隆也が操縦席に座り、胸部のハッチが閉じられると、目の前のモニターに地下格納庫の映像が映った。
続いて隆也の右のモニターに、駆の横顔が映し出される。
反対側の左の壁には、クラスの皆が必勝祈願で折った千羽鶴が吊るされている。
パイロットであることを、親にも学校にもスポーツクラブにも、特段秘密にはしていなかった。

(こんなときって千羽鶴なのかな? なんだか、病気してるときみたいだ…棺桶でもあるまいし)

パイロットスーツは薄い生地で伸縮性と排湿性に優れており、数箇所のフックにシートベルトの金具を固定する。
座席下には伸縮式ホースのついた、トイレ代わりのパッドがある。
尿を吸引して機外へ排出するための装置である。戦闘時間が長いとトイレに行ってられないからだ。

パイロットスーツの尻に近い部分のファスナーを下ろすと、これでうんちを吸い取ることもできる。
股を開いて「わぁい!」とご開帳し、肛門あたりにパッドの位置を合わせ・・・想像するにかなりマヌケな光景だが、仕方ない。
漏らしたら掃除が大変という以前に、臭いで自分の頭がやられてしまう。

川槻市近辺での戦闘がほとんどで、せいぜい待ち伏せ待機中の尿意が問題となるぐらいだったから、うんちを実際に吸い取らせたことはない。
近頃は尿意を感じるたびに座席下からホースを引っ張り出すのも面倒になってきて、二人ともパッドをパイロットスーツの上から『きゅぽっ』と、
おち○ちんの膨らみに吸い付かせたままにしていた。
水抜けの良いパイロットスーツの生地の中をそのままオシッコが抜け、ホースに吸い取らせる。何度かやったが、
今まで失敗して飛び散ったり、座席を池にしたことはない。
排尿中は着衣したままお漏らししてるようなドキドキ感があるが、誰に見られるわけでもなし、二人だけの秘密だ。

『リュウ、準備いいか?』

右モニターに映った駆の声に、「いつでもオッケーだよ」と隆也が応える。
二人は左手側のレバーを握ると、同時に手前へ引きながら叫んだ。

「発進!」
『発進!』

するとクィーンセイバーの背に固定されたカタパルトが蒸気を吹き上げ、60メートルもの巨体を持ち上げた。
クィーンセイバーはパイプ状の出撃シャフト内を高速で伝い、地上へ誘導される。
モニター越しに無言の少年二人の横顔を、トンネル内に二列に並んだ無数のライトが凄い速さで次々と流れてく。

機体は地上が近くなるとカタパルトから切り離される。
射出から十数秒後、視界は明るくなって青空が開け、山中に口を開いたシャッターから優美な機体が姿を現した。
同時に出撃までの時間稼ぎのため、上空で敵を威嚇攻撃していた無人戦闘機隊が旋回し、戦場から離脱していく。
モニターに映った『プテラノドン』に似た翼竜型の機械獣…通称『プテラ』は18体。当初の報告よりさらに2体増えている。
プテラは飛竜のような外観に反して、あまり空は飛ばない。くすんだ灰色の金属ボディに目が赤く光ってて、口から弾丸を射出する。

『機体操作はリュウに任せた。あとは僕が適当に狙ってく』
「ん、分かった」

高谷隆也がクィーンセイバーの操縦を担当し、秋浪駆が腕部に内蔵されたレーザー砲で狙い撃ちしていく役割分担になっている。
隆也のかわし身の速さ、運動神経のよさと、駆の射撃の腕前を合わせた方式だが、二人の息がぴったり合ってないと思い通りには動かせない。

クィーンセイバーを動かすのは理屈ではなかった。パイロットの心と連動して攻撃力を増す。
駆と隆也の勇気が・・・クィーンセイバーのパワーを何倍にも増幅し、攻撃力の源となるのだ。
アーク星では量産型戦闘ロボに過ぎなかったクィーンセイバーは、地球で二人が乗り込んで戦いを重ねるうちに無敵を誇るようになっていた。

「カケル、今だよ!」
『よしっ、いっけぇぇぇ!!』

宙返りしてもコックピット内はアーク星の未知の技術によりほぼ重力場が一方向に保たれ、目が回ることもなかった。
体操選手のようなアクロバット操縦で、嵐のようなプテラの猛攻を身軽にかわし、着地した一瞬で目標を捉え、放たれたレーザーが敵の頭を一撃で射抜く。
急所を正確に撃ち抜かれた機械獣はオイルを吹き出しながら爆発し、機能停止する。

「す…すごい…また二人のコンビネーションが進化している」

基地のモニターで神業のような攻撃を見守る松岡司令が、二人の成長ぶりに目を細める。

『リュウッ、右から三匹めを狙わせてくれ!』
「よっしゃあ!」

二人とも、今や戦うことに恐怖は感じなかった。
確かに最初は怖かったが、分厚い金属の箱の中に守られている絶対的な安心感のもと、格闘ゲームのような感覚で戦ってきた。
敵は機械だから、殺すことを躊躇する必要もない。

「ナイスショッーート!!カケル」
『いや、リュウの操縦術のおかげさ。狙いやすいポジションに誘導してくれてサンキュー!』

互いを称えあうことで気持ちをプラスに高めていこうとする二人。
お互い欠点を指摘して罵り合えば自分も傷つく。いい面を認めあい、励ましあえば自分の心も上向く。
スポーツ心理学でいう【ミラーイメージの法則】に似た考え方だが、教えてくれたのは隆也の通う陸上クラブのコーチだった。
ふとしたことで何かとライバル心を燃やしがちな二人は、この元オリンピックメダリストのアドバイスを取り入れることで、つらい戦いを克服してきた。




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