兄×妹で「Two Sisters」続編です。それから、登場人物は「Wrong Heaven 2nd」と「彼女」のオリキャラ登場。ぜひこちらの2つも目を通しておいていただけると嬉しいです。

「うわぁ!あっつい!」
「もう南部もすぐそこだからな。変わんねーな、ダブリスと」
列車を降りた途端、むん、と身体にまとわりつく熱気を感じて少女は声を上げた。
それは懐かしくもある空気。
少女とその兄が子供の頃に半年程を過ごした地の空気に、良く似ていた。もっとも、その頃少女は少年ではあったけれど。
列車内は車窓を開けていた為に殊の外快適に過ごす事が出来たが、列車が駅に到着し、プラットホームに降り立てば、そこはほぼ無風で、涼しげに髪を刈ったばかりの少女も、長い髪をひとつに束ねた兄も車内との温度差に辟易とした。
南部と西部地域の境となる街、ネブワース。以前はさほど栄えてはいない街だったが、数年前に軍の薬品工場が建てられてから、その仕事に就いた人々や、彼ら目当ての店鋪を構える人々によってにぎわいを見せるようになっていた。
夏が終わり、彼らが暮らしていたセントラルシティや、生まれ故郷の東部の村などはすっかり秋の佇まいを見せているはずだったが、この街は今だ夏を惜しむかのように熱気が取り残されている。
工場の吐き出す排煙と、旧市街地のアパートメントの雑然とした風景は美しさなど微塵も感じさせないが、そこに暮らす人々の表情は明るい。工場勤めの男たちが帰りがけに立ち寄るパブは人で溢れ、カードゲームに興ずる者、はたまたゴシップ記事に溢れたタブロイド紙片手にうわさ話に興じる者、そして良く冷えた発砲酒をただひたすらに喉に流し込む者などで賑わっていた。
先刻駅に降り立った少女とその兄、エルリック兄妹はこれからしばらくこの地に留まる為の宿を探して一軒のパブに立ち寄った。
ブルーカラーの男達の間にあっては、ようやく少年の域を脱したばかりの兄のエドワードは全くの子供扱いだ。
彼にとっては元弟の妹で、愛しい恋人でもあるアルを入口で待たせ、丸テーブルと男達の間をすり抜けると、カウンターで忙しく酒を注いでいる店員に声を掛けたのだった。
「なあ、ちょっと」
「なんだい。子供に酒は売れないよ」
子供と面と向かって言われて、その表情をかなり険しくしたエドワードだったが、寸での所でその怒りを押さえて手にしていた金貨をカウンターに押し付けるようにしながら言った。
「そんなまずいもん、いらねえや!ジンジャーエール2つと、それから…この辺に宿ねえかな?」
店員は手際良くグラスを二つ指に間に挟み、氷を流し込みながらエドワードを見て、それからこう言った。
「隣の呑み屋の2階が宿屋を兼ねているけどね」
「もっと静かな所は?こんなおっさんばかりうんさかいるような所じゃ、うちの連れが休めないよ」
なみなみと飲み物が注がれたグラス2つと釣りを受け取ったエドワードがそう言うと、店員はしばらく考え込み、それから今度は店の入口の方を指差して言った。
「ここを出て右にしばらく歩いて行くと、出来たばかりのレストランがあるから。そこの隣なら多少ましかも知れないね」
「出たら右ね。あんがと!」
エドワードはそれまでの表情とたんにを明るくしてそう店員に言うと、受け取った釣りをチップにと店員に投げた。小柄なエドワードの姿はあっと言う間に男達の間に隠れて見えなくなる。
店員はチップを手に苦笑した。
「まったく…飲み物代より多くチップを置いていく子供なんて初めてだ…」

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「いいところ、あった?」
兄の買って来た冷えたジンジャーエールで喉をうるおしたアルが心配そうにエドワードの顔を覗き込んで言った。
「ああ。ここからちょっと歩くらしいけどな。こんな騒々しい所よりはいいだろ?」
かつてエドワード肉体の全てを失い、魂を兄の決死の錬金術によって鋼鉄の鎧に定着させられていたアルは自らの肉体を取り戻す旅を続けていた。
その時もこんなにぎやかしい酒場の2階に寝泊まりした事はあったが、今は少々事情が違う。
弟で鎧の身体だったアルフォンスは今は少女の肉体を得ている。以前はどんなに猥雑な場所でも気にならなかったエドワードだったが、美人と誉れの高かった母に良く似た美少女に姿を変えたアルも一緒となると可能な限り安全で静かな宿を彼女の為に見つけてやる必要があったのだ。
「ふうん。あんまり高くない所だといいね」
アルは少女の肉体を得てからすっかり身についてしまった節約癖を覗かせるようにそう言った。
兄のエドワードは軍から高額の研究費を支給されている。それは年中旅暮しでも尽きる事がない程の額だったが、自分も食事をしたり、日常でものを買い求めるようになり(鎧の時は何しろ食べないし、洋服も必要なかった)自分に対してどれほどの金が費やされているかを知ってから、自分で使う金から始まり、兄の金使いに対しても注意を払うようになったのだった。
「セントラルなんかより、ずっと割安だろ。そう心配するなよ」
妹の心配を一蹴するかのようにエドワードは涼しい顔でジンジャーエールを飲み干すとグラスをテーブルに置いてアルの手を取り店を出た。
いつだって、無鉄砲な兄と心配性な妹(あるいは弟)という立場は変わらない。
それでも、半年程前から彼ら2人の関係は微妙に変化している。
血の繋がりを超えて愛し合っていた。いや、血のつながりがあったからこそ、深く互いを求めるようになったのだ。異常だと、罪なのだと自身を責め、傷つけながらもそれを癒せるのは互いしかないと知り、結ばれた。
「大して見るところもない街だけど、しばらくここでのんびりしようぜ!」
使い古された旅行鞄を手に、歩き出すエドワード。そして強引な兄の手に困惑しながらも付き添うアル。
強引だが、それがアルを安堵させる。
どんな状況の時でも、エドワードと一緒にいればいつか道は拓け、目指すものが見つかるに違いない。
セントラルシティでの忌わしい記憶すら、兄の愛情で癒されるに違いないと彼女は信じているのだ。
「そんなに急がないでよ!もう!兄さんてば!」
「同じ距離ならさっさと歩いた方がいいだろ?」
先ほどのパブの男達に勝るとも劣らないにぎやかしさで兄妹は宿を目指す。
そうして、半マイル程歩いて目指す地区へと辿り着いた。
パブの店員が目印に、と言っていたレストラン「ものまねどり亭」の真新しい看板が見えて、その隣の煉瓦造りの2階立ての建物の入口に「Inn」とある。ようやく身体を休める事ができると、2人は、特にアルは歓声を上げたのだった。
宿に着いてから、ベッドが2つある部屋を用意してもらう。それぞれのベッドの脇に旅行鞄を下ろしてから、2人ともベッドの上に身体を放り出してそして大きく伸びをしたのだった。
「ああ、腹も減って来た!アル、お前は?」
「ボクはあんまり…でも、あまり時間が遅いと食べるところもしまっちゃうかもね…どうしようかなぁ…」
エドワードが空腹を訴えたが、アルは先程飲んだジンジャーエールでまだ食事を取る気にはなれなかった。
それでも、まだまだ育ち盛りと言ってもいいエドワードがあまり腹を空かせたままでいるのも可哀想に思えたので、アルはベッドから起き上がるとエドワードに言ったのだった。
「お隣のお店に行ってみようか?この辺の勝手もよく分からないし、とりあえずって事で」
「そうするか。この暑さでちょっと疲れたし、楽でいいかもな」
とりあえず意見がまとまり、エドワードとアルは部屋を出て、宿屋の隣にある「ものまねどり亭」に向かった。
軒先に吊るされている真新しい看板の下をくぐり、店の扉を開けて中に入る。なるほど、パブの店員が言ったように新しい店らしく明るい雰囲気で調度品なども真新しい。
けれど、店内は客が居らず、給仕らしき中年の女性が驚いた表情で逆にエドワードたちを見ていた。
「あら…まあ!いらっしゃい!お食事を?」
「他に何をしにここに来るってんだよ!って言うか…アル、もしかしてハズレ引いちまったかな?」
エドワードが店内の余りの閑散とした様子に苦笑すると、隣に立つアルの腕を肘でつついた。
「兄さん、そんな、失礼だよ!…えっと…ごめんなさい、ま、まだ店じまいじゃないですよね?」
兄の物言いを非難はしたものの、アルも不安になって給仕の女性に尋ねる。すると、その女性は苦笑して答えたのだった。
「大丈夫ですよ…さあ、こちらへどうぞ」
兄妹は窓際の席に通され、メニューを眺めていると厨房の奥の方で賑やかな女の声がした。
「お母さま!あたしがやります!あたしが!」
どうやら、先ほどの給仕の女性とは別に若い女がいるらしい。エドワードとアルは顔を見合わせると声を潜めて話し始めた。
「…やっぱりハズレだったかもしんねえ…」
「…そうかも…お客より、お店の人の方が多いよね、これは絶対…」
それでも入ったからには注文をせずには出られない、と言う事でメニューから何品か注文した。
エドワードはいちゃもんをつけながらもメインの肉料理がポークスペアリブのラズベリーソース添えとサラダ、そしてライ麦パンとデザートにパンプキンパイを。アルの方はミネストローネとローストビーフのサンドイッチを頼んだ。
料理を待っている最中、やはり賑やかな女の声が聞こえた。
ばたばたと言う足音と共に、真っ赤な、胸元が大きく開いたワンピースを着た、栗色の長い髪を後ろでひとつにくくった女がアルの注文したミネストローネと、エドワードの注文したサラダとライ麦パンを携えて姿を現したのだった。
「おまたせいたしました!どおぞ…あ…あら?あら!まあ!なんて事!」
大きな胸を揺らしながらがちゃん!と料理をテーブルの上に置き、その女性はエドワードたちを見るなり驚きの声を上げた。
「坊や!セントラルの坊やじゃないの!あら、坊やのかわいい子まで!あたしの事、覚えてるわよね?よもや忘れたなんて言わせないわよ!」
「あ…あんた!フィオナ?!」
フィオナという名で女を呼んだエドワードはそれきりあんぐりと大口を開けて絶句してしまったが、エドワードの代わりにアルが驚きながらもセントラルから故郷に戻ると言い残して彼らの前から去った彼女に尋ねたのだった。
「あのっ…お仕事辞めて田舎に戻るって、確か…」
「ええ。そのつもりだったの。でも、この街でとっても素敵な出会いがあってねぇ!」
乱暴に、兄妹の前に料理を並べながらフィオナは照れたように頬を緩めてそう言う。
「ダーリンがあんたたちの料理を作り終えたら、彼を紹介してあげる。メインももう少しで出来上がるから、ちょっと待ってて頂戴」
セントラルで会った時と同じく陽気に笑うと、フィオナは再び厨房へと下がって行った。呆気に取られたエルリック兄妹だったが、アルの前に置かれたミネストローネをじいっと見つめていたエドワードが口を開いた。
「アル、それ飲んでみろよ…ちゃんと食える物かどうか、お前の鋭敏な味覚で試してみろ」
「なっ…それって毒味って事?それなら頑丈な兄さんの役目でしょ?安心してよ、ミネストローネには牛乳は入ってないから!」
厨房に声が届かないように、声を潜めてアルは反論し、目の前の具沢山のスープの器を兄の方へと手で追いやって差し出した。見た目には柔らかく煮えた豆やら野菜がどっさりと入っていて、匂いもアルが作るものと差程変わらない気がエドワードはしたが、それでも未知の物体であるそのスープに恐る恐るといった風情でスプーンを潜り込ませると、ひとさじすくい上げて口へと運んだのだった。
ところが、エドワードはそれを味わうなり目を丸くして呟いた。
「…普通にうまい…ちょっと、お前の作ったのに似てるかもしれない…」
兄の反応にアルも目を丸くして、そして兄の前から器を奪い取ると同じようにひとさじすくい上げて口へと運ぶ。すると、やはりエドワードと同じように反応して小さく声を上げた。
「本当…!普通に、なんてもんじゃなくて、すごく美味しいよ、これ!」
驚いて顔を見合わせた兄妹の前に、またフィオナが現われ、今度はエドワードの前に肉料理を置いた。
エドワードはポークスペアリブにかじりつくなり、また感嘆の声を上げる。
「香ばしくてうまい!それにこのソースがスペアリブの脂っこさを全然感じさせないんだ!」
食べられれば、そしてそれが牛乳でなければ取りあえず構わないエドワードが、アルの手料理以外をここまで褒める事は今までにない事だった。
「うまい!アルが作ったみたいにうまい!」
「ボクなんかよりずっと上手な人だよ…一体、こんなにヒマそうなお店で、どんな人が作ってるんだろう?」
アルもローストビーフのサンドイッチを頬張りながら厨房の中を気にする。
「でも…確かにボクが作るのと似た感じだ…食べた事のある味…」
懐かしい感じがするが、子供の頃、母が作ってくれた手料理とは違う。
アルは必死でその味の記憶をたぐり、エドワードはライ麦パンでスペアリブのソースまで綺麗に平らげ、デザートのパンプキンパイと紅茶に手をつけ始めたのだった。
そして、兄妹が満足した頃、得意げな表情のフィオナが姿を現した。
「どう?あたしのダーリンの料理は最高なの!じゃあ、彼に会わせてあげるわ」
大きな胸を揺らし、厨房の奥から料理人らしい男の腕を抱きながら出て来たフィオナはそう兄妹に言った。連れられて出て来た、フィオナよりも数歳若く見える男はさかんに照れている。
「フィオナ、お客さんにそんな口の聞き方はいけないよ…料理はお気に召していただけましたか?」
今度はアルが驚く番だった。自分の背中側に立ってそう言う男の声に聞き覚えがあったので振り向けば、そこにはかつて同じ店で働いていた青年が立っていたのだ。
「ロブ!道理で食べた事のある味だと…」
アルが絶句して青年の顔を見つめて、青年も更に照れて応えた。
「やあ…なんだか声が似てるなって思ってたんだけど…本当にアルだったなんて。嬉しいよ、俺の料理の味、覚えててくれてたなんて」
「忘れる訳ないじゃない!あんなに美味しくて…ボク、ロブに色々教えてもらっていろいろと作れるようになったんだよ?忘れたりなんて、するもんか!」
アルがエドワードと愛しあうようになる以前、兄へのあてつけもあって働き始めたレストランで料理人として働いていたのがロブだった。
ブルネットの短い髪にそばかすのわずかに浮いた頬、そして丸めがねに人の良さそうな笑顔はアルが知っている頃の彼と変わってはいなかった。
「エドワードさん、お久しぶりですね。アルと上手くいってるみたいで安心しました」
「…まあね。しかし、分からねえもんだな。あんたがフィオナとくっついたなんてさ」
かつてアルに交際を申し込んだことを心得ているエドワードは多少の嫉妬心を覗かせてロブにそう言った。
「俺、店を辞めてからここに…俺の故郷なんです…戻って店を始めたんです。親父の身体の具合があまり良くなくて、早く安心させてやりたいって思ったんだけど、街の中心からはちょっと離れてるし、この辺の人達にはまだ馴染んでもらってなくてこんな状態で…そしたら、フィオナがある日やって来たんですよ」
ロブが自分とフィオナとのなれそめを語り始めると、それにフィオナも口を挟んだ。
「あたしもセントラルの商売を辞めて田舎に戻ろうとしたんだけど…なにせ、もう10何年も戻ってないし、商売が商売だったから…戻ったところで後ろ指差されるのがオチだと思って、だったらお金が無くなるまでふらふらしてようって、思ったのよ。それでこの街にも立ち寄ったんだけど、そうしたらセントラルで一番好きだったお店の味がするじゃない!感激して、それでこの街に居着いたのよ」
「それからはフィオナは毎日来てくれて…いつの間にか、こんな事に」
フィオナはセントラルの売春宿で働いていて、仕事前に取る食事はロブとアルが働いていた店で済ましていた事を兄妹は思い出した。
「ねえ、あんたたちは新婚旅行?こんな何もないところにどうして?」
他の客もなく、すっかりくだけたフィオナはエドワードに尋ねた。エドワードは僅かばかり困ったような表情を見せてフィオナに答えた。
「そんなんじゃないよ…セントラルを出て、どこか別の場所に移ろうって思ってさ…どこかいいところがないか、探してる最中なんだ」
「じゃあ、ここにはあまり長くは居ないの?」
「多分ね」
エドワードの言葉の中に、なにやら複雑な心中を察したのか、フィオナはわざと明るく笑いながらエドワードの肩を叩いて言った。
「じゃあさ、ここにいるだけの間でいいから、うちのお客さんになってちょうだい。お代以上にはサービスしちゃうから!」
「フィオナ!そんな無理言っちゃ駄目だよ!」
屈託のないフィオナにロブが慌ててそう言うが、アルがそれを笑って制した。
「大丈夫。ボク達が逆に通っちゃうから。だって、泊まってるのが隣なんだもの。ロブの料理なら毎日食べたって飽きないもん」
アルがそう言うならと、エドワードもそれに従う他なかった。
食事をすっかり済ませて店を出るエルリック兄妹をフィオナとロブが並んで見送くる。アルは振り返りながら、仲睦まじく腕を組み手を振るフィオナとロブを見て溜息をついた。

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「…フィオナってすごくパワーのある人だね…」
部屋に戻るとアルはベッドに腰掛け、そう呟いた。
アルがぼんやりとした表情でそう言うので、エドワードはフィオナが現われた事でアルの心中が穏やかでないのかと気に掛かって、顔を寄せて尋ねる。
「…セントラルの店で一番人気だったらしいぜ…あ!それは人から聞いたんだけど!それより、あのロブってのに遠慮してるなら、無理してあの店に行かなくてもいいんだぞ」
エドワードの言葉にアルは両手を振って、笑って答えた。
「ううん。無理なんかしてないよ。フィオナさんって綺麗で、明るくて…話してみてすごく好きになったよ。人気があったって言うのも分かるな…」
だが、アルは顔では笑っていても声に張りがなく、気落ちしているのがありありと手に取るように分かる。エドワードはアルの隣に腰を下ろすと、短く刈られた髪を指先で梳きながら話し掛けた。
「…なあ、なにか不安に思う事でもあるのか?言っておくけど、フィオナとは本当に何もなかったし、俺は何があろうとお前の事が一番好きだし、それはこれからもずっと変わらないからな」
次いで柔らかく暖かな左手と力強く冷ややかな機械鎧の右手で頭を上向かせられて、アルはエドワードに正面から見据えられる。
エドワードは身体が成長するにつれて少年特有の柔らかさが消えつつあったが、特にアルと愛し合うようになってからはその変化は甚だしかった。それでも他の大人達からすれば小柄なエドワードは大人の男とはまだ程遠い存在なのだろうが、この世に生まれ落ちてから今まで兄と片時も離れずに過ごして来たアルにとっては自身の肉体が全く正反対のものに変化してしまったのと同じ程の驚きがあったのだった。
アルはそんなエドワードに見つめられて、そしてその表情の端々に異性としての魅力を見つけだして胸が高鳴る。
次第に父親に似てしっかりとした骨格が浮き出し始めた鼻が自分の匂いを嗅ぎ取り、薄めで形の良い唇が頬や額や鼻筋やそして唇まで愛撫するのだろう。節の目立ち始めた指は鎖骨の辺りを漂った挙げ句つんと上向く胸の頂を征服するだろうし、結果口をついて出る声は兄を求めて色めき、兄の耳に届くのだ。
「…アル…」
予想通りに近づくエドワードの顔。普段は意識などしない兄の吐息が生々しく感じられた。
「…アル、あの…な、いいかな…キスしても…」
ところが、エドワードが乞うようにアルにそう言った途端。アルはさあっと自らの体温が引いていくのを感じた。
心ではどれ程求めているか、言い知れないくらいなのに、身体は異性としての兄を拒絶する。痺れるような感触をもたらす兄の舌はぬめる肉としか思えず、身体を割り拓く武骨な指先にもう期待したようにしとどに濡れ泣く事もないのだ。
「っ…にいさん…や…」
喘ぐように小さく声を上げて兄の手を制した。そのアルの動きにエドワードは自身の行動が性急過ぎた事に気がついて彼女から顔を離して詫びたのだった。
「ごめん…まだ、無理だよな。悪かったよ」
今度はエドワードの顔に落胆の色が浮かぶ。エドワードにしてみればアルが気にしないように柔らかな口調で告げたつもりだったが、どんなに隠そうとしても彼女には分かってしまうのだ。
兄の落胆振りに詫びる言葉も見つからず、アルはただ俯いていた。エドワードはそんな彼女の横から立ち上がるとバスルームの方へと向かって歩き出しながら言ったのだった。
「まだ時間はたっぷりあるんだ。今日は風呂にでも入って寝ちまおうぜ」
エドワードは精一杯笑顔を作ってそうアルに言うが、エドワードがバスルームへ姿を消した後もアルはベッドに腰掛け、肩を落としたままだった。

おまたせー!!ようやく兄×妹書けたー!

「Two Sisters」のラストの後書きでも書き、冒頭でも書いている通り、ロブとフィオナが再登場です。うーむ、上手い具合にくっついたもんだと我ながら感心(笑)。

セントラルでの暴行事件で兄さんを肉体的に受け入れる事が出来なくなったアルと、アルを大事にしたいと思いつつ身体が言う事を聞かないエドのお話です。例によってまた色々と事件が起きる訳ですが(苦笑)、さて果たして…?

     


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