2.子供時代
細い路地を通って小さな建物の前に立つ。克己はその建物のことを父親に倣って“ギルド”と呼んでる。
克己はギルドの裏へ回る。裏口などはない。しかしよく目を凝らして観察すると1メートル四方で、地面がきれている。そしてよくよく見てみると鉄の取っ手がついている。俺はその取っ手を引き上げてすばやい行動で地下に入る。重力に引かれて扉が落ちてくる。
あたりに光はなく周りが見えなくなったが、克己にはたいしたことない。階段を降りていくと行き止まりに突き当たる。しゃがみこんで右側の壁の地面すれすれのところに小さな突起を見つける。それを力いっぱい押すと左側の壁がスライドしてのぼりの階段が現れる。立ち上がって階段を上り始めると勝手に壁がしまった。階段をかなり上がって行くと鉄の扉に行く手を阻まれる。けれど、取っ手を押すと簡単に開いてしまった。
(・・・おいおい。)
克己はもう少し手の込んだ隠し通路を期待していた。が、なんとあっけなく終わってしまった。
扉の向こうは見覚えのある部屋だった。二つの向かい合ったデスクとパソコンが一つだけが置かれた殺風景な部屋だ。
「あら、克己君。この通路見つけちゃったの?」
スーツを着た肩に髪をそろえた女の人が声をかけてくる。
「なんだ、ここに通じてたんだ」
そんな言葉が克己の口から漏れる。それは、やはり落胆の色の濃い声になってしまう。
「この道は前から見つけてたんだ。きっとおもしろいトラップがいっぱいあると思ってたから、暇なときに通ろうと思ってたんだ。なのに、全然期待はずれ。もっと難しくしないと簡単に通られちゃうよ。」
克己は、地下通路の感想を言う。
「克己君、あの通路は職員用通路なの。あんまり難しかったら誰も通れないじゃない。一応職員は一般人なんだから。賞金稼ぎと一緒にしちゃだめよ。」
「でも、宮島さん。・・・」
それでも食い下がると、宮島さんが極上の笑顔で
「でもも何も、大人のハンター・・・特に男にはあの通路は狭すぎるは。だから大丈夫なの。あの通路の最大の関門はあの狭さなのよ。」
確かにそうだと思った。克己はまだ子供だからあの狭い通路を通ることができたが、大人の男にはまず無理だろう。といっても、ギルドには男性職員もいるのでその他にも隠し通路はたくさんある。後に克己の趣味が隠し通路探しになったことは言うまでもない。
「それよりも。克己君今日はどうしたの?」
宮島は思い出したように言う。
「今日?今日の用事は、さっき終わったばっかりの仕事の報告!あっ。急がないとまた父さんに怒られる。それじゃあ、宮島さんばいばい。それにしても今日の化粧は濃いね。」
そう笑いながら克己は出て行ったが、その後残された部屋で宮島が火山のごとくキレまくったのは言うまでもない。
「あんの、ガキ!!変なトコまで父親に似て。」
「あの主任。あの子も賞金稼ぎなんですか?」
今年この課に配属されたばかりの若い女性職員が、宮島に尋ねる。
「克己君は最年少で賞金稼ぎに登録された子よ。しかも屋上からの侵入で。確か2年前だから8歳くらいの時かしらかしら」
「あの難関の、4・5・6階を通ってきたんですか?8歳の子供が!?」
女性社員が声を上げて驚く。それくらい、屋上から侵入して登録された子供は脅威だった。
「それに、仕事も手際いいし成功率もっけこう高いわよ。」
もうこうなったら、ただただ、おどろくしかない。
「だたねぇ、父親に似て一言多いんだから。それに、あなたの同期の男の子がこないだだまされたみたいだしねぇ」
宮島は克己の将来を考えるとため息がこぼれる。いったいどれくらい、こ憎たらしい性格になるのかと。
「父親も、賞金稼ぎなんですか?」
「そう、あの子をそのまま年取らせたみたいにそっくりな、Aランクの賞金稼ぎよ。」
Aランク・・・このギルドは賞金稼ぎを8つのランクに分け、Aは1番上のランクだ。ただでさえ少ない賞金稼ぎのAランクというと10人も満たない人数しかいない。そしてランクが上がるごとに、請け負える仕事も増え賞金額も上がる。そして、賞金額の高いものほど危険度も高くなる。
「親子そろって、すごいですね。」
女性職員は吐き出すように、つぶやいた。
首尾よく宮島を怒らせることに成功した俺はくすくす笑いながら、第三会議室に向かった。
ギルドの中で3階部分だけは賞金稼ぎが安心して通れるフロアなので、普通に廊下を歩いてゆく。これが、ほかの階だとそうは行かない。1・2階は真っ暗な迷路、4階は赤外線センサーと監視カメラ、5階はガードマンとこれまた監視カメラ、極めつけの6回はトラップの宝庫である。
そんなわけで俺は、一人笑いながら会議室に向かう。
コンコンと軽く二回ノックして中に入る。なかには、先ほどの第一会議室とは打って変わった、男所帯だ。といっても5人ほどしか人はいないが。そして、第一会議室同様、会議室と銘打っているが実際は普通の会社の一般部署と同じように、一人一人のデスクがありそれをくっつけて小さな島にしている。
「よお、潤。今日はどうした。」
一番年配の男が声をかけてくる。この男は川渕といって、換金所の最高責任者だ。換金所はこのほかにも、総務課T、総務課Uと二箇所ある。
「今日はこれ持ってきたんだ。盗りたてほやほやだよ。」
そういって俺は、ポッケトから青い石のついたのネックレスを出す。
「・・・それは、今日ネットに載せたばかりのやつじゃないか。」
川渕が驚いた声を出すのも無理はないだろう。このネックレスは5万円の賞金がかけられて今日、ギルドのページに載ったばかりの品だ。驚くのも無理はないだろう。
俺はなんだか少し誇らしく思いながら、ネックレスを鑑定している川渕に声をかける。
「ねぇ、まだぁ?」
「お〜、すまんすまん。どうやら、ほんもんのようだな。」
そういって、川渕が領収書を渡してくれる。
「金は、いつもの口座に振り込んどくからな。」
「うん、わかった」
俺は、領収書を半ズボンのポケットに突っ込みながら窓際に近づく。
そして、ベルト代わりに使っている鞭を取り出して、近くの手すりに巻きつけそのままためらわず飛び降りた。
「バイバイ」
もちろん、お別れの挨拶も忘れずに。
そのまま、まっすぐ家に帰ったが、待ちくたびれた父親に散々文句をいわれてしまった。
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