アストラウル戦記

 吹き抜ける熱風は、限りなく膨らみながらやがてすべてを飲み込んでゆく。

 

   プロローグ

 オルスナ王国は、国土の三分の一を占める広大な砂漠を行き来するための交通手段の発達に付随して商業が発展し、経済は豊かだったが、軍事力に乏しく常に近隣諸国からの支配に脅かされていた。
 現国王であるオルスナ三世は、政治を放棄し放蕩の限りを尽くした二世とは違い、若い頃から率先してオルスナのために尽力していた。
 豊かな経済力の一端を担う『オルスナの商人』と呼ばれる商人たちを保護する一方、商人たちが持ち込む様々な価値観や文化、宗教に対しては厳しく統制した。宗派を統一することによって、国民を強固な一枚岩へと変えていこうとしていたのである。
 オルスナ国王による宗教弾圧は年々厳しさを増し、国教であるソフ教以外の宗教が崇める神を邪神として、多くの寺院が取り壊され国民は改宗を迫られた。

(c)渡辺キリ