2008→2009、年越しプチ企画
行くヒカアキ来るヒカアキ
…ということで昨年に引き続き今年もやります年末企画。
年の終わりはヒカアキで〆て、新しい年の始まりはヒカアキで迎えましょう〜。
【クリスマスが終わったら】 「クリスマスが終わったら、なんだか気が抜けちゃったなあ…」 珍しくイブも当日もずっと一緒に塔矢と過ごした。 その楽しさの余韻が抜けずに思わずそうぼやいてしまったら、塔矢はにっこり笑って おれに言った。 「クリスマスが終わってもまだまだ色々あるじゃないか」 「何が?」 「まず今日はこうしてキミと会っている」 「うん…」 「明日もまた会って冬物を買いに行く約束をしている」 「うん」 「明後日は芹澤先生の研究会の忘年会に一緒に行くし」 「………」 「明明後日は和谷くん達との忘年会に一緒に行く」 大晦日、新年もキミとずっと一緒なんだよと微笑まれて顔が赤く染まった。 「それが色々?」 「ぼくにとっては最高に幸せな色々だけれど」 キミにとっては違うのかなと尋ねられて「まさか」と答える。 「うん…うん、そうだな。これから毎日幸せだよな」 特別にイベントごとがあっても無くても、それでも大好きな相手と一緒に過ごせる。 それだけで充分に幸せで楽しいのだとおれは塔矢に教わったのだった。
2008.12.27 |
【大掃除ですよ】 『アキラさん、大掃除ですよ』 今日は家中を片付けて隅々まで綺麗にしなければいけないのだから、もう起きて朝ご 飯を食べて仕度してちょうだいと、夢うつつに母の声を聞いたような気がして目を覚ま した。 「すみません、今すぐ―」 起きますと言った言葉は尻すぼみに消えた。 何故ならぼくが居たのは実家の自分の部屋では無くて、もうすっかり馴染んでしまっ た彼と共に暮すマンションの寝室だったからだ。 「ん? 何? もう起きるん?」 ぼくが起きあがったことで布団が引かれ、うっすらと目を開いた進藤が眠たそうにぼく に言う。 「いや、ちょっと寝ぼけただけだから」 「ふうん、おまえでも寝ぼけたりなんかするんだ」 だったらこっちに来てもう少しおれと一緒に眠ろうと抱き寄せられて温かい胸に抱きし められて微笑んだ。 ぼくはもう子どもじゃない。 実家の掃除を手伝わなくてもいい。 (でも今は自分の家があるんだから) 後で進藤と二人でゆっくり大掃除をしようと、昔には少し面倒にすら思えたそんなこと が今はとても幸せなことに感じられ、ぼくは思わず彼の胸に頬を寄せると「幸せだ」と 呟いてしまったのだった。
2008.12.28 |
【気付けば】 気付けばもう29日になっていた。 「マズ……おれ、年賀状まだ全然書いて無いや」 おれがそうぼやいたら、塔矢は呆れたようにおれに言った。 「あれほど早くから用意した方がいいと言っていたのに…」 「だってなんだかんだと忙しくてさぁ」 「忙しいのはぼくだって同じだ」 でもぼくはちゃんともう書き終えて昨日ポストに投函したのだと威張られて悔しかっ たけれど言い返せなかった。 「社会人として、元旦に届くようにするのが常識だからね」 相手の方への失礼にもなるのだからキミも来年は心を入れ替えて早めに用意した 方がいいと延々とおれに説教をした塔矢は、郵便局のミスからか、投函した年賀 状を年内に全て配られてしまい、見るのも気の毒なくらい落ち込んでしまったのだ った。
2008.12.29 |
【年越しソバ用意】 「おまえ年越しソバ用意した?」 「明日でもいいと思ってまだ買っていないけど…どうして?」 「だったらおれ、今年はアレがいいんだけど」 おずおずと進藤に言われて首を傾げる。 「何? いつものお蕎麦はキミの口に合わなかった?」 あれは一応、老舗の有名な蕎麦屋で買って来ていたものだったのだけれど、もし かしたら進藤はもっと美味しい蕎麦屋を知っているのかもしれない。 「いや、合わないことは無いんだけどさ、たまにはこう…本格的で無いソバが食べ たいなあ、なんて」 「本格的で無い蕎麦????」 「うん、なんて言うのかな、あの緑のナントカとか、ナントカ兵衛とか―」 正直、おれはあっちのが美味いと思うんだよなと言われたぼくは、今までの苦労を 走馬灯のように思い出し、でも、こんなことで怒るのも大人げないので、「彼の分だ け」緑のナントカを渋々用意してやったのだった。
2008.12.30 |
【煩悩…消え去るか?】 二人仲良く炬燵に入り、テレビなど見ながら蜜柑を食べて過ごしていたら、急に進 藤が歯を食いしばり苦痛に耐えるような顔になった。 「どうした? 進藤、具合でも悪いのか?」 「いや…除夜の鐘が…」 「何? 頭痛でもしていて鐘の音が耳障りなのか?」 「違う! 除夜の鐘のヤツがおれの煩悩を払おうとしている〜〜」 せっかくおまえにあんなことやこんなことをしてやろうと思っているのに、払われち ゃったら出来なくなってしまうじゃないかと、これ以上無い程真剣な顔で「煩悩… 消え去るか? いや、まだ大丈夫だ、おまえはまだまだやれる! 諦めるな! がんばれ!」と、必死で応援しているので、ぼくは一つ溜息をつくと炬燵から出て 立ち上がり、除夜の鐘がよく聞こえるように大きく窓を開け放ったのだった。
2008.12.31 |
【おせち必須】 『おせち必須』 渡されたメモにはそう書かれていた。 「えー? 今からおせちなんて店開いて無いんじゃないか?」 『駅前のスーパーは元日から開いているからそこで買って来てくれ』 「別におれ、正月におせちなんか無くても―」 『買って来い!』 大晦日、酔っぱらって酒のつまみ代わりにと塔矢が用意したおせちを一人で食ってし まった挙げ句、やり収めに姫始めだと散々無理をさせてしまったおれは、すっかり風 邪をひき、寝込んでしまった塔矢に新年早々こき使われることになった。 『お餅は米びつの隣のケースに入っているから雑煮を作れ』 『年賀状が届いているか見に行って来い』 『一階の大家さんにお正月のご挨拶を――』 次々渡されるメモにさすがのおれもぶち切れそうになったけれど、その都度塔矢が襟 元をめくり体中についたキスマークを嫌味ったらしくおれに見せつけるのでおれは仕方 なく、言われた通りに立ち働くことになったのだった。
2009.1.1 |
【書初めって案外…】 そんなこと、ガキの頃だってやったことは無いと言うのに、塔矢はおれに書き初めを しようと言ったのだった。 「年の初めに目標をたてるのは気持ちが引き締まっていいものだよ」 にっこりと、でも有無を言わさず筆を持たされて渋々と半紙に向かう。 (目標なんて何書けばいいんだよ) 今年おれがしたいこと、出来ればリーグ入りしてタイトルを獲って、それから出来たら賃 貸じゃなくて分譲のマンションに引っ越したい。 新しいソファも欲しいし、そういえばオーブンレンジも新しいのが欲しいしと色々考えて いたら塔矢にぷっと笑われた。 「進藤、それじゃ目標じゃなくて買い物のメモだよ」 見ればおれは考えながらほとんど無意識にそれらの物を書いてしまっていたらしい。 「や…、こっ、これは別に練習のつもりで…」 「練習でも本気でもいいけれどね、ちゃんと忘れずに入れておいてくれたからこれは褒 めてあげよう」 そしておれから筆を取り上げると塔矢は書き殴ったおれの書き初めに二つ花丸を書い てくれたのだった。 「…え?」 一つは最初に思ったリーグ入り。そしてもう一つ、一番隅っこの方に何を思ったかおれ は「塔矢」と書いていたのだった。 塔矢と今年も楽しく暮したい。 ずっと一緒に仲良く向き合い打っていたい。 「書き初めって案外…」 自分でも気が付いていない本心が出たりするものだよねと、ゆるりと微笑む塔矢の頬 が赤いのは、さっき飲んだお屠蘇のせいでは絶対に無いはずだとそう思い、おれの顔 も静かに赤く染まったのだった。
2009.1.2 |
【初詣のお願い】 塔矢と二人、初詣に行った。 「初詣ったって、もう三回めくらいじゃん」 元旦にも行ったし、二日目にも行ったし、今日も結局来てしまっている。 「いいじゃないか賑やかで楽しいし、新年のご挨拶は何度したって構わないだろう」 そして二人でさい銭を投げる。 「そういえばおまえどんな願い事しているんだ」 もう三回目だし、その都度別の願い事でもしているのかと尋ねたら塔矢はきょとんと したように目を見開いた。 「初詣のお願いはいつも同じことだよ」 キミと今年もずっと一緒に居られますようにって、それしかぼくは願っていないと、そ れがぼくの唯一の望みだからとまで言われてしまってカーッと頭に血が上った。 「キミは?」 キミは何を願ったのだと言われて焦ったおれは咄嗟にあらぬことを口走ってしまっ た。 「おっ…おれは本因坊になれますようにって願った!」 それから棋聖と十段と碁聖と名人も獲って五冠になれますようにって神様に頼んで 来たんだと、だから今年はおれの圧勝だなと威張って言ったら塔矢はしばらく黙って しまった。 「…やっぱりぼくももう一度お参りして来ようかな」 そして今キミが言ったものを全部ぼくが獲れますようにと祈ってくるよと言ったので、 おれは負けず嫌いの恋人を追いかけると二人で競うように初詣のやり直しをしたの だった。 2009.1.3 |
【特番漬け】 「キミはどうしてそう毎日テレビばっかり観ているんだ!」 正月休み、リビングでテレビを観ながらごろごろしていたら塔矢に顔を顰められて小 言のように言われてしまった。 「えー? だって他にすること無いし、こういう時にしかこんなこと出来ないし」 「テレビなんていつだって観られるじゃないか!」 「正月番組ってなんか普通の時とは違う特番ばっかりで面白いんだってば」 「…馬鹿馬鹿しい。そんなことを言っていると正月太りしてしまうぞ」 少しは起きて体を動かせと近くのコンビニまで切れていた醤油を買いにやらされた おれは帰って来てびっくりした。 テレビの前にちょこんと座って、塔矢が食い入るように正月番組に見入っていたか らだ。 「あの…塔矢サン?」 「なんだ?」 「何観てんの? おまえ」 「よくわからないけれど、この漫才のコンビの人達があちこちの芸能人の家をいき なり訪ねてクイズを出すってものらしいよ」 負けると何か高価なものを差し出さなければいけないみたいだと言う口元は笑って いる。 「それ…面白い?」 「いや、別に…」 全然面白くなんか無いよと言いつつ塔矢はおれの方をちらりとも見なかった。 「塔…」 「しっ、黙って。声がよく聞こえないじゃないか」 「だっておれ腹減った」 「お雑煮の残りでも食べていればいいだろう」 そしておれを放ったままテレビの前に居座り続けた。 免疫が無かったのがいけなかったのか。それとも元々こういうものがツボだった のか、塔矢は正月番組が相当気に入ったようで、それからずっと特番漬けにな ってしまったのだった。 2009.1.4 |
【寝正月希望】 「進藤、起きろっ、進藤」 ゆさゆさと揺さぶられて思わずぼやく。 「んー…おれ寝正月希望」 だからもっとゆっくり寝させてと、言ったら更に揺さぶられた。 「今日は打ち初め式だろう!」 今年は福袋が用意されることになっているんだからキミも早く着替えないとと言われ てもまだ頭は夢の中に半分居る。 「福袋ってなんだっけ」 「プロ棋士と一対一の指導碁が出来る券がつくってあれだよ」 「思い出した!」 今年から新しい試みとして始められるそれをおれは誰よりも心待ちにしていたはず なのに! 「起きる、それでもって、おれがおまえの指導碁券の福袋を買うから!」 絶対に他の誰にも渡すなよと怒鳴るように言ったおれは、次の瞬間あきれ果てた というような顔をした塔矢に思い切り殴り倒されたのだった。 2009.1.5 |