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そして、その戸惑いのまま今に至るという訳であった。 「で、でも! それだけなら、なんということもないだろ?!」 押さえた、しかし悲痛な島田の声だ。 確かに事実は、あの夜に沖田が斎藤の部屋に泊まった、というだけである。 沖田が斎藤のと思しい着物を着ていたのも、布団が一つしか敷いていないように見えたのも、永倉の思い違いなだけかもしれなかった。 「まぁ、なぁ。けど、それから二人を見てると、どうにも怪しいぜ?」 斎藤の沖田に対する態度は、誰に対するものとも違う。 「非番が一緒の時は、必ずと言っていいほど一緒に出掛けるし」 沖田もああ見えて、けっこう人との距離を置く奴で、なかなか自分の中に踏み込ませないところがあるが、斎藤には随分中まで許しているように思う。 「第一、あの斎藤が沖田には笑い掛けてる」 いや、いくらなんでもその言い方はあんまりでは、と島田は思ったが、よくよく思い起こして見れば、斎藤の笑顔などほとんど見た記憶がないことに気付いた。 「本当に?」 しかも、そのまれに見た斎藤の笑顔の傍には、沖田がいたことにも気付いて、島田は恐る恐る永倉に問い掛けた。 「多分な。俺も決定的なとこを見たわけじゃねぇけどよ」 決定的なこと?! と思わず、そんな場面を想像しかけて、島田はふら〜〜っと卒倒しそうになった。 「けどな、俺は確かだと思うぜ。じゃなかったら、土方さんがああまであからさまに眉を顰めるもんか」 土方の沖田への可愛がり方を見ていれば、斎藤は不届きな狼藉者との烙印をしっかりと押されてると、永倉は思っている。 「沖田といるのが俺や左之の時と、斎藤の時とじゃ全然違う。機嫌の悪さが、びんびん伝わってくるもんな。土方さんがあんまり快く思ってないのは確かだぜ」 そうだろうか、と思い返してみても、島田にはそれほど思い当たる節はないのだが、試衛館時代から土方を知る永倉には、土方の些細な感情の変化もわかるのだろうか。 「触らぬ神に祟りなし、って言うだろ。この件はほっといた方がいい。土方さんに睨まれるだけだぜ?」 近藤の気鬱は取り除いてやりたい島田だったが、その根本に沖田が絡んでいては全くの逆効果だし、なにより土方の勘気を蒙るなどしたくない。 島田が永倉に打ち明けられた重大事に、はぁ〜〜と盛大な溜息を吐いたら、 「しっかし、すっとしたぜぇ」 と、永倉の嬉々とした声がして、 「は?」 思わず首を島田は上げた。 「いや〜〜、ずっと二人のことは気になってたんだよな。けど、誰にも言えねぇだろ?」 当たり前だ。沖田と斎藤の仲が怪しいなんて、言えるわけがない。 「力さんと、共有できて楽んなったぜ」 と、肩の荷が下りたとばかりに、肩をばんばんと叩かれて、島田は逆にがっくりと溜息をつく破目になった。 「永倉さん……」 恨めしげな視線を向ける島田と、裏腹な永倉の表情が対照的で、訳を知らず二人を見た者の笑いを誘った。 |
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つう訳で、斎藤と沖田の関係は、永倉と島田にはばれてます。 で、苦労人の島田さんは、この後、斎藤と沖田のフォロー役をさせられることに……。 |
毒を喰らわば(弐)<< | |
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