1.はじめまして
寮の自室の鍵を開け、誰もいない部屋に向かって『ただいま』といい、同じ年頃の他人と飯を食うのに慣れたのはいつごろだっただろう。
それが楽しいのか、寂しいのかは自分では分からない。感覚が麻痺しているのかもしれない。それでいいと思う。そうでなければ、この世界では生きていけない・・・。
始めてそこを訪れたのは、俺がまだホンのガキンチョの時だった。もう7年近く昔のことだ。
父親に手を引かれて、そこへ行った。奇妙なところだった。今ではそれが当たり前なことになってしまっているにもかかわらず・・・。
その建物に着いたとき父親は言った。
「克己あそこにひとつだけ電気のついてる部屋があるだろ?これから一人でそこへ行くんだ。・・・その意味はわかるな?」
ビルというには小さすぎる、6階建ての建物の3階の窓を指さしながら言った。まだ8歳の俺はにっこり笑った。それを見て父親は、
「それじゃぁ、待ってる」
と言い残して、どこかへ消えた。
その建物のコトを俺は父親から何度も聞いたことがあった。組織の賞金稼ぎが避けては通れない建物だ。というか、この建物の3階会議室にたどり着けないものは、組織の賞金稼ぎとは認められない。一種のテストなのだ。その時俺は、すでに組織の賞金稼ぎだった父親に連れられ、賞金稼ぎとして登録しに来たのだった。
ルートは3つ。正面玄関から入って1・2階の迷路を通るか、隣の建物からこの建物の屋上に飛び移り4・5・6階にいるガードマンにきずかれづ(あるいは倒して)いくか、壁をよじ登って窓から部屋に入るか、である。
今の俺に言わせるとまだまだ方法はあるが、幼い俺にはそれくらいしか思い浮かばなかった。
その時の俺は迷わず、屋上を通っていくルートをとった。いくら人通の少ない路地に建っているとはいえまったく人が通らないわけではないので、壁を上ってる時人に見られると困るし、迷路なんてもってのほかだ、と思ったからだ。今でも、俺がその建物へ行ったときはあまり迷路は通らない。
隣の廃ビルに、忍び込んで屋上へ飛び移る。日々父親に鍛えられていた俺には難ないコトだった。ガードマンの目を気にしながら、俺は会議室にたどり着いた。
ドアを開けると、父親と黒い服を着た3人の男が俺を迎え入れてくれた。親父は俺がそこに来るのは当たり前というような顔をしていたが、周りの男たちは小学生の子供がその場にいることが信じられないようだった。
そこで俺はコードネームを決め、パスワードと認識番号を与えられた。
昔のことなのに、こないだのことのように鮮明に覚えている。
俺はパソコンをつけてインターネットにつなげいつものページを開く。まず初めにコードネームを打ち込み、次にパスワード、最後に認識番号を打つと、『今月の賞金クビ』という文字が目に入る。
それが今俺のいる世界。7年前のあの日、いや生まれた時から決められた運命だ。
やめようと思えばやめれる。けれども、賞金稼ぎという仕事は今亡き父親との唯一の接点。今はまだやめたいとは思わない。どんなに危険な仕事でも。
・・・でも、たまに感じるこの心の空白はなんだろう。コレが、孤独というモノなのだろうか。
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