病んでいた。手の施しようもないほどに。
早いうちに江戸に戻り、養生すれば、完治することはなくとも寿命は延びたのだと医者は言ったが、今更、何を言っても詮無い。
いずれおれは死ぬのだと、赤い血を噴き出し沖田は思う。
もう一人、病んでいる人間がいた。
体では無い。心を。
早くから知ってはいたが、おれが何をしてやれるものでもないと放っておくうちに命に響くところまで、傷ついてしまった。
そこで手を差し伸べたのは、愛していたから。
幼少の頃からこの人を愛していたのだと、背中を向け泣く土方に思う。
呼び出した北野の茶屋で沖田は、土方を犯した。
最初は嫌だと抵抗したが、「死にますよ」と脅せばすぐに、おとなしくなった。
ここに来ればこうなることは、土方も百も承知だったのだ。
こんなかたちにしたのは、彼への沖田なりの思いやりだった。
「…先生に言えば良い。おれに犯されたと。おれは構いませんよ。どうせあと残り僅かの命だ。」
縁側に座り、先ほどから泣いている土方に、沖田は呟く。
「最後にもうひとつだけ、あなたのために何かができるなら、悪くは無い人生だったとおれも思えるかもしれない。」
「…よせ。」
背中を向けたまま土方は応えて。しどけなく黒髪が流れるその背を沖田は美しいと思う。
「やめろ。なにもしなくていい。」
「………。」
言った土方の背に、すっと沖田は指を伸ばす。
「………っ!」
つっと撫でた途端、ビクビクと尻から震えたのに、兆すものを感じながら沖田は、後ろから土方の肩を抱き囁いた。
「でも…。」
「近藤さんとおれとの間をどうこうするために、おめえが何かする必要はねえ。残り僅かの命と言うんなら、それはぜんぶおれとてめえのために使え。」
「………。」
ぎゅっと抱きしめると沖田は、涙で濡れる土方の頬に頬擦りをする。
「おれは病人ですよ?それでも良いんですか。」
「………。」
答えは沖田の腕を握り返し、首を回してそっと口づけをねだった土方の瞳の中にあった。
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