嵐山の船でしか行き着くことのできぬ宿は、格好の隠れ家だ。
洛中の暑さを逃れるにはもってこいで、緑に囲まれたここは気温も一二度は違い、涼しさがある。
そんな場所で暑さを忘れたっぷりとまぐわい、総司の胸に包まれて眠っていた歳三は、白々と夜が明ける前に目が覚めてしまい、しばしその温もりに満足そうに微睡んでいたが、やがてむくりと起き上がった。
何の警戒もなく無防備に眠る総司の顔を、肘をついた格好で歳三は眺めていたが、腰に掛かる総司の腕を起こさぬようにそっと外して抜け出した。
障子を開けると、朝靄に包まれた緑濃い庭が幻想的に煙っていて、浮世の柵と隔絶した世界を作り上げていた。
縁側から一歩踏み出し庭に降りて一回りしてから、部屋からは直接見えぬように隠された露天風呂へと足を向けた。
昨夜は愛し合ったまま寝てしまったから、たっぷりとかいた汗などを流そうと思ったのだ。
この露天風呂は部屋専用のもので、その前は河の流れがあり、庭全体も他からは入れないようになっているから、人目を全く気にせず入れるようになっていた。
だから、歳三は肩に引っ掛けてあっただけの着物をはらりと脱ぎ落とし、湯船へと身を沈めた。
手足をのびのびと伸ばし、ゆったりと湯に浸かっていると、心身ともにほぐれ生き返るようだった。
湯を手で掬い、湯船から出ている二の腕や肩に掛けていたが、熱い湯が方に当たるとずくりと湯が沁みた。
その痛みの元に手をやると、ざらりと傷跡に触れ、昨夜の狂態をまざまざと歳三は思い出してしまった。
夕暮れ間際に宿にやって来て、旨い料理を食べるのもそこそこに、すでに隣室に延べられていた床に転がった。
性急に互いに着物を肌蹴させ、久方ぶりのまぐわいに瞬く間に燃え上がった。
そして夜も更けて幾度となく達した後に、尻を高く上げて四つん這いになった歳三の背後から、歳三を貫いた総司が興奮した勢いのまま噛んでつけたものだ。
普段そんな目立つ痕をつけることのない総司だったが、日常を離れたまぐわいに我を忘れたらしい。
その急激な痛みに歳三は達し、またその衝撃できつく締め付けた所為で、総司も歳三の中に放って、二人身を折り重ねるようにして寝入ってしまったのだった。
思い出しただけで、ぞくぞくとした快感が歳三の背を駆け上がり、たったそれだけで歳三は我慢できなくなってしまった。
昨夜散々交わり、精も根も尽き果ててしまったかと思ったのに、現金なことだと苦笑しながら、歳三は兆した己のものに指を絡めた。
そこを辿る愛撫は総司の施す癖のまま、己で嬲り高めていくと、まだまだ抱かれた余韻が残っているらしく、あっけなく果ててしまった。
けれど、それだけではどうしようもなくなって、歳三は疼く内部に己の指を差し入れた。
己で指を抜き差ししていくと、中に留まっていた総司の精が、とろとろと指に沿って溢れてくるのが感じられ、それがさらに歳三の快感を煽った。
水の抵抗のある湯船の中にいるのも、ゆらゆらと総司に抱き込まれているような錯覚を起こし歳三の昂ぶりを助長していく。
しかし、このまま湯船に浸かっていると逆上せそうで、歳三はそのまま立ち上がり、岩場に上体を預けて尻を突き出す格好で、くちゅくちゅといやらしい音を立てていると、ふと突き刺さる視線を感じて、歳三は頭を上げた。
視線の先を探して首を曲げて振り向けば、総司がいつの間にか縁側に立っていて、腕を組みながら歳三を見下ろしていた。
その舐るような雄の視線に、視姦されているようで、歳三の肌が粟立って震えた。
だから、総司も歳三の痴態を見て昂ぶり我を忘れさせようと、ことさらに見せ付けるように足を広げて己の中を弄った。
こんな風に総司を求めてしまうのは総司の所為なのだから、そんな風にした責を総司に果たして貰わねばならぬとばかりであった。
歳三のその意図を察したのか、普段と違うぎらついた目をして、総司は歳三にゆっくりと近づいていく。
ちゃぽちゃぽと音を立てながら、湯の中を歩いてくる総司の着物を脱いだ裸体の中心で天高く屹立しているものを目に留め、歳三はうっすらと嬉しそうな笑みを浮かべた。
総司の指先が歳三の体にそっと触れるだけで、歳三の体はこれからの快感を予感して慄き震えた。
すうっと背骨を撫でるように総司の指が滑り、歳三の指が銜え込んでいる箇所に、潜り込んできた。
「ひ、ぁ――んっ」
質量が一気に倍になって、歳三の背が仰け反った。
「ここ、弄って気持ちいい?」
中に埋め込まれている歳三の指を捕らえながら、歳三の弱い箇所を攻めてくる総司に、歳三は腰が砕けそうになった。
「あ、ああ。け……ど、お前がしてくれる方が、もっといい」
熱い吐息とともに言葉を綴る歳三の中を、互いの指で一度中を深く抉り、
「ぃ、あっ!」
歳三に声を上げさせてから、崩れそうになる歳三の腰を支えて、総司は己の屹立したものをあてがった。
ほぐされたそこは総司を暖かく包み込み、自然に奥へと誘っていく。
総司に欲せられ愛されて、それだけで歳三は蕩けていきそうだ。
けれど、もっと欲しいと、歳三は強欲に強請ってみせる。
そんな歳三に総司も燃えぬわけがなく、挑みかかっていった。
二人の体を徐々に照らしていく日の光が、二人をより大胆にしていた。







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