プテラ「退治」は順調に進んでいるかにみえたが、7体めを破壊したとき、アクシデントは起こった。

「ねえカケル…なんだか暑くない?」

隆也の髪を伝って、ぼたぼたと額へ流れ落ちる雫。

『リュウもそう思う?』

お互い、隣のモニター越しに顔を見合わせる。

「ねえ…エアコン、止まってない?」

真夏の戦闘でも涼しい風を送り込んでくる通気口が、いつのまにか無風になっていた。
モニター画面で確かめると、空調システムがダウンしている。

【電気系統トラブル】

と表示され、リセットを試みるが反応しない。

『くそ〜〜〜〜〜』

じりじりと照りつける太陽は熱伝導のよい金属ボディを通して内部に伝わる上、心臓部のエネルギー炉から伝わる熱、
コックピット内の電子機器から放出される熱が加わる。
たちまち35度を越えて蒸し風呂になり、まださらに上がりそうな勢いだ。

涼しいゲームセンターや自宅でしかコントローラーを握ったことのない、現代っ子の駆。
さっきから射撃の精度が落ち、何発か外している。

隆也も陸上大会前、真夏のグラウンドで練習したことはあるが、風のない鉄の箱の中に閉じ込められた経験はない。
この灼熱下、いつまで集中力が続くだろう?

はあっ・・・はぁっ・・・

「ぬっか・・・」

小学校に入るまでの間過ごした佐賀方言が隆也の口をつく。
汗の雫がぽたぽたと滴り落ち、びしょびしょに背中を濡らす。透けてくる生地。
ハッチを開けたくても逃げられない状況。いま、ハッチを開けても落下するか、取り囲んでいる機械獣の餌食だ。

「ちくしょう、エアコン動け〜〜!」

そのくせ、股間につながっている排便パイプの吸引力だけは落ちることがなく、ペニスに吸い付いてるのが何とも憎たらしい。
腰の位置をずらすたび、おち○ちんにくにっと刺激が走り、くすぐったい。
おち○ちんの位置を直そうと、一瞬自分の股を見た、そのときだった。

『リュウッ!!』

駆の声とほぼ同時に軽い衝撃があった。
攻撃かと思ってかわそうにも、クィーンセイバーの手足の操縦がきかなくなっていた。
手首と、足首あたりが絞め付けられる感覚が伝わる。クィーンセイバーとパイロットの感覚は、パイロットスーツを通してリンクしているのだ。
モニターに映し出されたのは、プテラどもの胸から伸びる、何本もの長い触手だった。

(手足を縛られた!?)

いつもなら近接戦闘用のレーザーブレードを出して振り回し、こんな触手はずたずたにしているはずだった。
動揺している間にまた、軽い衝撃を感じる。腕や膝にも巻きついたらしい。

『ごめん、ぼくのせいだ。暑さにやられてて気付くのが遅れた』

と駆。出会ったときはミスを他人のせいにばかりしていた駆も随分と変わった。

「いや、ぼくのほうこそ」

クィーンセイバーは4方向から手足を縛られ、動けなかった。
そこへ襲いかかる、プテラの攻撃、攻撃、攻撃…!!

一度にたくさんの弾丸を浴び、大地震のような衝撃があり、超合金のボディが凹む。
やや遅れて胸に軽い痛みが走る。

「わあああああああああ!!」
『ぐああああああっ!!』

何匹かのプテラのくちばしが胸部を突っついてる。大丈夫、クィーンセイバーの装甲はヤワではない。
今まで絶体絶命のピンチは何度もあったが、クィーンセイバーの胎内に守られている子供たちは大した怪我をしたことがなかった。

足を掃われ、うつ伏せの格好で大地に倒れこむクィーンセイバー。
山の木々が砂に立てた棒のようになぎ倒され、地層の土肌がむき出しになる。地形が変わる。
その背を機械獣に踏みつけられ、関節部からパチパチと火花が飛ぶ。

<右上腕関節異常。損傷度7%>

電子警告音とともに、鉄道アナウンスのような女性声がコックピット内に響く。
もともとはロボットに登録された警告音声だが、宇宙語だったのを子供たちのために翻訳するさい、
街を走る鉄道のアナウンスを録音したナレーターに依頼したものだ。
聞き慣れた声で、子供たちに落ち着きを促す意味もあった。
二人はこのシステム音声を「電車のお姉さん」と呼んでいたが、いつもは励ましてくれているように感じていた口調が、
今は次々に非常事態を告げ、冷たく突き放されるように聞こえる気がした。

隆也の眼前のモニターは背後カメラの映像に切り替わった。
何匹もの機械獣たちがクィーンセイバーを取り囲み、見下ろしていた。
そのうちの一体が長い棒状の金属を、ロボット背面下部に一体化したロケット・ブースターに突っ込もうとしているのが見えた。

「カケルッ!後方ブースター噴射!!」
『だめだリュウ!いま噴射したら機内で爆発が起こる!』

金属のひしゃげる鈍い音の直後、棒が機内に侵入してくる警報音が鳴る。

<異物侵入。ブースター使用不可。損傷度13%>

その直後バチッ!!バリバリッ!!とコックピットの計器に電撃が走り、クィーンセイバーと隆也のリンクしていた全身の感覚も消えた。
操縦のきかない密閉空間で、ただクィーンセイバーの機体が攻撃にさらされている音を聞き、映像を見る。
右隣に駆の横顔の見えるはずのモニターは暗転し、音声専用になっている。

『ぐわっ…ああぁぁっ……』

コックピット内に戦友の悲鳴が響き、頭上からは足が床を何度も蹴る音が聞こえる。
隆也には上の機長席で何が起こっているのか、知るすべもなかった。

「カケル〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」




Next
Menu
Back