が花道から登場。昼の部で喧嘩っ早い若者を演じた人とは思えないようなよぼよぼのおじいちゃんっぷり。
梅玉丈に老けメイクは似合わないというか、あまり老け役をなさらないせいか皺の描き方があまりお上手ではない気がするが、見ているうちにそんなことは気にならなくなった。(やはり上手い役者さんは違う。)
淡々と抑えた感じなんだけど、悲しんでいるのと心配しているのが伝わってくる。

ところで、忠兵衛の吹き替えの役者さんは誰だったんだろう?(筋書には書いていない。)
いきなり忠兵衛が別人になるので、初めて歌舞伎を見る人にはわかりにくいかもしれないなぁ。(などと言いつつ、梅玉丈の白塗りが見られなかったら残念だと思う。見る側は本当に勝手なものだ。)

連獅子

オーソドックスな連獅子って久しぶりに見たかも。(そういえば松羽目物だったっけ。)
狂言師右近(愛之助丈)と狂言師左近(壱太郎丈)が登場し、一通り踊った後、蝶を追いかけて退場。
そこへ僧蓮念(亀鶴丈)と僧遍念(松江丈)がやってきて宗論を繰り広げる。ちょっと間抜けというか、とぼけた感じでおかしみがある。
2人の僧が「獅子が出る」と逃げ帰った後、花道から親獅子の精(愛之助丈)と仔獅子の精(壱太郎丈)がやってくる。
毛振りでは、愛之助丈が「いつもより多く回します」と宣言した通り、ぐるんぐるん回してた。客席も喜んでいた。
華やかな演目で終わって劇場を後にできるのがよい。

金山で歌舞伎をするようになってから出演者が少なくなったが(チケット代も下がってるので仕方ないかもしれないが)、役者さんが少ないなりに魅せる演目を選んできたなぁという感じだった。重厚な演目と軽快な演目のバランスも良かったと思う。
「名古屋は客が入らない」と聞くが、団体客やツアー客も入っていたようで、なかなか盛況だった。

おまけ


↑まねき。


↑昼の部の幕間に食べたお弁当。(劇場で購入)


↑夜の部の幕間に食べたモナカアイスと栗きんとん大福。