兄×妹でいよいよラストです。
途中で成年向けなシーンあり。

「うわぁ…ひどい顔だなぁ…寝てないんですか?」
「おっ…おう!なんせアルがひっついて離れなくってさぁ!」
 ロブがエドの真っ赤に充血した目を見てそう言ったのを、エドは苦笑しながら答えた。
「それはそれは…」
「もうアルのおっぱいがぴったりむちむち密着してるからさぁ!夜中に五回程鼻血噴きそうになっちまってとにかく大変だったんだ!」
「い、生き地獄だな。…同情します」
 本当は一晩中メソメソと泣いていたからに他ならないのだが、ロブがエドの作り話を信じ込んだようだったのでこれ幸いとエドは話を続けた。
「ねえ、フィオナにアルの面倒を見て貰って、ちょっとスッキリして来たらどうかな?」
 思いもよらぬロブの提案にエドは驚いたが、有り難く受け入れる事にする。
「ほら、兄ちゃんはちょっと疲れてるから休ませてあげな!」
 泣き出しそうな顔でエドに着いて行こうとするアルをフィオナがなだめ、そしてエドはベッドに倒れ込むとしばしの睡眠を貪った。
 3時間程眠り、そして起きたエドは再びロブとフィオナの元を訪れた。
 相変わらず客のいない店内に、フィオナがアルに紙と鉛筆を持たせ何かを書かせようとしている。
「あ、エド!この子に名前くらい書けるように教えようと思うんだけど、アルって愛称でしょ?本当の名前は何て言うの?」
 フィオナの問いにエドは答えた。
「アルフォンス…アルフォンス・エルリックだ…」
「男の子の名前じゃない?」
「うん、そいつ元は弟だったから…あんたたちには世話になったから、本当の事を話すよ」
 そしてエドはロブとフィオナに自分とアルの過去を話した。
 自分が失われたアルの肉体を造り、過ちからアルを傷つけ、そしてセントラルを出るきっかけとなった事件…全てを話し終えたエドは最後にこう付け加えた。
「故郷に…リゼンブールに戻るよ。アルは戻りたくないって言ってたけど…こんな風になっちまったら俺一人じゃ面倒見切れないかも知れない。…あそこはアルの事を面倒見てくれる奴らがいる…今なら、やり直せるから…」
 エドの話を聞き、フィオナはすっかり引き込まれたように涙をぼろぼろと流しながら隣に座ってきょとんとした顔のアルを抱きしめていた。
「あんっ…あんたたちって…なんて…ああ、神様はなんてひどい事をするのかしら!エドも…アルも!もう自由に好きな事をすれば良いのよ!こんなにちっちゃい子たちに辛すぎるわ!」
 エドにとっての禁句を口にしたフィオナに少々機嫌を損ねながらも、エドは礼を述べた。
「大して役に立てなくて悪かったな…せめて軍の奴らにこの店の事を宣伝しておくよ…二人も、身体に気を付けて…フィオナ、食い過ぎてぶくぶく太らないようにしろよ…」
「うう…ありがた迷惑な言葉ね…聞かなかった事にしてあげる…エドも元気でね…」
「アルがまた料理を作ろうって気になったら…レシピを全部書いて送ります。あと…もし気が向いたら…また遊びに来て下さいよ、それまでにもうちょっと客のいる店にしておきます…」
 互いにしんみりとしながら言葉を交わし、そしてエドとアルは宿へと戻った。
 アルは宿に戻ってもフィオナから貰った紙と鉛筆に夢中で字なのか絵なのか分からないものを必死になって書いていた。エドはその隙にと少ない手荷物の整理を始めたのだった。
 ベッドの上に荷物をぶちまけ、順番に手に取りながらそれらをトランクへと詰めていた時。
「…なんだ?飴玉?」
 エドはトランクに詰め込もうとしたアルの上着のポケットにキャンディが残っていることに気がついた。
 このまま入れっ放しでは飴が溶け出して大変な事になるとさすがのエドも気がついて、カラフルな包み紙に包まれたキャンディを取り出す。だが、それがあの移動遊園地に入園する時に貰ったものだと気がつき、そのキャンディを自らの手の平に載せたまま、じっとそれを見つめた。
(…四つ貰ったはずだったのに、一つ減ってる…?)
 アルの上着のポケットには三つのキャンディしかなかった。だが、エドはアルがキャンディを口に入れるところを見てはいない。
(寝る前にモノ食うなって怒ってたのはいつもアルだし、もちろん今みたいになってからは上着に入りっぱなしだから食う訳ねえしな…アルがこいつを食うチャンスって言えば…あのクソ親父の所に行くまでの間しかねえ…)
(再び移動遊園地があの街にやって来るまで、あの子はそのままだろうな!)
 あの男の言葉がエドの脳裏に蘇った。
 これを手渡した道化師は遊園地と共に、他の街へ向かってしまった。
(道化師…いいや、そんな簡単なもんじゃないはずだ、でも…何かが…)
 考え疲れ、つい手にしていたキャンディを食べてしまう。
 しかし、エドは、そんな自分の姿を見て怯えたような表情をしているアルに気がついた。
「…どうした?お前も食べたいのか?」
 アルは泣きそうな顔でいやいやと首を横に振っており、その姿にただならぬものを感じたエドは突如としてにこやかな表情を作り、怯えるアルを手招きした。
「かーわいーいアールーちゃーん!おにーちゃんとあそぼうかー?」

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「さー、こっち来てごらん!」
 エドはベッドの上の荷物を大急ぎでトランクへすべて詰め込むと、空いたそのスペースに腰を降ろした。
 そしてエドを良く知る人間が見ればあまりの違いに絶句するであろう、そんな猫なで声を発しながら、エドはアルを誘った。
 だが、当のアルは未だ怯えた表情でエドに近づこうとはしない。
(やっぱりこいつを怖がってやがる…)
 エドは手にしたキャンディの包み紙を素早く取り去って、そしてその中身を口の中に放り込んだ。
 そして再びアルに向かって呼び掛けたのだった。
「ほうら、もうキャンディないから!にいちゃんと遊ぼう!」
 両頬をキャンディでリスのように膨らましつつそう言うが、まだアルは警戒してエドの言う事を聞こうとはしなかった。
 ならば、とキャンディを舌下に隠す。
「アル!もうキャンディないぞー大丈夫だからこっちに来い!」
 エドは口を開けてキャンディが口中にないことをアルに見せた。するとようやく表情を変えて、それでも恐る恐る、といった風にアルはエドの元へと近寄って来たのだった。
「良い子だな!じゃあ、兄ちゃんとチューしようか?」
 依然舌下にキャンディを隠しながらエドがそう言うと、アルが不思議そうにエドの言葉を繰り返した。
「ちゅー…?」
「そっ!兄ちゃんとチューしようぜ…こうやって…」
 逃げられないようにと、エドはアルの頭を両手で押さえると、顔を寄せる。きょとんとした表情で兄を見るアルの半開きの唇に自分の唇を徐々に近付けて、そしていよいよ唇が触れるという段になって、勢い良く頬のくぼみを左手で押さえ付けて唇を重ねたのだった。
(いっ…今だ…!)
 幸いにも、アルはその奇妙なキスに抵抗する事はなかった。
 エドは隠していたキャンディを素早く舌先でアルの口中に押し込むと、アルの顎を押さえ付けながら鼻をつまんだ。
「んんんーっ!」
 エドの強引なその行為にアルは目を白黒させながら抗った。
 意識はまるで子供のようでも身体は大人並みに育っているアルを、エドは必死の形相でアルに馬乗りになると押さえ付ける。
 まるでかつての兄弟喧嘩のようにベッドの上で二人の身体が大きく跳ねた。
「あの変態催眠術師がしてた事を、お前は見ていたんだ!アルの身体の中で…このキャンディが催眠術を解く鍵だって事を知ってやがったんだ!そうだろう?お前はその身体の中に生まれた元々の人格だ!ああ、俺だって悪いとは思っているさ!お前の身体にアルの魂を入れちまったんだからな!でも…アルに身体を…与えてやりたかったんだ!アルが…俺は欲しかったんだよ…だから、恨むなら俺を恨め!…アルにお前の身体を使わせてやってくれ!返してくれ!俺にアルを返してくれ!愛してるんだよ…あいつを!」
 必死で叫ぶエドの言葉に一瞬、アルの表情が固まったのはその時だった。
 そして、彼女は哀しげな面持ちでエドワードを見ると、ほろり、と涙を金色の瞳から零したのだった。
「どっ…ち…だ…?」
 エドの訴えに抵抗する事を止めたアルは、やがて瞳を閉じた。
 深い眠りに引き込まれたかのようにそのまま動かず僅かに分かる呼吸にエドは戸惑ったが、しばらくしてまた瞳が開き、エドの顔を見返したので恐る恐るながら、彼女に呼び掛けた。
「あ…る…?」
「………」
 自分と同じ色の瞳がきょときょとと、エドとその周囲を見回していた。
「アル…分かるか?アル、アル?俺だよ!なあ、アルなんだろ?」
 名を呼ばれ、それに反応するかのように、アルは腕を天に向かって突き伸ばすと、そのままその腕をエドの首の後ろに回して抱き着いた。
「え…ど…」
 穏やかな声色でアルは呟く。それを聞いた途端、エドは自分の行為が無駄足だったのだという失望の念でがくりと肩を落とした。
「はは…やっぱ…そう簡単にいくわきゃねえなぁ…」
 エドの首の後ろに回された細い腕はいまだしっかりと巻き付けられていて弛む気配はない。
「ほら…アル、もう離せよ…ごめんな、恐い思いさせたな…」
 なだめるように声を掛けたエドだったが、次の瞬間、ぴたりと彼の身体の動きが止まった。
「…バカ兄…エドワード・エルリック…ボクの、たったひとりの兄さん…」
「…う…わああああ!アル!アルが…アルだあああああ…ぐぁっ!」
 アルは自分の上に馬乗りになっているエドが突如として叫び出した事にさすがに驚いて、あらんかぎりの力をこめた両の手で突き飛ばすと、素早く起き上がり身構えた。
 一方でエドはベッドから弾き飛ばされるように落とされ、その勢いで後頭部を激しく床に打ち付けた。
「っ…てぇ…」
 床が絨毯敷だったので流血の事態は免れたものの、目から火花が飛び散りそうな衝撃に顔を歪ませたエドは、打ち付けた箇所を左手で撫でながらよろよろと立ち上がる。そして次の瞬間、もう何日間も聞く事のなかったその呼び声を耳にしたのだった。
「もう!落ち着いて!どこに逃げも隠れもしないよ!」
「あ…アル…戻れた…お前…よかっ…よかった…」
 エドが見慣れている、いつものアルがそこには存在した。
 そんな彼女へエドはふらふらと近づくと、ベッドの手前で跪き、それから詫びるような声で話し掛けた。
「ごめんな…俺は、お前がどんなに思い詰めてたか、全然、分かってなかった。元はと言えば、俺がしでかしたことだってのに…なのに、女になっちまっても、俺にどんなに酷い事をされても…俺に…ついて来て…変わんねえ…お前、ガキの頃から、変わんねえよ…」
 最後には震える声でそう言い終えたエドに、アルは今度はしっかりとした声で応えた。
「…昔から、ケンカしてぶたれたり、泣かされたり…兄さんの横暴には、もう慣れちゃったよ」
 言った後でくすりと笑うアルに、エドもつられて笑顔を見せた。
「言うな…」
「でもね…ボクにはもう、兄さんしかいないから…愛してるって言いたいのは、兄さんしかいないって…心の底から、そう思うんだ…」
 アルは跪いたエドに向かって両手を広げると微笑んだ。
「来て。ボクの事、欲しいって言って…」
「アル…」
 柔らかに、そして大きく広げられたアルの細くしなやかな両腕に誘われるように、エドはその腕の間に身を投じると、そのまま彼女を抱き締める。
 抱き締めればその余りの細さに驚きの声を上げそうになるが、それよりも先にその身体を逃すまいとより一層力を込めてなめらかな背を、たおやかな腰に縋り付いた。
「なあ…アル、もう…大丈夫なのか?」
 だが不意に、エドは心の中にあった懸念をアルに問い質した。
「その…こんな風にしてても…イヤじゃないのか…?無理してるんなら…止めるよ」
「無理に?どうして?」
 さも不思議だと言わんばかりの表情でアルはそう聞き返すが、やがて微笑みながら言葉を続けた。
「どうして兄さんみたいに、こんなにやさしい人を怖がらなくちゃいけないの?ボクがこの身体のずっと奥に閉じ込められていた時も、やろうと思えば、ボクの身体を好きなように出来たはずなのに、そうしなかったじゃない?ずっと、ずっと我慢してくれてた…そんな人を、もう恐いだなんて、思えないよ」
「じゃあ…」
「…兄さん以外の人はやっぱりイヤだけど…」
「…当たり前だ…好きになられちゃ困る!」
 互いに抱きしめあったままで言葉を交わす。こんな恋人同士なら当然の仕種がそれまでうとましくて仕方がなかった日々が今では嘘のようで、アルは兄の熱や匂いを直に感じながら、自身の身体をエドへとすっかり預けるようになっていた。
 身じろいだ時に発する、僅かな衣擦れの音と、深く静かな呼吸音とそして互いの心臓の音だけが今やエドとアルの世界に存在する音となっていく。
 だが、そんな心地よい空間を打ち破ったのは、アルの方だった。
「ねえ…兄さん…」
「ああ…?」
「しようよ…」
「しっ…!」
 勢い良く身体をアルから離し、エドは驚愕の声を上げた。
「しっ…ししし…しようって…」
「兄さんとしたいの…いっぱい…今まで出来なかった分、したいんだ…兄さんはしたくない?」
「ばっ…したくねえ訳ないだろ!いいのか?本当にいいのかよっ!」
 噛み付くように問うエドに、アルはわずかに頬を赤く染めて、そして返答の代わりに来ていたシャツのボタンを外しはじめる。やがてこんもりと盛り上りよく熟れた果実のような胸の膨らみが姿を見せて、途端にエドはその胸に飛びついた。
「あ…アルのおっぱいだぁ…」
 付けていたブラジャーもたくし上げられて、ぶるりと揺れながら外気に晒された乳首は平時よりも紅く、ぷつりと硬い実をつけていた。
 乾き切った喉をうるおさんとばかりにエドはその実を口に含むと、吸ったり舌先でこねまわしたりはたまた軽く歯を立てながら刺激する。
 すると、アルはふる、と上半身を震わせて兄の頭を抱きかかえた。
「やだ…噛まないで…良過ぎて…おかしくなりそう…」
 アルのしゃがみ込み、微かに擦り合わされた太股の奥に、エドは思い切って左手を差し入れた。瞬間、びくり、と引きつるような緊張が生まれるが、すぐに力は抜けて、それどころか誘い込むかのようにその隙間が広くなった。
(熱っ…すっげえ…)
 エドの指先が到達したその場所は、体温と同じ熱を孕んだぬかるみと化していた。
 指はすぐにぬるりとした蜜にまみれて侵入を容易くし、それどころかエドの手の平まで滴って濡らす。
 エドは驚いてアルを見ると、彼女は恥じらいながらも興奮のまっただ中にいるようで、ほんの少しうかした腰をゆるやかに動かして、上気した頬を染めて微笑んだ。
「ごめん…我慢できない…」
 謝りながらも、エドの指から与えられる快感にアルは歯止めが利かず、腰を揺らす。やがてひっと息を詰め、エドの着ていたシャツの裾を握り締めたかと思うと、エドの指先に生暖かな蜜を更に浴びせかけて果てたのだった。
「もっと…いっぱい、しよう…」
 アルは驚く程大胆に、身に着けていた服を次々と脱ぎ出して、そしてしまいにはエドの服にまで手を掛けて、それらをすべて剥ぎ取ってしまった。
 それから先刻とは逆に、エドの上にのしかかり、引き締まった筋肉を慈しむように唇を這わる。
 唇は上半身から次第に胸や腹を愛撫し、そして力強く脈打ち始めた欲望に辿り着くに到って、エドは堪らず、それまで抑えに抑えていた想いと共に精を放ったのだった。
「あっ…アル…ごめ…」
「いいよ…まだ…いっぱいできるもん…」
 アルは自身の手の平に吐き出されたエドの体液を愛おしげに眺めると、それをへこんだ腹に擦り付けるように塗り込める。そうしてからまだ力を失っていないエドの欲望に手を添えると、そのまま跨がるようにして腰を落としていった。
「あっ…こうする…の…ひさ…し…振りぃ…」
「うん、お前の中…忘れちまいそうだった…でも…ああ…こんなに…いいなんて…アル…もう…どこへも、いく…な…うっ…」
「にいさん、兄さん…ダメ…ボク…あっ…また…い…」
「アル、もう俺から離れないでくれ…頼む…」
 濡れた音に混ざって二人は互いを離すまいと必死に名を呼び合うが、先に高みへとさらわれたのはアルの方で、白い喉元と血印をエドに晒しながら果ててしまった。
 仰け反らせた背をゆっくりと元に戻し、エドの硬い腹筋の上にうつぶせるようにしたアルはそれからまた腰を動かし始める。
「…もっと…兄さん、いっぱい…ちょうだい…」
 静かに、エドの耳元でそう呟きながら。

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「ねえロブ、あんたが見て来てよ!」
「ええーっ?でも言い出しっぺは君だよ?」
「あたしは今日は体調が悪いのよ!もし部屋の中で大事になったらあたしじゃどうにも出来ないのよ!」
「うーん…仕方ないな…じゃあ行って来るよ」
 エドとアルが故郷に戻るとロブとフィオナに告げた翌日の午後。
 いつもなら昼前に姿を現す兄妹がいつまで経っても店を訪れない事を心配したフィオナは宿の部屋を訪ねる事を提案していた。
 だが、当のフィオナは何かと理由をつけてその役目をロブに押し付けるような形で任せたのだった。
 渋々ロブは「ものまねどり亭」の隣に建つ宿を訪ねる。顔見知りの宿の主人に断って兄妹の部屋までの案内を頼むと、宿の主人はくくくと何かを堪えるように笑って言った。
「随分と激しい夜を過ごしたようだから、まだ眠っているかもしれないよ?いやぁ、うちもおたくの店と同じで閑古鳥が鳴きっぱなしだが、今度ばかりは他の客の迷惑にならなくて良かったよ」
 ロブは宿の主人の言葉に首をかしげながらも部屋の前まで案内を受けた。
「エドワードさん?こんにちわー、俺です、ロブです」
 ロブはドアをノックしながらそう言うが、部屋の中からは返事がない。もう一度、と同じようにノックして声を掛けると、今度はややしてからドアノブがゆっくりと回され、ドアが僅かに開いたのだった。
「エドワードさん?」
 数インチ程の隙間から顔を覗かせたのはまさしくエドだった。ロブはそれにほっと安堵するが、だがエドが余りにも疲れた様子なのを不思議に思い、隙間から室内を伺うように尋ねた。
「あの…二人が店に来ないからフィオナが心配してるんです…どこか身体の具合でも悪くしたんですか?」
 エドは上半身裸のまま、腰にはベッドの上掛けのようなものを巻き付けたいでたちだった。そしてその後ろをぐいぐいと引っ張る誰かがいて、エドは腰の布を剥ぎ取られまいと必死に抵抗しつつ、げんなりとし表情でロブに答えた。
「あ…ああ…ちょっと大事な事を、アルとだな…それより、何か食うもの、差し入れて欲しいんだけど…飲み物も付け…うわっ!こら!引っ張るな…分かったから!」
「はあ…いいですけど…でも、なんだか顔色悪いけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だと思う…ああーっ!ダメだ!もうちょっと待て!じゃっ…じゃあロブ頼む!ドアの前に置いといてくれ!」
 腰の布が引きちぎれんばかりにぴんと張って、エドは慌ててドアを閉めた。
 残されたロブはエドの奇妙な様子に首をかしげながら「ものまねどり亭」へと戻ったのだった。

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「待てーっ!」
「…まだ、足りない…」
 腰の布を遂に剥ぎ取られたエドは床に倒れ込みながら後ずさったが、そのエドを追い詰めようとしていたのは裸のまま、獲物を狙う猫のように四つん這いの体勢のアルだった。
「なあ、ゆうべっからもう何発出したか、忘れちまうくらい、しただろ?もう俺無理…」
「無理なら、寝ててくれるだけでいいよ。ボクが勝手にするから」
「勝手にって…だあーっ!」
 そう言っている傍からアルはエドの股間に顔を埋めては、すっかり精を出し尽くして力なくしおれたままの欲望を口に含んだ。
「あっ…も…なんにも、出ねえよ…アル、離して…」
 最も敏感な欲望の先端に軽く歯を立てるように刺激しながら前立腺にも刺激を加える。
 既に数度前の射精から精液は尽き、乾いた絶頂感にエドは泣きそうに顔を歪めながらアルに向かって許しを乞うた。
 やがて再び勃ち上がった欲望に、アルは赤く腫れた亀裂をあてがいそのまま腰を落とす。
 エドと同じように、幾度となく達し、擦り上げられたその部分は見た目にも痛々しかったが、それでも自身の内部が満たされた感覚にうっとりと目を細めた。
「兄さん…ボク、ずっとこうしていたい…繋がっていたいんだ。このまま身体が溶けてしまって兄さんと混ざりあってしまえばいいとまで思うよ…ボクは…おかしい?」
 ゆっくりと腰を上下させ、そう話すアルに、エドは左手を伸ばしてふるりと揺れる豊満な乳房に触れ、疲労の浮かぶ顔で微笑んだ。
「俺も…今はちょっとやり過ぎだけど…お前を離しちまったら、またどこかへ隠れちまうんじゃないかって気がする…もう、そんなのはご免だ」
 エドの言葉に、アルは表情を硬くし、そして兄の身体を愛おしむかのように頬をその胸に寄せた。
 彼女の発する言葉がわずかに震えているのがエドにも感じ取れる。
「…ねえ、兄さん…ボクのこの身体の…ずっと奥に…女の子がいたんだ。あの催眠術師にセントラルでの出来事を思い出すように仕向けられた時、どうしてもつらくて嫌で…そこに、彼女が現れた。この身体を明け渡してしまえば楽になれるって言われて…後は兄さんも知っている通りだけど…」
アルはしばらく話す事を止め、エドの顔を見た。自分が今にも泣き出しそうな顔をしているのを自覚していたが、兄が造り物の右手で髪を撫でたのでどこか安堵して続きを話す事が出来た。
「…魂はそこに存在すると言うのに、身体が思い通りにならないもどかしさがあった…ひどく厚くて大きな何かに遮られて、この身体の中に存在するもう一つの魂がこの身体を思い通りに動かすのを、指をくわえて見ているだけなんだ…ひどくみじめで、寂しい場所で…」
「アル…つらい思いを…」
「いいよ。兄さんのお陰で、なんとかこうして戻る事が出来たからね…」
 エドが詫びるのを制してアルは笑う。しかし次に彼女の口から出た言葉にエドは大きな衝撃を受けざるを得なかった。
「もし…もしも、もう一度同じような事が起こってしまったら…ボクはもう、戻らないよ…ううん、戻れないんだ…だって…この身体の本当の持ち主なのにあの子は…ずっと、あの寂しい場所で待っていたんだ…今だって、ボクがこうして兄さんと抱き合っているのをきっと…ひどくみじめな気持ちで眺めてる…誰かをそんな気持ちにさせてしまうなら、ボクはその立場に甘んじていた方が余程いい」
アルはそう言うと、再びエドの胸に顔を埋めた。そうしながら、兄の、自分の肩を抱く左手が強く力を帯びている事に気がつく。きっと、兄はこんな事を言う自分に怒っているのだろうと思って小さく嘆息した。
「…ごめんね…」
「許すかよ、そんな…事…」
 エドが明らかに怒りを含んだ声で呟いた。
「俺はそんな事を認めないし、させやしないぞ…だって、そいつがお前の魂を受け入れたから、こうして魂が安定して定着していられるんだ!お前が遠慮する事なんてないんだ、そうだろう!」
「…わがまま言わないで…」
 まるで子供の頃のように我を張る兄に、アルは母がかつて自分や兄にしたように兄の頭に手をやり、優しく撫で始める。
「忘れないで欲しいんだ…たとえそうなっても…ボクの魂はこの身体の中に在ることを…その場所は本当に寂しい場所だけれど…兄さんが笑ってくれたら…愛してるって言ってくれたら、ボクはそれをボクと、そしてもう一人の女の子への言葉だと受け取るよ。それさえあれば、ボクはあの場所でも構わない」
「嫌だよ…アル、俺は…」
「そうなるって決まった訳じゃない…でも、お願い…約束して…その時が来たら。愛してるって、その言葉をボクとあの子に。兄さんはきっと出来るよ…」
 母に良くにた面持ちのアルにそう諭されて、エドはそれ以上反論する事が出来ずに彼女から顔を背けてしまった。
「…なんだか、眠くなっちゃった…もう休もうか…ねえ、次に目覚めたら、愛してるって言って?そこから一日が始まるなんて、素敵じゃない…?」
 そして、あっという間に深い眠りについてしまったアルを、エドは抱きしめながら改めて見つめていた。

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 アルが催眠術と言う縛めから解き放たれて数日後。
 結局エドとアルは故郷に戻ると言う宣言を撤回して再び旅を続ける事となった。
 フィオナとロブは兄妹が当地を離れる事をひどく残念がりはしたが、別れ際にはロブ特製のサンドイッチを手渡し、笑顔で見送った。
「ロブの美味しい料理が食べられなくなるのは残念だけど…」
 アルが名残惜しげに言うと、ロブは、
「いつでも来ればいいよ。一生会えない訳じゃないだろう?でも、今度君とエドワードさんが来た時は、行列に並んでもらわないといけなくなっているかも知れないね」
 そう明るく笑って言った。
 一方で、フィオナはそれまでよく身に付けていた身体のラインがハッキリと分かる露出の高い服を着る事を止め、ふんわりとしたドレスを身に付けていた。
 その姿を見たエドが目を丸くして尋ねた。
「なんだよ?宗旨替えかよ?それとも食い過ぎが祟っていよいよそれまでの服が着れなくなったとか?」
「余計な事を!まあ、理由はそれに近いけれどね…家族が増えるのよ!でも、体調も思った程悪くないし、産み月ぎりぎりまで頑張ってロブを助けるわ!」
 列車に乗り、ネブワースを出発したエルリック兄妹は車中フィオナのその話題で持ち切りだった。
「ねえ、ちょうどつわりだったって言うのに、あんなに元気で食欲のある人もいるんだね!ボクとは大違いだと思わない?」
 すっかりかつての元気さを取り戻したアルがサンドイッチを頬張りながら言うと、エドは顔をしかめながら答えたのだった。
「かわいいお前とフィオナを一緒になんか出来るか!」
「真顔でそんな事言えるの、兄さんくらいだね…ああ、そう言えば…」
 自分の分のサンドイッチを食べ終えたエドに、アルがサンドイッチを一切れ分けてやりながら呟いた。
「…今朝忘れたでしょ?」
 アルのその言葉にエドがサンドイッチをくわえたままで顔色を変えた。
「愛してるって、言うの忘れたよね?約束したのに?」
「だって…あれはあの時限定じゃなかったのかよ?」
「ボク達はいつどうなるか分からないんだよ?いつでも言ってくれなきゃ…さあ、これからでもいいから言って!」
 窓側の席に座るエドを追い詰めるように、アルは身を乗り出すと、エドにそれを迫った。
「わーっ…分かったよ!俺はアルを愛してる!これでいいだろ!」
「…よろしい。これでボク達の一日が、旅がまた始まるね!」
 照れて顔を真っ赤にしながら怒鳴るエドに、アルはけらけらと笑いながら、サンドイッチのマスタードが付いたエドの頬に軽く口付けた。

ああん、もう何ヶ月みなさんをお待たせした事か…!

オフの方ではもう本になっているので、ラストまでお読みいただいている方もいらっしゃるとは思いますが、こうしてサイトの方でも完結させるとやっぱり感慨深いものがありますな〜。
まだまだいろいろと2人のお話は書きたいものがあって、これからもぼちぼちと発表していく予定です。
ああ、コーヒーがおいしい。ではまた〜。

   


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