Aurea Apiculae

1. β-Car“Miaplacidus”

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マルククだけどモブクク前提ですよ。捏造とかに寛大な方向け
字はほんッと久しぶりで、いろいろダメだなと思いつつ・・・ウチ、デフォは字書きなんですよハハー☆
働きバチがみんな女の子なのって、なんか泣かせる(つд`)
 朝が来て、花が咲き、そこ、ここに、ミツバチたちがいそしみの羽音を今日も聞かせる。暮れればやがて、星がめぐっていく。
 一度は世界で最も高い場所に立ったこともある男が、今はそういう何ほどのこともない日々を送っていると知る者は少ない。世間は熱しやすく冷めやすい。巨悪から救われてしまえば、勇者たちですら、母親が子供を寝かしつける物語に時たま登場するくらいのもの。まして負け去った者のことなど、今さら噂の口端に上ることもない。
 だからこそ、世の片隅なりとも居所を定め、僅かに残ったものを守りながら静かに生きていけるのだということも、マルチェロは承知している。
★・*:.。.

 マイエラ修道院の聖堂に、新装の内陣が奉献された。華美な彫刻の数々、燦然と輝くステンドグラス、ふんだんに使われた貴重な建材……これを可能にしている財力は、院に帰依する有力者の多さによる。無論、マイエラが三大聖地の一角として教会に重きをなしているからである。マルチェロが騎士団長に就任して以降、その手腕が更に院の勢力を拡大させたとも言える。
 そして、その腐敗した体質も。ククールこそは、腐敗の影で、有力な信徒から寄進を吸い取るための大事な裏の因子だった。
 内情はさておき、内陣は目下、落成式の最中だ。その贅美を極めた造形に誰もが感嘆する中、しかし、まるで興味を示さなかった例外が二人いた。一人はここの長たるオディロその人。そしてもう一人がククールだ。
 興味はともかくとして、高齢のため滅多に公の場に顔を出さない院長の不在は当然だ。しかしククールが式典をすっぽかしていい理由はない。建設にあたり、特に多大な協力を提供した貴族も列席しているだけに、マルチェロ団長は頗る苛立っていた。……何せその貴族はククールに入れあげ、この度の寄付も下世話な言い方をすれば、ククールに貢いだようなものだったのだから。

 式も終わった暮れつ方、僧房の裏手の古井戸に人影を見つけ、マルチェロが近づいてみれば、それは件の問題児だった。落成式もどこ吹く風で、またドニの町で遊び惚けていたのかと思いきや。
「そこで何をしている」
 言ってからマルチェロは、ククールが何をしているのか、見て取った。シャツと下着の他は脱ぎ捨ててしまって、あちらこちらに鬱血の残る体を、冷たい水で洗い流している。ククールは一瞬マルチェロをチラと見たが、またすぐ手元に目を落とした。
「見ての通り、先輩方と遊んだ後始末ですが何か」
 ククールらしい応えだった。何かを「された」という言い方を、彼は一度もしたことがない。
 その強情さはいつでもマルチェロの憎しみを煽った。ククールが自分の能動的な非だと言うのなら、言葉のとおりに受け取るだけのことだ、斟酌の余地はない。
「落成式にも出ずに不埒なことだ」
「式……ね」
 形のよい唇に乗せた笑みが意味する皮肉を、マルチェロは察しないわけにはいかなかった。ククールとて百も承知しているはずなのだ、この奉献が、間接的に何をもって買われたものか。
 とはいえ、騎士団長としては、ここで体面を保たねばならない。甘い顔をする気もなければ、同情も持ち合わせてはいない。もう一言、釘を刺してやろうと一歩踏み出しかけたところで、「しっ」と制止された。
 見れば1匹のミツバチが、足元の小花の間で、無心に蜜を集めている。ククールは水を掛けないようしばし手を止めて、その動きを静かに見守っていた。
 労働と祈りを旨とする修道院生活の原則はマイエラでも同様で、分担しながら衣食住をさまざま自給していたが、裏庭にあるミツバチの巣箱の管理はいつの間にか、ククールの役目になっていた。なぜか彼は刺されることがなかったからだ。女の子の扱いを知ってるからさ――本人は笑ってそう言っていた。
 やがてそのミツバチは花を離れ、今度はククールの指先に止まった。傾きかけた陽が、ククールの睫の陰を長くして、彼とミツバチとの言葉のない語らいを、昔懐かしいような蜜の色に縁取っていた。
「で?オレがいなかったからスポンサーがご機嫌斜めって話?」
ミツバチがいってしまうと、ククールは立ち上がって体を拭き、服を着ながら、悪びれもせずにそう言った。
「そこまで解っていながらのんびり水浴びとはいいご身分だな」
「まぁそう尖ンなって。……大旦那は今日はココにお泊りなんだろ?上手く可愛がられて埋め合わせてくるから、ご安心下さい団長どの」
 そしてククールは指示を待たずに、客人の泊まっている部屋へと、ミツバチの小花も零さずに立ち去った。

 酒、女、博打……俗世の無法者のたしなみを、あまつさえ聖職にありながらきっちり身につけている、札付きの問題児。彼が眼前に現れてからというもの、マルチェロの心は落ち着いたことがない。半分血を分けた、だからこそ憎くてならない弟は、マルチェロの視界から逃げも隠れもしなかった。自由に、まったく自由に修道院の規範を蹂躙しては、絶えずマルチェロの意識の一部を占め続ける。成長につれて大人しくなるどころか、殊に貴族や金満家の私邸に祈祷に赴くようになってからますます、ククールの放埓三昧には磨きが掛かるばかりだった。
 しかし、彼を団長らしく処罰することはできても、なぜだろう、神が彼を罪すると思えない――それがマルチェロを苛立たせ、時に焦燥させもした。院長が庇うからか、素朴な町人たちが憎もうとしないからか、あるいはミツバチや小さな生き物たちが慕うからか……ククールにはどこか、許されてある者の佇まいがあった。

 ともあれ、ククールは今は、何の衒いもなく平然と汚れ仕事に行ったのだ。恥も罪悪感もないその態度を、マルチェロとしては唾棄していればいいわけだから、苛立つ必要も焦燥する必要もない。
 ただ、足下に残された、ククールが水を使った後のささ流れは、やがて空に一つ、二つ、三つと灯っていく星を映して静かに澄んでいた。
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25.Nov.'16
BGM:As I Went to Walsingham/ anonymous(arr.by Francis Cutting)
https://youtu.be/V3EA6uTYSQg
中世の修道院で養蜂が盛んだったって聞いて萌えました・・・

拙宅では最初のジャンル以来、受とミツバチを組み合わせるのがお約束になっていて。三好達治先生の

「海のような夕べの空に/耳鳴りほどの羽音をたてる/金の蜜蜂」(金星)
「若者らしく哀切に悲哀に於て快活に」(谷川俊太郎「二十億光年の孤独」序)

これがとっても好きなせいだと思