──第三世界エル=ネイシア 月の都ヴァリディア
生まれた世界へ還りしものは、再び超女王の力を手に入れた。
それは、かつてアンゼロットが愛した男の一部。星王神エルンシャの力を秘めた欠片だった。
アンゼロットは欠片を握り締め、目の前に傅く少女へと近づける。手のひらの中で、欠片が淡い光を放った。
一部の隙もなく武装した少女は、エルンシャに選ばれた次代の神姫<プリンセス>だった。これを少女へと渡せば、この儀式は完了する。
アンゼロットは静かに手を開いた。星の欠片は、意思を持つかのように少女へとまっすぐ吸い込まれていく。
光が完全に消え去ったそこには、月女王と、それまでただの下僕に過ぎなかった少女が二人、佇んでいるのみ。
「……これであなたは、星王神に認められしプリンセスとなりました。このエル=ネイシアのため、一層の奮闘を期待します」
「はっ!」
短く返される返答に満足気に頷く。エルンシャの欠片を少女に渡してしまったことに、何の嫉妬も憎しみも覚えなかった。
かつては世界すら放り投げて、姉妹神と争い奪い合ったものであったのに。自分はなんと薄情なことか。
しばし思考の波にとらわれてしまった女王に、プリンセスがおずおずと声をかける。
「アンゼロット様……」
「何でしょう?」
「今、エルンシャ様の声が聞こえました。アンゼロット様に、どうしても伝えて欲しいことがあると」
「……? 言ってください」
アンゼロットは首をかしげた。かの星の神が、今更……あれほど激しく愛したにもかかわらず今は別の男のことを考えていた自分に、一体何を伝えるというのか。
プリンセスが語るエルンシャの言葉を静かに聞く。かの神の言葉は、アンゼロットが思っていた以上に優しかった。
「アンゼロット様には、過去に縛られず、新しい生き方をして欲しい、と……きっとイクスィム様も、それを望んでおられると……」
「そう、ですか……」
「アンゼロット様?」
「……いえ、何でもありません。下がってよろしい」
不思議そうな顔をするプリンセスを退出させた後、一人になったアンゼロットは窓の外からおぼろげに浮かぶ白い月を見上げた。
「イクス……エルンシャ様……これで、良かったんですよね……」
今そこにいない、彼のことを想いながら呟く。彼もきっと、違う月を、それでも同じように白い月を、見ているに違いない。
そして──第一世界ラース=フェリア フレイスの炎砦
「柊さん、どうでした? 私からのサプライズ」
星の杓杖のレプリカを大事そうに抱え、リューナがにこりと微笑む。柊は視線を合わせず、頭をかきながら呟いた。
「どうって……主八界の現状を説明してもらったってだけだろ」
「あら、私はアンゼロット様との通信回線のことだなんて一言も言ってませんよ?」
「っ!?」
がばっと振り向く柊。その頬は、僅かに赤い。
「……ふふ、やっとこちらを向きましたね」
「るせぇ、余計なお世話だっての。別にあれが今生の別れじゃあるまいし」
「けれど、出撃前に顔が見られただけでもよかったのではありませんか?」
「……お前は、何をどこまで知ってんだよ」
「さあ?」
溜息と共にそっと吐き出したその言葉を、柊の今の心中を、彼女は──リューナはどこまで分かっているのだろう。
明日は、ラース=フェリアを支配する七大冥魔王が一人、冥鱗王エンダースの挑戦を受け、禍々しく育った冥界樹を滅ぼしに行くのだ。決死の覚悟で柊ただ一人をここまで送り届けてくれたアンゼロットたち、ファー・ジ・アースの仲間と、もう会えなくなるかもしれないという可能性だってある。
だが先程、エル=ネイシアとの通信回線が開かれ、はからずもアンゼロットと(回線越しとはいえ)再会してしまった時、そういったことは何も言わなかった。言うほどのことでもないと柊は思っていたからだ。
別れの言葉なんて。
それに自分とアンゼロットの関係を邪推する者など、現時点でいるとは思えない。関係も何も、柊の中では、まだ何も始まってはいない。
だが。
「他の奴には……喋んなよ」
サンキューな。言いにくそうに呟くと、心得たとばかりにリューナが頷く。
「ええ、もちろん。それは柊さんがご自分で伝えるべきことですから」
「やっぱりお前、分かってんじゃねえか?」
「さあ?」
笑顔のリューナにもう一度溜息を吐いて、柊は窓の外を見上げた。冥界に堕ちかけたこのラース=フェリアの中で、唯一フレイス地方だけは、瘴気の雲が払われ、昼には青空、そして夜には今のような夜空が見える。その中ごろに浮かんだ白い月も──
そう、離れていても。
Epilogue:End...
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超あとがき
※DOUBLE+CROSS、アリアンロッドRPG、ナイトウィザード、セブン=フォートレス、異界戦記カオスフレアは
有限会社ファーイースト・アミューズメントリサーチの著作物です。
なお、
この作品はフィクションであり、登場する人物、団体名等は実在の人物とは一切関係ありません。