散り急ぎし花霞



うららかな春の日差しだが、時折り吹く春一番かと思えるほどの強い風に、桜が花弁を散らしていく。
総司が非番の時に見つけたと言う桜だ。
この桜を歳三と一緒に見るため、黒谷に行く歳三の供をかってでた総司だった。
「風が強いな」
歳三が風に弄ばれる髪を、煩わしそうに首を竦めた。
「そうだね。でも、こういうのが一等好きだなぁ」
視界を染めて塞ぐほどに舞い落ちる花びらに、総司は嬉しそうにはしゃぐ。
「そういや、お前は餓鬼の頃から、そうだったな」
一緒に花見に出かけた子供の時も、花びらを舞い落とす桜の下で、嬉しそうに笑っていた。
その様子を思い出して言った歳三に、
「うん」
総司は屈託なく笑い返した。
そして、子供の頃からよくしていたように、風に乗ってあちらこちらにひらひらと不規則に舞い落ちる花びらを、器用に掴み取っていく。
それを微笑ましく見ていた歳三だったが、吹き荒れるようになった風に散らされた花弁が、総司の姿を朧に霞ませて、ぞくりとしたものが歳三の背を駆け抜けた。
それは、総司とこのまま隔てられ、総司が視界から消え行くのではないか、という思いだったろうか。
えも言われぬ恐怖感に囚われ、歳三はその感情のままに総司の腕を取り、きつく抱き締めた。
「歳さん?」
突然の行為に驚いた総司は、背後の歳三を見返したが、歳三は総司の肩に顔を埋め、無言で抱き締めてくるばかりで。
だが、歳三が何か不安を感じたのは、触れ合う体から伝わってきた。
だから、総司は歳三を何とか宥めようと、どうにか向き合って歳三を包み込んだ。
朧に霞んだその中で、それが晴れるまで。




土方さんが感じたのは、沖田の病気の予感、みたいなものでしょうか。



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