初夢 |
||||
![]() |
![]() ![]() ![]() |
![]() |
||
新選組にもお正月がやってきた。 新しい年の初めは、殺伐とした彼らにも一時の安らぎをもたらす。 生きて年を越せた幸せは、強烈な喜びではないが、ひしひしした実感なのだ。 で、ここにも一人、ひそやかな楽しみをこれから貪ろうとしている輩がいた。 沖田総司。 彼はこの日が来るのを一年前から心待ちにしていたのだ。 ・・・一年前って、一年前のお正月、彼はある願望を抱き、そのために一年を費やしていた。 苦節一年、やっとこの日がやってきた。 彼は今とても幸せで、ワクワクしながら廊下を自分の部屋へと急いでいる。その手には枕ほどの風呂敷 包みがしっかと握られている。 顔は喜びと期待に紅潮し、唇がにやにやと綻んでいて、とても傍からみれば怪しい。風呂敷包みを胸に ぎゅっと抱き、スキップしているのを、柱の影から監察の山崎烝が見ていた。 (あやしい、絶対あやしい。あいつがあんな顔しとるっちゅうのんは、絶対なんか企んどる時や。しかもあ いつ が企むゆうたら、土方副長のことしかあらへん。きっとまたなんかエロいこと考えとんのや。) 山崎の触角は敏感に沖田の企みを嗅ぎ付けて、悪魔の手から可憐な(?)土方副長を救うべく決心 した。 (あいつの企みを絶対阻止してやる!) と言うのは表向き、内心はあいつ一人に美味い汁吸わしてなるものかというのが本心だったりして(^^; さて、自分の部屋へと戻って、ドキドキしながら風呂敷を開けて、それを手に取った沖田はにやにやし ながら見入っていた。 目に前には綺麗に閉じられたたくさんの紙の束がある。 それをぱらぱらと捲り見ながら、自然に湧き出す喜びを抑え切れないらしい。 実は昨年、良い夢を見るために巷で売られている宝船の絵を買って、寝るときに枕の下に敷いて寝よう とした。 その絵を見ていて、ふと思った。 (土方さんと私のムフフな夢が見たい・・・・) そのためには、こんな宝船の絵では見れるわけがない。 やっぱりそれなりにリアルな絵であるに越したことはない。しかもお床入りの最初から最後まで微に入り 細を穿つものであれば、きっと完璧な夢が見られるに違いない。 沖田はその晩は一睡もせずに自分の思いついた「土方さんと夢のような一夜を共にする自分」の夢をど うやったら絵にできるかと必死に考えたのだった。 自分に絵心はない!ちょっと試しに描いてみたが、子供の悪戯描きみたいになって、自分で描くのはあ きらめた。 明け方、閃いた。 「そうだ!!」 すっくと立ち上がり、てきぱきと身支度を整えると、まだ明けきらない道へと飛び出していた。 行く先は、二条堀川にある某絵師の家。 家に飛び込むなり、 「ご用改めだ。手向かいいたすなよ。」 まだ布団に包まっている絵師にぎらりと刀を突きつけ 「ご用改めだが、俺の言うことを聞いたら見逃してやる。どうだ、俺の言うことを聞け!」 寝込みを襲われ、おまけに刀を突きつけられて断れるものではない。 絵師はコクコクと頷いてしまっていた。 「では♪」 と、沖田は自分の邪な思い付きを絵にするように迫ったのだ。 「えっと〜、土方さんと私が〜、まず接吻するところから始まって〜、次にゆっくりと土方さんの着物を剥 ぎ取って〜、○○を××してナニをナニして〜・・・・」 聞いているうちに絵師は頭が痛くなってきた。 このエロ話を全部絵にしろというのか。そもそもこの絵師、春画なんぞを描く気は毛頭ない。 しかも♂×♂。 「あ、あの、それ全部絵にしますのか。」 恐る恐るたずねれば、 「あったりまえでしょ。リアルな夢が見たいんだから。土方さんが私の腕の中で可愛く昇天するところ まで きっち り描いてもらいますからね。あ、時間はたっぷりあるんですよ。 心配しなくてもいいんです〜、来年 の初夢に間にあえばいいんですから。その代わり、一日一枚、少しずつ場面を変えてぱらぱら捲る と動いて見えるように描いてくださいね。」 笑いかけながらも有無を言わせないその相貌、黒ヒラメの一見穏やかそうな表情なのが妙に怖い。 絵師は年明けそうそう我が身の不運を嘆かずにはいられなかった。 それから、絵師にとって地獄のような日々が始まった。 次の日から沖田はやってきて描いているかどうかを確認するのだ。 確認するだけならまだしも、ああだこうだと注文をつけ、必ず一日一枚を描き上げるようにとまで言っ たのだ。 一日一枚、一年で三百六十五枚(すんまへ、旧暦だと一年が何日かわかりませんでした)、絵師は げっそりと窶れながら毎日毎日エロ画を描かされ、そして大晦日、エロ画仕様の初夢用の絵が完成 したのだ。 本来生真面目な絵師は、もうこれでエロを描かなくてすむと思うと、開放感に心底ほっとしたのだった が、一年も来る日も来る日もエロばっかり描いていたせいで、筆を持つと指が勝手にエロを描き始めて しまう体質になっていた。 絵師は断筆するか、このままエロ描きになるか・・・がっくりと肩を落とした。 しかし、確かに出来上がりはすごいものが出来上がった。 ぱらぱらと捲ると、絵の中の二人がまるで本当にヤッチャッテルみたいに微妙に仰け反り、腰を動かし ているのだ。 「うふうふ・・・・ここまで完璧にできるとは・・・やっぱり私が見込んだ絵師だけのことはある♪・・・・ ああ、思えば長かった。完成するのをじっと待った甲斐があったというもの♪今夜が楽しみだな〜、 早く夜にならないかな〜、もう、今からでも寝ちゃおうか。」 ・・・・まだやっと昼だけど・・・・・ そこへ何食わぬ顔をして山崎がやってきた。 「沖田さん、居られますか。」 障子越しに声をかけると、なにやら慌ててごそごそ仕舞いこんでいる様子だ。そして山崎は返答も待 たずにさっと障子をひき開けた。 「な、なんですか。まだ開けていいと言ってないのに。」 慌てて風呂敷に包みかけたそれを隠すようにしながら、沖田がぎろりと山崎をにらみつけた。 「あ、すんまへん。いや、副長がなんや沖田さんをさっきから探してはったさかい、ちょっとでも早いほ うが ええんか思うて・・・・ところで、それ、何ですのや?読み本でっか?えらい分厚い本でんなぁ。」 山崎の視線は入ってきたときからその物体から一度も離れない。 「な、何でもないです。ただの読み本ですよ。え、えっと、土方さんが呼んでるんですね。解りました。 すぐ行きますと先に行って伝えといてください。。」 顔はにっこり笑いながら、目線は山崎にさっさと出て行けと言っている。 (ちっ、まったくこの人ったら鼻がきくんだから。 だけど今回は俺の念願がやっと叶うんだから邪魔はさせない。) 視線に殺気を込めて山崎を見返した。 ぞくっとする視線、山崎は身の危険を感じ、 (しゃぁないわ、こいつをここで怒らせたらわしの身が危ない。こいつを部屋から誘き出したる。そいで その風呂敷包みを確かめたる。) 胸内でほくそえみながら、 「解りました。ほな先に行っとりますよって、早う来てくださいよ。」 負けじとやんわり人当たりの良さそうな笑顔を見せて出て行った。 「ふぅ、やれやれ。あいつがいることをうっかり忘れてたよ。どこへ隠そうか。」 しばらくあちこち見回していたが、ぽんと閃いた。 格好の隠し場所がある! 沖田はそそくさと部屋をでると、近藤の部屋へ忍び込んだ。 局長はお年始回りで外出中、当分戻ってはこないはずだ。 勝手知ったる局長室。どこに近藤がおやつを隠しているか、エロ本が何冊あるか、全て熟知している。 エロの中にエロを隠せ。 沖田は近藤のエロ本が隠してある戸棚へ、自分のもってきた風呂敷包みをそっと隠した。 「ここならいくら山崎さんでも解りっこないさ。」 自信満々に頷き、沖田は土方の部屋へ向かっていった。 「土方さん、何の用でしょうか。」 最前の邪さなど微塵も感じさせないきりりとした面持ちで土方の部屋へやってきた沖田、立ち居振る 舞いも清々しくぴしりと行儀よく座ると、まるで純真な若者の如くにひたむきな目を土方に向けた。 「おう、来たか。」 文机から顔を上げ、振り向いた土方がにっこりと振り返った。 幾筋か艶かしくほつれた髪の毛が色白の頬に少しかかって、ぽっちりと赤い唇もあでやかだ。どうや ら酒が入っているらしい。 目元がほんのり紅色に染まっている。 うっと、沖田が思わず顔を手で覆ったのは、土方のあまりの色っぽさに鼻血が出そうになったからに ほかならない。 ほんのり染まったのみならず、襟元が少し崩れて、白い鎖骨から胸にかけての肌が見えているのだ。 思わず股間がズキンと反応してしまった。 ・・・袴でよかった・・・・これがGパンだったらえらいこと・・・・ やっとのことで沖田は自分を落ち着かせ、 「なんですか、土方さん。お酒を召し上がったんですか。土方さんはお酒に弱いから、あんまり飲んじゃ いけませんよ。」 と、いかにも土方を心配して言っているふうを装ったが、実はこんな土方を狙うのは沖田以外にもたくさ んいるので、自分のいないところで酒など飲んでほしくないのだ。 「お屠蘇だ、お屠蘇。ところで総司、悪いんだが今日の昼からの巡察、藤堂と替わってやってくれ。 あいつ近藤さんと年賀に行ってまだ帰ってこねぇんだ。 あいにく他の奴らも出払っていて、お前しか頼めねぇ。」 潤んだ目で見つめられ、哀願する(沖田視点)土方にとっても弱い沖田、断ることができない。 しかたなく急遽巡察に出ることになってしまった。 実はこれ、山崎が仕組んだことだった。 藤堂が近藤局長と年賀に出てしまっていたことをいいことに、残っていた幹部に島原に絶世の美女が 太夫でデビューし、今日はそのデビュー祝いで半額で遊べると吹き込んだのだ。永倉や原田たちは一 も二もなくその嘘話に乗ったが、斉藤は「俺はいい」と行きそうもない。そこで、 「なんやその太夫、元は武家の出らしゅうて、えらい業物の刀を持ってるゆう話どっせ。女だてらに刀持 ってる言うて、それがまた話の種どすがな。」 斉藤は刀の話になると目の色が変わる。うまいことだまくらかしてしまった。 で、沖田を巡察に出してしまえばこちらのもの、例のモノが一体なんなのかと、沖田の部屋をあちこち 探したが見つからない。 「う〜ん、どこへ隠したんや。 まさか持って行ったとは思えへんよって、絶対屯所のどこかにあるはずや。」 監察の面目に賭けても見つけ出さねばならない。 「そうや、犯人の気持ちになることが大切や。プロファイリングの鉄則やないか。」 いや、別に犯人じゃないんだけど・・・・ じっと目を瞑り、沖田の行動傾向を思い浮かべようとした。が、 「ああ〜、あいつの思考回路は尋常じゃあらへん。あいつがナニ考えとんのかさっぱり解らんわ。」 頭を掻き毟り、諦めかけたときだった。 「そうや、土方副長の部屋には本人がいてるさかい、おかしなもん持ち込めへん。 でも局長は今留守や。としたら隠すには最適やんか!!!」 山崎、冴えてる! というか、沖田の思考回路と極似なのだ。 山崎は局長室の某戸棚からなんなく風呂敷包みを発見した。 包みをあけると読み本五冊分ほどの厚みのある一番上に、 「沖田総司初夢」 と黒々書いてある。 あけて吃驚、描かれているのは山崎のマドンナ(男だけど)土方副長、そして相方は沖田なのだが、 あまりの出来栄えに思わず見入ってしまった。 だが、暫くしてむらむらと怒りが込み上げてきた。 「ここまで副長を私物化しおって許せん奴や。けど、これが無うなったらあいつ絶対俺を疑うやろな。 そうかといって、これをこのままにはしておけんし、そうや、あいつこれを今夜枕に寝てエエ夢見よう 思うてるんやろけど、そうはいかへんぞ。」 夕方になって、沖田が巡察から戻ってきた。 いつもより早くさっさと巡察を切り上げるので、他の隊士が 「あの〜、まだ回らないといけないところがあるのにいいんですか。」 と聞いたのを、 「私が終わりと言ったら終わりなんです。 それともなんですか〜、私の言うことに文句があるんですか〜」 チャキっと鯉口を切って張り付いたような笑顔で振り向くものだから、隊士達も言い返せもしない。 戻るなり、局長室へ忍び込み、隠した戸棚を開けるとちゃんと包みがある。 「あぁよかった。もしも山崎さんにみつかったらどうしようかとはらはらしてたんだ。」 その夜はそそくさと飯を食い、さっさと布団を敷くと、例のブツの最初のほうを二、三枚捲って、 「そうそう、今捲ってみたら夢でのお楽しみが半減しちゃうかもね。このまま枕にして寝よう♪ いい夢みるぞ!!」 気合充分に寝たのだった。 確かに絵師の腕がよかったから、夢の内容はパラパラ絵の通りだった。 沖田は夢の中であんなことやこんなことをしていた。 が、肝心のところが・・・・ 夢の中で沖田は必死になって土方のはずの体を抱きしめていた。 土方のはずってか、土方でなきゃ意味がない。 それなのに、途中から土方の顔にモザイクがかかっているのだ。それだけならまだしも、あの部分にも モザイクがかかっている。 そんなはずはないと、夢の中でしきりに目を凝らしても肝心の部分は見えない。 「う〜ん、う〜ん・・・・」 ヤッチャッテルはずなのに一つも嬉しくない。へとへとになって朝がきた。 「どうしてこんな夢になったんだ!もしかして、もしかして・・・」 そう、そのもしか。 「くそぅ、山崎〜、やったな〜!!」 途中の絵から全てがモザイクがかけてあったのだ。 「こんなんじゃちっとも満足できないじゃないか!」 確信はある。 しかし証拠がない。 ない以上は山崎がこれを認めるわけがない。へたをすれば自分が土方をおかずに初夢で 邪なことを企てたことをチクルかもしれない。それだけは絶対マズイ。 なんせ沖田は土方の前では清廉潔白の仮面を被った黒ヒラメだったのだ。 「ちっ、ま〜たあの絵師のところへ今年も通わなきゃならなくなったじゃないか。」 諦めてないのであった。 今年も絵師は去年に引き続き悪夢のような年を送ることになってしまった。 朝飯を食べに大部屋へ行くと、入ってきた沖田を見つけた山崎がそそくさ出て行こうとする。 それを捕まえて 「山崎さん〜、毎日監察のお仕事たいへんですね〜、 月夜の晩ばかりじゃないので気をつけてくださいね〜」 額に青筋立て、頬がピクピク痙攣しながらも笑顔を作っている。 山崎は背筋がゾクゾクとしながらも、 「は、はは・・・沖田はんも・・・・」 言うが早いか屯所を飛び出した。 山崎、当分屯所へは戻ってこれないだろう。 そこへ永倉や原田もやってきた。 「おい、山崎の野郎しらねぇか。」 まだ酒臭い息をぷんぷんさせながら、立って部屋の中を眺め回している。 「どうしたんです?」 「どうしたもこうしたもねぇ、あいつ昨日俺らに嘘を教えやがったんだ。」 「あいつとっ捕まえてギタギタにしてやる。」 山崎の嘘を信じて「美麗ニュー太夫を半額ポッキリ!」に期待して行ったらしい。 期待が大きければ大きいほど裏切られた怒りが大きいのは当たり前なことだ。 更には斉藤、一見すると普段と変わりない。なにせ表情が読めない。 むっつりと黙っているが、怒っているのだ。斉藤の背後に黒いモヤモヤが立ち上っている。 誰も見ないふりをしていたが、斉藤には悪霊を操れる特殊能力が備わっている。 山崎は新年早々大変な恨みを買ってしまった。 そうこうしていると、今度は土方も朝飯を食いにやってきた。 なんだかすごく疲れているみたいだ。 げっそりして目の下に隈まで作っている。 「あれっ?土方さん、体調が悪いんですか。」 目ざとく沖田が近寄って土方に声をかけた。 沖田の顔を見た途端、土方が一瞬おびえて数歩引き返そうとした。 「お、俺の後ろにまわるんじゃねぇ!!・・・なんか夕べは寝苦しくて・・・・ 体中が痛くて仕方がねぇ。おまけに、ごにょごにょ・・・・」 うん?ごにょごにょのところがよく聞き取れなかった・・・・ そう、実は恥ずかしいところが微妙なのだ。 ・・・痛キモチイイ・・・のか?・・・・・ 夕べの夢の中に確か沖田がいた。顔がはっきり見えなかったが、体型は確かに沖田だった。 しかも自分を抱いていたのでは・・・・・バックは危ないと、土方はキモに深く銘じた。 さまざまな思いや疑念や怨念の渦巻く一月二日の朝ごはんであった。 |
||||
![]() |
![]() ![]() ![]() |
![]() |
||
明け烏さまコメント:なんか、まとまりがつかなくなったので終わります。 (斎藤さん、某マンガのパクリか〜?、すみません〜) |
>>Menu >>賜りもの >>初夢 |