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島田と太兵衛を無理やり連れて来た沖田は、二人を土方の部屋の前で待たせて、中へと入って行った。 「ねぇねぇ、土方さん。お願いがあるんだけど……」 「なんだ?」 沖田がわざわざお願いなどと言うのは珍しいと、土方は振り返った。 「あのね。この人太兵衛って言うんだけど、雇ってくれない?」 沖田が障子を大きく開いた先に居たのは、土方が島田に預けた太兵衛と、預けられた島田だった。 太兵衛も島田も合わす顔がないとばかりに、顔を伏せたままだ。 島田など、小さくなれるものならなりたいと、可笑しなほどに縮こまっていた。 「お前……」 「うん。働き口を探してるんだって。駄目かな? これからちょくちょく頼みたいこともあるし、さ」 沖田の真意を探ろうと、土方は考えを巡らしていたが、沖田のにこにこ顔を見て探ることを諦めた。 沖田がこう言ってくる以上、島田らの口から土方の指示したことは洩れているだろうし、それを何もなかったこととして願い事にするには、沖田の思惑はあるのだろうが、それでもいいかと土方は思った。 ここらあたりが、沖田に甘いと人に言われる所以だなと、一人納得しながら承諾した。 「わかった。お前に任す。面倒見てやれ」 「ありがとう、土方さん。だってさ、良かったねぇ」 太兵衛に振り向き沖田は誇らしげに笑った。 宜しいので? という風な視線を向けてくる太兵衛に、土方は苦笑しながら目で頷いた。 それを受けて、ようよう安堵したように、 「へぇ。おおきにさんどす」 太兵衛は頭を下げた。 「じゃあ、屯所の中を案内するよ」 そう言って、太兵衛の返事も待たず、沖田は歩き出した。 その後を慌てて追っていく太兵衛の背を見送った後、残された島田は恐る恐る土方を見遣った。 「沖田の方が、一枚上手だったな」 「はぁ、申し訳ありません。最初からばれていたようで……」 いわゆる微苦笑とでも言うべき笑みを湛えた土方に、島田は恐縮しきった態で身を竦めた。 「まぁ、いい。この方がよほど手っ取り早いというものだ」 あっさり土方の許しが出て、ほっとした島田だったが、まだまだ困難なことが起こりそうな気配に憂鬱になった。 |
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島田の困難(2)<< | |
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