剣が。槍が。斧が。あるいは銃が、絶対武器<マーキュリー>が。
何百、何千もの魔剣と同等の存在が、デビル柊と冥魔たちに降り注ぐ。だがそこまでしても、未だかの冥魔王に致命打を与えることはかなわないでいた。
「くそっ! これでも駄目なのかよ!? なんて硬さだっ!」
切り札を一つ失い、柊は奥歯を噛み締めた。
決定打が足りないのだ。今ある戦力だけでは。攻撃には長けていても、それを確実にダメージへと変換できる支援役がいなければ、彼らの攻撃力そのものが無駄になってしまう。
唯一の幸いは、デビル柊がオリジンたる柊蓮司に攻撃を集中させていたこと。アンゼロットからの情報で、それはデビル柊にとっては自殺行為に等しいと知ってはいたが、柊には奴に取り込まれるわけにはいかない理由がある。
(絶対生きて還ってやる。あの女に一泡吹かせてやるんだ!)
なおもデビル柊がバイオ化した腕を振り下ろす。攻撃にぴたりと合わせて、柊は魔剣を構えた。防ぐのではなく、魔剣を使用して受け流す──そうそう何度も使える技ではない。
何かあるはずだ。必ず。
世界の危機に呼応してあらわれる、対抗するための何かが。
それは世界結界が生み出す防衛システム……第八世界では『勇者』と呼ばれる存在。運命によって選ばれし勇者は、世界の危機に抗うためにのみその力を発揮する。そう、ちょうど──……
「……柊さんっ!!」
絶対無敵可憐な声が響き、柊のすぐ横にローズ色の暖かい光が差していた。
「ノエ、ル?」
──そう、ちょうど今のノエルのように、皆を勇気付ける光を背負って。
「勇者……」
「なるほどぉっ、あたしが勇者ですかっ!」
分かっているのかいないのか。勇者は柊が呟いた言葉に頷きつつ、ほわりと笑顔を見せた。
同時に目に入ってきたのは、彼女の構えた大きな剣。先程感じたローズ色のプラーナは、どうやらそこから発せられていたらしい。
「お前、その剣」
「はいっ、この、からどぼるぐですか?」
ノエルは得意気に、自慢の相棒だと答えた。
カラドボルグ。確かアルスター物語に登場する無敵の剣だとかなんとか。彼女の世界に同じ伝説があるのかどうかは知らないが、それでもかなりの力を持っていることが見ただけでも分かる。
とりあえず、ほんの少し勝算が見えた気がした。デビル柊がノエルのプラーナに反応して、一瞬だが怯んだように見えたのだ。
「よぉし、行きますよぉっ!」
ノエルが改めてカラドボルグを構え直し、デビル柊へと突貫する。少し遅れてその背中を追いながら、柊はどこか納得していた。
「……そうか」
カラドボルグ、世界を越えて現れたノエルの剣。
それはおそらく、世界結界が仕組んだ勇者との再会。使い手をこの世界に導き、さらには柊の力を使って剣そのものまで導いた。完璧すぎる防衛システムだ。
「あの剣、俺が喚んだのか」
世界の壁を越えてファー・ジ・アースを冥界に引きずり落とそうとした今回の敵に対する勇者は、やはり世界を超えた者であるノエルだった。ただひとたびの世界の危機に対抗させるためだけに喚び出された異世界の勇者。なんというか、ファー・ジ・アース側から見てみると理不尽である。外部から勇者を連れてくるなどと。
そのことに少々の申し訳なさと、多大なる不甲斐なさを感じながらも、柊はノエルに続いた。
走り、斬り付けながら考える。
ノエルも自分と同じく攻撃役だ。ただ、戦い方には少し違いがある。
柊が自らの生命力をリソースにする後方頼りの削り役だとすると、ノエルは膨大なプラーナを瞬間的に爆発させる『切り札』持ちだ。ということは、フィニッシャーにより相応しいのはノエルの方だろう。
加えてデビル柊には、強力な防御壁がある。柊の攻撃ではこちらがジリ貧になるだけで、何か対策を練らなければ──
「てやぁぁぁぁぁっ!」
「…………え?」
策を練る暇もなく、ノエルがデビル柊に斬りかかっていった。
「お、おいっ……!」
まずい。まだ敵に対する致命的ダメージを与えられる手段を確立してすらいないのに。焦る柊だったが、そんなものはお構い無しとばかりにノエルの斬撃が容赦なくデビル柊に叩きつけられる。
瞬間、先程と同じような淡い光を放ち、カラドボルグの一撃がデビル柊の巨体を大きく切り裂いた。
「き、効いて……る?」
呆けたようになる柊。そうか、これが。
「やった、当たりましたよっ!?」
これが世界結界が彼女を勇者と定めた理由か。
僅かな希望を見出し、柊の表情がふと緩んだ。その、瞬間。
「──がッ!?」
突如、下腹部に焼けるような痛みを感じ、柊の膝ががくりと崩れ落ちた。下を向くと、触手状に伸びたデビル柊のバイオ化した腕が伸びて、彼の胴を貫いていたのだ。
「ぐっ……」
奥歯を噛み締め、なんとか立ち上がる。自分を貫いている伸びた腕を掴むと、それを引っ張って一歩ずつ近づいていく。
「柊さん!」
「構うなノエル! 行けっ!」
こちらの惨状を見たのか、ノエルが剣を止め柊の方へ向かおうとしていた。だがなんとかそれを押しとどめると、デビル柊の動きを阻害するようにぐっとバイオアームを握り締める。
叫ぶたびに、口から血を吐き出しそうな気がしたが、何故だかその兆候はいつまで経っても訪れない。理由は分からなかったが、どうやら思ったほどのダメージはないらしい。ともかく好都合だ。
このまま自分を囮にして、ノエルに攻撃役を任せる。これが柊が考えた最良の手段。
だから叫んだ。そのたびにバイオアームがうねり、柊の体内を蝕んだが、それでも彼の体は、許容外のダメージにすら耐えそこに立っている。
さすがに自分はこんなに丈夫じゃないはずだ。むしろ前衛としては防御力が決定的に欠けている、と柊は自分を分析している。
これはきっと、何者かが自分を守っているのだ。そう意識した瞬間、柊の左の頬がほのかに熱を持ち始めた。
(……まさか、な)
その場所は、出発前にアンゼロットに『あること』をされた箇所だった。
一見可憐な美少女に見せかけて、その実エキセントリックでネトゲ廃人でドがつくサディストで、人をおちょくるのが大好きで、おまけに声が小暮英麻そっくりで。およそ彼女がレベル無限大のヒーラーで『世界の守護者』であると言われて到底信じられるものではない。
だけど、それが事実なのだ。彼女はまぎれもなく、今の柊を守っているのだ。直接の力の行使を禁じられている代わりとして、柊にあらかじめ防御魔法をかけておくことで。
そうか。これが、守護者の『祝福』。
(なら、無茶もできるってもんだ!)
柊は魔剣に自らの生命力を注ぎ込んだ。彼の技はそのほとんどが、己の命を削って攻撃力に変換するものである。
一人で戦うにはあまりにも頼りないという自覚はある。だが、優秀なヒーラーがいてくれれば、彼はその力を存分に発揮することができる。
そう、今彼についているのは、ファー・ジ・アースでもっとも優秀なヒーラー。何せレベル無限大だ。
「おぉぉぉおおおりゃあああっ!!」
デビル柊の触手状の腕を掴んだ左手はそのままに、柊は右手一本で魔剣を振りかざし、触手をガイドにして利き足を一気に踏み込んだ。
そのまま渾身の力を込めた一撃をお見舞いする。それなりに効いたように見えるのは良かったが、今度はさすがに、柊の方も傷口から血が霧のように噴き出した。
「ぐぅっ!!」
「ひ、柊さんっ、大丈夫ですか〜?」
「このくらい、どってことねえよ! それより……」
デビル柊を睨みつける。思わぬ反撃を喰らい、体勢を立て直そうとするも、がっちりと掴まれたバイオアームを柊に引き寄せられ、そこに一瞬の隙ができる。
「は、はいっ! 行きます……っ!」
三度、カラドボルグが淡い光に包まれた。ノエルがそれを一気に振り下ろす。デビル柊は避けることもかなわず、ただそこに立ち尽くしている。
深く、抉るように切り込んだその断面から、一斉にローズの光が膨れ上がった。
「お願い、これで……終わって──!!」
ノエルの願いは、果たして叶うことになる。
カラドボルグによる切り口から、光に混じって冥界の闇が溢れた。同時に、デビル柊の体が少しずつ溶けるように崩れていく。
二人の表情にほっとしたものが浮かんだ。
が。
「……え?」
今にも消滅しそうな体で、デビル柊は空いていた方の手をノエルに向けた。肩に触れたそばから、輝明学園の借りた制服がぼろぼろと腐蝕していく。
これは滅びを迎える冥魔の、最後の足掻き。
「ノエ……」
柊が呼ぶより一瞬早く。
ノエルの体は、デビル柊ごと閃光に包まれた。
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あとがき。
きた!カラドボルグきた!これで勝つる!……な回でした(笑)
勝利することはできるのか!? ノエルの運命は!? ……と、引くだけ引いて、次回に続きます。
柊も王子も、たぶん英魔さまの声大好きですよ、ね!(笑)
※アリアンロッドRPG、ナイトウィザードは有限会社ファーイースト・アミューズメントリサーチの著作物です。
なお、
この作品はフィクションであり、登場する人物、団体名等は実在の人物とは一切関係ありません。
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おまけ。
ノエル「あぁ〜っ!? す、すいませんすいませんっ、倒せなかったどうしよう〜っ!?」
柊「いや、倒してるから! 倒してるから落ち着いてっ!?」
クリス「でもこれ、最後の奴ってアレだよな?」
GM「ええ、アレです」
エイプリル「(柊のキャラシーを確認して)だな。喜べノエル、ちゃんとヒーラーがいるんだ、アレも使えるだろ」
GM「ヒーラー不在をどうしようかと思ったんだが、いやーさすがレベル無限大、強いなーアンゼロット」
クリス「1キャラクターじゃなくて付属品だけどな」
エイプリル「むしろレベル無限大だからこそのこの措置か」
GM「うひひ、そういうこと(笑)」
ノエル「あ、アレって何ですか〜?」
柊「それは……次回のお楽しみで!(笑)」
あと、恒例の奴。
教えて! アンゼロット様