お邪魔虫



俺は、二番隊の隊長を務める永倉だ。
新撰組でも三本の指に入る、剣の使い手なんだぜ。
怖いもの知らずで、がむしゃらに突っ込んでいくから、誰がつけたか『ガム新』なんていう、渾名まである。
だが、そんな俺にも、苦手なものがある。
何を隠そう、沖田と土方だ。
いや、別に二人が嫌いなわけじゃない。
個々の人間は、すこぶる好きだ。
確かに土方は、試衛館にいた頃と違って、とても厳しいことを言うが、それも確固たる信念の元のことだから、致し方ない。
それぐらいはせねば、新撰組など烏合の衆だ、すぐに離散してしまうだろうしな。
まぁ、衝突することもしばしばだが、俺自身長く気に病むということができぬ性質だから、それほど尾を引いたりしない。
沖田も気さくな明るい人柄で、人を惹きつけるし、あの剣の腕は一目も二目も置くに値する。
じゃぁ、一体何が苦手かというと、二人揃ったときが苦手なんだ。
なんで、二人揃うと苦手かというと、こう二人の醸し出す雰囲気って奴だろうなぁ。
二人を知った頃は、他人なのになんて仲のいいことだと、単純に思ってた。
それこそ、本当の兄弟以上の仲の良さで。
それだけだと、思っていられたらそれで良かったんだが、生憎と二人のそうでない事情を知っちまったからなぁ。
だから、二人揃って仲睦まじいのを見ると、つい色眼鏡で見るというか。
気にしないようには、してるんだけどよ。
どうも上手くいかないって言うかさ。
そうは言っても、二人揃わなければないで、また気になるんだ。
二人の仲が悪いときなんか、変な気がして落ち着かないし。
これが、人間の気持ちの難しいところだ。


ここしばらく、その二人が喧嘩をしていて、俺自身なんか居心地が悪い。
俺になにかが起こるって訳じゃないんだがな。
早く仲直りしろよ、と思っていたら、痺れを切らした土方のほうが折れたようだ。
総司を自ら道場まで呼びに来た。
これで、いつもの日常に戻れると、ほっとした。
けど、しばらくは二人に近づかないのが、長年の経験から来る勘って奴だ。
何で仲直りをした後の二人には、近づきたくなのかって?
そりゃぁ、あの二人を見てれば良く分かるぜ。
それはもう、いつもの比じゃない位の、いちゃつき様なんだ。
いや、まぁ、人前で口を吸い合ったりとかする訳じゃないが、こう二人の雰囲気が本当に見てるだけで甘ったるいのが良く分かる。
喧嘩していた分を取り戻そうとしている感じ、といったら良いか。
だから、二人が仲直りをする時や、した直後は、絶対に二人に近づきたくない。
当てられるだけ、当てられて、何のいいこともない。
それどころか、邪魔をしたと恨まれること必死だ。
俺はまだ、馬に蹴られて死にたくはないからな。
二人のその時には、他の隊士たちを近づけないようにするのに大変なんだ。
俺や原田なら、まだどうってことないが、平隊士ならあの二人に睨まれて、良いことなんか一つもないからな。
ああ、気苦労が絶えねぇぜ。
人より早く老けそうだ、俺。




なんと言うか、二人に当てられっぱなしの皆の心境を、永倉に代弁してもらいました。
『痴話喧嘩』の後、という雰囲気で!



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