君にまつわる20題
配布元、TOY 

誕生日まで毎日、アキラがヒカルについて語ります。
(1) 君の笑い方 9/1
(2) 君の字 9/2
(3) 君の性格 9/3
(4) 君の涙 9/4
(5) 君の家族 9/5
(6) 君の初恋 9/6
(7) 君の得意技 9/7
(8) 君の手料理 9/8
(9) 君のセンス 9/9
(10) 君の温度 9/10
(11) 君の嘘 9/11
(12) 君の知らないこと 9/12
(13) 君の友人 9/13
(14) 君の体 9/14
(15) 君の声 9/15
(16) 君の部屋 9/16
(17) 君の値段 9/17
(18) 君の運 9/18
(19) 君の過去 9/19
(20) 君の気持ち 9/20



















君の笑い方


「塔矢!」

名を呼びながら真っ直ぐにぼくに向かって駆けてくる。

「おまえも今日、来てたんだ」
「うん、時間があったから覗いてみようかなって」

それにキミが来ているのも知っていたしと言ったらぱっと彼は笑顔になった。

「おまえが来て、すげえ嬉しい。ちょうど今、おまえにすごく会いたいと思って
いたから」

にっこりと顔中が明るい日差しのようになる。

人懐こいキミの笑い方が大好きだと思いながら、ぼくは改めて彼の笑顔を見
詰めると頬が染まっていないことを祈りながら、おずおずと微笑みを返したの
だった。


2009.9.1




戻る









君の字

進藤の字は良く言えばのびのびとして素直で、悪く言えば汚い。

書き順もまるっきり無視しているのでどうにもバランスが悪く、だから互い
にメールの交換をするようになるまではメモの判読に非道く苦しんだ。

(桑原先生の達筆の字の方がまだ読みやすい)

勝手に色々省略したり、ハネや止めにクセのある字はたぶん他の人にも
不評だったのだろう、いつしか手書きのメモの類を全く寄越さなくなったけ
れど、でもぼくは彼のあの字が好きだったので、今でも時々メールでは無
く、わざわざ伝言をメモにして彼に渡して貰うのだった。


2009.9.2




戻る









君の性格

キミの性格はとてもわかりやすい。

単純で好き嫌いがはっきりしていて、明るく人懐こい。

自分のやりたいことと、やりたく無いことの別がきっぱりとしていて、目的
のためには手段を選ばない。

口の悪い人には礼儀知らずのイマドキの―と言われてしまうことも多いけ
れど、それでいて裏表の無さから可愛がられる事も多い。

「そう思っていたけど―」
「ん? 何?」

時折ふと見せるドキリとするほど大人っぽい表情や、踏み込ませない部分
に彼の影を見るような気がする。

「…まだまだぼくはキミのことを知らないんだなと思って」
「そうか? おれはおまえの方がよっぽどわからないけど?」

明るく笑って流してしまう進藤は、やっぱり見た目通りの単純バカでは無い
のだと思う。

2009.9.3





戻る









君の涙


キミの涙を見た時に胸を突かれたような気がした。

北斗杯で負けた、その悔しさから流す涙はぼくにとっては美しく、とても貴
いものに思えた。

(進藤はあんなふうに泣くんだ…)

知り合って初めて見た彼の涙。

それが囲碁に関することで流されたことに心のどこかで安堵しながら、でも
同時に理由のつかない切なさも覚えていた。

彼にとって涙を流す程心を占めていることは囲碁だけなのだと思い知った
ような気がしたからだ。

けれど数年後、初めて彼と寝た時に彼はぼくの前で泣いたのだった。


「キミ…泣いているのか?」
「なんだよ、悪いかよ」

ずっとずっとおまえのことが好きだった。泣く程好きだったんだぞと逆ギレの
ように叫ばれて驚きながらも嬉しくなった。

「悪くなんか無い…ありがとう」

囲碁とぼくとどちらが彼にとってより大切なものかは知らないけれど、でも
少なくとも同じように涙をこぼしてくれたことはぼくにとって何より嬉しいこと
だった。

だから忘れずに、ずっとずっと覚えていようと、赤い顔で涙を拭う彼を見詰
めながら、ぼくは噛みしめるように思ったのだった。
2009.9.4




戻る









君の家族

初めて遊びに行った時、進藤のご両親はぼくをとても歓迎してくれた。

「この子に塔矢くんみたいな友達が出来るなんて信じられないわ」

これからもずっと仲良くしてやってねと言われてこそばゆく、でも嬉しかった。

あれから数年、彼と友人以上の関係になって思うのは彼の家族は今もぼくを
昔と同じように歓迎してくれるだろうか?と言うことだった。

(そんなこと無理だ、有り得ない)

むしろ泣かれ、罵られるのではないだろうかとそう思う。

「別れた方がいいのかな…」
「なんで?」
「だってキミの家族は―」
「いいよ、家族なんかどうだって」

おれがおまえのことを好きなんだからときっぱりと言われて抱きしめられて、嬉
しかったけれど涙がこぼれた。

(ごめんなさい)

それでもぼくはやはり進藤が好きで好きでたまらなく、別れることなど考えられ
ない。

優しかった人達を裏切る痛さに涙しながら、けれど同時に決して彼を離すまい
とぼくはしっかりと彼の体に腕を回したのだった。

2009.9.5



戻る









君の初恋

「キミの初恋を教えてくれないか?」

そう尋ねた時、ぼくは内心自分という答えを期待していたのだと思う。

「え? おれの初恋? 初恋かあ…」

けれど予想外に進藤は答えに詰まり、後ろめたそうな顔でぼくを見る。

自分では無い。そう悟った瞬間に足元が崩れるくらいショックを味わったけ
れど、努めて平静を装って笑顔で促した。

「もしかして幼馴染みの彼女?」
「違うよ、あいつはそんなんじゃないから」
「じゃあ幼稚園の先生とか? 学校の先生?」
「違うって、おれ別に年上好みじゃないもん」
「じゃあ…」

だれなんだと尋ねたら進藤は更に気まずそうな顔になった後でそっとぼくを
指さした。

「ぼく? え? だって…」
「違う。おまえはおまえだけど―」

7歳の時に母に無理矢理着せられた七五三の晴れ着の写真。その7歳の
ぼくが彼の初恋なのだとそう言った。

「だって、おばさんに見せられたその写真、すっげー可愛かったんだもん」

もちろん今のおまえが誰より一番好きだけど、初恋って言うとどうしても7歳
のおまえを思い出してしまうんだよと言われて怒っていいのか笑っていいの
かわからなくなった。

「あの…それって浮気になる?」
「どうだろう?」

女の子のふりをさせられたあの写真は自分では屈辱と思っていたのだけれ
ど、でもそれが進藤の初恋ならばそんなに悪いものでも無かったのかもしれ
ない。

「ぎりぎりグレーラインだけれど…」

浮気だとは思わないでいてあげるよと言ったら進藤は明らかにほっとした顔
になって、でもまだ未練がましく「ほんとにすげえ可愛かったんだよなあ…」と
呟いたのだった。


2009.9.6





戻る









君の得意技

「……悪かった」

進藤はちっとも悪いと思っていないようなぶすっとした顔でぼくに言った。

「何のことだ?」
「何のことってわからないんだったら別にいい」

いいけどおれは確かに謝ったからなと、突き放すように言ってそれから
いきなりぼくを抱きしめた。

「マジ…ごめん」

ぎゅっと強く抱きしめて、それから掠れたような声で耳元に囁く。

「おまえに触れないのすげえ辛い。話せないのも打てないのも、何もか
も全部すげえしんどい」

だからもう怒るの止めてと、言われて大きく溜息をついた。

「卑怯者」
「うん」

卑怯者でもなんでも許してくれるんならそれでいいと首筋に顔を埋めら
れて諦めた。

ぼくは彼を許さざるを得ない。

散々冷たくしておいて、いきなり素直に甘えて来る。キミの得意技を狡
いと思わずにはいられないのに、いつもぼくはどうしてもそれに勝つこ
とが出来ないのだった。


2009.9.7




戻る









君の手料理

夕食をご馳走してくれると聞いて、ラーメンだろうと想像していたら、思い
がけず彼は和食を用意してくれていた。

「…なんでラーメンじゃないんだ?」
「って、それおまえおれに失礼だろ!」

和食と言っても焼鮭に目玉焼きに味海苔に納豆と、まるで旅館で出て来
るようなラインナップで、でもそれを一生懸命作ってくれたのは傷だらけ
の指を見ればよくわかった。

「ぼくは別にラーメンでも良かったのに」
「だからおまえ、ラーメンから離れろよ!」

おまえが和食が好きだからわざわざ作ってやったんだからいい加減黙っ
て素直に食えと、赤い顔で怒鳴られて笑ってしまった。

「ごめん。文句をつけているつもりでは無かったんだ」

ただキミの手料理が嬉しくて、手間をかけさせてしまったことが申し訳無
くて言ったのだと言ったら彼は少し表情を緩め、「だったら次はラーメン
にしてやる」と明るく笑って言ったのだった。

2009.8




戻る









君のセンス


「大体おまえはセンスが悪いんだよ!」

どうしたらあんな奇天烈な柄の服やオヤジ臭い服ばっかり選べるんだよと言
われてムッとしたけれど、確かにいつも評判が良くないので反論はしなかっ
た。

「…じゃあ、キミが選んでくれるか?」
「え? マジ?おれが選んでいいの?」
「うん。ぼくよりもキミのセンスの方が幾分マシだろうから」

彼がいつも着ているような服はたぶん似合わないと思うけれど、でも少なくと
も人をあれだけ罵倒したのだから、それなりの服を選んでくれるだろうと思っ
ていたぼくの前に、彼は喜び勇んで買い物から帰って来ると、自信満々メイド
服を差し出したのだった。


2009.9




戻る









君の温度


「キミの手は温かいね」
「どうせガキだって言いたいんだろう?」

そっと握った手を振り解くようにして進藤が言った。

「どうせおれは緒方センセーみたいに大人じゃないし、塔矢先生みたいにみ
んなに尊敬されてるわけでも無いし」

ただのバカな常識の無いガキなんだからと、拗ねた口調で言われて苦笑す
る。

「どうして今日はそんなに攻撃的なんだ」
「別に…」

ただ悔しいだけだと言われてその横顔を見た。

「そうか…悔しいのか」
「当たり前だろ!」
「うん」

ぼくもいつも悔しいと日々思っているよと、言って彼の手を握ったら今度は振
り解かれなかった。

「おまえの手…冷たい」
「心が冷たいからだ、きっと」
「そんなこと無いだろ」
「あるよ」

だからキミの温度に憧れるのだと、ぎゅっと強く握ったら彼は物言いたげな顔
をして、でも結局は何も言わずぼくの手を握りかえしたのだった。




2009.10




戻る









君の嘘

キミの嘘はすぐわかる。

何がどうとは言えないのだけれど、どんなに上手く繕っていても、嘘をつい
ている時にはすぐに何故かそうとわかってしまうのだ。

「…おまえって怖ぇ」
「キミが単純過ぎるんだろう」
「だって他の奴等は誰も絶対気がつかないぜ?」
「それは…」

誰もぼくほどにキミのことを思っていないからだと言ったら彼は大きく目を見
開いて、それからもう一度「怖ぇ」と言った。

「ほんと、マジ怖ぇ」

でもそう言う彼の目は笑っていて、何故か声音は嬉しそうなのだった。


2009.11




戻る









君の知らないこと


ずっと昔、一度だけある人とキスをしたことがある。

したというか、されたと言うか、でもされた時心の中で進藤にされた後で
良かったとぼくは思ったのだった。

すみません、ごめんなさいとその人は謝り、その後一度も会ったことは
無いけれど、一度だけ汚された、そのことは彼には伝えていない。

そんなことくらいで怒りはしない、ぼくを嫌ったりしないとわかっているつ
もりでもやはり少し怖いから。

「ん?何?」
「…なんでも無い」

キスをするたびに思い出す。

キミの前で笑いながらキミの知らないことを抱えている、ぼくは狡い恋人
です。

2009.12




戻る









君の友人

「キミの友人は皆、ぼくのことを嫌っているみたいだけど?」

皆で遊びに行こうと誘われて思わずそう言ってしまったら、進藤はきょとん
としたような顔をして、けれど尚もしつこく食い下がった。

「そんなこと無いって、行けば絶対楽しいから!」
「…なんでそんなに連れて行きたがるんだ」

いつもはぼくが嫌がるとあっさり退いて無理強いなんかしないのに、どうして
今回に限って退かないのだと尋ねたら進藤は口を尖らせて呟いた。

「だってみんな彼女連れてくるって言うからさ…」

おれだって自分の好きなヤツ連れて行きたいじゃんとそう言われ、だったら尚
更行けないと思いつつ、彼の気持ちが愛しくて思わず抱きしめてしまったのだ
った。

2009.13




戻る









君の体

「おれの体のどこが好き?」

にやにや笑ってそう聞かれ「キミの体の全部がぼくは大好きだよ」と答えた
ら、彼は不満そうな顔をして、でも頬を染めながら「部位限定!」と叫んだの
だった。

2009.14




戻る









君の声

「起きろよ」

なあもう時間だからそろそろ起きた方がいいぜと、ゆさゆと揺り動かされて
薄目を開ける。

「…何時だ?」
「もう8時だって! おまえ今日手合いあんだろ?」

このままだと遅刻になっちゃうと、自分のことでも無いのに一人で非道く焦っ
ている。

「まったく、普段はしゃっきり起きるくせに、なんでおれと居る時だけはこんな
に寝起きが悪いんだよ」

ぼやくような声に微笑みつつ心の中でそっと思う。

それはね、キミの声が寝起きの耳にあまりにも心地よくて、いつまでも聞い
ていたいと思うからだよと。

2009.15




戻る









君の部屋

初めて進藤の部屋を訪ねた時、予想外に綺麗に片付けてあって驚いた。

「キミ、意外に綺麗にしているんだね」
「違うよ、おまえが来るからがんばって掃除したんだって!」
「ふうん…」

気を遣ってくれたことが嬉しくて、でも反面、散らかった部屋を片付けたか
った気持ちもあったのでちょっとこぼす。

「つまらないな、滅茶苦茶な部屋を一緒に掃除するのを楽しみにしていた
のに」

すると進藤は、ぱっと明るい笑顔になってそれからいきなり襖を開けた。

「なんだよ、それを先に言えよ!」
「え?」
「本当はさ、間に合わなくて全部押し入れに突っ込んだんだ」

だから一緒に片付けてと言う言葉と共に雪崩れて来る雑誌や服や様々な
物を呆然と眺めたぼくは大きく一つ溜息をつくと、まずは最初に満面笑顔
の彼を叱ることから始めたのだった。

2009.16




戻る









君の値段

「キミの値段?」
「そ。もしおれに値段をつけるとしたらいくらぐらいだと思う?」
「そんなの…わからないな」

キミに値段なんかつけられない。つけられる程安くなんか無いと思わずそう
言ってしまったら彼は一瞬驚いた顔をして、それから「おれも!」と笑ったの
だった。

2009.17




戻る









君の運


進藤と神社に行っておみくじを引いたら、ぼくのは大吉で彼のは凶だった。

がっかりするかと思いきや、意外なことに彼は平気で賽銭箱の近くの梅の
木におみくじを結ぶと、機嫌良く喉が渇いたから何か飲もうなどと言う。

「キミ、平気なのか?」
「何が?」
「おみくじが凶ってあまり気分が良いものじゃないだろう?」
「んー、でもおれ結構良く凶って出るし」
「そうなんだ?」
「うん」

だから慣れっこで気にしないし、第一凶が出て悪いことがあった試しが無い
と笑って言う。

「碁は充実してるし、おまえと一緒に居られるし」
「それでも凶は凶だろう?」
「逆に言うと凶が出る確率の方が大吉が出るよりもスゴイんじゃねーの?」

だからおれきっと本当は運がいいんだと思うぜと、なんというポジティブと感
心していると、待ちくたびれたのか進藤は自動販売機の所に走って行ってし
まった。

「おまえは何飲む?」
「お茶を…」

でも自分で買うからいいよと言う前にさっさとお金を入れてお茶のボタンを押
してしまう。すると唐突に自販機から聞き慣れない音が鳴り響き始めた。

「何?」
「アタリ!」

おれ、自販機のくじで外れたこと無いんだよなと機嫌良く言って、続けてコー
ラのボタンを押す。

ペットボトルを二つ持ち、笑顔で振り返る進藤を見た時、ぼくはキミの運の良
さを確かに見たと思ったのだった。

2009.18




戻る









君の過去


進藤の部屋でアルバムを見せて貰った。

生まれた時のおくるみにくるまった小さな彼や、七五三、幼稚園の入園式な
ど可愛らしい写真が続く。

ああ、進藤はこうして育って行ったんだなと最初は楽しく見ていたけれど、途
中でパタンと閉じてしまった。

「あ、やっぱ退屈だった?」

人の写真なんか見ててもつまんねーよなと言う進藤に苦笑しながらぽつりと
返す。

「いや、すごく面白かった」

ぼくの知らない、知りたいと思っている彼の姿がたくさんあって、どれだけ見
ても見飽きることが全くない。

(でも、だから…)

だから悔しくなったのだ。

いかに自分が彼のことを少ししか知らないのかを思い知ってしまったようで。

「…キミの過去なんかぼくはいらない。だってその中にぼくは居ないのだか
ら」

怒るかな? そう思って顔を見たら進藤は驚いたような顔をして、でも別に
怒らなかった。

「お前らしい」
「悪かったな」
「いや、全然悪く無い」

そうだよな、この中におまえはいないもんなと言って、それから進藤はぼく
を見詰め、「だったらおれも過去はいらない。おまえの居ない過去なんか欲
しくも無い」と言って優しく笑ったのだった。

2009.19




戻る









君の気持ち


この世で一番知りたくて、でも同時に知るのが怖い。

それがキミの気持ち。

ぼくを好きか、本当に好きか、その気持ちは変わることは無いのか知りたく
て時々たまらなくなる。

『おれの気持ち? そんなん決まってるじゃん』

おまえのことが好きで、本当に大好きで、永遠にその気持ちが変わることな
んか無いよと、きっと即座に答えるだろうと確信に近く思うから、だからぼくは
逆に彼にそれを聞くことが出来ません。

2009.20

戻る


さらにおまけ。

素材はこちらでお借りしました。↓
一実のお城