<再び、現代>
マンションの一室。
カーテンの引かれた薄暗い部屋で、ベッドに腰掛けた女性に、髪の長い金髪少年が話しかけた。
「最悪、『奴ら』が本格的に地球を狙って『投下』してくることになれば・・・、
ワシントンは世界各地に展開する米軍を動員して、掃討作戦をやる気はあると思います」
「懸案は仮に事態が公になった時、ほかの大国が縦に首を振るかどうかだわね」
「掃討作戦については宇宙連邦の存在は隠した上で、表向き国連軍という括りでやります。
あくまで『凶悪生命体来襲に対する危機対応』ってことで。
こわいのは、テロ支援国家群が生物兵器の活用を考え始めたら大変なことになる。
『奴ら』のほうにコンタクトして、逆に『奴ら』に利用されるようなことになれば、
最悪地球は宇宙連邦と反乱勢力の代理戦争の場となり、大混乱に陥る」
「宇宙から際限なく振ってくる生物兵器でテロの危険、か・・・」
「さらに他の大国が『奴ら』の側についたら世界戦争ですよ。それだけは何としても避けたい」
「地球世界の警察を自認するだけあるわね。警官なのかマフィアのボスなのかわからないことがあるけど」
少年はゴホンと咳払いをした。
「ああ・・・そうだ、白鳥座の内戦は落ち着きましたか?」
「ええ。だいぶ鎮圧されて、下火になったはずよ」
少年はふと電灯の笠を見上げ、一瞬だけ遠くを見る目をしたが、少し安堵した表情を浮かべた。
「そう・・・あそこの二の舞は避けたいってわけね?ようく分かったわ」
「・・・ところで教授はいつまで日本に滞在を?」
女は「そうねぇ・・・」と少し考え込み、続けた。
「いい国だわ。治安がよくて食べ物もおいしくて・・・、おまけに政府もちょっと押せば弱腰だから」
「日本で何をしようとしてるの?」
「やーね。なにも乗っ取ろうなんて考えてないわよ。島国でやってきた彼らがよそ者を受け入れるにあたって嫌がるのは、
言葉と文化の違いよ。得体の知れない者を見る目でね。けれど、こっちが笑顔を絶やさなければとても友好的。
だって、あの不器用なハルが広瀬君とあれだけうまくやってるんだし」
「宇宙連邦政府と地球の関係もいつか、そんなふうになることを願ってますよ」
マンションを出た少年は「リンカーン・タウンカー」の後部座席に乗り込むと、車載電話の受話器に手をかけた。
「もしもし、お母さん?」
第二部 完
第三部へ続く
この物語はフィクションです。登場する人物、団体、事件等は全て架空の物です。
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