ストーカーの午後
約束をした日や手合いの日には会える。でもそうで無い日に会いたくなった時は一体 どうしたらいいんだろう。 「…アーキラ、何やってんの?」 こそこそと柱の影から覗いているのを芦原さんに見つかって、ぼくは飛び上がらんば かりに驚いた。 「あ…あの別に何というわけでは無いんですが」 「あ! もしかして進藤くんを待ってるんでしょう」 でもそんな風に物陰から見ているとストーカーみたいだからちゃんと正々堂々見なさ いよと言われて顔を赤く染める。 「ぼくは別に」 「それはね、ストーカーは悪いことだから人に勧めはしないけど、進藤くんに会いたい んでしょう?」 だったら仕方無いものねとそれで納得されるぼくは何なんだろうと思う。 「でも、いいんです。彼は別にぼくが来ることを知らないし、彼にも別に用があるだろう し」 ちょっと姿を見たかっただけと言いかけて、それではやはりストーカーでは無いかと思 った。 「別に声ぐらいかけてもいいと思うけどなあ。進藤くん森下先生の研究会なんでしょう?」 だったらもうすぐ終わるから、声かけて話して行けばいいんじゃないのと、言っているう ちにざわざわと人の来る気配がした。 「あ、進藤君達じゃない?」 「ぼ、ぼくはもう帰ります」 このままここに居たならば何を言われるかわからない。それに進藤だって怪訝な顔をす るだろうと慌てて立ち去ろうとしたのにその背中に他ならぬ進藤の声が降った。 「塔矢ー、お待たせっ」 振り向くとぶんぶんと手を振って満面の笑みを浮かべた進藤が居る。 「しん…どう」 「悪い、遅くなって。どれくらいここで待ってた?」 芦原さんや他の人達がお疲れ様と去って行く中、進藤はぼくの前に立つとにこにこと笑 い、嬉しそうにぼくを見た。 「どうする? 碁会所行く? それともどっかでメシ食ってく?」 「そうじゃなくて!」 「ん?」 「約束も何もしていないのに、どうしてそんなに普通に話しかけてくるんだ!」 ぼくが居て驚かないのかと言ったら進藤はけろりとして言った。 「だってこの前会ってからもう2日も経つし、そろそろおまえのおれ断ちも限界かなと思 って」 だから今日当たり待ってるんじゃないかと思ってと。 「…………な」 「ん?」 「おれ断ちとか言うな!」 顔が真っ赤に火照って息苦しい。 「ぼっ、ぼくは別にキミなんか!」 「おれなんか?」 「まっ、待っていたりとかは―」 「してくれたんだよな」 取りあえずそのお礼に今日のメシは奢るから、碁会所行って打ってから美味しいもん でも食いに行こうと腕を取られて頷いた。 「…うん」 ああ、彼には叶わない。 一生どんなことをしてもぼくは進藤に勝てないのではないだろうかとぼくが思うのは正に こんな時なのだった。 |