S-2 フーガ・ロジスティクス株式会社 屋外グラウンド
ブレイブ・ウィザーズの少年たち、そしてユウトは、フーガコーポレーションの擁するサッカー部の練習に使われるグラウンドの真ん中にいた。
クリスが箒に跨り、皆が支えている。
「えーっ、ボボボ、ボクが最初ですかぁ!?」
「クリスがまずお手本を見せてくれよ」
「ボクも実際、箒で飛んだことはありません……」
「頼むよ。この中じゃ一番、成功する可能性が高いのは天属性のクリスくんだろう?」
「あわわわわ……」
ユウトに促されても、クリスの足がガクガクと震えている。
「ゆっくり…ゆっくりだぞ」
「しっかり集中して!!」
クリスの箒を挟んだズボンの股間に、魔法因子の果実が浮き上がる。
慎重に魔力を込め始めると、まるで身体が羽根になったみたいにたやすく、ふわーっと空に上がっていく。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
勢いよく垂直に上昇したが、空をあさっての方向へ投げ飛ばされ、スプリットSを描いた後、真ッ逆さまのまま頭から落ちていく。
箒に顔を伏せ、固まるクリス。
「クリス! あきらめるな、がんばれ!」
「あっちに溜め池があるから、なんとか水の中へ落ちるように…」
地上で見上げる仲間たちの慌てた叫びが耳に入る。
そのとき、若き日のクルトが、自分の中に舞い降りた気がした。
『クリス、前を見て』
ふと顔を上げ、ハッとした。
斜め前方に、箒に跨ったエリク中尉。旧ドイツ空軍の軍服姿で飛んでいた。
『顔を上げ、指を揃えて！魔力を後ろへ噴射するのを思い描いて…』
ドイツ語の指示に、クリスは腰で箒を締めなおす。
すると箒は安定し、真っ直ぐ滑るように飛んだ。
10秒ほどエリクの後をついて飛ぶと、若き中尉はクスッと笑い、幻となって消えた。
「あはははは!!やりました!」
「おおーーっ、クリス!!上手い、上手い!!」
「次はオレだ、早く下りてきて貸せ!」
「ぼくも、乗ってみたいー」
「トモキ、危ないからそれはよせ…」
「乗るのはかわりばんこだぞ!?ジャンケンしよう」
かつてクルトも見たであろう、青空の風景。
箒に跨った学校指定の白い体操着は薫り立つ汗を一杯に吸い込んで胸に張り付き、風に乗って羽ばたく白鳩のようだった。
子供たちは忘れまい。半世紀前、同じ箒に乗って大空を駆け巡った、異国の少年たちの物語を。
完
この作品はフィクションです。
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原作 「Wizard Boys!」 睦月 魔法協会日本支部
参考書籍
「ドイツ陸軍戦史」上田信 大日本絵画
「ヒトラーと第三帝国」リチャード・オウヴァリー 河出書房新社
「WWⅡ第二次大戦欧州戦史シリーズVol.10 ベルリン攻防戦」学研
「世界の戦場イラストレイテッド1 ベルリンの戦い1945」ピーター・アンティル 大日本絵画
「世界の戦車イラストレイテッド27 8.8cm対空砲と対戦車砲1936-1945」
ジョン・ノリス、マイク・フラー 大日本絵画
「ラスト・オブ・カンプフグルッペ」高橋慶史 大日本絵画
「ベルリン陥落1945」アントニー・ビーヴァー 川上
洸(訳) 白水社
「赤軍記者グロースマン」アントニー・ビーヴァー 川上 洸 (訳) 白水社
「歴史群像アーカイブVol.8
ヨーロッパ爆撃戦記」学研
「不屈の鉄十字エース 撃墜王エーリッヒ・ハルトマンの半生」
レイモンド・F．トリヴァー、トレバー・J.
コンスタブル、井上
寿郎(訳) 学研M文庫
「ドイツ夜間防空戦」W.ヨーネン 光人社NF文庫
「夜間戦闘機」 渡辺洋二 光人社NF文庫
「ヒトラー・ユーゲント 第三帝国の若き戦士たち」BRルイス 原書房
「ナチ独裁下の子供たち」原田一美 講談社選書メチエ
「ワイマール共和国 ～ヒトラーを出現させたもの～」林健太郎 中公新書
「歴史の意味とその行方」高坂正顕 こぶし書房
「新戦争論」小室直樹 光文社・KKベストセラーズ
「ケンブリッジ版世界各国史 ドイツの歴史」メアリー・フルブロック 創土社
「プロイセンの歴史」セバスチァン・ハフナー 東洋書林
「ドイツ魔女街道を旅してみませんか?」西村佑子 トラベルジャーナル
「アスガルドの秘密・北欧神話冒険紀行」ヴァルター・ハンゼン 東海大学出版会
「ナルシズム」中西信男 講談社現代新書
「エロス的人間」澁澤龍彦 中公文庫
コミック「ザ・コクピット」松本零士 小学館
コミック「黒騎士物語」小林源文 KAMADO
"酸素マスクの男の娘" エリクのイメージにインスピレーションを与えてくださった本
「Pink Slime」hassegawa
empire発行 同人誌
以上、主だったもの。作者敬称略。
ほか、書籍、旅行雑誌、映画DVD、インターネットサイトなど多数