「宇宙機甲士クィーンセイバー」
20XX年、地球は宇宙から飛来した機械生命体、デッドカイザーの攻撃にさらされていた。
一番小さいもので体長40メートルほど、大きいものになると100メートル近い機械獣を相手に、
地球上の既存兵器による攻撃はごく僅かな成果しかもたらさなかった。
唯一デッドカイザーに互角に対抗しうる兵器は、アーク星のテクノロジーにより造られた全高60メートルの人型戦闘ロボット「クィーンセイバー」。
出撃基地を置く川槻市を中心に、数ヶ月にわたり侵略者との戦闘を繰り広げてきたが、
この凄まじい攻撃力を誇る守護神に乗り組んでいるのは、まだ年端も行かぬ少年たちだった。
午後の日差しの照りつける中、デッドカイザー来襲のサイレンが街全体に響き渡る。
市民のほとんどは地下シェルターへの退避を終え、誰もいなくなった郊外を、黄色い陸上ランパン姿の少年が走っていた。
といっても駅伝ではない。川槻スポーツ少年団の一員として、グラウンドでトレーニング中だったところへ突然舞い込んだ呼び出しだった。
高谷隆也(たかたに りゅうや)、12歳。
さらりとした長めの黒髪にぱっちりした瞳の可愛い系の顔立ちは日焼けし、程よくついた筋肉は、小学生の細身なボディラインにしなやかな逞しさを加えていた。
『ぽっちゃり』でも『ムキムキ』でもない、体脂肪率の低い、引き締まったムッチリ、な発育途上の身体は、県の陸上大会でも高飛びで記録を持っている。
近道のため、ふわっと身軽に挟み跳びでフェンスを乗り越えると、関係者専用入り口から、地下基地へ繋がる秘密の階段を走り下りた。
「お待たせ!!遅くなって」
隆也が更衣室のドアを開けたとき、相方の少年は服を脱ぎ終え、パイロット・スーツに手をかけていた。
秋浪 駆(あきなみ かける)、11歳。遅生まれだが隆也と学年は同じ。
切れ長のまなじり、光沢ある栗色の髪は地毛で、頬まですっとストレートに伸びた長めの揉み上げが中性的な雰囲気を引き立てている。
もともと整ってはいるが、見る角度によって美少年度が増す、生まれながらに得な顔立ちをしている。
薄く伸縮性のある科学繊維素材により作られた、光沢ある青地に白いラインの入ったパイロット・スーツはダイビング・スーツのように、
ほとんどぴっちりと全身に密着するオーダーメイド品である。
まるで胸のない少女のような華奢な身体はまだ、体毛がなく滑らかな肌をしていた。
その肌が、形良い包茎ペニスが青い艶やかな布に滑り込んでいく光景を横目に見ながら、隆也も慌ててズボンを下ろす。
「今日は『プテラ型』が10数機だってさ」
隆也より少し低めだが変声してない、落ちつき払った声で話しながら袖に腕を通す駆。
「ひゃーっ、一気に前の倍に増えてるじゃん。デッドカイザー側も必死だな」
全裸になった隆也の逞しい肉体をチラ見し、駆の手が一瞬止まる。
背は一緒ぐらいだけど、身体つきと、少しだけアソコのサイズは隆也のほうが上だ。
これらの事実に内心、駆が引け目を感じていることを隆也は知らない。
「ん?…どした?」
不可解な眼差しを向ける隆也に、今日の駆はいつもみたいに、クスッと笑わなかった。
「リュウ、どんなことがあってもこれまでどおり、僕らは絶対に勝って基地に戻る。約束して」
「あ……ああ……」
首を傾げつつ、生返事する隆也。
「じゃ、先。行ってるから」
細い肩の少年の小さなお尻が遠ざかるのを見ながら、隆也は青と赤のツートンカラーのパイロット・スーツに足を入れた。
「……変なカケルくん」
別々の学校に通う二人の小学生……秋浪駆と、高谷隆也が出会ったのは、まだデッド・カイザーの攻撃が本格化していない一年前のこと。
ソフトボール試合の開かれていた市営グラウンドだった。
川槻市では毎年秋、小学校対抗のソフトボール大会が開かれる。
各学校の5、6年生各クラスでチームを作り、まず学校内でリーグ戦を行い、これが予選となる。
そして残った上位2チームが、市内の学校全部を集めた決勝トーナメント戦に出ることができる。
隆也のクラスは予選敗退し、自分の学校代表である隣のクラスチームを応援していたのだが、その敵チームでピッチャーをやっていたのが秋浪駆だった。
白地に赤いラインを基調としたユニフォームにほっそりとした身を包んだピッチャーは、遠巻きに見ると貴公子だった。
胸をぴっと張ったときにシャツにうっすら浮かんだ胸肉、腿を振り上げたときにちょっぴり腰に浮かぶ膨らみ。
相手校ばかりか自分の学校のギャラリーからも、きゃーきゃー女子の声援が飛んで、憎たらしく思ったのを覚えている。
グラウンドに咲いた一輪の花のような、その可憐な優美さに反し、バッターの裏をかき、変化球まで仕掛けてくる嫌らしさ。
後から聞くと、キャッチャーや監督の指示に従って投げてたらしいけど、あのときは殺したくなるぐらい性格悪そうに見えたものだ。
だから最初基地に呼ばれ、初顔合わせしたときは「コイツと組むのか」と思った。
実際に付き合ってみるといい奴だったけど、何かを抱え込んでるような、寂しそうな目をするときが痛々しかった。そう、さっきみたいに。
(悩みがあるなら、ぼくに話してくれたっていいのに…)
搭乗口へ通じる廊下は駐機場を見下ろす大きな窓の通路があって、クィーンセイバーの出撃準備を大急ぎで行う整備士さんたちを見下ろすことができた。
ビルの10階ぐらいに相当する高さがあり、下をのぞくと眩惑がする。
ちょうどクィーンセイバーの胸部ハッチに渡されたタラップの横で、駆が司令と話しているのが見えた。
→ Next
△ Menu