モリシー・スピークス・NME

雑誌掲載日 2004年4月17日
掲載誌 NME
 ロック・シーンには多くのヒーロー達が登場しているが、その中でも頭一つ抜きん出た存在といえば……ジョン・レノンはミリオン・セールスを連発し、他の者より多くのレコードを売った。デビット・ボウイは誰よりも眩いロックの変革を成し遂げた。

 カート・コバーンはグランジ界のジェームズ・ディーン。エルヴィス・プレスリーは20世紀のアメリカにおいてリッチで有名であるということが何を意味するのかを体言してみせた。マイケル・ジャクソンは最も人々の心を刺激した……より不気味な方法ではあったが。

 しかしながら、誰もモリシーには及ばない。モリシーであるということは、常に最も熱烈に崇拝されるポップスターであり、「Meat Is Murder」によって一世代をベジタリアンに変えた男であり、独身主義者のセレブレティ・アイコンであり、空虚な80年代の流行の最中にオスカー・ワイルドと60年代のキッチンシンク・ドラマ*になるということだ。モリシーであるということは、間違いなく過去最高の作詞家であり、紛れもなく最高のインタビューの受け手であり、2年前に発行されたNME50周年記念号で「過去50年間で最も偉大なアーティスト」に選出されたThe Smithsのリードシンガーであるということだ。
*労働者階級の家庭を舞台としたシリアスなドラマ)

 モリシーはNMEと一番縁の深いポップスターだ。モリシーが初めてNMEに接触したのは、彼が1974年に書いたスパークスについての下らない投稿だった(NMEはそれを掲載した)。それから数通の投稿と10年の歳月が過ぎた後に、The SmithsはNMEの表紙から読者投稿ページまでを占拠することとなる(The Smithsの支持者ではない読者からは、『N:ニューM:モリシーE:エクスプレスと誌名を改めたらどうだ』と吐き捨てられもした)。

 モリシーに関する記事内容が棘のあるものに変わったのは、1992年、モリシーがMadnessのサポート・アクトとして登場した悪名高いロンドン・フィンズベリー・パーク公演の後からだ。正に「国王殺しの大逆罪」と感じられても仕方が無い。

 それ程までにモリシーとNMEの関係が毒々しいものになろうとは、1992年の8月8日土曜日(フィンズベリー・パーク公演当日)に何があったのだろうか? そう、モリシーがステージに現れた時、観客前列にはBNP*が派遣した相当数のスキンヘッドの一団が陣取っており、初期2トーン時代からのMadnessファン達は不本意なブロックに追いやられていた。モリシーのバックドロップにはスキンヘッズの巨大な写真が掲げられていた。モリシーは自作の中で最も人種差別論争を巻き起こした曲である「The National Front Disco」を歌った。そして最後に、これ見よがしにユニオン・ジャック旗を振りかざした……ブリットポップ期以前、旗を振り回すなど極右の人間しかしなかった当時においては、これはショッキングで扇動的なジェスチャーだった。
*BNP=ブリティッシュ・ナショナル・パーティー。国粋主義、白人主義を掲げる極右政党として知られている)

 NMEはモリシーの公然としたレゲエ嫌いから、過ぎし日のイギリスへの執着心まで全てを取り上げて物騒な特集記事を長々と書いた。要するに「モリシーは人種差別主義者か?」という疑念を呈した記事である。

 モリシーは返答を拒否し、事実、二度とNMEの取材には答えなかった。

  それから約12年間で、あらゆることが変わっていった。モリシーは素晴らしいアルバムを1枚(1994年'Vauxhall And I')発表した後、酷いアルバムを2枚(1995年 'Southpaw Grammar' 1997年'Maladjusted')発表し、気付いてみればレコード契約がない状態にいた。亡命するかのようにロサンジェルスに移住した90年代後半の彼は、まるでロック界のノーマ・デズモンド*のようだった。
*50年代の映画「サンセット大通り」でグロリア・スワンソンが演じた落ちぶれたサイレント女優の役名。嗄れ声で叫ぶ「私は今でも大女優なのよ! 映画界が小さくなっただけ!」という台詞で有名。ブロードウェイ・ミュージカルとしてもヒットした)。

 90年代後半に権勢を振るったヌーメタル、ダンス・ミュージック、R&B、そしてポスト・ブリットポップ、ウィンプ・ロックといった音楽には、モリシーからの影響は殆ど見当たらない。モリシーはEメール時代におけるファックス機さながらに時代遅れに見え、彼と外世界とを繋ぐお気に入りの接触方法がファックス機なのも、さもありなんと思えた……これまでは。

 風向きが変わってきたのは、02年過ぎあたりからだ。The Libertines(詩的で惨めな理想郷論)やFranz Ferdinand(利口そうなキャンプ趣味)といったバンドは、そういった特性を最も深くポップ・ミュージックの意識下に植え付けた男……モリシーから多大な恩恵を授かっている。その間にも、The StrokesからJK・ローリングまでモリシーを天才だと賞賛するため、あらゆる人々が前に進み出た。The Ordinary Boysは「Viva Hate」に収められている曲名からバンド名をとり、Hot Hot Heatのダンテは手首に「This Charming Man」とタトゥーを入れている。女王は死んだ*かもしれないが、海を超えて王が帰還する時がきたのだ。
*The Smithsの最も有名なアルバムは「Queen is Dead」である)。

 しかも、The Smiths以降のモリシー・ソロのなかで明らかに特別素晴らしい作品に仕上がった新アルバムを携えての帰還だ。活気づいたモリシーは、グラストンベリー・フェスからリーディング・リーズ・フェスまで何処へでもプロモーションに赴き、6月にロンドンのサウス・バングで開催されるメルトダウン・フェスではキュレーターまで務めることになっている。

 そして現在、12月の日曜の午後、ロンドンにある超高級ホテルのスウィート・ルームにて、NMEは10数年ぶりにモリシーと顔を突き合わせている。朝の時点では青いブレザーと灰色のスラックスを穿いていたモリシーだが、今はもう少し心地良さげなジーンズとビロード生地の白シャツに着替え、ボタンダウン・シャツの下からグランドダッド・スタイルのインナーが覗いている。モリシーは健康そうで、品の良い身なりをしており裕福に見える。今は灰色のものが混じる前髪は、誇らしげに挑発的に高く整えられている。
 社交性については如何だろうか? 満点である。昼日中に服を着たまま付き合うなら、モリシーほど面白い相手はいない。それは、モリシーがNMEとねんごろな関係になるかについては不吉な予測を投げかけているが……とはいえ、だいたいは良い感じである。

■NME:1984年に、あなたは50歳になるとしたら「決心がつかなかった、ってことかもね。まあ、そんなもんだろう」と言っていました。

モリシー:「言ったねぇ。僕は50歳にはなっていない。まだだいぶ猶予があるんだ。あと5年かそこらしたら、また訊いてごらん」

■歳を取ることについて、どう感じていますか?

「人は僕が有史以前から生きてるみたいに訊くんだよね……ワケが分からないな。どうして? 僕が耄碌(もうろく)しているように見えるのか?」

■いいえ、そうではなく、あなたは随分と長くシーンにいますよね。

「それを見てきたなら、君もね」

■それでもやはり40歳過ぎのポップスターというは珍しいのでは?

「(ややムッとして)いいかい、先週産まれた赤ん坊だって歳を取るんだ。誰だって歳を取る。僕にしてみたって避け難いことだ。けれど歳を取ることに関しては、もちろん完璧に幸せだと感じている。若さから遠ざかれば遠ざかるほど、強くなると感じるんだ。本当にね」

■それは、若さを憎んでいたからですか?

「そう、大嫌だった。おぞましくも若者に好意を持ったことなんか一度として無かった。自分が幼かった頃も子供達に我慢がならなかった。だからこそ、避けて通れぬ老化に近付けば近付くほど、僕はリラックスしている。君だって、とても若い頃は、年上の人間をちょっとは尊敬したものだろう。てっきり年長者の方が物知りだと決め込んで、高い権威に就くのは特別な人間だと考える。やがて自分自身がちょっと大人になると、そういった権威ある人々が実際には無知同然だということに気付くんだけど……これってショッキングなことだよね。誰もかれもが頷いているだけで、君が実際に仕事をやり遂げでもすれば、それだけでビックリって有様だ。仕事の出来ない連中ばかりさ」

■あなたの80年代の敵対者の一人であるジョージ・マイケルが同じように再評価されているのは奇妙なことですね。

「そうだねぇ(溜息) いいや。全然そんなことないよ(笑)。でもさ、世間では僕がカムバックしたとか言われているけど、そうじゃなくて、僕としては多くのリスナーが僕の元へ戻ってきたと考えているんだ」

■その理由は?

「具体的には言えないけれど、みんな、ここ数年の音楽はタチが悪過ぎると考えているようだ。少なくとも、リスナー達は、僕がそういった絶望に対して尽力をしていること、血管の中に音楽が流れている酔いどれ達や現状を無視してはおけない人達と固く結ばれていることを分かってくれている」

■最近は、音楽面でも風向きが良くなったと感じますか?

「そうだなぁ、世間から優しくされたり、窓際の特等席を用意してもらえるとは期待していないけれど、大勢いた老いぼれの監視屋共はいなくなったようだな」

■「老いぼれの監視屋共」と言うと?

「音楽ライターたちさ。連中は明らかに分不相応に生き永らえたし、見識が狭くて使い物にならなかった(笑)。そういうものなのさ。ブリティッシュ・ミュージックの殆どは流行に左右される。音楽について書かれた他のものと同様に、モリシー苛めというのも単なる流行に過ぎなかったんだ。けれど、そういった埃も落ち着きつつあるね」

■それが再びNMEに対して口を開く気になった理由ですか?

「そう、部分的にはね。とはいえ、現在NMEにいる人達が以前とは違う種類の人達だと分かったからというのもあるよ。90年代初頭から半ばにいた堅物の老人連中とは違うよね。かつての悪臭漂うNMEは、もう存在しない。それに『'You Are The Quarry' 』で、連中に対して言ってやったと感じているしね」

■ユニオン・ジャック事件についての見解を聞かせてください。

「実際のところ、ユニオン・ジャック自体は何でもなかったんだ。奴らは僕を捕まえたがっていて--奴らというのは何年も僕を追い回していた数人のジャーナリスト達のことだ--それから不幸にも、英国中のプレスが奴らに従って、お馴染みのモッザーをつけ狙うようになっただけなのさ」

■この時期について、何かしら後悔をしていますか?

「いや」

■再び同じことを全てやっても良いと?

「全てやるとも……けれど、僕は何をすればいいんだ?」

■観客の中にはスキンヘッドの一団、ステージ上にスキンヘッドのイメージ表現、そしてあなたがユニオン・ジャックを振り回すといったことです。

「いいとも、けれど、あれは主にMadnessに関する事柄だったんだ。Madnessには、そういった派遣団がつきものだから」

■あの場に派遣団がいたことには気付いていましたか?

「いや。もしプレスが僕のことを人種差別主義者であり何か突拍子もない活動の先頭に立とうとしていたと本気で信じていたなら、インタビュー記事のない僕を2回もNMEの表紙にして宣伝の場を与えるような真似はしなかった筈だ。彼らは僕が本当の人種差別主義者ではないと知っていたのに、それでも人の興味を引く話に、興味を引く角度にと、とにかく悪意あるやり方で仕立てていった」

■あなたが何か発言していさえすれば、事態は沈静化したはずです。

「(断固として)いいや。それはちょっと違うな。本当に酷い糾弾だったから。会見して説明しようにも、当時の記者達ときたら本当に信用できない相手だった。君も連中に会えば分かるよ。彼らは、『我々はモリシーと会って、彼が人種差別主義者だと認めるのを聞いた』と言うだろうからね。あそこまで嫌われたら、(僕がどうしようと)彼らから少しでも良く言われるなんてことは絶対にないんだ」

■The Smithsが「Greatest Act Of All Time」を受賞したと、NMEから知らせを受けた時は驚きましたか?

「最高のアクトだって? 何てこった、アクトだけとはね! うん、驚きだよ。だってThe SmithsがABBAの上をいくなんて信じられないもの」

■あなたは最近「他の人達はiPodを、僕はMeltdownを持っている」と言っていました。iPodは入手しましたか?

「持ってるよ。半年前に人から一個貰ったはいいけど、組み立てる気にさえならないから、箱に入れたまま隅に転がしっぱなしで腐らせているけど。別に他意はないよ」

■最近、買ったレコードは?

「The Ordinary Boysのシングルを買うはずだったのに、何てこった、違うのを買っちゃったんだよね。窓から投げ捨てたら、よく飛んだな」

■The Ordinary Boysのどこが気に入ったんですか?

「そうだなぁ、最初に好奇心をそそられたのは名前からだ。とあるグループに、ある種の関係がある名前で、まさしく彼らに相応しい名だと思うね。そういった訳で、さらに詳細を調べることにしたのさ」

■それで、何か喜ばしい発見はありましたか?

「ああ。確実にニューウェーブの要素があると思うね……言葉で説明するのは難しいけれど、とにかく感じるんだ……ニューウェーブの活気をね。ロンドンでは確実にそういった現象が起こっていると見える。イギリスの他の地域については確信がないけれど、ロンドンでは絶対だ。それでも、充分に良いことだ」

■The Libertinesは、あからさまにあなたが大好きです。

「相思相愛なんだ。ロサンジェルスで彼らを観たけれど、ファンタスティックだったね……本当に、本当にファンタスティックだった。僕が思うに、彼らが互いを離さずにいられれば…かなり難しいことだろうけど…きっと歴史に名を残す存在になるね」

■The Libertinesのイギリスに対するロマンティックさときたら、あなた以上です。

「ほう、それは信じ難いね。とはいえ、君の言うことも分かるよ」

■ブッシュ政権下のアメリカで暮らすことは、サッチャー政権下の英国で暮らすことと似ていますか?

「そうだなぁ、僕はブレア政権について話すよ。国民は最初のうちはブレアを気に入っていたけれど、ここにきて、みんな呆れ返っていると思うね。僕は、ブレアって嘘つきな上にトンマなマヌケに過ぎないと思う。あいつは、完璧に終わっているってこと。間違いなく、国民は二度と彼には投票しない」

■他の誰が票に値しますか?

「それは問題じゃないね! ポパイだろうと誰だろうと。ミッキーマウスでもね」

■新労働党の発足時点では楽観視していましたか?
*1997年のブレア政権スタート以前と以降との労働党を区別すべく、ブレア以降は「新」労働党となっている)。

「(不愉快そうな笑い)全然。100%ノーだ。あの党首のツラを見て、どうして楽観的になれる?」

■状況は悪くなっていると思いますか?

「奴の顔のこと? どうだね君、ラリー・グレイソン*を思い出せるかな? ラリー・グレイソンとトニー・ブレア……間違い探しをしてごらん!」
(*Larry Grayson 70年代に活躍した人気コメディアン。30年間に及ぶ下積み時代には女装を織りまぜたスタンダップ・コメディを労働者用クラブのステージで披露していた。長い下積みを経てテレビに進出し『Shut That Door』などの番組で国民的な人気を博す。アクの強い顔がブレアに似ていなくもない。97年没。)

■なぜ人は自分の国家に誇りを持つべきなのでしょう?

「そういうものだからだよ。それは君達の血の中に存在するものだから。君達が成長し、大人になった環境がそこだからだ。人は生まれながらにして誇りを持ち、保とうとするが、それでもやはり少し大人になると、その誇りがどれほど絶えず取り除かれているのかに気付いて悲しみのどん底に突き落とされるんだ」

■英国の何が恋しいですか?

「うーん、僕自身は労働者階級だとしても、中産階級特有の礼儀正しさが恋しい。全くの感傷だと分かってはいるが、、英国のより寛大な側面、より柔らかな側面が懐かしいのさ。あまり意味のない事だとされているようだけど、僕からしてみたら、どうしてなのか理解できない」

■最近の難民希望者に関する騒動をどう思いますか?

「ティーカップのカタカタいう音が聞こえてきたぞ。(バトラーがティートレイを運んでくる)。ほらね、これこそが僕の恋しいイギリスそのものだよ。完璧だ。すまない、質問は?」

■難民収容をめぐる騒動についてです。再び国家的同一性の問題が前面に出てきたようです。

「その通りだ。非常に難しいことだね、だろう?」

■紛争の火種は常にあるものだと思いますか?

"Well, it's a question of how many people you'll continue to allow to flood into the country, regardless of where they're from or why they're arriving. It's a question of how it affects the people who still live here. It's a question of space. And they're very tight about it in the United States, so it stands to reason why they should be here. But it's very difficult when people are being persecuted." (繊細な部分なので、ここは原文を併記します)。
「ふむ、難民達が何処から、あるいはどういった事情でやって来るのかは脇において、国に殺到する彼らを何人まで許容し続けるのかという問題だ。これから先もそこに暮らす人達に、どういった影響が出るかという問題。アメリカではそういったことがとても厳しくなっているから、難民達が英国にいる方が良いと思うのも不思議ではない。とはいえ、人々が迫害を受けている場合は非常に難解な問題だ」

■ロサンジェルスでの生活で嫌なことは?

「英国のテレビ番組がメチャクチャ懐かしいよ。アメリカの番組なんか、どれもこれも、ちょっとばかし頭のネジを外すか、精神錯乱でも起こさなきゃ観てられない。リアリティからは程遠いんだもの。数光年の隔たりだね」

■テレビといえば、ジョン・ライドンが出演した「I'm A Celebrity Get Me Out Of Here?*」は観ましたか?
*有名人達を一週間無人島に隔離し、集団生活とサヴァイバルをさせ、視聴者の人気投票によって脱落者と優勝者を決めるという、覗き趣味的なバラエティ番組。当初ライドンの出演は音楽ファンなどから猛反発を受けたが、番組が進むごとに彼なりの率直な人柄が人気を集め、一大ブームを巻き起こした)。

「いいや。僕はライドンが何をしようと許すよ。たとえ『The Sooty Show*』に出演したって許すとも」
*1955年にBBCで始った健全系子供番組。可愛らしいマペットが登場する。BBCでの放映は92年まで続いた長寿番組である)。

■12年間、NMEはあなたと交流が無かったわけですが、そこで、あなたが一番気に入った90年代のバンドを教えてください。

「(長い間) 『Born To Quit』って聞いたことある? Smoking Popesのアルバムだ。これがズバ抜けていたと思う。けれど概して言えば、僕が平伏するようなものは思いつけないな。君は?」

■Nirvanaが多大な影響を残したと思います。

「僕は(コバーンの)死が状況を加熱させるまでは、本当に彼らのことを大して知らなかった。初期のNirvanaはハイプに過ぎなかったと思う」

■今やカート・コバーンは、ジェームズ・ディーンのような人物とされています。

「それは彼が死んだからに他ならない。つまり、死は素晴らしい宣伝ツールってわけだ」

■結局、コートニー・ラブとは会ったんですか?

「うん」

■どうすれば、彼女と上手く付き合えるんですか?

「(笑)。そうだねぇ、世間の人達はコートニーと上手くやれないだろうね。とにかく彼女の話に耳を傾けて、ちょっと慰めてやらなくちゃならないんだ。それ自体はとても良いことなんだけど、彼女は満足するってことがないからね」

■The Strokesはお好きですか?

「The StrokesがCDを出す前から好きだった。僕は彼らを何回か観に行ったけど、本当に本当にスペシャルだったね。でもねぇ……そう、いつだって『でもねぇ』があるのさ、だろ? 批判の対象になるものがね(溜息)。彼らのアートワークには感心しないな。アートワークってのは、物凄く重要なものなんだ」

■The White Stripesについては、どう思います?

「ノーコメント」

■ジャック・ホワイトが酒場の喧嘩に関与した件については?

「ノーコメント」

■エミネムについては、どう思います?

「エミネムは面白いと思うけれど、彼がやっている音楽の形式は好きじゃないな。それに彼が受け入れられているのも白人だからじゃないかなぁ?」

■エミネム自身も、そう発言していたと思います。

「そうなの? それほど不穏なことを言いいながら、1600万枚ものアルバムを売るなんて、これは全く興味深いね。彼は成功したホワイト・トラッシュと見られているし、これもまた魅惑的なことだな。本当に気に入ったよ」

■携帯電話は持ちましたか?

「いや。僕は携帯電話の鳴り方が大嫌いで、公共の場で使っている人達を見るとウンザリする。酷い侵略行為だと感じるね。それに、何といっても尾け回されたくないし、殆ど四六時中監視下に置かれるなんてご免だ。(お茶をすする) このお茶……原油みたいだ」

■確かに最高に美味しいとは言えませんね。

「すっごい不味い。これだから、いつもはティーバッグを脇に添えておいてくれと頼むんだよ。ポットにティーバッグを入れるのを他人任せにすると、小さなポッドに78個も入れられたりするから。本当のところ、英国人ってやつは、お茶一つ満足に淹れられない(笑)」

■贔屓にしている特定の銘柄はありますか?

「セイロン。おお、これはまた心奪われる情報だ」

■あなたが最も誇りに思うことは?

「こう言うと君は驚くだろうけど、誇りにしていることは沢山、沢山あるんだ。マンチェスター・アリーナのコンサート・チケットが一時間以内に売り切れた時は、とても誇らしく感じた。思いもよらなかったから……会場に僕だけ、なんて事態になったらどうしようって、かなりビクビクしていたんだ。そうそう90年代初頭に、同じようにマジソン・スクエア・ガーデンのチケットが売り切れた時も本当に誇らかったな(指を鳴らす)。その時の動員数は2万2000人で、それくらい何でもないって言う人もいるだろうけど、僕にしてみたら息を飲むようなことだった。それと一番大事なところでは、自分の音楽の殆どを誇り思っていること。完璧に尊敬に値する作品群だ。そりゃ放送禁止曲や失敗作があるのは否定しないけど、一般的には全曲傑作だと見なされているよ、いや本当に(笑)」

■一般的に、あなたのベスト・アルバムと見なされているのは「Vauxhall And I」で、ワーストとされているのが「Southpaw Grammar」ですが、それについてはどうですか?

「へーえ、どういう訳か僕は『Southpaw Grammar』を非常に気に入っているんだ。確かにスリーブはゾッとするような代物だし、アートワークにもゾッとするけど、概ねとても満足しているよ(笑)。君、驚きが顔に出ているぞ」

■今までファンから言われた中で最も印象深い言葉は?

「皆がいつも僕に言うのは『あなたは私の人生を変えた』。よくあるのは『私が10代だった頃、あなたのお陰で飼っていたハムスターの死を耐えられました』とか、そういうのかな(笑)。そういう時、僕は誇りで胸がいっぱいになる。だって、その人達の一番暗かった時期を耐え抜く助けになった何かがあるんだろうから」

■あなたは、何年間も多くの人生を変えてきたのでしょうね。

「良い方へと、だったことを願うよ(笑)。同じ方法で数十の人生を破滅させた可能性もあるよね……どうかなぁ」

■自伝を執筆中というのは本当ですか?

「うん、僕の自伝はイギリスを、その根幹に立ち返らせるだろう」

■全て自分で書かれているんですか?

「(しどろもどろに早口で)そうだよ。メロディ・メイカーの老いぼれ記者を辞書引きに雇うつもりは全くないよ」

■出版はいつになりそうですか?

「早過ぎるくらいに……一部の人達にとっては」

■The Smithsの再結成に必要なものは?

「誰が何をしたって無駄。僕がずっと言っているように、再び4人を同じスタジオに戻すとしたら、誰かが僕らを撃って、その体を引きずってスタジオ入りさせるしか方法はない。過去は死んだんだ、実際のところ」

■あなたは今年の夏にジョニー・マーと話したそうですね。楽しい経験でしたか?

「とてもね。でも僕らは必要なことを話し合ったに過ぎないから、同じく彼にも再結成の意思はないと思うよ。それが問題になるようなこと?」

■私はあなたに同意します、本当に。

「でしょう。同意しない人なんかいるの?」

■多額のお金に心が動いたことがあるのでは。

「金で誘いを受けたことなど一度としてない。何がしかの決定権が僕にあると思い込んでThe Smithsの再結成に金を出そうと申し出てきた者もいない。だいたい僕らの裁判の経緯と結果を知っているなら、そんな質問をすること自体が有り得ない」

■13年前のことですが、ジョニーは「もし再結成するなら、モリシー&マーになるだろう」と言っていました。

「サイモン&ガーファンクルみたい。ソニー&シェールみたい」

■アルバム「You Are The Quarry」に収められている「The World Is Full Of Crashing Bores」には5つの名前*が出てきます。
* policewomen, policemen, silly women, taxmen, Uniformed whores〜婦警、警官、愚かな女性、税理士、制服を着た売春婦)

「505個でも挙げられるけど、ポイントはそこじゃない。さあ、とにかく『世界は退屈な奴らでいっぱいだ』と言おうってことさ。誰を指しているのかは、みんな分かっているよ、特に音楽業界ではね」

■「ポップ・アイドル」のことを揶揄している?

「ポップ・ミュージックと呼ばれているカルチャー全体と、突っ立って笑ってさえいればポップ・アイドルだという思い込みをだよ(嫌悪の溜息)。彼らは僕を死ぬほど怯えさせる現代社会のイメージそのものだ。テロリストよりも酷い」

■それはどうして? ポップ・アイドルが普通の人々の人生に、より大きな影響力を持っているから?

「違う。彼らが愚かだからだ。そこには、彼らが担ぎ出され、裸に剥かれ、打ち捨てられるといった、おぞましい一連の過程があるに過ぎない。本当に、只ただ下品で悲しむべきことだ。実際、君だって彼らに哀れみを感るている筈だし、その競い合いに身を投じる若者たちの心理状態を思うと身震いするしかない」

■現在のポップ・カルチャーには、以前はなかったサディスティックな要素が存在すると?

「明らかにね。だから人々は名声のためなら何でもするようになるのさ」

■あなたは常に有名になりたかったのでは? それとも自己表現をしたかっただけ?

「いや、確かに僕は有名になりたかった」

■もう一度、スタート地点に立てるとしたらどうしますか?

「そうだな、僕が子供だった頃、とにかく『普通』にはなりたくなかった。そして『"ちょっとだけ"特異な奴』って思われたかったんだ。学校に上がる頃には『特異な奴』になりたかったし、それで中等学校に通う頃には『確実に変人』だと思われていて大喜びしたなぁ(笑)。僕にとっては素晴らしいことだったんだ。自分の周りを見回して、こう思ったものさ 『いいとも、何にしろ、僕はお前らみたいになりたかないね。イカれた奴だと思われても、むしろ望むところだ』 僕は、ずっとその思いを持ち続けているんだ」

■昨年、あなたは「人は制服を着るとファシストになる」と発言しました。これは警察についてのコメントですか?

「多少はね」

■警察沙汰になったことが?

「昨年、ロサンジェルスの留置所に3時間入ったことがある。名札つけ、取調べ、私物の捜査といった一連の過程を経験した」

■実際のところ、何があったんですか?

「パスポートの関係でちょっとした混乱があっただけなんだが、空港警察は不法滞在者や違法入国者に対して非常にピリピリしているから……僕はそうじゃなかったのに。3時間のうち最後の方で、警察も僕に酷いことをしたって気付いたのさ……けどね、気付くまでに3時間もかかるなんてね。不愉快だ」

■どういった扱いを受けたんですか?

「ええと、アメリカの警察は怖ろしくガラが悪くて、奴ら自身が法を超えちゃっているから、何でもありなんだよ。人を撃っても、全く問題にされないしね。身内のやることには、お咎め無しだなんだ。なのに奴らときたら、凄く凄く攻撃的なんだ。そんな連中に取り囲まれて、部屋に引きずられていき、尋問されてみなよ、本当にショックを受けるよ」

■どんな質問をされたんですか?

「ありとあらゆることをさ。何を答えても、全部こっちが間違ってるように聞こえてしまう。そして、それこそが警察のやり口なんだ。奴らは相手を侮辱するように訓練されているんだ。おまけに、『一般市民の一人ひとりを犯罪者だと思え』とも訓練されているから、そういう捜査方法になるのさ。君にも想像できるだろうけど、とにかく不愉快な質問ばかりで、こちらとしては殆どなす術もない。自分の言い分を完璧に説明したとしても、絶対に奴らは何かしら挙げ足をとる方法を見つけるんだよ」

■警官達はあなたをテロリストだと思った?

「そう、そう、その通り。奴らは僕を国家保全の脅威とみなしたのさ」

■歌手だと名乗らなかったのですか?

「説明したとも。警官の一人なんか、僕を知っていて車の中にCDがあるとか何とか言っていたぞ。僕は笑顔で応えてやったさ。作り笑いだったけどね」

■あなたが入れられた監房には他にも誰かいましたか?

「勾留されていた人は沢山いたけれど、僕の監房には僕だけだった。監房の中に座ったことある? 本気で辛いよ。お勧めはしないね」

■歌詞についてですが、「You Know I Couldn't Last」の一節「The whispering may hurt you but the written word might kill you〜囁きは君は傷つけるかもしれない しかし書かれた言葉は君を殺しかねない」とは、音楽評論家についてですか?

「いや、そうじゃないよ、本当に。それは、僕に対して何年も批判的な姿勢をとっている人達や、僕が大抵の人間なら扱いかねる容赦ない敵意の集中砲火に耐え続けてきたことを決して評価しない人達に対しての歌なんだ。そう、大抵の人間は耐えられないような敵意。ありとあらゆる糾弾を受けているからね、殺人を除いて(笑)……まあ、そのうち殺人容疑も加わるに違いないよ、絶対にね」

■言われた中で最悪だったものは?

「沢山あり過ぎるな」

■人種差別主義者だという糾弾には傷つきましたか?

「ああ。何故なら、僕はどんな人種差別的な感情も持ってはいないから。なのに馬鹿げている」

■「Vauxhall And I」に収められている「Speedway」では、あなたは「All those lies/Written lies, twisted lies/Well, they weren't lies〜そういった嘘全部 書かれた嘘 捩じ曲げられた嘘 いいとも、全て本当のことさ」と歌っています。

「まあね、人生ってのは駆け引きなんだ、だろう?」

■単に世間をおちょくっていただけ?

「うーん、恐らくそれもあるね。(笑) 僕が思うに、世間ってのはおちょくられるために存在するのさ。他に人類のお役に立っている部分もないしな」

■「All The Lazy Dykes」はレズビアン・コミュニティーについての歌?

「いや。これは慣習的な結婚生活を送っている女性についての歌で、僕…歌のなかの『私』が、彼女にパームへ行くよう説得している歌なんだ。パームってのは、サンタモニカ大通にあるナイトクラブのことだ」

■え、じゃあ実在するクラブなんですか?

「うん、そうなんだ。それで僕は、彼女が本来一緒にいるべき人々の仲間に加わるように説得しているんだ。パームに行けば、自分自身を解放する気持ちになれて、また生きいきと歩めるようになるからとね」

■あなた自身、ナイトクラブに行ったことはあるんですか?

「いや、ない」

■それで、どうしてどんな場所か分かるんです?

「(笑) そりゃあ勿論、何度も前を通りかかっているからさ。常連客達が舗道に溢れ出ているんだけど、すっごく魅力的な人達なんだ。本当に、とっても、とっても力強い女性達--自分達が何者なのか、何が欲しいのか、何処から来て何処へ行くのか、ちゃんと分かっている女性達だ。心を惹きつけられるよ」

■ピート・バーンズ(Dead Or Aliveの歌手で、モリシーの旧友)と毛皮のコートが原因で喧嘩別れをしたというのは本当ですか?

「いや、それは彼が人の関心を引こうと一縷の望みをかけた作り話さ。僕は彼と仲違いしたことなんか一度もない。彼は非常に強い個性の持ち主だから、付き合うとしたら、ちょっとしたアスリート並の体力が必要だし、周りの人々に対する残酷な批評で皆を疲れさせてしまうんだよね。そうは言っても、僕は勿論、彼を才能豊かで本当に良い声の持ち主だと思っているし、どうしてもっと活動しないのか分からない。だってあんなに面白い人物なのに」

■あなただって大変な毒舌家ですよね、言うまでもなく。

「(笑) そうでもないよ」

■自分の性格が丸くなったと思います?

「いや、そうは思わないな。ベッドに横になると、良い感じに安らぐよ。これって僕が丸くなったってことかな?」

■そうでもないですね。

「でしょう。なら、僕は丸くなってない」

■あなたは、今は以前に増して菜食主義の信念が固くなったと言っています。そういった気持ちの強まりは何から生じるものですか?

「そうだな、動物への愛と、彼らが僕の愛を必要としていることを感じるからだ」

■ペットを飼っていますか?

「このところ、とにかく忙しすぎて飼えないんだよ。完璧な親になるためには、常に傍にいなくちゃ駄目だろ。ペットを飼うとしても、その子が必要とするだけの世話をしてやれない。確かに、以前は息を引き取るまで沢山のペットを飼ったよ。いつも傍にいれないようじゃ、あんまりだって思うんだ。猫達は変わらない日々を愛するし、犬達は構って貰いたくてたまらないものだから。でもね、いつか落ち着こうと決心したら、その時は沢山の動物を飼うよ」

■「I Have Forgiven Jesus」では、あなたの作品における普遍のテーマが繰り返されています。曰く、あなたは愛し愛されるのも不可能だと気付いたと。人々は確実に列をなしているというのに?

「列って? 何のための?」

■あなたのボーイフレンドかパートナーになるために。

(モリシーの忍び笑い)

■違います?

「へえ、正直なところ、どんな行列も見なかったな。だってほら、このホテルの外にもなかったじゃない?」

■あなたがここにいるなんて、誰も知りませんから!

「ふーん、そんなのは些細な問題だね。未だに行列が出来てないってことは、君の意見は無効ってことだ。何のことだかよく分からない質問に、僕はどう答えればいいんだ?(思案して) ……僕が思うに、人の状況についての歌だ。絶えず愛情を探し続けるということについて。どうして必要な時に、必要なものがそこに無いのかとさ迷っている状況についての歌さ」

■そういう時期ってありますよね。

「どういう意味? 『Suedehead』をリリースした時期*のことを言っているのか?(笑い崩れる)」
*「Suedehead」はThe Smiths解散後、ソロとして最初に発表した曲である)。

■どうしてそんなことを言うんです?

「単純に馬鹿らしいからだ。(考えこんで) そう、本心から言うと、イエス、束の間のことさ。現れては消えていくもの。でも今、僕が言っているのは、そういうことじゃないよ。永続的なことについて話しているんだ。つまり、君の人生では(関係が)長続きしている?」

■いえ、あんまり。ええ、それ程では。

「『いえ、あんまり。ええ、それ程では』って何、どういう意味? ノーってこと?」

■今のところは「ノー」ってことです。でもそのうち良くなると思うんですよ、そういう誰かに巡り合うんじゃないかって。

「ほう、分かってるね、それが人生の悪戯ってやつだよね? 君の歳は幾つだ?」

■29歳です。

「29歳? さっきのは忘れてくれ。君、自分のために可愛らしいセキセイインコを飼いなさい。これが僕からのアドバイスだ」

■どうして? いつか誰かに巡り合うなんて事があるなら、僕はもうとっくに身を固めているはずだと思うんですか?

「いいかい、分かるだろう、君はもう29年間もこの惑星をウロウロしているんだぞ、それでまだ誰にもぶつかっていないなら、もうテレビ番組を観る習慣をつけてアームチェアで寛ぐのに慣れておいた方が良いと思うね……大丈夫、なにも悪いことなんかない。そう、君がもうちょっと若い頃は絶えず考えていただろう 『絶対に起こるはずだ。あの角を曲がれば永遠の愛に出会えるはずだ』と。こんなことを言うのは何だけどね、それは人生の錯覚だ。(お茶をすする) お気の毒さま。『手相占い師の言うことには』ってところだな」

■確かに。ちょっと呪われているみたいだ。

「モリシー・インタビューにおける全重要部分がだ。お代はいらないよ」

■だったら、次は何が起こりますか?

「何、君に?」

■モリシー周辺で、です。まあ、私についてでも良いですけどね。

「ふーん、君、本気で僕の世界に踏み込みたいわけ? 僕は今、人生の急流を滑り落ちているところ。人々が僕のアルバムを手に取って本当に楽しんでくれて、僕をワクワクさせてくれることになるのか、それとも駄目なのか。駄目なら駄目で仕方ない。けれど、確実に機は熟したって感じるんだ。本当に驚きなのは、自分が50に手が届く歳になったということだな。遅れてきた興奮。僕は晩に歌うヒバリのさえずりなのさ」

■今があなたのインディアン・サマー?
*晩年に突如訪れる絶頂や、老いらくの恋のこと)

「踏み込み過ぎだぞ!」

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