兄×妹で、受け入れられない妹と、欲求不満な兄です。←そんなシーンがちょろっと入ります。

   

なんて忌々しいやつだ!
そうエドワードは吐き棄てるとその「忌々しいもの」に手を伸ばす。途端、びりびりと背筋に鋭く快感が駆け抜けて思わずタイル張りの壁に身体を預けた。頭上から降り注ぐ湯が身体を必要以上に暖めるので止めてしまいたかったが、水音がなければバスルームでなにをしているのか気付かれてしまいそうでそのままでいた。
(全く、こいつときたら朝起きて勃起してアルのケツだの足だの見ても勃起してぼんやりしてても勃起してアルとキスしてえとか考えても勃起して!ああ畜生!)
左手でいきり立つ自身の欲望の先端を強く扱けば、呆気無い程に簡単に達して白濁した精液を手の中にまき散らした。
「っ…クソったれが!早過ぎンだよ!畜生!」
自身を呪う言葉を吐きつつも、エドワードはまだ硬度を保ったままの欲望を再び扱き始めた。
「んぁっ…は…アル…アルぅ…好きだよぉ…してえ…してえよぉ…!」
(にいさん、ねえ、気持ちいいの?)
きつく目を閉じて、エドワードはアルの姿を夢想する。エドワードの脳裏に現れるアルは彼を拒絶する事もなく、柔らかな身体をエドワードに預けた。たわわに実った胸の双丘を両手で寄せたり揉みしだいたりをくり返し、やがてエドワードの手が金色の茂みに到達すると誘うように紅い舌先でちろちろと舌舐めずりしてエドワードを見つめ返していた。
(ボクのココに入れたい?いいよ…いっぱいして…あん…ダメ…すっごく気持ちイイ…ボクのココ、にいさんのでいっぱいなの…あっヤダっ…もう…もう…)
「アルぅ!俺も…イク…くっ…ああっ!」
エドワードの手の中で欲望が強く脈打ち、再び吐精する。そして荒く息を吐きながら手を汚す体液を見ると、降り注ぐ湯でそれをすぐに流してしまったのだった。
セントラルで起こった事件はアルの心と身体をひどく痛めつけた。
事の発端はアル自身だったとは言え、彼女にしむけられた仕打ちはどんなに穏やかで気持ちの切り替えの早いアルでさえ立ち直れない程にひどいものだった。
そして事件から2ヶ月あまりが経った今でも、彼女はエドワードと身体を重ねることを拒む日々が続いていたのだった。
(アルの中に入れたい入れて出したり引いたりぐちゃぐちゃにして感じたい感じてもっと奥まで突っ込んであんあん泣かせて感じさせてやりたい…)
事件の後しばらくは自制心も利いたが、エドワードのような若い肉体をそうそう長く押さえておけるものでもない。次第に募る肉欲はかつて味わう事の出来た甘美な妄想を呼び起こし、そして自責の念に駆られながらこうして自らの手で処理する日々をくり返していた。
「なに考えてんだ…クソったれ!あんなにひでえ事されて、前と同じようにできる訳ねえのに。ああ…ダメだ、…焦っちゃ駄目だ。近寄っただけで前は怖がってたのがようやくあそこまでになったんだ…元に戻れる…絶対に…」
身体を清めながら、エドワードはくり返す。
「絶対に出来るんだ…元通りに…」
全身を包む水音にかき消されないように、強くそう呟いた。

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翌朝、ゆっくりとした時間に目を覚ましたエルリック兄妹はブランチをロブの店で取ろうと部屋を出た。
数十フィート歩いて辿り着いた「ものまねどり亭」はいまだ開店の準備も済んでおらず、慌てた風情のフィオナと苦笑しているロブがいた。
「ああああ!あっ、おはよう!いやあん!」
客がもう来たと(一応、エルリック兄妹も客ではあるが)思い込んだフィオナは手にしていた皿を慌てて落としてしまった。がちゃん!という悲惨な音にさしもの明るい性格のフィオナも肩を落とした。
「あーん…もう何枚目だろう…いやになっちゃうわ…」
「直してあげる。そっちに行ってもいい?」
アルは笑いながらそう言い、厨房に入ると割れた皿の破片を集めて両手を打ち鳴らした。青白い光を浴びて皿は瞬時に元通りの姿を取り戻す。それを見たロブが笑って言った。
「相変わらずすごいね!」
「破片がちゃんと揃ってれば、同じように直せるよ」
「残念。これまで割った皿は棄てちゃったよ。君がここに来るって分かってれば、全部取って置いたけどね!」
それから、パンケーキと香ばしく焼いたベーコンの朝食、そして紅茶をロブに振る舞われてエルリック兄妹は食事を済ませるとフィオナと話をした。
「恥ずかしいところを見せちゃったわね。あたし料理とか、そういうの全くもってダメなのよ。才能ってもんがないのよね」
フィオナはもう落ち込んではいなかったが、彼女にしては珍しいくらいに謙虚にそう言った。
「才能なんて関係ないよ!慣れれば失敗も少なくなるから大丈夫」
アルはそんなフィオナを気遣うようにそう言うとエドワードの方に向き直って話を続けた。
「ボクだって、最初は大変だったものねぇ?」
「あ?ああ…そうだな…フリッター作っても中まで火が通ってなくて冷たかったり肉を焼き過ぎてガチガチにしたり…一番キツかったのは分量を間違えてやたら塩ッ辛いシチューを5日間連続で食わされた事だったなぁ」
一応、全て事実だが、それをオーバーに身ぶり手ぶりつきで説明したエドワードにフィオナは驚きの声を上げながら言った。
「信じらんないわ!ロブからアルはとっても筋が良くて天才的だって聞いたわよ?」
「やだなあ。ロブはボクを買い被り過ぎてるよ。誰だって最初から上手く出来る人なんていないんだから。落ち着いてゆっくりやればフィオナだってちゃんと出来るようになるよ」
「そう?そうかしら?アルにそう言って貰えて、あたし自信が出て来ちゃった!」
まるで少女のように喜んでフィオナは小躍りしながら厨房に戻って行くが、振り向きざまこう言ってアルとエドワードを驚かせたのだった。
「ねえ、あたしからのお願いなんだけど、あんたたちがこの街にいる間だけでいいから、このお店をアルに手伝って貰えないかしら?」
フィオナの突然の申し出に、エドワードがまず声を上げた。
「おい、俺達は客として来てるんだぜ?」
「そんな事は百も承知よ。でもあたしはこんな調子だしロブは毎日困ってるの。ロブのお母さんも手伝ってはくれるけど、お父さんが身体を悪くしてそうそう来られないし…あたしを鍛えるつもりで手伝って欲しいのよ!」
「…エドワードさん、俺からもお願いしますよ。旅の途中でやる事があるのも承知してます。でも、フィオナが一生懸命にこの店を良くしようとしてるのを、止めたくはないんだ」
ロブが頭を下げながらそう言うのをエドワードは困ったように見ていたが、アルがエドワードの腕を肘でつついてからにっこりと微笑んで返事をしたのだった。
「ボクで良ければ!」
「ロブ!アルにいいって言って貰えたわ!あたし頑張ってもうちょっとマシになる!」
フィオナはそう言うなりアルの傍まで駆け寄って、そしてアルの頭を抱きしめた。メロンを仕込んでいるかと思う程のフィオナの豊満な胸に顔を押し付けられてアルは驚いて両手をばたつかせた。

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その日からアルは「ものまねどり亭」を手伝い始めた。
閑古鳥の鳴く「ものまねどり亭」でも、昼時は若干の客がやって来る。アルはかつて働いていた店でしていたように客をもてなし、厨房ではロブの調理を手伝った。フィオナは事ある毎にアルに質問をし、皿洗いをこなしている。忙しく動き回る他の面々をエドワードは店の隅に座ってぼんやりと眺めていた。
「なあ、フィオナはなんでロブとくっついた訳?正直な話、あんたなら男なんて選び放題だっただろう?」
昼の客も引いてまた閑散とした店内で、エドワードはロブの作ったパスタを食べながら目の前で同じように昼食を取っていたフィオナに尋ねた。
「あら、そんなの決まってるじゃない!美味しい料理をたらふく食べられるからよ!…なんて、冗談だけどさぁ。実際はあたしくらい歳も取れば、男は皆敬遠するわ。オマケに身体売ってたなんて知ればね。…だから、行くあてもなくてここに辿り着いて、懐かしい味に再会してもうここから動きたくなくなったの」
フィオナはエドワードの食べている量の倍はあろうかというパスタを器用にフォークにからめては口へと運び、その合間を縫って話を続けた。
「ロブは自分の料理を美味しそうに食べるお客が好きなのよ。だからあたしの事も好きになってくれた…でも、あたしはロブのあたしを好きよりも、もっと…多分、何倍も好きなの。だから、彼の為になるなら、なんだってするわ。今は役立たずだけど、あたし無しでいられなくしてやるのよ」
「うおお恐ええ!女ってのは恐いもんだな!」
唇についたパスタのソースをぺろりと舐め取りながら言うフィオナにエドワードは茶化してそう言うと大笑いする。
「もう!笑い事じゃないのよ!あんたのかわいいアルだって同じなんだから!」
半ば怒りながらフィオナは残りのパスタを口の中に放り込んだ。
「…そう言えば。その、あんたのかわいいアルは…なんだか元気がないみたいね?」
「…分かるか?」
「まあ、同じ女だもの。…セントラルにいた時も、同じ店で働いてた若いコが今日はお客取りたくなさげだなって時は分かったものよ。アルはなんだか空元気であんたを心配させないようにしてる感じだわ」
エドワードはフィオナに昨晩以来、アルが気落ちしているのを鋭く指摘されて顔色を曇らせた。
「…セントラルで色々とあって、さ…。誰にも干渉されずにのんびりと暮らせる場所を探してるんだ」
「あんたたちも色々あるのねえ…。話を聞くだけならいくらでもしてあげる。言えば気の晴れる事も多いのよ」
「ありがとう…」
フィオナの言葉に、エドワードは不意に母を思い出す。彼女と母は髪の色ぐらいしか似たところはないが、まだ言葉もままならない子供の頃、自分とアル、2人で1日中表で遊んだ後、帰宅した彼らを出迎えた母は食事の支度をしながら、よく兄弟の話を聞いていた。
彼らの錬金術の師匠であるイズミも厳しいながらも母性に溢れた人物だが、フィオナの優しさも男にとってみれば母親を連想させるのだろう。しかし。
「あら、食べないの?食べないならあたしにちょうだい!最近お腹が空いてしょうがないのよねぇ」
エドワードの食べかけのパスタを見て、フィオナはそう言うと手にしていたフォークをエドワードの皿に伸ばしてあっと言う間にパスタを絡めとってしまう。それには感傷的になっていたエドワードも流石に怒った。
「おい!まだいらねえとは言ってないぞ!くいしんぼ!そんなに食って太っても知らねえかんな!」
「いいのよ。あたしは2人分食べるの!」
まるで子供のように赤い舌を出して、フィオナは笑って言った。

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「街のはずれの空き地に移動遊園地が来てるらしいよ」
エドワードとフィオナに留守番を任せて、足りなくなった食材の買い出しに出掛けたロブとアルが戻って来ると、ロブは店番組の2人にそう言った。
「ゆうえんちぃ〜?へっ!ガキじゃあるまいし、そんなのに喜ぶような…」
エドワードはそう鼻で笑いながら答えたが、アルは買い出しの荷物を置くとエドワードに向かって言った。
「でもね、大道芸の見せ物もあって結構楽しそうだよ?時間がある時に行ってみようよ」
愛しいアルにそう言われては断る事の出来ないエドワードは渋りながらもそれを承知した。
そして翌日、早速昼の店の手伝いを終えたアルを伴ってエドワードは移動遊園地が来ていると言う空き地へと向かった。
小さいながらも数種類の遊戯施設と芸人を伴って各地を回っているその遊園地には子供を連れた母親などが既に訪れており、結構な賑わいを呈していた。
「おやおや、かわいらしい二人連れだ!どうだい?楽しい移動遊園地だよ!」
入口のチケット売り場の前で子供らに風船やキャンディーを配っていた道化師の格好をした男はエルリック兄妹を見てそう言うと、エドワードの手にキャンディをいくつか握らせた。
「ちぇっ!またガキ扱いだ!」
エドワードは貰ったキャンディをそのままアルに手渡すと、ふて腐れた表情でチケット2枚を買い、アルに1枚を手渡して遊園地の中へと入って行った。
遊園地の中は大掛かりな乗り物こそないが、回転木馬や回転ブランコ、道化師と動物が芸をする小さなサーカスやお化け屋敷、射的屋や様々な屋台、果ては合成獣なのか怪しげな生き物を展示するテントまであった。
過去の旅の途中でこうした遊園地に遭遇した事もあったが、アルと結ばれてからはそういった経験がないばかりか、世の恋人達がしている「デート」の類いすら、二人の間には皆無だった事をエドワードは思い出したのだった。
(こういうのもデートっていうのかね?まあ…たまにはいいか)
芸をする猫や犬を見て歓声を上げ、はしゃぎ回るアルを見て、エドワードは安堵する。こうして楽しい時間を過ごすうちに凍り付いてしまった気持ちも氷解するのではと期待を抱く。ところが、エドワードの手を引いてあちらこちらを見て回っていたアルが小さなテントの前でふと足を留めた。
「…あなたのみらいを…見通す…ふしぎな…いし…?」
テントにかかげられた看板には毒々しい赤い色の宝石のようなものが描かれており、更にテントの前に置いてある案内版には「催眠術で心のお悩み解消!」などという文句も書かれていた。
「どうせこんなのインチキだ。知ってるか?さもありそうな事を言って、客の反応を見て適当に言うんだぜ!全くもって非科学的なインチキ商売だ!」
自分の見たもの感じたものが全てのエドワードにとって、占いの類いは天敵のようなものだ。他人が無責任に語った言葉が自分の運命などというのは許せないと熱く語っていたが、そのエドワードの声を聞き付けたのか、テントの中から1人の男が姿を現した。
「坊や、商売の邪魔をしないでくれないかね?」
その男ははげ上がった頭を僅かに残った頭髪を必死に撫で付けた妙な髪型で、おまけに卵に手足の生えたような小男だった。まるで占い師などとは言えない、霊的なものを全く感じさせない男にエドワードは鼻で笑って答えた。
「悪かったねえ。そのインチキ占いであんまり善良な市民を騙し過ぎねえようにな!」
エドワードの言葉に小男は顔を真っ赤にして怒り出す。それを慌ててアルが取りなした。
「もう!兄さんはどうしてそんな失礼な事を言えるのさ!あ、あの…兄が失礼な物言いをしてしまって、ごめんなさい」
小男はアルを見るなりそれまでの怒りの表情をすっかり納めて紳士然として答えた。
「いやあ、お嬢さん、もう気にしてなどおりませんよ。それより、そんなに口の悪いお兄さんをお持ちでさぞかし心労も深いでしょう。どうですか?私の催眠術は気持ちを落ち着け、心の問題もすっきり解決の優れたものです。私はこう見えてもセントラルの大学で催眠術を研究し、国内くまなく巡って研究を続けておりますので、必ずやあなたのお役にたてるに違いない…」
請われるでもないのに勝手に喋り出した男を置いて、アルは兄の腕を掴むとその場を後にした。
「もう!あんなところで喧嘩を売らないでよ!気に食わなかったらやり過ごせばいいだけの事でしょう?」
「俺はあのインチキ臭い商売に率直な意見を述べたまでだっつうの!」
ぎゃあぎゃあと、昔からよくしていたように兄妹で口げんかをしながらも遊園地内を隈無く回り、そして2人は「ものまねどり亭」へと帰り着いた。店内は相変わらず客もいないようで、寂しげに入口を照らすランプが風に小さく揺れていた。
「ただいま…あ…」
店内に入ろうとしたアルが中の様子に驚いて咄嗟に戸を閉めた。エドワードが何事かとガラスの部分から中を伺えば、椅子に座ったロブの膝の上にフィオナが腰を下ろし、情熱的にロブの頭を自分の胸に抱きしめたり、顔にキスをしていたのだった。
「よぉ、お二人さん!いくら暇でもそこまでやる事ぁねえんじゃないの?」
わざと派手な音を立てて戸を開けたエドワードが意地の悪そうな笑顔を浮かべながらそう言うと、ロブが頬や額に赤い口紅の跡を無数に付けた顔を真っ赤にして慌てて立ち上がった。
「わっ!いや、そっ…これは…あ、あのね…」
「問答無用!もう見ちまったからなぁ」
にやつくエドワードだったが、一方で動じる事なくロブの膝から立ち上がったフィオナはエドワードの耳を指先で摘み、そのまま上へ引っぱり上げながら言った。
「お黙んなさい、坊や!あたしはダーリンに大事な話をしていたところなの!」
黙れと言われたが、耳を掴まれたエドワードは痛いと騒いで必死にフィオナの指から逃れようと身を捩る。しばらくしてようやくフィオナはエドワードの耳から指を離すとアルに向かって話し掛けた。
「ごめんね。つい誰も来ないから…」
「いえ、ボクらの方こそ…お邪魔ならまた後で来ますけど」
「あら!そんなに気にしないで!大した話をしていた訳じゃないのよ。今はまだ話せないけど、もう少ししたらあんたたちにも教えてあげるわ。ああ、それより、遊園地はどうだった?楽しめたの?」
エドワードとアルよりも10歳以上年上で、そしてロブとも7歳の歳の差があるだけあって、フィオナは一人平然とした面持ちでそう言う。アルは内心申し訳ないと感じていたのでそのフィオナの自然な返答に胸を撫で下ろしたのだった。
「うん。ああいうの久しぶりだったから面白かった!兄さんが占い師のおじさんにイチャモンつけなければ、もっと良かったかも」
「へえ。占い師ねぇ…占ってもらったの?」
「ううん。あまりそういうのは信じないから…占いだけじゃなくて、催眠術とかもやってたみたい」
催眠術、と聞いたフィオナが何かを思い浮かべるように視線を上方に泳がせ、それからこう言った。
「催眠術もさあ、全然効かないインチキもあるけど、あたしが前いた店の若い女の子で物凄く効いた子がいたのよね!」
アルとフィオナが話をしている最中、顔を拭いて厨房に戻ったロブがエドワードたちの為に料理を作り、差し出す。エルリック兄妹はテーブルに着くと早速手を付けたが、アルは依然としてフィオナと話を続けていた。
「…でね、自分から好きになった男をすぐに振っちゃって、また次のを探す訳よぉ!それがあんまりにもひどいから、お店のオーナーがさ、精神科の医者に連れて行ったの。その医者はたまたま催眠術も使える人だったから、その子の過去になにかあったかもって、逆…えーっと逆行催眠とかっていうの?それしてもらったんだって!そうしたらさぁ、これがもう出るわ出るわ!親に虐待されてた事とか自分ではすっかり忘れたつもりの事が、実はトラウマになってて今に繋がってたんだってさ!」
大きな胸を揺すりながら、身ぶりを交えて話すフィオナをアルはじっと見つめて真剣な面持ちで話を聞いている。フィオナも一層話し振りに熱がこもって、食事をしつつも耳をそばだてて聞いていたエドワードはそんな彼女に眉を潜めた。
「でも、術を掛けられている間は自分ではどうなってるか分からないじゃない?やっぱり不安よねぇ、ちょっとは興味があるけどさ!」
「うん…」
「アール!せっかくのメシが冷めちまう!」
もう我慢出来ないと言った面持ちでエドワードはフィオナとアルの間に釘を差すと、再び黙々と食事を続けた。エドワードの口調にさしものフィオナも話が過ぎた事を感じ取って小さくアルにごめんね、と囁いて厨房へと下がって行ったのだった。

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アルがその事に気がついたのは、痛めつけられた身体がようやく元に戻ってからしばらくしてだった。
入浴中、身体中のあざが消えてようやく以前の美しい象牙色の肌を撫でるように洗っていた時に不意に思う。
(…もう、ずっとしてないや…)
エドワードと気持ちを確かめあって以来、2人は体調が思わしくない時以外は毎日のように肌を重ねていたが、このところエドワードはアルの気持ちを気遣って肩に手を置く事すら遠慮していた。
アルはかつて少年ではあったけれど、性的な衝動を覚える前に肉体を手放してしまったせいで兄がどんな風に性欲を感じているのかはぼんやりとしか理解が出来ない。それでもアルが拒まなければ毎晩でも身体を求めて来た事を考えると、例え自ら処理をしていたとしても相当な忍耐を兄に強いているのだろうと思えて、兄に対して申し訳ない感情で胸がいっぱいになった。
(もう傷は治ってるんだから、してもいいんだよね…あとは、ボクが受け入れてあげればいいだけなんだ…)
そう思い、かつて兄が喜んで頬ずりした豊かな胸を自分の両手で持ち上げるように寄せた。
たぷたぷとした感触は以前のままだ。手の平で持ち上げたまま、泡だらけの指先で胸の先端に触れてみたが。
おかしい。
それまでは触れれば胸が高鳴るような甘い、痺れた感覚が得られたはずなのに、この時は痛みに似た刺激しか感じられなかった。敏感な胸の頂は指先の刺激に赤くなって勃ちあがりはするが、それは快感からは程遠いもので、触れているうちに痛みすら感じるようになってしまっていた。
驚いてアルは他の部分にも指を伸ばした。首筋、脇の下、ウエストのライン、まろやかな腰や内股、そして密やかな茂みの奥にさえ。
だが、結局どこに触れても似たようなもので、アルは落胆してバスタブの中に座り込んで肩を落としたのだった。
(どうしよう…)
それからも、必死になってアルは快感を得られはしないかともがくように自分の身体に触れた。
それはかつて鎧に魂を定着されていた時にしていた行為にも良く似ていた。
小さな子猫の柔らかな皮毛に触れる度、かつて触れた事のある記憶を必死に呼び覚まそうとした。
触れても感じられなかったが、触れていなくては全てを忘れ去ってしまいそうで恐ろしかった。いつか自分の身体を取り戻しても、柔らかさや暖かさを忘れてしまったらもう一生取り戻せなくなるのではと怯えていたのだ。
エドワードに触れてもらえば違うのかと思った事もあったが、手を握られても動悸がして息苦しくなるような状態で感覚を取り戻せるとは到底思えなかったのでそれは止めておいた。じきに嫌悪する記憶は遠くなり、かつてのように兄と愛を交わすことも可能になるだろうという希望だけを持ち続けて旅を続けていたのだが。
だが、フィオナとロブの仲睦まじい様子を見て、アルはいら立ちながら落胆しながらも必死で自分を守ろうとしている兄の気持ちに報いたくなったのだ。
食事時に機嫌を損ねていた様子のエドワードも宿に戻ってからは機嫌も元に戻っていた。ベッドに寝転んで日課の日記を付ける兄に身体を寄せてアルは小さく言う。
「あの…兄さん…しよっか?」
「はぁ?何か言ったか?」
アルの声が余りにも小さかったのか、エドワードは手帳から目を離さずにそう返事をする。仕方なくアルはもう一度、今度はもう少し声を大きくして言った。
「あの…アレ…しようよ…!」
「………ええ!?」
手帳を放り投げ、勢い良く起き上がったエドワードはいかにも驚いたといった面持ちでアルを見た。
「ずっと出来なかったから…それとも、したくない?」
頬を赤く染めてそう言うアルに、エドワードは姿勢を正して叫ぶように言った。
「そっ…そんな!したくねえなんて事ある訳ないだろ!でも、お前…もう大丈夫なのか?」
エドワードは昨晩アルが自分のキスを拒んだばかりなのを思い出してそう尋ねた。だが、アルは笑いながら、けれどほんの僅かに声を上ずらせて答えたのだった。
「だい…丈夫…もう痛いところも、ないもん…できるから…」
伏し目がちにそう答えるアルに、エドワードは再度不審そうに聞く。
「本当か?夕べだってダメだって言ってたのに?」
「昨日はちょっと気が乗らなかっただけだもん。もうできるから!」
アルが顔を赤くしながら必死に訴えるので、エドワードは仕方なく彼女を自分の隣に座らせると首の後ろに左手を回し、そして以前からしているように口付けてみる。
ところが、アルには髪を撫で付けながら頭皮をまさぐるように触れて来る兄の指がおぞましい虫のようなものにしか感じられない。その指は次第にうなじへと降りてゆき、アルのおとがいをなぞるように蠢く。重ねられた唇の隙間からは舌がねじ込まれたが、生暖かな感触にアルは思わず歯を食いしばってその侵入を拒んだのだった。
アルの仕種で自分は未だ受け入れられていない事を悟ったエドワードは気落ちしたが、それでも自分もこれまで我慢に我慢を重ねていたので、多少無理強いになってもアルが許すならとその先の行為に及ぼうとした。
エドワードはアルの上体を支えてやりながらゆっくりとベッドに横たえると首筋に食らい付くように口付け、それから着ているものに手を掛けてそれを脱がそうとした。服を脱がされる事にアルはさほど抵抗しなかったが、エドワードが彼女の両足の間に割り込もうと手を差し入れようとすると再び身体が強ばってしまう。
「なあ、足を開いてくれよ。これじゃ何かしようにも出来ないぞ」
兄の呆れたような声にアルは震えながら両足をわずかに開く。その間にするりとエドワードの左手が差し込まれたが、ほんの少しだけ触れただけでエドワードはそこから先の行為を諦めてしまったのだった。
「…やっぱり、まだ無理だ…」
自分の身体の上からすっと重みが消えて、アルはそれまできつく閉じていた目を緩やかに開いて兄を見た。
エドワードはアルを見ずに、顔を背けたままでいた。そんな兄から僅かでも身体を離そうとするかのようにベッドの頭の方に少しずつずり上がりながらアルは殆ど泣きそうになりながら訴える。
「いいのに…無理矢理にでもしてくれれば、よかったの…に…」
「…バカ野郎…自分だけ良くなってなにが楽しいんだってんだよ…何をしてやったって嫌々ながらで、あげく濡れてもない所に突っ込んでどうしようってんだ?義務でさせてやってます、てな風で気に入らない…だったら自分で始末した方がよっぽどいいぜ!」
吐き棄てるようにエドワードはそう言い、アルはその言葉に俯いてしまった。
妙にしんとした空気の中に、宿の外の、通りから聞こえる誰かの靴音が聞こえる。それが通り過ぎても互いに触れる事も顔を見る事も出来ずにしばらくそうしていたが、やがてエドワードはアルの方に向き直っておどけるように話し出したのだった。
「ま…まあ、別に、自分でなんとかできるから、しなくたって死なねえし!それによ、ほら…えーっと…妊娠するとかしねえとか、そういう心配しなくて済むってのはいいと思うんだけどな!だから…だからさ、お前が無理にしてくれなくてもいいんだよ…分かるか?」
先刻アルに言い放った言葉をやはり言い過ぎたかと反省して、エドワードなりに言い訳をしたつもりだった。子供の頃からしてやったようにアルの短い金髪をかき混ぜながらそう言うが、アルの表情は晴れる事なく俯いたままだった。

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(自分で出来るし)
(無理にお前がしてくれなくても…)
「じゃあ…ボクじゃなくてもいいの…?ボクはいてもいなくても同じなの?」
(この身体だって…兄さんが好きだから兄さんが綺麗だって言ってくれるから兄さんが欲しいって言ってくれたから兄さんが造ってくれたから兄さんがにいさんが…)
夜も更けてベッドの中に入れば、先刻の兄の言葉ばかりが頭の中で繰り返される。
アルはすっかり寝付いた隣のベッドのエドワードの姿を見つめて涙ぐんだ。
(この身体になったからって、いい事ばかりじゃなかった。力は出ないしすぐ疲れるし、生理は辛いし男の人にすぐ何かされそうになったり、実際されたし…)
鎧に魂を定着させられた時も、視覚聴覚以外を奪い取られた状態で何が支えになったかと言われれば、それは兄の「必ず元に戻す」の言葉だった。
アルは兄の言葉がまるで呪文のように自らを縛り付けるのを自覚している。けれどそれはアル自身も望んだ事でもあった。
(お願いだから、無理にでもいいから、ボクを欲しいって言ってよ…そうでなきゃ、ボクは兄さんの傍に居る意味を見出せないんだ…ボクの身体を愛してよ…ぐちゃぐちゃに掻き回してボクの中をいっぱいにしてよ!自分で出来るなんて、言わないでよ!)
もう、眠りにつくなどと言う事は無理だった。アルは服を着るとそっと部屋を抜け出した。

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「アルっ!アルがぁぁぁぁ!アルがいねえんだよぉぉぉ!」
「ものまねどり亭」にそう叫びながら飛び込んだエドワードの顔面を強打したのは、フィオナが握ったフライパンだった。鼻血を出しながら昏倒するエドワードを上から見下ろして、フィオナは仁王立ちになると鬼と見まごうような恐ろしい形相で言った。
「だぁれが、居ないってぇ?あん?坊や、言ってごらん!」
「やめなよ、フィオナ!俺のフライパンをそんな事に使わないでくれよ!」
商売道具を取り上げられて驚くロブが取り押さえるのも聞かず、フィオナはエドワードの後頭部をフライパンで殴打する。5発程殴った頃、ようやく両手を取り押さえる事に成功したロブが妻を手近な椅子に座らせると倒れたままのエドワードを抱き起こした。
「な…なん…で…なぐられ…る…」
「アルが居なくなったから、探しに来たんでしょ?フィオナはその事を怒ってるんですよ」
まだフライパンで殴られた顔面と後頭部がひどく痛んで頭はぼんやりしたままだったが、椅子に腰を下ろしてフィオナを見たエドワードは彼女がそれまで見た事もないような恐ろしい顔で自分を睨み付けている事に気がついて一気に目が覚めた。
「あの…アルが…俺が目を覚ましたら居なくて…」
胸の前で勇ましく腕を組んでエドワードを睨んでいたフィオナがその言葉を聞いて、こめかみに血管を浮かび上がらせながら言った。
「そりゃそうでしょう、あんたの所になんて居る訳ないわよ!あの子、うちの2階で寝てるわ!…夜通しうちの店の前で座り込んでたのよ!」
エドワードはフィオナに耳を摘まれて店の二階へと引っ張り上げられる。普段はロブたちの寝室になっているらしいその部屋の、一番奥まった所に置かれているベッドにアルは寝かされていた。
「あ…」
何事も無かったかのように安らかな寝息を立てるアルにエドワードは安堵し、声を掛けようとしたが、フィオナがそれを遮ると再び階下の店へとエドワードを引きずって行った。そして今度はテーブルに彼を着かせると低い声で問い質したのだった。
「あんた、アルに何を言ったの?」
天国だの地獄だのは信じないエドワードだが、地獄の入口で審判を受ける時はこんな心地なのだろうと思いながら何も言えずに畏まっていると、フィオナが右手を握り締め、テーブルに振り下ろした。どん!と女性のものとは思えない程の力強さでテーブルは揺れ、フィオナの後ろに立っていたロブも肩を竦ませた。
「なにって…べ…」
「ウソをお言いでないよ!さあ、全部吐きな!」
「ぜ、全部って…」
「そう!アルはね、今のままじゃ自分は必要じゃ無くなっちゃうって泣いてたのよ!あんたとキスも出来ない身体じゃ、あんたのお荷物になるだけだって!」
「なんだって…俺、そんな事を言った覚えは…」
フィオナの迫力に押されたこともあったが、何故アルがそう思い込んでしまったのかを知りたくもあり、仕方なく、アルが精神的なショックから自分と触れ合えなくなったこと、そして夕べの会話をフィオナに説明した。
エドワードが話を進める度にフィオナは怒りの矛先を次第に納め始めた。そして話が終わるとふうっと溜息をついて美しいウェーブの掛かった栗色の前髪を掻き上げて呟くように言ったのだった。
「…坊やの言い方がちょっと悪かったのねぇ…でもね、幾ら辛そうだからって全てが出来ないような風はダメよ。あたしはこの通り不器用でロブの役に立って無いかも知れないわ。こう言っちゃなんだけど、前の商売で嫌って言う程お金は稼いでたから、人出が足りなきゃあたしのお金で人を雇えば済む話だったけど、それでもあたしは、あたし自身でロブの為に働きたかったのよ…ロブはいい迷惑だったろうけど、受け入れてくれたわ。あんたは、自分が我慢すればアルは苦しい思いをしなくて済むって思ったんだろうけど、それこそあの子を苦しめる元になったのよ」
今までの自分の行為や言葉がアルに取ってのプレッシャーになっていたと聞き、エドワードは愕然とした思いでフィオナを見た。
「そんなつもりじゃ…なかったのにな…」
「つもりじゃなくても、そうだったの。キス出来ないなら、唇に指先で触れてあげなさい。抱き締めることが出来なかったらせめて指先だけでも握り締めてあげなさい…これからも一緒に居るんでしょう?あんたが我慢して済む話じゃ、もうないの…あんたが喜べばあの子も嬉しいし、気持ちいいのよ」
フィオナは話を終えると、彼女は軽やかな足取りで再び二階へ向かう。そして数分後アルの手を引いて姿を現した。
エドワードがフィオナに問いつめられている間に目を覚ましていたのか、寝起きではあったがすっきりとした顔でアルは現れたが、それでもエドワードの顔を見ると恥ずかしげに俯いてしまった。
「さあ、もうエドの所にお戻りなさい。今日店の手伝いはいいわ。ゆっくり休んだ方がいいでしょう」
フィオナにそう促されてアルはエドワードの前に追い立てられる。エドワードは黙って左手を差し出してアルの手を掴むと、ロブらに挨拶をして店を出、そして宿へと戻ったのだった。互いに使っているベッドに腰掛け、向かい合ってそれから話をした。
「…店の前に居たんだって?」
「…フィオナに相談したくて…でも、もう夜中だったから…」
アルが言うには、しばらく街中をふらついたが結局行くあても無く「ものまねどり亭」の前で座り込んでいたのだと言う。そうしている内に夜が空けて、起き出したフィオナに発見されたという事のようだった。
「アル、俺は…お前に触りたいよ…思いきり抱きしめたいし…キスしたい…でも、お前がほんの少しでも怯えたり、辛そうだったりすると、もうそれ以上出来なくなっちまうんだ。お前と初めてした時の事を…思い出すんだ…」
ある時、エドワードはアルを三度殺したと形容したことがあった。一度目は人体錬成の失敗により、アルの肉体が奪われた時、二度目は少女の身体へとアルの魂を定着した時、そして三度目がほんの小さな誤解からエドワードがアルを暴行した時だと言った。
力の弱い少女の身体では抵抗も出来ず、エドワードの陵辱に全てを奪い取られて抜け殻のようになったアルの姿がエドワードの脳裏に鮮やかに蘇る。その姿はエドワードから思考能力の一切を奪い取る程の興奮ももたらしたが、一方で鋼鉄の鎖を身体に幾重にも巻き付けられて拘束されたかのような感覚をももたらしたのだった。
「俺達は何度こんな事を繰り返せば…いいんだろうな?それとも、永遠にすれ違って、苦しんで…そうして、終わるのかな?」
エドワードは彼らしくなく弱く、小さくそう呟いて、膝の上で組まれた両手で今度は頭を抱え込む。そんな兄の姿に、それまで沈んだ表情のアルが逆に兄を睨んで叫ぶように言った。
「イヤだよ!ボクは絶対元に戻りたい!そりゃ…今日みたいに落ち込んだりするかも…するけど、でも!ボクがこの身体を貰って、そうして生きていられる意味を、兄さんと一緒にいる為だって、その答えを出せるようにしたいんだ!」
アルの言葉にエドワードは顔を上げると、苦笑して言った。
「やっぱり、お前の方が何でも強く出来てるな…勝てねえよ…」
「そんなこと…でも、ボクを引き上げてくれるのは、いつだって兄さんだよ?ボクの前にはいつだって兄さんがいるんだ」
それはアルがこの世界にエドワードの弟として生を受けたその瞬間から、こうして姿を変え愛しあうようになっても変わらない。
「もうすこしだけ…待ってて…絶対に、元に戻ってみせるから…」
かつて、兄に言われた言葉を今は自ら口にして、アルは微笑んだのだった。

今回、ひとつひとつが長いな〜。自分の中ではこの話がないとこの先も書けない大事な話なんだけど、長くはならないはず、だったのが…(汗)。

次の話は兄さんが苦しくて苦しくてしょうがない話です。え?どんな風に苦しいかって?そりゃもう…アレを我慢させられる訳ですよ!

…と、期待を持たせておいて続く〜。

   


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