「うわああああっ、ライオンの群れだあ〜!!!」

台座の周囲を、何十匹ものライオンが取り囲んでいた。

「ににに、逃げるぞ!!」

慌ててジープに飛び乗ろうとする白人3人。
だが、運転席は既にチーターが陣取っていた。

「チロ!!」

(ヨータ、間に合ってよかった)


ライオンの群れは白人の男3人を完全に包囲した。


「ひいいい〜〜〜っ、殺さないでくれえ〜〜〜〜」
「黒髪の坊や、助けてくれぇぇ〜〜〜〜〜」

口々に情けない声を上げる。


ライアンが牙を剥き、歩み出た。

(お前達のやってきたことは万死に値する!せいぜい苦しんで死ぬがいい!!)

グワアアアアアアアア!!!と雄叫びを上げると、呼応したライオンたちが一斉に飛びかかろうとした。

「ひいいいいい〜〜〜〜〜!!神様〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「ママぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」



「みんな待って、殺さないで!」



両手を上げて、白人達の前に立ち塞がったのは耀太郎だった。

(ヨータ、何考えてる!?)
(そうとも。こいつらはヨータを殺そうとしたのだぞ)

口々に言う野生動物たち。
耀太郎は地面にへたりこんだ、口髭の男の前に立つと、栗色の瞳で見つめた。

「あなたたちは倉本博士を知らないか?僕のお父さんだ」

静かな口調で訊くと、口髭の男は横に首を振って言った。

「日本人の教授と会ったことはないな」

だが隣の男が口を挟んだ。

「俺は知ってる」

ズボンの中で小便を漏らした、帽子の男だった。

「この国の首都で二ヶ月ほど前に見たよ。
軍事クーデターの戦闘に巻き込まれて負傷した俺を、手当てしてくれた日本人の男がいたのさ。動物学者だと言ってた」

耀太郎の顔が変わった。

「今、その人はどこにいるか知らないか!?」
「二日ほど一緒に行動して別れた。ま、その首都も今は内戦で瓦礫の山だけどな。ただ・・・」

帽子の男は少年の目を見て言った。

「坊やとは目が似ている男だった」


しばらく見つめ合った後、男は横に目を逸らした。

「そうか。ありがとう」

耀太郎は軽く頭を下げた。


「さあ殺せ。俺たちをいつまで見せ物にしておくつもりだ?」

頭の剥げ上がった男が吐き捨てるように言うと、少年はライアンの口からダガーナイフを手に取り言った。

「あなたたちの身柄は司法当局に引き渡す。法の裁きを受けるべきだ。そして・・・」

裸の少年は刃先を男に向けた。

「法廷では、本当のことを正直に証言してもらいたい」

幼いターザンは動物たちに向き直った。

「チロ、ライアン、みんな・・・済まない。でも、これが人間のやり方なんだ」


場はしばらく静まりかえったが、やがてチーターが耀太郎に身を寄せてきた。

(いや、ヨータが正しい。一時の感情に任せてこいつらを殺しても、何の解決にもならねえ)

ライアンも頷いた。



耀太郎の戦いはこれからも続く。
お父さんとの再会を果たし、日本に帰る日まで。
少年は小麦色の肉に包帯を巻きながら、父も見ているであろう月を仰ぎ見た。







2008年10月


Nomark




この物語はフィクションです。
登場する人物、団体等すべて架空のものです。
このストーリーは犯罪行為を推奨・助長するものではありません。
児童虐待、人身売買、密猟など、実際に行うと厳罰に問われますので絶対におやめ下さい。





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