白無垢



今まで見たことのない白っぽい夜着を着て、歳三が入ってきた。
ここは今まで総司と井上の二人が使っていた部屋だが、これからは歳三も一緒に使うことになった。
それは、歳三が天然理心流に再び入門し、正式な門弟となったからだ。
そして歳三は、日野ではなくここ試衛館で、総司らと共に起居することと相成った。
今日はその祝いの席が簡単だが設けられ、母屋ではまだ続いていた。
酒に慣れていなくとも、本来ああいう賑やかな場所が好きで、いつもは皆と騒ぐのだが、今日はそんな気分になれなくて、総司は早めに引揚げた。
訳は分かっている。
今日から歳三と過ごすことになるのが、嬉しくて嬉しくてしかたがないのだ。
それに、歳三がふらりと席を立つ時に、
「部屋に戻ってろ」
と、耳打ちされた言葉が耳に残り、繰り返し聞こえてきては、総司が落ち着かなくなってしまうのも致し方ないだろう。


主役である歳三が、あの場に居なくてもいいのかと思ったが、あそこまで場が乱れてしまえば如何という事はない。
最初から歳三のことは、酒を呑むための名目に過ぎないのだし。
そう割り切って、歳三はさっぱりと湯を浴びてきた。
普段は湯を沸かすなど勿体無いと湯屋に行くのだが、ときどき内湯である風呂を沸かすこともあるのだ。
湯に浸かり、普段は白い歳三の肌が、ほんのりと桜色に染まっている様は、総司には目の毒だ。
しかも、今まで見たことのない白無垢とも見えるが如き単衣を着ていては、さらにどぎまぎしてしまう。
それでもその風情に見合わず、どっかと胡坐をかいて目の前に座られれば、総司から苦笑が漏れてしまった。
まだぽたぽたと落ちる雫を拭きながら、
「お前は、入んないのか? 風呂」
歳三は総司に問い掛けた。
「ああ、うん。稽古の後、水浴びしたから……」
流し目のような歳三の視線に、まだ初心な総司の顔が赤らむ。
体を繋げたとはいえそれもたった一度では、色事に精通した歳三に総司が叶うわけがない。
「そういや、風呂嫌いだったな」
くっくっ、と歳三が思い出したように笑う。
風呂嫌いというのでもないが、総司の風呂は烏の行水である。
だから、わざわざ水浴びをした後に、入る気にならないだけであったのだが。


あれほど、再入門を渋っていた歳三が、戻ってきたわけは総司にあった。
総司が元服して、それを機に契りを交わした二人だったが、それで何が変わるわけでもなかった。
生活の基盤は、総司は江戸の試衛館にあったし、歳三は日野と行商の日々だ。
二人で居られる時間など皆無といっていい。
偶さか歳三が江戸に来て、試衛館に逗留する時ぐらいしかないのだ。
だが、そんな束の間の逢瀬では、想いが通じ合った今我慢が出来るはずがないし、歳三もそうそう江戸に出てきてばかりはいられない。
現に歳三が江戸に来たのは、あれからたった一度。
だが、折悪しく総司は多摩へと出稽古に出ていて、会えずじまいであった。
総司には塾頭としての天然理心流を支える役目があり、総司が試衛館から離れられないなら、より身軽な歳三がそこへ行くしか道はなかった。
そんなわけで、歳三はしばらく真面目に行商に精を出しつつ、彦五郎の後押しを頼みに兄の喜六を拝み倒し、天然理心流への再入門への了承を取り付けて、試衛館に居つくことになったのだ。


「あっち、まだ終わんないね」
母屋からは、まだ騒がしい声が聞こえる。
「ああ、飲兵衛が揃ってるからな。夜通しだろ」
まだ少し気になる総司が言えば、歳三はにべもない。
「付き合ってらんねぇよ」
近藤は飲める口ではないが、原田や永倉はいける口だ。
しかも、今夜はすでにうわばみとも言える斎藤もいる。
そんな連中に付き合っていられるかとばかりの、歳三の口調だ。


二つしか敷いてなかった布団が一つ増え、三つ並べて敷かれている。
そして、その内の二つが、端をくっ付けあうように敷かれていて、その上に二人は座っているのだが、そんな光景に慣れなくて、総司を落ち着かなくさせる。
久し振りに目の前にいる歳三に触れたいが、井上がいつ戻ってくるとも知れず、そんな些細なこともままならないことも。
総司のそんな落ち着きのなさに気付いたのか、歳三はそっけなく言った。
「源さんは、今日はここで寝ねぇよ」
「えっ? どうして……」
総司は井上がここで寝なければ一体どこで寝るのかと、怪訝に思って問い返した。
「今日ここへ来たときに、いの一番に総司をよろしく、って言われたし……」
井上に会った途端にそう言われて、歳三は二の句が告げなかったのだ。
「むこうで飲み明かすとも、言ってたしな」
が、気を利かせたようにここまで言われてしまえば、開き直るしかないというものだろう。
「ばれてるんだろ?」
念のために歳三が問えば、
「うん。多分……」
総司は小さく縮こまってしまった。
だが井上が総司の縁戚で、小さい頃から総司を知っているとなれば、隠し事など通じるわけがないのはわかっている。
総司を責めてもどうしようもないことだ。
「後は、誰が知ってる?」
ただ、ここで他に誰が総司と自分のことを知っているか、確認しておくに越したことはないと、歳三は総司を問いかけた。
「えっと、左之さんが……」
総司は上目遣いに歳三を見て、観念したように言った。
「左之?」
「うん。あの爪痕見られたし、俺が歳さんを好きなの知ってるから、すぐにばれちゃった」
悪さを見つけられた子供のように、ぺろっと、舌を出す総司に、歳三は苦笑した。
原田は総司の喧嘩友達だし、今までも色々と相談事をしていたようだから、致し方あるまいと歳三は腹を括った。
「それだけなら、いいほうか」
小さくなってる総司に、気にしていないと歳三は、唇を啄ばんでやった。
「…………」
上目遣いに見遣る総司に、
「ばれてるなら、仕方がねぇ。味方につけりゃいい。そうすりゃ、ここでこういうことも、しやすくなる」
と、半開きの総司の唇を割り、舌を差し込んで絡めた。
総司は色事に百戦錬磨の歳三の舌を、ただ受け止めているだけだ。
体を密着している歳三から、微かな湯の香りがして、総司の鼻をくすぐった。


歳三は腕を総司の後ろにまわし、総司の帯を解こうとするが、きつく結ばれてるのか、なかなか解けない。
「帯は前で結んどけ」
じれったそうに言う歳三の声に、
「前?」
総司は首を傾げた。
巧みな口吸いの所為でぼうっとなった頭で、総司は歳三の動きをただ見ていた。
「そうすれば、脱がせやすいだろう?」
総司の帯を解き終わった歳三は、総司から少し離れて、前で結んであった紺紫の兵児帯の端を、総司に持たせて引っ張らせた。
当然、するりと抵抗もなく帯は解け、はらりと前が肌蹴た。
「う、ん」
だが判りやすく示された行動に、色事に慣れぬ総司は照れて下を向いた。


中途半端に着物を肌蹴たまま、互いの下帯を外し、形を成し始めたものに手を添えて、より堅くと扱きたててゆく。
根元から先端を撫ぜ、歳三の動きと同じように、総司は歳三のものを愛しげに扱う。
そう。まるで歳三の行為は、総司に情交に仕方を教えているかのようだった。
互いに先走りを零し始める頃、土方は総司を布団の上に押さえつけた。
「なに?」
押さえられるままに寝転んだ総司だが、歳三の行為が読めなくて、心細い声を上げた。
「今日は大人しく、俺の言うとおりにしてろ」
艶やかな濡髪を肩に垂らしながら、歳三はそれに劣らぬ艶やかな笑みを浮かべた。
その笑みを見てしまえば、総司に逆らう術などあろう筈がなかった。


総司の上に馬乗りになった歳三は、総司の口をいったん塞いでから、徐々にその唇をずらしていった。
目蓋に、頬に、首筋へと。
手は総司の肩をすべり、胸元へと這い下へ降りていく。
もう片方の手は、その指先を総司の口に差し入れ、しゃぶるように強要した。
訳が分からぬままに、総司は歳三の白く細い指をしゃぶる。
それこそ、愛撫を施すように丹念に何度も。
その合間にも、歳三の唇は先に這った手の跡を辿っていった。
「塩っ辛いぞ」
鍛えられ逞しくなりつつある総司の胸元を舐めて、歳三は呟きにやりと笑った。
赤くなった総司に、一つ口付けを落として、歳三は総司の足元に屈み込んだ。
唇より先に降りた指は、すでに総司のものに絡まっている。
その上から歳三は口を開き口に含むと、それはさらに大きくなって歳三の口を圧迫した。
だが、それを愛しげに歳三は舐めて、もっと大きく硬くなれとばかりに、舌で優しく扱き上げていく。
歳三の与える快感をやり過ごそうとする総司の耳に、ぴちゃりぴちゃりと、舐めしゃぶる音が響く中、時折りくちゅりと、それとは違う音が聞こえてくる。
気になって下で蹲る歳三を見れば、先ほど自分がしゃぶった歳三の片手は、歳三の脚の間に吸い込まれていた。
その意味が飲み込めた途端、総司の背をずくりと快感が走り抜けた。
震えた下肢と、口の中で快感を伝えるように雫を滴らせたそれに、歳三は顔を上げて自分を見下ろす総司に、唾液で赤く濡れた唇を見せ嫣然と笑った。


歳三が自分の指で中を解すために弄っているのを、総司が気付いたことを知って、歳三は体をずり上げた。
歳三は自分を扱いて高め、見せ付けるように自分の中をえぐった。
総司の前に晒すそんな歳三の裸身は、総司を大いに惑わすものだった。
それに目を奪われ、くらくらと総司は何も考えられなくなった。
手を離しても硬く屹立した総司のものは、天を突くばかりにそそり立っていて、それを歳三は指を引き抜いた場所へ宛がい、ゆっくりと腰を下ろしていった。
受け入れることに慣れていない歳三には、しっかりと解したつもりでも体が軋むほどに辛いものがあったが、それでも躊躇うことなく呑み込んでいった。


はっはっ、と総司を全て呑み込んで、荒い息を吐く歳三の中心で萎えることなく息づくものへと、総司は手を伸ばした。
「ああっ」
と、それだけで歳三の体が跳ね、中が引き絞られるように締まる。
そんな歳三に、辛いだけでないのを感じ取り、総司はほっと一息ついた。
「歳さん、好き」
歳三の中は温かく包まれているだけで、総司には極楽浄土にも似た悦楽がったが、歳三がそうでないなら何の意味もないものだったから。
「ああ、おれも……」
うっとりと歳三が微笑む。総司の体の上で。
そして、律動を刻んでゆく。総司の胸に手を置いて。

二人の長い夜は、まだ始まったばかりだ。




すっごく夢をみがちなタイトルですが、こういうのも書いてて楽しかったです。
エロばっかだけど……。
もちろん、歳さんは総司が思ったとおり(タイトルどおり)の意図を持って、白の単衣を着ていますですよ。乙女〜〜。(←って、それは私か?)



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