the no-fi "magazine" interview with ALAIN WHYTE of Red Lightning

掲載サイト the no-fi "magazine"
記事原文のウェブアドレス http://www.nofimagazine.com/52redlightint.htm
実施日 November 30th 2005
 初めてアラン・ホワイトを観たのは、彼がモリシーのギタリストとしてステージに立っていたロサンジェルス・フォーラムでの公演だったと思う。素晴らしいショーの間、僕たちはステージから一番遠い席にいた。そのため、彼の姿はとても小さなドット程度にしか見えず、あれが本当にアランだったのか保証はできない。当時の最新アルバムは、モリシー作品のなかで最もメロウな「Kill Uncle」だったが、バンドがこれを躍動感溢れるネオ・ロカビリー・ショーに仕立て直し、とても感銘を受けたことを覚えている。

 彼らの演奏を何度も観た後で、最も思い出深く記憶しているのは、U.C.L.A. Pauley Pavilion(91年)でのショーだ。僕らはそこにいた……客席の本当に後ろの方だったけれど。ショーはグレイトで、全てが順調に進んでいった。目に見えて上機嫌なモリシーは観客とじゃれ合うようにお喋りをし、ジョークを交わしていた。

 4曲目まで進んだところで、モリシーは言った「シートに座ったままでいたければ、そうすればいい……けれど、それがいやなら、座っていなくてもいいんだよ」。それは、タランティーノが”From Dusk Till Dawn”の脚本に『そして全てがハチャメチャになり……』とト書きするようなものだ……いわく、シーンはハチャメチャになる。

 観客全員がモリシーの言葉を「さあ、できる限りステージ近くまでおいでよ。心配いらない、余地は充分にあるさ」という意味だといっぺんに誤解した。それで、”King Leer”が演奏されていた時に、僕と友人のトニー・パッチは自分達の席から離れ……殺気立つ人々の椅子に躓きながらも、ステージに向かって進んだ。低い柵を乗り越えた僕たちは、導かれるように……数人の観客がステージ前方から奥の方へと……ちょっと待った、「数人」と書いたかな? うん、最初はたった数人だったけど……それから誰もかれもがだ。

 一方、後方の座席では(フロアに並べられていたのは、折りたたみ式のパイプ椅子だったってことは言ったかな?) 僕の別の友達が、隣席の女の子二人がセックスしているのを目撃した。その二人は「一緒にどう?」と彼女を誘ったそうだ。おっと、話をそらしちゃったな。ごめん、ごめん。

 とにかく、何とか数曲を演奏しきって、バンドはステージを降りた。前方では観客たちが大変なことになっていた。並んでいた椅子は全て足下に倒れ、人々がその上で押し合いへし合いしていた。もし地獄が存在するとしたら、まさしくこうだろうと思わせる群集のどよめき。ショーのキャンセルが告げられると、一部の観客たちは機材ブースを破壊する時だと決めたようだ。僕が出口に向かいながら振り向くと、機材ブースの一角から煙が上がっていた。

 どうしてこんなに鮮明に覚えているかって? ベトナム帰りの兵士に、ジャングルに閉じ込められて、理解しえない敵と戦った経験を忘れることがあるかと、訊いてみるといいよ。それに、僕はその時のショーを録音していて何度か訊き返した。その後も数回、彼らのショーを観に行ったけれど、奇妙なことに、それでも91年のUCLA公演が僕のお気に入りなんだ。

 話しは現在に飛び、数ヶ月前のことだ。僕は一通のEメールを受け取った。そのメールには、アラン・ホワイトの新バンド”RED LIGHTNING”について彼にインタビューしても良いこと、そしてインタビューは僕一人でするようにと書いてあった。ネット上にあるバンドの曲をいくつか聴いたところ素晴らしかった。実際、モリシーの曲と大きな隔たりはない。もう少しパンクっぽいエッジが加わっているだけだ。アランはモリシーの曲の多くを作曲しており、さらにシングル”First Of The Gang To Die”に収められている”The Never-Played Symphonies”という曲には、実際に詞をつけている

これはインタビュアーの勘違いか、書き方がまずいようだ。アランが詞をつけたのは、モリシーの”The Never-Played Symphonies”そのものではなく、曲のデモとして作られ、またRed Lightningの曲として演奏されている”She Does Not Love Me”のことである (この文字色は訳者注釈)。


Alain Whyte (singer / guitarist)
John DiMambro (bass / backing vocals)
Chris Beyond (the guy with the tape recorder and silly questions)

■インタビューの最初を飾る質問はシンプルでナイスなものにしたいですね。というわけで、生まれはどこですか? そしてLAまで辿り着いた経緯は?

 うーんと、生まれ……(笑) 生まれ……たった今生まれたところ!(笑)。生まれは、イングランドはロンドン、 チャリングクロス病院だけど、成長したのはウェスト・ハムステッドという地域で、人生の殆どをそこで過ごした。それと、どうしてLAまで辿り着いたかだっけ?

■ええ

 元々はアメリカ人の彼女がいたからなんだ。悲しいことに、結局は俺がLAに住んだり住まなかったりしたせいで上手く行かなかったんだけど。イギリスにいても、友達はLAにいる、それでバンドをやるのに一番良い場所はLAだって決心したんだ。ベーシストのジョンとは共通の友人達を通して知り合った。その共通の友人ってのは、TEN POLE CATS のリードシンガーの友人で、オーストラリア人の女性ロカビリー歌手なんだ。実際のところ現在の彼女は、パンク系のバンドをやっているんだけれど、何にしろ、彼女は凄い! 名前はブリジット・ハンドリー(Bridgette Handley)。俺たちは本当に親しい良い友達だよ。ほら、そこにいる彼、そのグレッチを持ったジョンと組むべきだって言ってくれたのもブリジットさ。それでジョンに会ってみたら、一気に盛り上がってね。人脈作りを始めて、まず最初はLAのThe Knitting Factory(2004 March 16)で、俺の名前でやろうかとギグの準備に取りかかったんだ。

TEN POLE CATS(原文まま)は誤りで、正しくはPolecatsである。 リード・シンガーの名前Tim Polecatsを聞き間違えたのかもしれない。

■アコースティック・バンドとして?

 違う、違う、違うって! これだよ、このバンドだよ、3ピース・バンドじゃないか。最初、俺とジョンでドラマー達のオーディションをしてみて……いや「達」とは言えないな。一人しかいなかったから! 決まりかけていたのが一人いたんだけど、とにかく、その男は駄目だったんだ。で、俺はジョンに「彼じゃ上手くいかない」って言った。その時にはもうショーまで10日を切っていて、パニックになり始めていたね。
 こうなったら、ジョンの知り合いの別のドラマーをオーディションに呼ぼうと決めたんだけど、ジョンときたら「でも、あいつが最近何してるか知らないんだよな。だって俺達が一緒に働いたのは、DOWN BY LAWにいた頃だぜ」なんて言うんだ。その男の名前は、ミロ・トデスコ。俺は「いいかい、そのミロをオーディションすべきだ」とジョニーを促した。「彼が4ビーツにハマるドラマーなら、あんたにもそうと分かるはずだ。説明はできないけど、ピンとくるはずさ」。(パチンと指をならす) だろ?
 それで、グレッチのドラムキットとともにミロが登場した瞬間、俺は思ったね「うわ、マジで凄いドラム・キットだな。これなら腕も良い筈だ。こいつで決まりだな」。そんなわけで始ったのさ。ミロは全曲覚えさせられたよ。ジョンから歌の入ったCDを渡されてね。ミロは本当に素晴らしいよ。とにかくもう信じられないくらい。まるでフリン(スティーヴ・フリン?)みたいだった。俺とジョンとの相性もぴったりで、文字通りいつも笑いが絶えないのさ。ミロに巡り合えたのは、まさしく信じられないような幸運だね。きたぞー!って感じ!

■上手くいったってわけですね

 そう! 3ピースバンドの出来上がりさ。俺、3ピースの生っぽい感じが好きなんだ。

■シンプル、しかし良いやり方だ。

 うん、各自で受け持つ部分が多いんだ。

(ジョンが部屋を出て行く)

■ところで、バンドの曲はとても良いですね。僕はインターネット上にあった数曲分のクリップしか聴いていないのですが、あなた方は全部で何……

 おお、16曲レコーディングした。そのうち12曲は、これから出るアルバム「Ignore All Alien Orders」に収録される予定だ。ええーと、タイトルの意味分かるかな?

(僕ももこの時は分からなかった)

 元ネタになっているのは有名なある物さ。面白いし、ナイスなアルバム名だと思う……。

■これを読んでる人も、ネット中を検索してみると思いますよ。

で、ググってみたところ「Ignore All Alien Orders」は、ジョー・ストラマーが彼のテレキャスターに貼っていたステッカーの文句だった。

 だね、良いトリビア問題になるよ。ヒントは……俺が尊敬している伝説的な存在。

(僕は彼の新曲がどれほど気に入ったか、まるで女子高生のようにペチャクチャと喋りまくった)。

■特に、”The Two Of Us”って曲が良いですね。凄く気に入りました。

 それはアルバムの締めの曲なんだ。歌の構造としてはオーソドックスなものだよね。だんだん盛り上がっていって、盛り上がっていってという、アウトレ・クレッシェンド。気に入ってくれてありがとう。

(僕達は、とりわけKnitting Factoryでのサウンドについて話した。彼らのサウンドは素晴らしかった)。

 3ピース・バンドだってことが幸いしてるんだ。だいぶ自由がきくからね。つまり、ベースのジョンと俺が沢山の音をカバーして、そこにミロの鋭いドラムが入るって具合だ……自分達のサウンドは分かってる。機材のセッティングも素早くできる。ラッキーなことに、何となく大雑把にやった方が俺の声には合うみたいだし、おまけに今夜の音響マンはとびっきりの腕効きだ。今夜の演奏でも、あれくらい上手くいくといいな。

■オーケー、では、あなたが演奏してきた主要なバンドにおいて、それぞれに良かった点といえば?

 若い頃は、ギャリー・デイとスペンサー・コブリンと一緒にTHE MEMPHIS SINNERSというロックンロールとロカビリーのカバーバンドにいたんだ。その後、俺達3人は、モリシー・バンド入りをものにした。全く信じられないようなことだった。ロカビリーっていうのは非常に限られた音楽ジャンルだから、どうこうなるなんて考えもしなかったのさ。それでも自分達のやっていたことは上出来だったし、とにかく楽しかった。他にも、幾つかのロックバンドに入っていたことがある。モリシーと仕事をする以前、その内の一つにフロントマンを務めたバンドがあって、本当にすごく良かった。そう、まさしく俺は歌っていたのさ。だからフロントマンになるのも歌うのも、今回が初めてってわけじゃないんだ。そうだな……うん、素晴らしかった点は様々だね。モリシーと働いて一番良かった点といえば、プロフェッショナルになる方法を教わったこと。そして彼がミュージシャンの限界をぐっと広げてくれることにあると思う。モリシーは本当に君らの限界を引き伸ばしてくれるでしょ? 歌のキーをパッと変えたりしてさ(指を鳴らす)。

■そして、それらの多くは、あなたが書いた歌だ。

 そう、ここ15年間メイン・ソングライターを務めているなんて幸運なことだ。モリシーはとても良くしてくれて、俺は彼を敬愛している。モリシーは、俺のソロ・プロジェクトについても、とっても親切に賛成してくれているんだ。これって凄いことだろ? 彼は指導者のようであり、兄のような父のような存在なんだ。

(二人とも笑う)

■それらが一体となった存在ってわけですね! ところで、「今までに会ったことがあるメジャー・バンドに所属している人達の中でも、アラン・ホワイトは特にフレンドリーな人だった」と書いてあるのを読んだことがあります。そこで、人々があなたに抱いている好印象を変えるような話をしてもらえますか?

 そうだなぁ……ここでナックル・ダスター(メリケン・サック)を取り出してみせようか?(笑) 冗談だよ! そうじゃなくて、俺はいつも努めて……うーん、こう言うと嘘っぽく聞こえちゃうな……。俺は人にインチキ臭い奴だと思われたくないんだ。例えば……メジャーな人達のことをどうこうは言えないけど、でも彼らはとてもインチキ臭く見えるよね。俺はそういう人間じゃない。真実味のある人間でいたいだけだ……何故って、俺は世界中の色々な人達と混ざって、最悪な仕事をしたことがあるから……過酷な環境や、苦しい労働が原因で、どういったことが起こるのか知っているから……。

■僕は治安の悪い地域で育ちました。

 俺は、そこは幸運だった。治安の悪い地域で育ちはしなかったけれど、本当に酷い仕事の数々を経験してきたんだ。心底ゾッとするような仕事が、どんなものか分かるだろ。それが悪いってわけじゃなく、ただ俗っぽいんだ。重労働の溶接工をしていたことがある。重い鋼鉄をたくさん持ち上げる仕事だ。俺は本気でミュージシャンになろうとしていたけれど、モリシーに出会って音楽の仕事を得るまでに、もうちょっとで挫ける寸前だった。自分が正しい時に正しい場所にいたことは、本当に本当に幸運だったと思う。凄く……凄く……(笑) ごめん、舌がもつれちゃった(笑)。

■(笑) 気にしないで。

 そういった経験が、自分を地に足の着いた人間にしているんだ。もしファンが気に入ってくれなかったら、Red Ligntningは存在し得なかっただろう。モリシーにしたってそうだよ。だから誰だろうと、ファンに敬意を払うのは当然だ。大勢の人達から同時にサインを求められたり、ちょっと騒ぎになってしまう場合には、難しいこともあるだろうとは思うけど。

(ベーシストのジョンが楽屋に戻ってきた)

(ジョンに向かって) 大丈夫かい? ここにいた方が良ければ、そうしなよ。俺はもうちょっと質問に答えるよ。

ジョン: まだやることがあるから、ごめんよ。俺、一辺にやらないと気が済まないタチなんだ。

 了解。

(ジョンが部屋から出て行く)

 時には、どうにも収集がつかなくなってしまい、「ごめん、本当にもう行かなくちゃ。ここに一時間半立ち止まって、200枚もサインするのは無理なんだ」みたいなことを言わなきゃならないこともある……俺がラッキーならね(笑)。他にも……一回こんなことがあったよ……ギャリー・デイと一緒に軽く食事をしていた時のことで、俺は意地の悪いことをするつもりは全く無かったんだけど、ただ本当に食べている真っ最中だったんだ。場所はヴェンチュラだったと思う。そのダイナーには大勢のファンがいて、俺とギャリーは「こりゃ大変だ」って感じになってしまった。

■最近のことですか? それとも何年か前?

 うん、99年のことだったかな。

■そのショーなら、僕も観に行ったと思います。

 そうなんだ! あれは俺のお気に入りのショーだよ。あそこの音響は、本当に本当に良くてね。おまけにステージに上ってきたファンが、俺のペダル・ボードのプラグを全部抜いちまったんだ。

■そりゃ大変だ

 ……一晩中ヘコんだよ。演奏を全て中断させなきゃならなかったし、それで、またプラグを差込んでから続きを演奏して……いや、もう一度曲の頭からやり直したんだっけかな。ちょっと思い出せないや。ああ、そうそう、話を戻すと、俺達がダイナーで食事をしている最中に、男性が何人か近付いてきて、「サインを頂けますか?」と言ったんだ。俺の答えは「ちょっと今は食べてる最中だから……。けれど食べ終わってからなら、喜んでサインしましょう」。ただ礼儀正しく対応する、それだけのことだよ。下司な人間になる理由なんかどこにも無い。どうして他人に対してそういう振る舞いをしたがる人間がいるんだろうね。良いことなんか、これぽっちも無いのに。時として、間の悪いことや、あるいは「もう勘弁して欲しい」と思うような酷い状況を経験することは、誰にでもあることだろ? 他人に対して不愉快な態度を取るのはおかしい。俺はそういうのは好きじゃない。そういう人間は好きじゃないんだ。

■ええ、馬鹿げてますよね。毎日大勢の人間に声をかけられるのは確かに大変でしょう。けれど、少なくとも、彼らは慕っているからこそ近付いて来るわけです。

 そうとも。礼儀正しく接すれば良いんだ。ムカつく人間になる必要は無いんだよ。それが俺の考え方だよ。

■それに、また同じ街に行くことだってありますし、そこで同じ人達に会うかもしれない。

 その通り。『良い気になって他人をこき下ろすな。お前が落ちぶれた時に、誰の助けが必要になるか分からないんだぞ』 俺はそう教えられた。俺の言ってることの意味、分かるよね?

(その慣用句を聞いたのは初めてだというフリをすれば良かった。お約束の笑いの瞬間を逸してしまった)。

■おや、「あなたの恐ろしい一面」という質問に答えそびれてますよ。申し訳無いけど、次の質問にいかなきゃならないな。

 俺の手が君の首を締めてることに、まだ気付いていないようだな。(二人とも笑う)

■所有しているレコードの中で一番の珍レコードは?

 珍レコード?!? おお、こりゃまた良い質問だ……。珍レコードね……。そうだ、どこかでキム・フォーリーのレコードを買ったな。

■(笑い始める) キム・フォーリーですか!

 曲は「They're Coming To Take Me Away! Ha Ha」だったと思う。

■その曲にキム・フォーリーが絡んでいることを知っている人は少ないでしょう。

 だろうね! 本当にメチャクチャなレコードさ。

■その曲だけじゃなく、アルバム全体が正気の沙汰とは思えない作品ですよ……僕はあのアルバムを聴いて育ったんです。お気に入りの一枚でした。僕がこんな大人になっちゃったのも、あのアルバムのせいかもしれません。

 アルバムは俺の物だった気がする。レコード棚のどこかにあるんじゃないかな。兄貴の手元にあるのかもしれないし、俺の方に置きっ放しなのかもしれない。どうだったかなぁ。

■とにかく、読者の皆にも強く薦めたいところです。(ナポレオン14世 NAPOLEON XIV をチェック!)

 完璧にイっちゃったレコードだ。聴いててトリップしたよ。

■キム・フォーリーに会ったことはありますか?

 いや、無い。

■友人の一人が、フォーリーと食事をしたことがあるんです。その友人が言うには、彼は、まさに一般に想像されているような人物だったそうです。つまり、最高に変人。

 女性にとっては、ちょっと悪夢じゃないかな? 彼はいつだって女性と作品、両方に手を出そうとするだろ。

■それについては、THE RUNAWAYSのドキュメンタリーで観ました。THE RUNAWAYSといえば、ジョーン・ジェット(THE RUNAWAYSのギタリスト)を髣髴とさせる、マイケル・ジェイフォックス演じる売れないミュージシャンが大都会での成功を目指すという映画「Light Of Day」と、ブリトニー・スピアーズ演じる主人公がアメリカ中を旅し、自分が子供ではないこと……けれど、まだ大人の女になっていないことを学ぶといった映画「Crossroads」と、どちらに大きな感銘を受けましたか?

 そりゃ、マイケル・ジェイフォックスの方に間違いない。例え観たことのない映画だとしてもね(笑)。ブリトニー・スピアーズが、いけないとは言っちゃいないよ。勿論、彼女なりに頑張っていると思うさ。ただ俺の好みじゃないってだけで。

■自分なりに頑張っている人達って沢山いますよ。そんなに頑張らなくていいのになぁ……まあ、いいか。あなたのお気に入りのローカル・バンドで、これから人気が出そうなグループといえば?

 そうだなぁ、地元のバンドっていうと、イギリスのか……うーん、これは難しい質問だな。実は、かなり面白いバンドがいるんだ。TEST ICICLESってバンドだ。

■僕も彼らのことを耳にしたばかりですよ。

 そうなんだ。本当に奇妙なバンドだ。彼らが本当に凄いバンドなのか、それとも酷いバンドなのか判断がつきかねる。そこがクールなんだ。彼らは、かなり突飛だろ……。本当に本当に人を惹きつける面白いバンドだし、何にしろ気に入っちゃいるよ。BLOC PARTYも好きだな。COLDPLAYも大好きだし。皆がブーイングするのは分かっている。でも俺としては、COLDPLAYはとても本質的で真剣なバンドだと思う。どう説明すれば良いのか分からないけど……。彼らのことが凄く好きなんだ。何か特別なものを持ってるバンドだと思う。

(僕は、英国に帰った際にはKAITOをチェックしてみるようアランに勧めた。彼らはSONIC YOUTHとELASTICAを混ぜたような感じのバンドだ)。

 好きなバンドは、いっぱいある。PLACEBOも良いよね。万人向けじゃないけど、本当に凄いバンドだ。それに、GREEN DAY大好き。彼らは実力があって、恰好良くって、刺激的だ。この前のアルバムは素晴らしかった。

■一緒にツアーをやったらどうでしょう。あなた方は合うと思いますよ。

 あうううう、どうかなぁ。俺ら、ボコボコにされちゃうよ。GREEN DAYは凄いからね。

■(反論を考えて) どうでしょうかねぇぇぇ。

 俺達と彼らとでは曲の感じが違うよ。たぶん、俺達の音は、GREEN DAYとECHO AND THE BUNNYMEN、それにCOLDPLAYと何かを足した中間じゃないかな。どうかなぁ。(笑い続けた後で)多少影響を受けたバンドはあるよ。U2のような偉大なバンド……CULTの初期作品「Dreamtime」とか「Love」は、とても好きで……ギターが目立つものに惹かれる傾向があるんだ。 Gothバンド……昔のものから新しいものまでかなり影響されたね。それから50年代、60年代の曲なら、HendrixやTHE DOORS, THE BEATLESが好きで……愛しているのはElvis(プレスリー)。作品を挙げていくとキリが無いね。最近のバンド? 言ったことあると思うけど、THE KILLERSにSTROKES……。

■モリシーのサポート・アクトでTHE KILLERSを観ましたよ。実は、僕の友人のバンドが、モリシーのサポートを務めたことがあるんです。DIOS (aka DIOS MALOS) ってバンドです。えーと、ロサンジェルスのThe Wilternでの公演でした。

 彼らとは顔を合わせていないんだ。問題だよね。というのも、俺達はとても……、会えなくて残念だったとは思っているよ。沢山のバンドがサポートを務めてくれているけど、俺達、開演前は楽屋にこもっていて、自分達の準備にてんてこ舞いだったりで……とにかく、そう、(指を鳴らす)とても張りつめているんだ! マンチェスター・アリーナでのFRANZ FERDINANDには、ちょっとだけ会った。かなり好きだよ。彼らは素晴らしい。

■リミッックスも、いっぱい出てますね。

 そうなんだ?

■沢山のブートレッグ盤リミックスが出回っています。FRANZ FERDINANDと他のバンドをミックスしたりとかね……。ところで、もしトニー・ブレアが「ジーザスに話しかけられた」なんて言ったとしたら、首相の座に就いていたと思いますか?

 (間を置いて) ブレアは、これ以上首相を続けるべきじゃない。俺は他人の信仰心を非難したりはしないよ。偏見は持っていない。自分は不可知論者だったとも言えるし……。けれど怖しいことに、残念ながら、ブレアよりマシに新労働党を率るだろう政治家がいないんだ。保守党ときたら、まるで共和党みたいで時代錯誤だ。俺は一度だって保守党を支持したことは無い。今や、政治は汚職まみれ。二党の間には何の定義もない。そして人々が投票したいと思うような党には充分な票が集まらない。悲惨だ。どちらかといえば、俺は社会党か緑の党に投票するよ。

■大勢の人が、自分の考えていることを実行に移せば、彼らのような野党が選出されることだって有り得ます。

 うん。そうは言っても、俺達自身が姿勢を変えるべきなのかもしれない。皆で行動を起こした方が良いと思うんだ。「おい、分かってんだろ? そうとも反逆するんだ!」とね。これが、一番良い反逆のやり方だ。戦術的投票をしたり、似たような二党を政権の座に就かせるよりも、社会党か緑の党に投票しよう。物事は、変わろうする必然性があって初めて変わるんだ。

■なるほど、そうなると良いですね……常に物事の明るい側面を見ようと思います。80年代には、英国にサッチャーがいて、我らがアメリカにはレーガンがいた。けれど本当に良い音楽は、暗い時代から生み出されるものです。

 全くその通りだ! 驚異的だったものといえば……SEX PISTOLSだ……。おお、SEX PISTOLSの名を挙げるべきではないかもしれないけど……彼らには心底ギョっとさせられたよ。SEX PISTOLSが登場したのは、俺がまだ幼かった頃で、ショックだったね。「何あれ! うわあ!」って感じだった。SEX PISTOLSは、完璧に徹底的に国中から嫌われていた。多くの敵意にさらされていた……そして、それこそが彼らの最高なところだった! 正にそこがね! SEX PISTOLSは右翼どもを敵に回したのさ! 頭の古い連中の反感を買ったってわけだ。

■自分も連中の反感を買うようにしています。僕たちは今こそ、一層そういった姿勢が必要です。

 信心深い人達は騒乱の中にいるのさ! 俺達でやるんだ! 何を信じていようとも、人々は自分の意見を声に出して主張できるべきなんだ。SEX PISTOLSは徹底して解放的だった。彼らは本当にそうだった。

■彼らは音楽を白紙に戻した。

 そうなのさ! 長髪のヒッピー達は死んだ! 60年代の残りカスが一夜にして消えたのさ。保守層は生きた心地がしなかったろうね。あの頃を振り返ると、マーガレット・サッチャーは小規模の労組を潰し、英国製鉄公社を売却し、この国の良きものがどんどん破壊されていった。英国から輸出できるものは殆ど何も無くなってしまったのさ……何故なら、全て内密に売却されていたから。本当に、本当に酷いとしか言いようがない。ブレアの新労働党は、おそらく事態を悪化させているに過ぎないと思う。俺は今までずっと労働党に投票してきた。でも、もう今の労働党は昔のそれとは違う。ことによると、今後は緑の党に投票するかもしれない。あるいは社会党にしようか。どちらにしろ、俺は左派だ。いつだって。

■勿論、当誌の大部分の読者もですよ。

 俺は反抗者の側にいたいんだ。企業論理が世界を動かすなんて信じない。もっと声を上げなくちゃ。俺達こそがマジョリティ(多数派)なんだから。だっておかしいだろ、世界で最も金持ちの20人が……いや、もっといるのかもしれないけど……分かんないけど……そういった連中が世界を動かしているなんてさ。そして、連中は分裂と支配が大好きなんだ。そう、大好きなんだよ。人種差別がまかり通り、人々が失業を他人のせいにすれば、連中は小躍りするのさ。本来の非難の矛先をのらりくらりとかわすことが出来るからね。

■結局は、金持ちが得をする。

 そのとおり! もしかしたら、システムは決して変わらないかもしれないけれど、俺達が自分達の心を開きさえすれば、俺達こそがマジョリティなんだよ。心の底から望めば、大きな変化を生み出すことが出来るはずだ。ボノはやろうとしている。彼に祝福を。少なくとも、彼は挑戦している。

■人々は、自分達が声を上げれることを分かっていないのだと思います。今の時代、僕らは沢山の手段を持っています……これら多くの人々によって発明されたテクノロジーは、私達が現状を抜け出せるよう投票できるようにするためのものでした。それらは上手く作動していると思います。余りにも長い期間、過剰な供給を抱えたシステムは崩壊する筈です。

 そうだね!80年代の株式市場の崩壊が起きたのもその為だ。すごく面白い事件だった……若かった俺にとってはね。全てを失ってしまった人々には気の毒に思うよ。とても酷い経験だったに違いない。けれど、何かが変わらなくちゃいけなかったんだ。他人を食い物にしながらスウィミング・プールでシャンペンを揺らしているヤッピーになっちゃいけない。変わらなくちゃいけなかったんだ。だからこそ、現代はとても興味深い時代だ。メジャーレコード会社はインターネットのダウンロードに売り上げを阻まれているが……バンドはインターネットを通じて大きなファンベースを得ている。凄いことだ!新たなアンダーグラウンドになるよ。

■あなたのショーを観に来た人達からもっとお金を稼ぐことになりますね。ショーは大金を稼ぎ出す場所だ。

 当然さ。

(アラン・ホワイトのファンジン「No One Can Hold A Candle To You」のライター二人が楽屋にやって来た。彼女達は後で僕に2冊くれた)。

■今までに猿を飼ったことはありますか?

 (沈黙)そんな馬鹿な(みんな笑う)。ファンから貰ったソックス・モンキー(ソックスから作った猿のぬいぐるみ)ならあるけど。……えーと、ファンが作ってくれたんだよ。一匹をモリシーに、一匹を俺に、一匹をギャリーにってね。

■そりゃ、ゾッとする話だ。

(笑)そうそう。ちょっと笑える感じだった。本物の猿は飼ったことない。それで、マッドハウスに予約は入れてあるのかい?

■ええ、戻った時に。DANGER MOUSEとDANGER DOOM、どっちだと思いますか?

 「危険なネズミ」か……「破滅の危機」?世界が破滅に向かっているってこと?酷いよ、ジェブ・ブッシュ(フロリダ州知事・当時)がジョージ・ブッシュの後釜に座るようなことがあれば、アメリカは破滅に向かって突き進むだろう。有り得ることだよ。どうかしている。中東では既にアメリカに対する蜂起が起こっている。北朝鮮との緊張関係もあるし……その一方で中国。彼らの経済発展はめざましい……実に恐ろしいことだ。イラク問題は何もかもが失敗だった。

■おまけに茶番だった。

 完全に石油を巡る問題だった。そして、それが西側諸国に対する更なる憎悪をかきたててしまった。実際に多くのテロリストを生み出した。そう、だから俺は「破滅の危機」だと思うよ。

■(笑)それを聞いたらDANGER DOOMも喜ぶでしょう。(僕はDANGER DOOMとは、DANGER MOUSE(DJ/プロデューサー)とMF DOOM(ヒップホップ・ミュージシャン)の共作ユニットの名前だと説明した)。

 全然知らなかった!ごめんね、DANGER DOOM!(笑)……それとDANGER MOUSEも。

■このインタビューを読んでる人達の中には、モリシーファンも多いと思います。多少はモリシーについての質問をしないと僕の身が危険なことになりそうなので……それはそうとして、モリシーは朝型人間ですか? それとも夜型人間?

 明らかに朝型では無いね。彼が起きるのは、遅いと昼過ぎの1時か2時になるんじゃないかな。だから……午後型人間だ。午後のお茶とケーキ型人間だね。

■見つめられたからという理由だけでモリシーが男を殺したというのは本当?

(沈黙)そんな馬鹿な話しがあるか。

■ですよね、僕もそう思いますよ。

 もしそうなら、彼は今頃刑務所にいるはずだろ?

■マイク・ジョイスとモリシーの対立について、あなたの意見は?
(The Smithsの元ドラマー、マイク・ジョイスとモリシーのローヤルティーをめぐる裁判闘争。ジョイスは勝訴しただけでなく、事実上、The Smithsのアルバム売り上げから--全てではないが--最も多くの取り分を得ているかもしれないという見解がある)。


 うわぁ……分からない。本当のところ事の全容を知らないし。どちらかと言えば、関わり合いたくない。何だかちょっと冗談みたいに見えるよ。俺に分かるのは、それだけだ。

■世間一般がグエン・ステファニーの新アルバムを聴こうかという時に、あなたのアルバムを聴く道理は?

 そうだなぁ、どっちも聴けばいいんだよ。グエン・ステファニーには会ったことあるよ。実際、彼女は本当に本当に良い人だったし、才能あるパフォーマーだと思う。声も個性的だし。うーん、彼女と俺達は全く違うから、比較するのに無理があるんじゃないかな? 

■彼女の“初期の”作品は好きですよ

 NO DOUBTは良いよね。俺は彼女がソロになってからも好きだよ。本当に凄い作品を出していると思う。

■あなたは「Holla' Back guy」?

 え?何だって?

■すみません、グエンの歌からの引用です。彼女の最新シングルだったかな。

 ああ、ごめん……。

■(自分自身にうろたえて)。いえ、いいんです……。じゃあ、あなたがいつも訊いて欲しいのに、絶対に訊かれない質問は何ですか?

 (笑)そんなこと訊かないでよ。分かんないよ。

■可笑しいな(笑)。僕もこんな質問をしたことはないのに。これでインタビューも終わりですが、今回は、このThe Knitting Factoryの楽屋でインタビューに応じてくれてありがとう。それでは、読者のために機知に富んだ締めの言葉をお願いします。

 そうだな……ジョー・ストラマーが「もしバンドを結成して良い結果を得たいなら、こだわれ、変わるな、連携しろ、成長しろ、そして腕を磨け。出来る限り多くのことを学ぶんだ」と言った言葉。その通りだ。本当に、大志を持っているならね。もしそうじゃないなら、もっと出来るだけ楽に構えて幸せになる方法を探せばいい……そんなの無理だけどね(みんな笑う)。いや、冗談だよ。基本的には、その通りさ。


 ありがとう、アラン。僕はとても良い余韻を感じている。アランがインタビューを楽しんでくれたので、僕も素晴らしい時間を過ごした。インタビューを行う前、彼らがサウンドチェックでThe Smithsの"Bigmouth Strikes Again"を演奏するのを観させてもらえた。そして、インタビューの後もショーを観て写真を撮った。ひょっとすると、我々のラジオで彼らのライブセッションを放送するかもしれない。アランのウェブサイトで、アルバムとツアーの詳細をチェックしてくれ。

 アラン達のバンド“Red Lightning”は、残念ながら07年2月に解散をした。レコーディングされた1stアルバムは発売されていない。