Novel

Ending〜親愛なるフォア・ローゼス〜

『みなさん、お元気ですか?
 わたしは、元気……とも言えない状態なのですが。
 それでもまたいつか、元気な姿をお見せしたいとは思っています。

 さて……

 レント。
 わたしの後継。
 そろそろあなたにも『人の情』というものが理解できるようになってきたのではないでしょうか。
 そのことで、色々戸惑うこともあるかと思います。
 ですがこれだけは覚えておいてください。あなたはあなただということを。
 心のうちに生まれる不確かな感情こそ、一個のあなたを確立させるいうことを。

 エイプリル。
 あなたとパーティーを組むようになるとは、まさか思いもよらなかったことです。
 かつては借りを作っただけの関係でしたし、何よりあなたは帝国側の人間でした。
 けれど共に旅をして、接していくうちに、大事なことが分かりました。
 敵として恐ろしいものは、味方につけると頼もしい。そういうことです。

 クリス。
 愛してます。
 嘘です。
 本当は全然、これっぽっちも愛してないし、むしろわたしはあなたが大嫌いです。
 ……すみません、これも嘘です。
 何なんでしょうね、あなたと対するとわたしはいつもこうです。
 お互い反目してばかりでしたが、もしかしたら、私が一番背中を預けていたのはあなたかもしれません。

 ノエル。
 あなたの旅が、常に仲間達の笑顔と共にあったように……
 わたしの、いえ、我々の旅もまた、あなたの笑顔と共にありました。きっとこれからも。
 不思議なものです。
 最初はあなたを利用するために集まった我々をここまでまとめ上げたのだから。
 これは紛れもなくあなたの力です。
 薔薇の巫女ではない、一人の冒険者としての、ノエル=グリーンフィールドとしての、ね。

 さあ、積もる話はありますが、わたしにはもうそんなに時間がありません。
 またいつか、必ずお会いしましょう。
 必ず──……

 愛を込めて ────トラン=セプター』

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 原作
 菊池たけし/F.E.A.R.
 『アリアンロッド・リプレイ・ルージュ』より

 シナリオ・ライティング
 伊万里


 キャスト

 PLAYER CHARACTER

 ノエル=グリーンフィールド
 クリス=ファーディナント
 エイプリル=スプリングス
 レント=セプター

 トラン=セプター

 NON PLAYER CHARACTER

 クレバー王子(霧の粛清)
 キサン=チウム
 バン=ブー
 偽フォア・ローゼス
 占いばばあ(フェルシア)
 エイジ
 フェブラリィ
 マティアス=アディンセル
 神聖騎士団のみなさん

 柊蓮司
 アンゼロット
 流鏑馬勇士郎
 流鏑馬真魅
 ロンギヌスのみなさん

 上月司
 上月永斗

 功刀リョウ
 功刀冴子
 箕輪神奈
 宮沢茉莉
 西園寺恵
 宮沢祥吾


 SPECIAL THANKS
 二次創作に寛容なF.E.A.R.
 読んでくださったみなさん


 劇場版 アリアンロッドルージュ・すぺしゃるみっしょん
 ノエルと幻の王国  -完-

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 事件からしばらく後。

 ノエルはトランの墓前にやって来ていた。いつかしたためた、彼への手紙を渡すために。
 懐から出したかさりとした感触。大事にしまっておいたはずのそれは、いつの間にか所々が皺になり、端が折れ曲がっていた。
 それでもノエルは手紙を渡す。
 やがて、墓石がわりに据えた携帯大首領が見えてくるはずだった。
「……あれ?」
 片手で持てるサイズの墓石は見付からなかった。かわりにあったのは、アラクネの意匠が施された赤茶色のとんがり帽子。
 あの魔術師が身につけていたものと、全く同じ。
「この帽子……?」
 ノエルはしゃがみ込んで帽子を拾い上げる。帽子は携帯大首領に被さるかたちで地面に置かれていた。同時に、背後からは追いついてきた仲間の声。
「ノエル、それは……」
「ここにあったんです。これ、トランさんのですよね?」
 問いかけに答えノエルは振り向いた。たどり着いた仲間に帽子を見せると、彼らも驚いた顔で返してくる。
「そんなはずは……一緒に、埋めたはずだ」
「それにあの帽子、もっとボロボロだったろう。もう一年は経つんだぞ」
「でもでもっ、これ、やっぱりトランさんのですよ。だって、ほら」
 帽子を裏返す。鍔の裏側の部分に、ダイナストカバルの紋章があった。

 一年ほど前の話だ。この墓の近くにあったイジンデルにて、トラン=セプターは壮絶なる死を遂げた。その際、彼が身につけていた帽子は、戦闘のおかげで切り裂かれ、彼自身の血(オイルだが)にまみれていたはずだ。
 それをトランの亡骸と共に、この地に埋めた。
 だが、今ノエルの持っているそれは、あきらかにその時の帽子と同一のものなのだ。しかもそれは、まるでつい先程置かれたかのように、雨風によって傷むことなく、彼がいつも身につけていた時のままに。

 一行の視線が帽子に降り注ぐ。
 やがて、キッと視線を上げて、ノエルは皆の顔を見た。そこに表れているのは、新たな決意。
「みなさん、行きましょう」
「行くって……?」
 不思議そうに見つめてくる視線ににこりと笑って返すと、ノエルは帽子の鍔をぎゅっと握り締めた。至極晴れやかな気持ちで。
「新しい冒険に。そして……」

 ノエルの気持ちが、フォア・ローゼスの仲間達にも伝わっていく。彼らの顔にもまた、笑顔が浮かんでいた。

「そして……再び、会いに!」
「おうっ!!」

 四人の声が同時に響き、一瞬遅れて笑い声となり、取り戻した蒼穹へと吸い込まれる。
 この日、フォア・ローゼスはまた新たな旅立ちを迎えるのだ。


 彼らが去っていく。
 墓前には、墓石がわりの携帯大首領がぽつんとあるだけ。そこには何も供えられてはいない。
 これを渡せる時は、もう少し後になる。そう思って、ノエルは墓を後にしながら、手紙を懐にしまった。


 EVERLASTING ADVENTURE...

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全部終わったので、きくたけっぽくちょっと長いあとがきを書きました。
下からどうぞ。
超あとがき

※DOUBLE+CROSS The 2nd Edition、アリアンロッドRPG、ナイトウィザード、アルシャードガイアは
 有限会社ファーイースト・アミューズメントリサーチの著作物です。