日蝕



うららかな陽射しが障子を隔てて、屋形船の中へと差し込んでいた。
それを凌駕するかのような、熱い吐息がその中には充満していた。
「あっ、あぁ……」
横向きに抱き抱えられた歳三が、後ろから総司の熱い熱に貫かれていた。
総司は着物を剥ぎ落とした歳三の躯を、両手で隈なく愛撫していく。
胸を這っている総司の手は、先程執拗にしゃぶって紅く色づいた歳三の乳首を、押し潰すように摘むと、
「んっ……、あ……」
敏感になっていた部分を愛でられて、押し殺したような声が、歳三の唇から漏れる。
「いい?」
総司が聞くと、歳三は素直に首を縦に振った。
「い、いいっ」
歳三の答えに満足して総司は、自身をゆっくりと抜き差ししつつ、歳三を更に高みへと導いていく。
総司の律動と、それと異なる舟の揺れが、得も言われぬ快楽を生み、歳三を忘我の極みへと追いやってゆくのだ。
歳三の形の良い耳が、桜色に上気して総司の目の前にあって、更に色づけとばかりに総司は、それにねっとりと舌を這わせたり、軽く甘噛みしたり。
そんなことをしつつ、もう片方の手はそろそろと下へと這い降りるが、歳三の中心でふるふると震えているものには触れず、そのまま太股へと這っていった。
「そう、じっ」
歳三の切羽詰ったような声の意味が分かっているだろうに、総司は敢えてそれを黙殺して、その周囲にのみ愛撫を施した。
総司の意地悪く焦らすような愛撫に、いやいやと首を振りながら、歳三は後ろから抱き抱えられた不自然な体勢のまま、総司の首に手を延ばして引き寄せようとした。
歳三の望むように総司は躯を倒し、薄く開いた歳三の唇から覗く赤い舌を絡め取ってやった。
深く舌を絡ませあいながら、総司は下肢を這っていた手で、歳三のふぐりを揉みし抱いた。
「う、うぅ……んぅ」
口を塞がれている為、歳三の口からはただ微かな声が零れるだけだが、強く弱く揉んでやると、歳三の躯は快感を得ているのだろう、それだけで中がひくひくと締まった。
その様を目を細めて、総司は愛しげに堪能しながら、歳三が待ち望んだ先走りが滲んだ歳三の敏感な先端を、親指で突付いてやった。
すると、途端に歳三の後ろが一層強く締まり、総司に快感を与えてくれる。
「はっ、ぁ。あっ……んぁ」
そして、反射的に歳三の背が撓り、口付けていた唇が離れてしまった。
「気持ちいい?」
更に足を大きく広げさせ、先端から溢れている愛液を塗り込めるように、全体を愛撫してやれば、総司の問い掛けに言葉にはならずとも、歳三の内壁は喜ぶように蠢き、総司を中へ中へと誘っていった。
それに誘われるように、総司は歳三に手を絡めたまま、激しく突き上げていき、
「ひっぃ、い……あっ」
歳三に嬌声を上げさせながら、諸共に果てた。
荒く乱れた息遣いを落ち着けようと、しばらく二人折り重なったままで。
二人の耳には、互いの息遣いと、船の縁に当たる微かな波音だけが聞こえていた。
「歳さん」
ようやく静まった息を吐き出し、総司が問い掛ける。
「ん?」
「今日は、ありがと」
歳三が眠りに落ちそうになるのを、総司は言葉を繋いで引き止める。
「一緒に居てくれて、嬉しい」
汗の滲んだ歳三の肌からは、不思議と甘い香りがする。
その匂いを嗅ぎながら、総司は言った。
「分かってたか?」
「そりゃ、ねぇ。分からないほうが、どうかしてるよ」
ぼんやりと心地よい総司の腕の中で、歳三は子守唄代わりに総司の言葉を聴き頷いた。
「うん」
歳三は、総司が歳三の生まれた日を二人で過ごしたかったと言ったように、今度は逆に総司にしたかったのだ。
歳三の気持ちが暖かく嬉しかった総司は、その気分のまま歳三の元結の解けたその髪の下から覗く紅潮したままの項に、唇を寄せた。
総司の唇が触れるだけでも感じるのか、ぴくりと歳三の躯が震える。
けれど、先程の情交の余韻にそのまま、総司の温かい腕の中、うとうとと微睡みだした歳三を、総司は優しげに見遣りながら、
「ありがと」
と、再びその耳に囁いた。



いつの間に眠ったのか、歳三が目覚めると、暖かく居心地の良い総司の腕の中だった。
ゆらゆらと揺らめく船の中、それに揺蕩うまま、暫し寝入ったらしい。
が、それほどの時が経っていないのは、陽射しの強さで分かった。
抱き込んでいる総司のその腕を外し、身を起こそうとして、
「あっ……」
と、歳三は声をあげた。
総司がまだ、歳三の体内にいたのだ。
まだ離したくないと、嫌がる躯を宥めながら、歳三は総司から身を引き剥がした。
「んっ……んぅ……」
つい声が出るのを押さえて、そろそろと離れて、歳三は傍らにあった総司の襦袢を羽織った。
そして、火照った躯を鎮めようと、舟の縁に寄り掛かり障子を少し開けて、風を呼び込んだ。
歳三は情を交わした後、総司の襦袢を羽織るのが好きである。
それは、総司の匂いがして、逞しい腕にずっと抱かれている気がするからであった。
しばし、心地よさげに梳かれた髪を髪に嬲らせていた歳三だが、総司を見遣るとまだ起きる気配もなくまだ穏やかな寝息を立てていた。
普段歳三の気配に聡い総司が、共寝のときにだけ鈍くなるのが、愛しくてその寝顔に歳三は魅入った。
幼い頃から見続けた顔ではあったが、いつの間にか精悍で凛々しくなった男の顔が、目を閉じているとやはり幼いままであるかのような錯覚に囚われた。
風が入って寒くなったのか、総司は、
「ぅ〜〜ん」
と言いつつ、歳三を探すかのように、さっきまで歳三がいた場所を探っていた。
それを、どこかこそばゆく思いながらも、微笑ましげに見ていると、漸く総司の眼がぽっかりと見開いた。
「歳さん……」
「目が覚めたか? 山が綺麗だぞ」
嵐山の新緑が濃く、川面に映えてきらきらと綺麗である。
その川面に屋形船を浮かべての、舟遊びの最中で、儀助が用意した心尽くしの数々の料理が、所狭しと並んでいた。
完全に目覚めきっていない総司は、船縁で初夏の陽射しを受ける歳三に魅せられて、蕩けるような笑みを浮かべた。
「大好き」
歳三の羽織った襦袢の袖を引き、その意図に気付いた歳三が屈みこんで、二人は口を啄ばみあった。
「ほんとうに、嬉しい」
啄ばみながらも、総司は何度も歳三に言う。
その様に歳三も、笑って応えてやる。
「だって、歳さんが仕事を人に押し付けてまで休むなんて、珍しいじゃない?」
「お前が……」
歳三が言い掛ける言葉を、総司は更に先を促すように繰り返した。
「俺が?」
「お前が言ったんじゃないか。この前、俺が生まれた日が、大事な日だと。それなら、お前が生まれた日も、大事だろう?」
自分の首に回された総司の腕を掴みながら、歳三が抱き返す。
「覚えていてくれたんだね。俺の生まれた日が、今日だって」
「当たり前、だろう。お前が俺の生まれた日を、忘れないように、俺も忘れるわけがない」
一旦は目を瞠った総司が、嬉しそうに初夏の陽射しを凌ぐ眩しさで笑った。
その眩しさに目を細めて、
「お前の生まれた日は、嵐だったんだろう?」
「うん、そうだよ。凄い嵐で、お産婆さんを呼びに行くのに、難儀したって」
歳三の言い出した意味が分からなかったが、総司は肯定した。
「それなのに、お前には本当に、日が似合うな」
「そう?」
「ああ」
総司には、本当に日の光が似合うと歳三は思う。
それなのに、この京の地で、血塗れになっている。
心の底で、歳三は総司を連れてきたことを、呵責に思っていた。
だが、総司はいつまでも屈託がなく、それが救いになっているのだ。
「じゃあ、きっとね、あれの所為じゃないかな?」
「何のことだ?」
「あのね、嵐の後、空が明るくならなくて可笑しく思っていたら、日が欠けていて驚いたんだって」
「日が?」
「そう。日が欠けていたんだってさ。だけど、それが徐々に元に戻っていって、その時に俺が生まれたんだって」
歳三が初めて聞く話である。
「だから、『お前は日輪の子だ』って、よく父上が言ってたらしいよ」
誕生のときに、新たに日輪が生まれたなんて、なんて目出度いことだと言っていたらしい。
『日輪の子』
歳三にはそれは総司にぴったりと、当て嵌まる言葉のような気がした。
だが、それなら己は一体なんだろうかと、ふと歳三の胸を過ぎった。
それを敏感に察したかのように、
「歳さんは、月。夜にぽっかりと浮かんで、道標になる月だよ」
「月、か……」
「そう、月。日も一人空高くあるのは淋しいから、月とずっと追いかけっこをしてるでしょう?」
「…………」
「日と月は、いつでも追いかけたり追いかけられたり、時には一緒に遊んだり。俺と歳さんと一緒でしょ」
「くくっ、日がお前で。月が俺か」
日がなければ、輝けない月とは、言い得て妙だと自嘲気味に歳三は思ったが、総司は違ったらしい。
「そう。日は月を輝かせる為だけに、あるんです」
えっ、という表情で歳三が総司を見返せば、
「月は日がないと輝けないんじゃなくて、日が月を綺麗に輝かせる為だけに存在するんですよ」
だから、俺も歳さんのそんな存在になりたい、と総司はそれこそ日輪のように笑った。




嵯峨野といえば、嵐山。嵐山といえば舟遊び。ということで、舟の中でのHでしたv
とはいえ、ここまでHになる予定では……(ごにょごにょ……)
何処で間違ったんでしょうねぇ?(って人に聞くな、と言われそうだ)
でも、この舟の船頭さん、いい迷惑だな〜。それとも、僥倖かしら?



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