From Morrissey, 21 July 2006

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ジュリアさんのサイトを通して”ファン”に宛てた手紙です。
(やや割愛している部分もありますが、ほぼ完訳です)。
 ツアー最終公演のブリュッセルは素晴らしく、自分自身とても楽しんだ。すぐにベルギーの主要4都市での追加公演を依頼されたが、腰をサポートする鉄の支えでも入れない限りは無理……それはちょっと見映えが悪いしね。

 ブリュッセルにいた頃、クリスティーン・ヤングのシングルが発売され健闘している。
モリシーお気に入りの歌手。今年のツアーサポートを務めた。

 同じく発売された"In The Future When All's Well"は、店頭セールスのチャート順位では初登場6位だったが、ダウンロード販売のセールスが加えられた途端に17位に島流しされてしまった。"The Youngest Was The Most Loved"の時にも同じことが起こっていて、フィジカル・チャートでは3位だったのに、DL販売がカウントされた途端にトップ10にさえ入らなかった。
 このような不合理なチャート・ルールはすぐに変わるだろうし、(こんなシステムでさえ)"You Have Killed Me"がチャート3位と発表されたことを覚えておく価値があるだろう。そう、僕をつまはじきにしようとしている誰かがいるからといって僕を責めることは出来ない。1位になったという曲は、その時どこのレコードショップ店頭でも販売さえしていなかったのに!……なんてフェアなシステムなんだろうね……。

 クリスティーンのシングル"Kill the Father"は、ここ50年間で聴いた僕のベストソングだ。特に"strangle Bowie with/his neckerchief〜ボウイの首をしめろ/彼のスカーフで"という一節が大好き。完璧なアイディアだよ。君らも同意するはずだ。彼女は「セント・ルイスから来た女」なのさ……セント・ルイスは「火星」の新しい言い方だと教わったよ。(本当は言っちゃいけないんだけど、僕らが今年の11月にセント・ルイスで公演することを考えれば尚更さ)。 以下、クリスティーンへの賞賛が続く。

 アイスランドで映画「Capote」を観た。評判どおり、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技には口があんぐり開くほど驚いた。ただ、ディックとペリーのような冷血漢達があれほど簡単にカポーティを受け入いれるというのは、ちょっと有り得ないと思う。特にカポーティの舌ったらずな喋り方を考えるとね。いやいや、彼の声をからかっちゃいけないな"don't make fun of Truman's voice"さ。
 中心人物達が亡くなった後に、実際の話を偉大な神話へと作り替えるのは簡単なことだ。結局のところ、僕にはトルーマンが作家だったのか、あるいは単なるうろつき屋の覗き屋だったのかさえ判断がつかない。そうはいっても彼は面白い人物ではあった。

 昔、僕がThe Smithsの"The Boy With the Thorn In His Side"のジャケットにトルーマンの写真を使った時、The Smithsのとあるメンバー(奴がまだ生きているのは残念だ)は「これ、アーニー・ワイズ?」と言ったものさ……ああ、神様……。
70年代に活躍した英国の人気コメディアン・デュオの一人(故人)。

 スウェーデンのカールスタードからノルウェーのオスロに向う深夜ドライヴの間、僕は生きていることについて驚嘆し特権のように感じた。満月と静かな湖面、その風景に息を飲み、涙が滲んできた。スカンジナビアが見せてくれた美しさと、人々とプレスがとてもオープンに歓迎してくれたことを謙虚に受け止めている。

 オスロのフェスでは、午後に町の中心部を徒歩で通り抜け公園に腰を下ろした。ある寂しげな英国人が「こんちゃ、モリシー」と声をかけてきた以外は気付かれることもなく、家にいるような安心感があった。陽が傾いていき、僕は芝生の上に座りながら、人生もそんなに悪くないなと感じた。この時間はあっという間に過ぎていった。

 オスロ公演でRoxy Musicの"Street Life"の僕らヴァージョンに挑戦した……実は、このカヴァー曲はカールスタードでもやったけれど、観客は全くもって無反応だった。
 この反応の悪さはオスロでも同じだった。マイキーが唸りを上げるホワイト・ノイズを上手くやっていたが、それでも僕は歌が終わるのを待ちきれなかった。公演中に立ち往生したように感じたのは初めてのことだったし、それに観客達はどういう意味を持った歌なのか全く知りようが無かったんだ。次にこの曲をやるのは催眠状態の時だけだろうね……約束するよ。

 アイスランドと同じように、オーストリアには非常に心を刺激された。本当に沢山の観客が集まってくれて衝撃的だったよ。オーストリアの生活や風景は律動的で規則正しく整理されており、僕の目には美しく見えた。比較すると、自分が醜くしぼまされているように感じる。まるで人生とはそんなものだと言うように。美は僕をひるませる……けれど汚れは僕に強さを与えてくれる。スタッフォードで開催されたV festivalに設置された巨大スクリーンには、ずんぐりと歪んだ僕が映っていた(けれど何故そう映るかというと、それが僕だからだ)。Chelmsford festivalから家に帰る途中だったティーンエイジャー3人が、交通事故で亡くなった。天命が何たるかを知る者は誰もいない……。

 サンクチュアリからの要請を受けて、V festivalにDLのリスクエストを出した。サンクチュアリが提言するには、またしても未だに曲がオンエアされないという事態と、週中チャート6位の僕らの足元をすくうだろうお馴染みの難攻不落の市場原理に直面させられるからとのことだった。何もかもがアンフェアだ。バタシー公営住宅のキッチンですら満員にできないだろう"アーティスト"達に僕らは蹴り出されようとしていた。モダン・ライフは戦いだね。

 Dublin festival は期待したほどは楽しめなかった。The Pointはもっと上手くやれただろうに。ちょうど今年初めのオリンピアでの2回のギグが馬鹿らしく見えるくらいに、上手くやれたはずだった。ついでに、僕にはマーレイ・パークの他出演者について口を出す権利は無かったにもかかわらず、彼らはどの広告でも"僕の"スペシャル・ゲストという触れ込みで宣伝されていた! さて、もちろん(マーレイ・パークでサポートを努めた)Magic Numbersと同じくらい素敵な―彼らは素敵だよ―出演者を僕自身で選ぶとしたら、クリスティーン・ヤング、ダミアン・デンプシー(彼が快諾するとしたら)、the Immediate、Sack、Pony Club、 The Seven Deadly Skins、 Gaynor Tension, そしてアニー・ベルズ……彼らが共演を引き受けてくれるとは限らないが、頼んでみる価値はあるな。
The Immediate:アイルランドの若手バンド。アイルランド音楽賞の新人部門にノミネートされたことも。
ダミアン・デンプシー:ダブリン出身のシンガーソングライター。
Sack:ダブリンの中堅インディ・バンド。99年ツアーでモリシーのサポートを務めた。
Pony Club:イングランド出身のスカパンク・バンド。
The Seven Deadly Skins:ダブリンのレゲエ・バンド。
アニー・ベル:ダブリンで有名なドラァグ・クイーン。


 僕らはダブリンからパリに移動した。歩いて、溶けて、歩いて、溶けて、また歩いて……これがパリで人々のやることだ。この街は唯一、自分が喫煙者じゃないことに苦い後悔を感じる場所だ。フランスのTV局Canal+のインタビューを受けながら、いつも通りのことをいつも通りの言い方で話した。僕は首をくくられなきゃいけないな。

 The Rock En Seineでのコンサートは最高の気分だった……少なくとも僕は。何故自分がステージの上であんなに喋るのか皆目見当がつかない。その昔は口を閉じながら歌っているも同然で、最後の曲を歌い終わるまで封筒のようにピッタリと口を閉ざしていたものだったのに。今じゃ、言った言葉の先から次の言葉が出てきちゃって、ちゃんと文脈を喋れているのか願わんばかりだ。時々はちゃんと喋れているけれどね。

 パリをぶらついた際に、"Live at Earls Court" のLPを見つけた。まさかレコードで出ているなんて全然知らなかったから驚いたよ。そしたら内側のラベル面も含めて"The World is Full of Crashing Bores"が"The World is Full of Crashing Bo*ar*s"と誤植されていた。おまけに "The More You Ignore Me, The Closer I Get"は"The More You Ignore Me"、"Bigmouth Strikes Again"は"*Big Mouth* Strikes Again"になっているし。この種の読み間違いが起こりうる頻度と、確固たる努力無しに誤植を許してしまうところが、僕には全く理解し難い。けれど、それでも決定的なミスをしている"Your Arsenal"のUK盤初回よりはマシだ。何と"Your Arsenal"ラベルには「Track 1 taken from the album Your Arsenal」と書かれているんだからね!
 あるいは、"Kill Uncle" のUK盤LP……あれには僕の名前が「Morrisey」と誤植されている……まったく(溜息)……。
 レコード会社で働いてる人達は、揃いも揃って大きすぎる目が顔からこぼれてしまっているんじゃないかと思うのも無理ないでしょ。彼らは間違えなきゃ死んじゃうんだよ。

 コンサートが行われる夜間、付属のマクドナルド店を閉めることに同意してくれた事実に即して、全70会場中、僕が最も高く評価しているのはイェーテボリの会場だ。僕ら全員が、これが驚くべき意思表示になると気付いた。イングランドやアメリカでは、きっと実現しなかっただろう。スウェーデンは開かれた国だ。

 僕の考えでは、一番酷かったのはゲイツヘッドの会場だ。何故かというと、会場側の方針で最前二列が一般の観客では無くスタッフ関係者に割り当てられていたからだ。それでどうなるかというと、前二列に人はいる……けれど全く興奮していないし、熱意もない。僕が声を限りに叫んでいようとも、よそ見をしたり、隣とお喋りしたり、セーターを編んだりしている人々に対して歌う……これはとても不安になることだ。Sage(会場名)はこの方針を捨て去るべきだと思う。でも僕が言うことじゃないかな?

 今、とても興奮していることがあるんだ。近い将来、カーネギー・ホールで上映するモリコーネのミュージカルで歌うことと、曲に詞を提供することを依頼されている。そう、モリコーネからだよ。嬉しい、嬉しい、嬉しい。

 さてさて、最も重大なことといえば、別に予言が当たったことを自慢したいわけじゃないけれど(Uncut magazine の4月号を読み返してごらん)、ワールドカップはイタリアが優勝したね。一人座って最終戦を観たよ。でも誓って奇声を上げたり勝ち誇ってほくそ笑んだりはしなかった。人生とは運を持っている人々のためにある。気難しいやり方が実を結ぶんだ。
 夜の残りをホテルの窓際に座って過ごした……わざとらしい内気さの他には特に何もなくね。

それでは、お元気で。
MORRISSEY