<アパートの俺>
ハルが行方不明になって、今日でまる二日になる。
あれからずっと家にいて、ハルを待ち続けた。
いや、頭がまだズキズキ痛むから、何処かへ出かける気にならないっていうのもあるんだけど。
今夜もバイトを休んだ。
テレビの夕方ニュースは相変わらず○急遊園地の事件の続報をやっていたが、捜査に進展がないのか、
扱いはだんだん後ろに追いやられていく。
あの晩、梶川なつきは早速、
「私のショーを見に来てくれた方の中で怪我をされた方に、心からお見舞い申し上げます」
という声明を出した。
あるニュースショー番組で、芸能レポーターに
「なつきさんを救い、怪物を倒した謎の少年について」
コメントを求められると、
「ああ、あの子? 足取りが消えちゃうなんて不思議ですよね。
きっと天国の弟がピンチの私を助けに来てくれたんだと思ってますよ」
のらりくらりと質問をかわし、俺たちの秘密を守り通してくれていた。
ふとトイレに立とうとしたとき、ドアの向こうで、車のドアがバタンと閉まる音がした。
コツコツと階段を上がってくる音。
俺はドアのロックを解いて待ちかまえた。
がちゃり。
「・・・ただいま」
「お帰り!遅かったじゃないか」
言うより先にハルを抱きしめていた。
翌朝から、ハルは熱を出して数日間寝込んだ。
猛暑と闘いで疲れが出たのだろう。宇宙人のくせに風邪はひくらしい。
パブ○ンを飲ませてみたが、熱が下がらない。
「僕・・・もう死んじゃう・・・熱に弱くって」
「あんな怪我して生きてるのに」
凍枕を替えてやって、ハルのわきに挟んだ体温計を取って見てみる。40度3分。うひゃっ。
アスト星人の標準体温は地球人よりやや高く、摂氏37度前後らしいが、それを考えても高い。
「また、『オリンポス』の救護室で寝かして貰ったら?いい薬あるんだろ?」
「やだ」
「なんで?」
「あそこはとても寂しいから」
ふっと悲しい顔になった。
仕方がないので、冷蔵庫に寝かせてあった座薬をハルの菊門にぶち込んでみた。
「あzsxdcfvgbhんjkml、;。:*?〒々@4♪◇♂仝♀☆※■◎%△〜〜〜〜〜!!!」
びっくりした衝撃で頭のカチューシャがずれたため、どこの星の言葉なのか分からない言語で絶叫した後、
しばらくプンプン怒っていたが、一時間もたつと、すうっと熱が下がった。
するとよほど気に入ったのか、座薬の効果が切れてくると、俺に尻を向けて真剣に「お願い!」 してくる始末だ。
「ねえー体の中が熱い・・・僕、溶けちゃいそう・・・」
「座薬、入れてやっただろ」
「アイスクリーム買ってきて。サー○ィワンのやつ」
贅沢な病人だが、梶川なつきを救った功労者なのだから、今回はあまり厳しいことは言えない。
駅前の店まで行って買ってきてやった。
「ほれ、ハルの好きなチョコミント」
「・・・あーんして食べさせて?僕・・・もう起き上がれないんだ・・・ゴホンゴホン」
「はい、あーーーん」
「あーーーん」
部屋の外は真夏の熱気が立ち籠めている。
澄み渡った青空に、一筋の飛行機雲がアーチを描いていた。
第一部 完
第二部へ続く
この物語はフィクションです。登場する人物、団体、事件等は全て架空の物です。
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