Argo Navis

1. Puppis

ククールという単語が全く出てこないマルクク現パロですよww
例によってモブクク前提(直描写はないけど)

ククは宇物専攻の大学生でデルモもやってるとか、ヱイトさんはその学校の近くのレンタルビデオ屋さんでバイトしてるとか、ゼシたんも近くの女子大付属の女子高行ってるとか……あんま筋書きに関係ない設定だけはいろいろwwww
兄上のご職業は海運のヤリ手さん。そこはあんまり拘りないんですよね。仕事がデキる男ならそれでいいって感じで(*´∀`)
 ビジネスの世界に足を踏み入れて以来、ずっと海運畑(海で畑も変な話だ)を歩いてきて今、歳の割には異例の地位を得ているわけだが――と、マルチェロは咥え葉巻でデッキブラシを動かす。仕事一徹という性質でもない、むしろ程よく道楽を知っている彼である、だから却って仕事も能率よく進むし部下にも女にも好かれる、自覚もある。それでもこうして、稀の休みまでマリーナに来てクルーザーの上で過ごしているのだから、自分にも少々ワーカホリックの気があるのかもしれないと思った。さすがに船底の貝殻剥がしは人手に任せるが、デッキをせっせと磨くくらいには、自分の船を大事にしている。
 今日も暑くなりそうだ。こんな日の作業は、どこか子供の時分の水遊びのようで、我ながらガキ臭いとは思うが気分がいい。磨いたバウデッキ一面に、仕上げとばかりに水をぶちまけた。……と、
「わっ」
予想外の声。桟橋にはさっきまでカモメしかいなかったものだから、周りを見ていなかった。
「これは悪いことをしたな、君、入って拭いてくれ」
そこにはすらりとした、明るい銀の髪の青年が立っていた。ラフな恰好だが、輪郭と髪によく合ったサングラス、アンティークのレアなアナログ時計etc.、実はさりげなく抜け目ない。
「じゃあお邪魔さま」
軽い調子でそう答え、スターンデッキへ足音もさせずに飛び乗る。マルチェロもバウからそちらへ回ってみると、ずぶ濡れのパーカーを脱いでいるところだった。中のタンクトップもまだらに濡れている。現れた腕は、ロールアップしたバギーから出ている脛と同じく、真っ直ぐで白い。
「シャワーも使うだろう?」
「うん、そうするつもりだったけど……」パーカーを勝手にシートに投げ、明るく頭を振り払う。濡れた髪の先から飛んだ水滴までキレイに見えるような子だ。「オレ泳ぎたいな。ね、少し沖に出てみません?」
 船を出せと言うのだ。だが馴れ馴れしいはずのセリフも、無遠慮な振る舞いも、不思議と癇に障らない。これをなし得るのは、娼婦の手管か、子供の純粋さか、さもなければ貴公子の品格だ。さてどれに当たるかと思うに、これがなかなか判断つかない。小首の傾げ加減や前髪を掻きあげる仕草は年恰好にも性別にも合わない濃い色気を孕んでいるが、そこに作為は感じられないし、整った顔立ちは、ブルーグラデーションのレンズが目を隠していても十分に上品で、逆らう気を起こさせない。マルチェロは苦笑しながらキャビンからシガーチューブとキーと替えのTシャツを取ってきて、シャツだけ投げてやった。
「来い」
そう言ってフライブリッジへ上がった。溜息混じりにシートに座った割に、実のところ悪い気分はしていない。青年はシャツを着替えてから軽快にラダーを上がってきて、案の定、勝手に隣のナビゲーションシートに腰掛けた。
 そのとき正直、どきりとした。俺シャツという安っぽいアイテムの魔力など、青臭い妄想とは無縁の、大人らしく遊び慣れているマルチェロにとって、未知なのも当然だった。自分の葉巻の匂いがする、一回り二回りオーバーサイズな襟ぐりから覗く鎖骨に、あろうことか誘われた。
 だがマルチェロには、不覚は不覚として、とりあえず煙を深々吐き出すだけで切り替えが利くくらいの余裕がある。エンジンを掛けてもう一度振り返れば、俺シャツの美人は、別に企みもない無邪気な顔で笑っていた。

 ポイントに到着すると、青年はマルチェロそっちのけで、ひらりとフライブリッジを出た。ラグーンの真中で、若く自由な四肢を思い切り伸ばし、360度の海を一望する。水平線近くに白い三角帆が2つ並んで見えるだけで、辺りに他の船影はない。
「ここ気分いいね」
 青年は時計を外し、そしてサングラスを外した。遮るもののなくなった横顔だが逆光でよく確認できない。その隙に彼はもう、靴をぽいぽい脱ぎ捨て、着衣のまま海の中に飛び込んでしまった。キラキラと乱反射するさざ波の中で、銀の髪や、白い腕が出たり隠れたりする。こんなに鮮やかな生彩に満ちた光景は、ここ最近のマルチェロの記憶にはない。悪くない休日になったことは認めざるを得なかった。足元にはキャンバススニーカーが置き去りにされている。左足も右足も互いに明後日の方を向いて行儀悪く転がっているのに、なぜだか上品で清潔だ。
「……ったく」
マルチェロは次の葉巻の吸い口を切り落とし、ゆっくり火を点けて、煙の消えていく広い空を仰いだ。

 やがて気が済んだか、青年は戻ってきた。浮力を急に失った体には濡れた服が重いのだろう、緩慢な動きで、トランサムボードに全身を引っ張り上げようとしている。マルチェロは手を差し出してやった。
 その手に掴まって、彼は顔を上げた。マルチェロはやっとその目の青を見た。泳いでいる間に染まったわけでもなかろうに、ラグーンの色そのものの深さを映している。シャツはぴったりと肌に貼り付いて体の線を見せつける。雫が一つ、華奢な顎から落ちた。今度こそ紛れもなく誘われた、葉巻程度では誤魔化せない。何よりそのラグーンの瞳がじっとマルチェロを捉えて離さない。
「お前、名は?」
「まずシャワー貸して」
見事に必要十分な応答だった。

 キャビンには真昼の陽が入る。青年は軽くバスローブを引っ掛けただけでシャワーブースから出て、ひたと寄り添ってきた。そして唇を待つ。マルチェロは濃いキスを繰り返しながらその体をきつく抱いた。男を相手にしたことなどなかったわけだが、このレベルになると性の区別も大した懸念でもなくなるらしい。それにしても不思議なしなやかさだ。女の体ならばもっと甘ったるい。だが男の体というには柔らかだ。まだ成熟しきっていないせいもあるだろう。
「歳は」
「17」
ベッドに倒すと、少しだけ押しとどめるような素振りをして、
「ここから先は有料だぜ?」
ちょっとした悪戯を仕掛ける口調でそう言う。なるほど身売りか。驚きはしない、最初はクルーザー持ちの息子かと思ったが、他の船内で一仕事済ませた後だったのだろうと、そろそろマルチェロも推測を変え始めていた頃だった。無粋なようでいて、こちらの器量も心積もりも何も見切った上での、その運びの上手さが、何となくマルチェロの気に入った。
「心配するな、金なら幾らでもある」
「あんたカッコいいな」
彼は笑って、客の首に腕を回した。
 組み敷いた体を愛撫しながらもう一度唇を合わせたら、高級コールガール顔負けの巧みさで舌を絡めてくる。だが慣れた手管にも糜爛な気配はなくて、若い貪欲さと思えばむしろ新鮮だった。何せ、生き生きとしている。快楽で震える睫毛の先を眺めながら思うに、少なくとも、海から上がってきたあの艶めかしさは女には真似できないことだ、素面を見せるような女などマルチェロには用はないからだ。そこへいくと、唇の艶と色合いも、肌のきめ細やかさも、そしてこの睫毛の長さも、どれ一つとして作り物ではない……それがこの若い男娼の特権とも武器とも言えるのかもしれなかった。

 真っ当に暮らせているのかと訊けば笑って、その日暮らしさとだけ言う。そして屈託もない様子で額を拭った。
 キレイな顔もあったものだと思う。甘い余韻を睫毛の陰に漂わせて、汗ばんだ体を無造作に横たえている風情など、ちょっと比較対象が思い当たらない。これだけの美玉がどこに生まれ落ちて、こんなことをしているのか。親は何者だろう、身寄りもなさそうだが、体を売ることを憶えて長いのだろうか……
 そんなことをつらつら考えていたら、なぜか、母の違うたった一人の弟のことを思い出した。幼い頃に一度だけ、マルチェロを訪ねてきたことがある。彼が生まれたから、父は母と自分を捨てた……忘れかけていたその恨みが胸を焼き、だから逢いもせずに門前払いした。そしてもう何年も経ってから、あのとき彼は両親を亡くしていたのだと、人づてに聞いたのだ。

「何?」ふと気付くと、青い目がこちらを見て笑っていた。「オレの過去でも想像してみた?」
 その利発さは何か哀愁もあって心捉えるものだったから、マルチェロはもう一度抱き寄せた。青年は甘えるような科で応じる。脚の間にいつのまにか男を迎え入れている所作などごく自然で、さすがはこれを日常の仕事にしているだけのことはあるのだが、シーツを掴む指の繊細な動きだとか、睫毛を伏せて背ける顔の翳だとか、時々かすかに閉じようとためらう膝だとか、いやに初々しくて離したくなくなる。一晩中でも抱いていたくなる。

 けれど、事後の甘さを損なわずに「今日はこれで」と空気に言わせるのも、さすがの手際だ。それを察しないマルチェロではないから、干していた服を一応は枕元に置いてやった。ためしに
「まだ乾いていないぞ」そう言ってみたが、
「ありがとう、このくらいなら風で乾かすさ」さっさと着て時計を嵌めてしまう。昼間は誘いを掛けたくせに、今度は少し湿った服くらいではやはり口実にもさせない。ならばもっと念を入れた口説きようもあるし、こちらは客だ、押せば最終的には応じるだろうけれど、
「風邪をひくなよ」
そこらの淫売とも思えない、初めて出逢ったはずのこの青年の面差しが、なぜか懐かしいもののように見えたから、マルチェロは食い下がらなかった。
 マリーナに戻ってきた頃には日も傾いていた。凪の時刻になって、クラブハウスの旗も動かない。
 マルチェロはもう一度、
「名は?」それだけ聞いた。青年は優しげに微笑んで
「次に買ってくれた時にでも」と答え、また足音もさせず、船を飛び降りて行った。
 その日暮らしさ――カモメにも追いつけそうなその身軽な後姿を見送った後も、しばらくマルチェロは船べりに肘をついて、過去の傷も今はただの傷跡にすぎないことを思いながら、やがて空に藍色が混ざりはじめるまで、荷役の声や汽笛やクレーンの音を聞くともなしに聞いていた。
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28.Jan.'17
BGM:Like a Baby/ Wham!
https://youtu.be/6DxGeEnNYn0
現パロは元々好きなんだけど、あの2人をメリバとかじゃなく一般的wに幸せにするには現パロの力を借りでもしないとウチにはムリだなって;
現パロのBGMはやっぱ新しいもの(ウチにとっては半世紀以内なら新しいんだよ!)のほうが合うな〜Wham!時代はあまり知らないけど、ジョージ・マイケルの訃報は悲しかったです(´;ω;`)ご冥福をお祈りする・・・!