「いつもすまないね。今日も気をつけるんだよ」

駆(かける)が搭乗口に行くと、俳優の寺田濃に顔が似た、白髪交じりの松岡司令が待っていた。

「いえ。天から与えられた自分の仕事ですから。いつものように頑張ってやります」

頼もしい学級委員みたいに、はきはきと答える駆。

「仕事ねぇ…」

ダンディな司令はクィーンセイバーの頭部を見上げながらため息をついた。
造型は直線基調だが、表情は勇ましいながらどこか女性的でもある。

「電話でも伝えたが、今日は敵の数が多いからな」
ブースターの点火テストを行っているロケットエンジンのような轟音や、プレス工場のような金属の槌音が響く中、
決して聞き取りやすいとはいえない初老の男の声に耳を傾ける。

「駆くんのお母さんが地球にやってきたのは、15年前のことだった…」

長野県松代の山中に、宇宙から巨大な金属の塊が落ちてきた。
当時自衛隊の方面総監だった松岡は、部下の上げてきた情報に驚愕した。
墜落したのは大きなロボットだった。半壊し、開け放たれたコクピットの操縦席から、傷ついた女性を収容した。名をカリンと言った。

カリンは話した。彼女の母星であるアーク星を侵略、滅ぼしたデッド・カイザーは、いずれ地球にもやってくることを。
政府は極秘裏に防衛機関「NSDD」を立ち上げるとともに、「クィーンセイバー」の修理にとりかかった。
松岡もNSDD立ち上げに携わり、設立初期に自衛隊から移籍した。
ところがカリンは2年後、行方をくらました。暗殺を察知したからだ。

「いよいよデッド・カイザーが攻めてきて、慌ててパイロットの適格者探しに奔走してたあの晩、ゲームセンターできみと出会ったのは、何かの運命としか思えん…」

NSDDも、駆を最初から彼女の息子だと分かっててスカウトしたわけではなかった。
シューティングゲームに天性の才能を見たことが、目に留まったに過ぎなかった。

カリンは父にあたる男性と同棲し、駆を生んだ。でも無理がたたったのか、翌年亡くなったという。
父は駆を連れて再婚。今の母と結婚し、妹の茜が生まれたが、駆が3年生のときに離婚した。

全部、駆が「たまたま」この戦いにパイロットとして関わるようになった後に知った真実だった。

あのとき塾をサボッてゲームしてなかったら、今頃ここにもいなかったし、幸か不幸か出生の秘密を知ることもなかった。
随分と思い悩んだが、それが運命だと割り切ったとき、心の中で何かが吹っ切れた気がする。
ただ、相方の隆也にいつ話そうかと迷ってるうちに、ずるずると今日を迎えてしまった。
なぜなら隆也を危険な戦いに、自分が巻き込んでしまってるような気がしたからだった。


「お待たせしました!!」

青地に赤いラインの入ったパイロット・スーツに身を包み、股に膨らみを浮き上がらせながら走ってきた隆也(りゅうや)。
発育途上の筋肉がくっきり浮かんだボディラインを見せつけられた気がして、駆は視線を落とす。
また少し、成長した気がする。アーク星の戦士の血を引く僕が痩せっぽちで。リュウのほうがずっと力強いのに。

「じゃ…行ってらっしゃい」

優しげな司令の眼差しに見送られながら、駆と隆也はタラップを渡り始めた。
ふたつの締まったおしりの間から見え隠れする、パイロットスーツにくっきり浮かんだやわらかな男の子の膨らみは、裏スジまで浮かんできそうだ。

(今日も僕を守って。母さん…)

駆が自分の乗り込む戦闘マシンの顔を見上げた、そのときだった。

ドドドーーーン!!
ズドーーン!!

上から地響きのような振動が伝わり、タラップを揺らした。
パラパラと砂埃が天井から降ってきた。

「おおっ、今日は攻撃が早いぞ!? 出撃準備、急げッ!!」

松岡司令の声に緊張感が増す。
クィーンセイバーのコック・ピットは胸部ハッチが上に開く。
縦に二つ、座席があり、やや奥まった上部座席に座るのが駆。
ちょうど駆の足をつけた下にもうひとつ座席があり、隆也が座る。
ふたりともヘルメットは着けない。

「じゃ…」

隆也が上を振り返って手を振ると、駆も頷いて手を振り返した。




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