車中、母はハルに遊園地事件後の状況を説明していた。
事件からもう二日経っていた・・・つまりハルはまる二日、眠っていたことになる。
警察発表によると、触手生物は地球の蛸の突然変異と断定。少年の身元は依然不明。
事件の真相はウヤムヤのままお蔵入り、そのうち世界の未解決事件本に載ることだろう。

「宇宙連邦の諜報部の流した錯乱情報が功を奏したようね」

「でも、蛸自体はもう僕が倒したんでしょ?」

ハルが訊ねると、左で運転している母は溜息をついた。


「それがねぇ〜ハル、あなたには言いにくいんだけど、どうやら一匹だけではなかったらしいの。
 広瀬君のアパート付近から遊園地までどうやって辿り着けたか、全く証明できないのよ」

「・・・そう・・・」


母子はしばし無言になった。





約10分後、沈黙を破ったのはハルだった。

「お母さん・・・、トイレに行きたい」

数分ほど、股間のあたりを押さえてもじもじしていたのはこのためだったのか。

「困ったわねー。トイレはコンビニに寄ればあるけど、その格好じゃねぇー。」

ハルは真新しいバトルスーツの上に何も着ていない。
おしっこが膀胱に溜まっているのか、少し膨らんだ男の子の証が、薄く白い布地に浮き出たその格好は、どう見てもあぶない少年だ。

「仕方ないわね。お母さんが見ていてあげるから、裏路地の電柱の陰でしてきなさい」

RX-8は幹線を外れて脇道に入ろうとする。

「あ・・・いや・・・その・・・・・・・・大も・・・・なんだ・・・・」

「え?」

触手に卵を産み付けられて丸二日。

「あんた・・・まさかお産!?」

ハルは青ざめて首を横に振る。

「あ…いや…本当に大をしたくなっただけだから!」

怪物の卵はケマリが掃除してくれた・・・はずだ。
はずだけど・・・・もしも万一、お腹に残ってたら・・・どうしよう・・・・・・・・・???


RX-8は運良く公衆トイレのある公園を見つけ、ハザードをつけて停車した。

「万が一、卵か幼虫が出てくるかもしれないから。お母さんもトイレについてっていいわね?」

顔を真っ赤にするハル。

「そっ・・・そんな歳じゃないよ!」

「だめよ!ハルは都合が悪くなると、すぐコソコソと隠し事をするから!」

「いいよ!そんなに隠し事が嫌いなら、今ここでしてやる!」

ハルは涙目になりながら、レオタードの股間のロックを解除しようとする。
慌てて制止する母。

「ま・・・・待って!それはやめて!まだ新車でローンが残ってるの!」


かようにして、ハルは一人でトイレに行くことができた。

「もし生まれちゃったら、すぐに言うのよ〜!」

(近所の住宅地に丸聞こえだ・・・/////)

結局何事も起こらず、ごく少量の内容物を排出しただけだった。
そりゃそうだ。卵と一緒に、腸の中はおおかたケマリが掃除したはずなのだから。

母子は再び無言のまま、走り出した。





母のマンションへ連れて行かれるのかと内心冷や冷やしていたが、RX-8は見慣れたコンビニの近くに停車した。

「あんまり無茶はダメよ?それと広瀬君に心配かけちゃだめよ。ハル」

母はハルにキスした。

「さあ、広瀬君が待ってるわ」

ハルは車のドアを開け、アパートの階段を駆け上がって行った。





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