妹アルとフュリー曹長のお話。ほのぼのギャグ風味です。

アルがいつものようにバイト先のレストランで仕事をしていると、良く知っている軍人が1人、やって来た。
「あ、いらっしゃいませ!」
アルは笑顔で席に案内してからその軍人に話し掛ける。
「この前はハボック少尉が来たし、今日はフュリー曹長が来てくれて。軍部のみなさんでこのお店の売上に貢献してくれて、ありがとうございます!」
アルに明るい声でそう言われて、フュリーという軍人は照れたように笑った。
「ところで、御注文はなんにしましょうか?今日のティータイムのお薦めは、チーズタルトなんですけど」
「ああ、とりあえずコーヒーでいいよ」
フュリーから注文を受けて厨房に戻って行ったアルが、次にフュリーの所に来た時、彼女は銀のトレイにコーヒーとチーズタルトを乗せていた。
「あの、僕注文はしてないよ?」
「いいんです。ボクからのサービスです。気に入ったら、次に来た時は注文して下さいね」
フュリーがメガネの奥の小さな目を丸くしているの、アルは嬉しそうに見てそう言った。
ケイン・フュリーは東方司令部からの転勤組の中では一番若く、地位も下だ。通信機器の扱いに長けていて、地味な存在だが堅実な仕事振りで上司からの信頼も厚い。エルリック兄妹は年も割と近く、気さくな雰囲気のあるフュリーを慕っていた。特にアルは動物好きという共通の趣向もあって時折ブラックハヤテ号を連れて2人で散歩に出かけることもしばしばあった。
そんなフュリーが自分の働く店に来てくれて、アルは嬉しかったのだ。常日頃フュリーが寮に住み、薄給を嘆く姿を知っている彼女はどうにも世話を焼かずにいられなかった。
「あ、ありがとう…あ、あの、アル君、あの…えっと…」
フュリーはそんなアルの笑顔を見て、頬を赤らめて礼を言う。だが、それ以外にもなにか言いたげにしていたのをアルは不思議そうに見た。
「…何か?」
「…いや、あの……いいや。ごめんね、仕事の邪魔だね。うん、チーズタルト頂くよ」
アルは厨房に戻ってから、フュリーの見えない所から彼の姿を観察した。チーズタルトを口に一口運んではため息をつき、コーヒーを飲んではため息をつくフュリーは明らかに何か悩みを抱えているようだ。
そのうちに時間が過ぎてフュリーは会計を済ませて店を後にした。その時もアルの顔を見て何か言いたげだったが、何も言わず、ただ照れて笑っただけだった。

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「兄さん、今日お店にフュリー曹長が来てくれたんだ」
帰宅してから夕食の支度をしながらアルは兄であるエドワードに話した。
「へえ。軍のやつらも意外と暇なんだな。みんなお前の店に通ってないか?」
エドワードが揚がったばかりの夕食の付け合わせのポテトのフリッターに手を伸ばし、一つ摘みあげると自分の口へと運んで言った。
「もう、つまみ食いしないでよ!…でね、なんだか悩みごとがあるみたい。兄さん、司令部で何か聞いてない?」
「えー、別に。一昨日も准将に呼び出されて行ったけど、別に普通だったぜ」
エドワードは興味のないと言いたげな声色で返事をする。彼の興味はアルが今焼いているチキンのソテーの焼け具合の方に向いていた。
「冷たいなー、もう。あのさ、明日にでも司令部に行って聞いて来てよ?…あんなに悩んでるようなフュリー曹長初めてだから、ボク心配なんだ…」
特別な感情がある訳ではないが、鎧の頃から変わらず親しくしてくれるフュリーがもし悩みを抱えているのなら、なんとか力になれないものかとアルはそう思っていた。焼き上がったチキンとフリッターを皿に盛り、エドワードに手渡しながらそう言う。しかし、アルの頼みをエドワードは眉を寄せて、やんわりと拒否する風にこう言った。
「あのな、曹長だって俺達なんかよりもいい年した大人なんだぜ?そんなにすごい悩みごとならもう他の誰かに相談してると思うけどな。例えばハボック少尉とか。…きっと欲しいパーツが買えなくてとか、そんな理由じゃないのか?」
「そう…?そうなのかな…」
エドワードはクールと言えば聞こえはいいが、自分に関係ない他人の事に首を突っ込むのが嫌いだ。それはそうした事でその当人達が自分に対して以前はなかった負い目を感じることが嫌だったからだ。それがエドワードなりの優しさだと言う事はアルも良く分かっていたが、この時ばかりは兄に反対されても自分の考えを貫き通そうと思った
「じゃあ、ボクだけでも明日司令部に行ってフュリー曹長と会ってくるよ。ごちそうさま。あ、自分のお皿は自分で片付けてね」
「おっ…おい、待てよ!行かねーなんて言ってねえし!分かった、俺も一緒に行くから!」
最愛の妹にすげなくされて焦ったエドワードは急いで立ち上がると自分の皿を手にアルに擦りよってそう言った

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翌日−急がしそうな午前中を避けて午後司令部に到着したエルリック兄弟は上官以下のいるセクションでその目的の人物をすぐに見つける事が出来た。
「おーっす。ちょっとフュリー曹長借りてくから」
窓際の大きなデスクで書類に目を通してる上官に向かってエドワードはそう言うと暗い表情のフュリーの腕を掴み、立ち上がらせた。
「ダメだと言っても連れて行くのだろう?1時間だけなら許可するよ。時間延長の場合は私と君の妹君とのデートが条件だ」
書類から視線を外す事なく言い放った上官に、エドワードはその細い、形のいい眉毛を釣り上げて、ふざけるな!5分で戻って来てやる!と怒鳴るとフュリーを引きずり、アルと共に出て行った。
3人は場所を食堂に移すと、フュリーを椅子に座らせた。その前にエドワードが仁王立ちになり、詰問を始めた。
「さあ、話してもらおうか」
「えっ、な、何の事かな…?」
フュリーはそう言うが、顔は強ばり、額には冷や汗が吹き出ていた。何かを隠している風にも見えて、エドワードはその口調を更に厳しくして問いつめた。
「早く言え!早く言わねーとアルが危険に曝されちまうだろ!さあ言え!吐け!」
「ひぇぇぇ!ごっ、ごめんなさいごめんなさい!僕がいけないんですぅ!もうアル君をパーティーに誘おうなんてしませんっ!」
「え…?なんだってぇー!!」
泪目で弁解するフュリーよりも、大きな声を出してエドワードとアルは驚愕した。
そして、フュリーが事の始まりを話し始めた。
「今度…もう今週の金曜日なんだけど、高校の時の友達同志で集まる事になってるんだ。出欠確認の電話が掛かって来た時に、僕、見栄を張っちゃって、彼女が出来たから連れて行くって言っちゃったんだよね…」
がっくりと肩を落とし、小さな声で話すフュリーに構う事なく、エドワードはその胸ぐらを掴むとぎりぎりと睨み付けた。
「だーれーがー彼女にしていいと言った!」
「ひいいいっごめんなさい!ささ、最初からアル君を誘おうとは思ってなかったんだよぉ。…軍の事務の女の子とか、心当たりは全部あたったんだ…でも、誰もその日は空いてなくて…」
「シェスカは?」
「…残業が物凄くて、普段の日も帰るのが真夜中だから、ダメだって…」
人の好いシェスカはそうやっていつも多量の仕事を抱え込むのが常だった。こんな事なら裏から手を回してシェスカをあてがったのに、とエドワードは後悔した。
「…友達と言っても、僕はこんなだからよくからかわれてて…たまには皆の前でいいカッコをしてみたくて…ごめんよ。僕のバカな見栄の為に…」
「…それで、最後にアルに声を掛けようとしてたのか」
昨日、アルの店を訪れたのはそういう事だったのかとエドワードとアルは納得した。フュリーは青ざめて今にも泣きそうな表情でエドワードに何度もごめん、と繰り返している。
「本当に、バカだな…見栄なんて張る必要ないのに。曹長はさ、マスタングの野郎に見込まれてセントラルにまで引っ張ってこられたんだぜ?大総統候補に元で働いてるんだって、それだけで十分だろ?」
エドワードは掴んでいたフュリーの襟元を離すと、そう言って背を向けた。
自分の自慢の為に彼女を連れて行くなど、エドワードに取ってはその彼女を物として見ているかのようにしか思えなかった。俺はどんなにアルが可愛くて愛おしくても自慢の為なんかに連れ回したりはしない、そうひっそりと心の中で呟いた。
「…エドワード君の言葉で目が覚めたよ。僕が蒔いた種は自分でなんとかする」
フュリーは襟元を直しながらそう言って力なく笑った。その顔を見て最初は嫌な気分でいたエドワードも多少言い過ぎたかなと考えてそう言おうとした矢先−。
アルがエドワードの肩を押しのけてフュリーの前に立ち、話し掛けた。
「あの、さ…ボクでも良ければ、協力したいんだけど…ボクで本当にいいの?」
「あ…アルっ!」
「…いいの?アル君?本当に?!」
片や固まったエドワード、片や喜びに目を潤ませているフュリーを前に、アルはにっこりと微笑んだ。
「えっと…金曜日…明後日だよね?うん、バイトも4時で終わりだから大丈夫!フュリー曹長、後で場所とか詳しく教えてくれる?ボクの家の電話番号を教えてあげるから、夜相談しようよ」
「ああああ!ありがとう!本当にありがとう!」
フュリーはだばだばと涙を流しながらアルの両手を握って感謝の言葉を途切れる事なく唱え続けた。それを見てエドワードがその手を剥がしに掛かる。
「勝手に手なんか握るなぁ!」
「わぁっ、ご免なさい!でも本当にありがとうっ!」
「だから離れろ!アルから離れろぉ!」
エドワードの悲鳴のような声が食堂に響いていた。

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「…もう、機嫌直してよ。別に変な事する訳じゃないんだし。パーティーも時間になったら早めに抜け出して家まで送ってくれるって言ってたし」
夜、約束通りに掛かって来たフュリ−からの電話の後、エドワードは額に血管を浮き立たせていた。やはりどうにも納得が行かない。どうして俺の可愛いアルがそんな事をしなくてはならないのか。百歩譲ってアルがフュリーの事を男として好きだと言うのなら涙を飲んで我慢も出来るが(本当は死ぬ程嫌だが)奴の見栄の為に何故!そう思いを巡らせながら妹を見た。
「それとも、焼きもち?」
不意にアルがエドワードの瞳を覗き込んで言った。ふわり、と柔かな、花の香りがエドワードの鼻をくすぐる。そうだ、お前のその綺麗な瞳を、そのいい香りを他の奴に知られたくないんだ、とエドワードは言いかけて、しかし必死にその言葉を飲み込んで違う言葉を言い放った。
「バッカ…そんな、違うよ!」
「ふうん…ボクは焼きもち妬いてほしいんだけどな?」
けれど、アルはくすくすと笑って真っ赤になった兄を抱き締める。
「大丈夫だから…。ボクの一番は兄さんなんだからね?」
そんな風に耳元で囁かれたら、全部許して抱き締めたくなるじゃないか、とエドワードは文句を心の中で呟いた。

くずっと前に考えた話だと最終的にはアルはフュリーといい仲になる予定でしたが、兄さんがかっさらっていってしまったので(笑)、フュリーくんにお詫びの意味を込めて。

      


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