クィーンセイバーのハッチが閉じられると、上下の座席まわりの空間はほぼ完全に仕切られる。
それは宇宙空間において万一、何らかのダメージを受けてどちらかの気密が漏れた場合でも、もう片方のパイロットは助かるように…
という非情の設計であろう。
コックピットは狭く、せいぜい身長150センチぐらいの人しか乗ることができない広さだが、カリンが亡命してくる時期はもはや、
アーク星でも少年兵用の訓練機として使われていた機体しか残っていなかったのかも知れない。
もっとも、カリンが狭い室内にどうやって乗り組んできたのかは謎だが。

コックピット前部の分厚い胸部装甲は窓がなく、操縦席から直接外を見ることはできないが、座席を囲むようにモニター画面が設置されている。
外部の情報はモニター映像を通して見ることができるわけだ。
上部操縦席の左側、下部操縦席の右側にそれぞれ、パイロットの顔が表示されるモニターがあるため、
ふたりはあたかも隣り合って座っているかのように会話することができるのだ。
右側に駆、左に隆也が座っている感覚になる。
実際は隆也の頭の真上に駆の足があるわけで、最初の頃は「踏まれてるみたいだ」と愚痴をこぼしていたが、今は駆も靴を脱いで乗るなど気遣っている。

二人は力をあわせて戦っているが、立場上、機長は上に座っている駆だ。
普段は二人で作業を分担して操縦しているが、たとえば緊急回避時など、ふたりのとった操縦があべこべのときは、
どちらがベターかをコンピューターが瞬時に演算し、選択する。ほぼ同率の場合は機長判断が優先だ。
また必要と判断される場合は、機長席のコンピューターから、副長に強制的に操縦を従わせる権限がある。

ふたりの心を動かしていたのは地球を守るという崇高な使命感というよりは、「カッコいいこと」と最強無敵の戦闘メカを与えられたワクワクだった。
未知のテクノロジーで造られた兵器も、子供たちにとっては格好の玩具と化す。

車の免許を取ることもできない小学生二人に殺戮兵器を操らせることに、政府内部からも批判がなかったわけではない。
その都度、担当大臣は『クィーンセイバーはその構造上、身長150センチ以下の適性を持った少年少女しか搭乗することができないのでありまして…』
との答弁でかわしてきた。

また、松岡司令以下、NSDDスタッフたちも温かい眼差しで見守ってきた。
無茶な扱いをして、しょっちゅう傷んで補修費もかさんだが、この点について叱りつけることはしなかった。

「クィーンセイバーにも心があるんだ。きみたちも戦いで夢中になるのは分かるけど、乱暴に扱われたら、なんて思うかな?」

まるで校長先生のように、考えさせるような問いかけをする司令。
すると、気持ちの昂ぶったふたりの少年が、次の戦闘からぐんと慎重に扱うようになる・・・少なくともしばらくの間は。
みな、スパルタだけでは、子供たちに勇気を与え、本当の力を引き出せないことを理解していた。
パイロットの心理状態に大きく作用するからだ。

温和な松岡司令に、二度だけド叱られたことがある。
それは改良型レーザー砲の試し撃ちと称して、必要もなく街の建物を破壊したとき。
ケンカしたまま乗り込んで、自分たちの身を危険に曝したときだった。

駆にいつも指図を受けるのが不満で、「かわりばんこに上に座りたい」という隆也と、機長席を手放したくない駆。
負けず嫌いで好戦的な隆也、冷静な駆。

「カケルはねぇ、ここ一番の勇気が足りないんだよ!」
「リュウは後先考えなさすぎ!」

ふたりの心が反発しあうたび、司令は「一生懸命になるのはとてもいいこと」と褒めた上で、互いを思いやる気持ちを説いた。
幾多の涙を乗り越えて、ふたりは成長してきた。




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