キミに似合う男
高永夏が休日に観光がてら遊びに来ると言う。 「…で、どう思う? やっぱり浅草かなあ、それとも渋谷かなあ」 秋葉原とは言わないと思うんだけどと雑誌片手に呟いている。進藤の悩みはやって来る 永夏を何処に案内するかということで、そんなに悩んで決められないならいっそ清々しく 京都にでも行ってくればいいじゃないかと言ってやったら睨まれた。 「そんなん! おれと会うの1日だけって言ってんのに、それで京都なんか行ったら打つ 暇全然無いじゃんか」 「…なんだ、打つ気があったのか」 「当たり前だろ、棋士が顔付き合わせて他に何するって言うんだよ」 拗ねたように口を尖らせる進藤はこういう時子どもみたいな顔になると心の中でひっそり と思う。 「いや、だってキミ観光の話ししかしないからてっきり碁抜きで会うのかと」 「高永夏だぞ? あいつ国手で棋聖で王位なんだぞ? それで打たなかったらバカじゃね え?」 「まあね」 だったらぼくも混ぜて貰おうかなと言ったら進藤は非道く驚いた顔をした。 「来ないつもりだったのかよ」 「だって、久しぶりに会うのを邪魔をしちゃ悪いかと思って」 「久しぶりってそれ言ったらおまえだって久しぶりだろ。永夏だって秀英連れて来るんだ し」 「そうなんだ…」 「そうなんだって、言ったよ? おれは!」 悲鳴のように言って進藤は恨めしそうにぼくを見た。 「結局おまえ、打たないんだったらおれでも誰でもどうでもいいんだなあ」 「なんだそれは」 「だって、言ったこと全然聞いてねーんだもん」 人が折角楽しいプラン考えてたのにさと。 「それは―」 進藤が他の誰かのことで一生懸命になっているのにムカついていたからだとは本人に は言えない。 「それは…キミが浮かれてぼくのことは視界に入っていないようだったから」 「そんなことねーよ、浮かれてたのは確かだけど、それはおまえも交えてみんなで思い 切り打てるからだし」 永夏みたいな強いヤツと打てる機会なんか中々無いからなと言われてやはりちょっと むっとする。 「ぼくじゃキミは不満なんだな」 「って、なんで今日はおまえそんなに突っかかってくんだよ!」 「別に。ただキミに相応しいのはぼくだって思っていたから、独りよがりだったなら考え を改めなくちゃいけないなって」 高永夏なんて関係無い。洪秀英だってどうでもいい。 ぼくは進藤が。この世にたった一人、進藤ヒカルさえいればいいのだから―。 「う…それ無茶苦茶嬉しいけど、でも折角なんだから一緒に来いよな?」 「行くよ?」 折角の休日一人で寂しく過ごすことになるのかと思っていたからと言ったら進藤は、ま たそういうことを言うと眉を寄せた。 「するかよそんなの」 恋人同士だぜ? おれら、と。 「そういえばそうだったような気がするね」 それでもまだ少しだけ憎らしいので意地悪をしたら、進藤は更に口を尖らせて、でもバカ だなとその口でぼくに優しくキスをしたのだった。 |